喫茶店を飛び出し家に帰り部屋から転送されると、そこはマクシーム空果の頂上。事態の全てを見下ろせる位置に僕はいた。
逃げ惑う人々、それを追いかけるパンツをかぶった変態のような格好をした黒タイツの集団。そして……異形の怪物。
怪物が踏みしめたアスファルトはクモの巣状にひび割れ、爆炎をまき散らしながら歩くその姿は大型の爬虫類。
二本の足で歩き甲冑をつけているが、その恐れを形にしたかのような凶悪な双眸は鋭く何かを探している。
まるでそこだけ特撮の世界になってしまったかのような錯覚を起こすほど、現実離れした光景が今僕の目の前にひろがっている。
「リフエット、あれが僕達の敵ってことでいいんだよね。」
そのまま頂上にしゃがみ込み、それらを見下ろしながら腕輪に話しかける。
腕輪に宿った妖精リフエット。ギアの解析の結果畜生マスコットの称号は外されました。
【はい、あれがアルティメギルのエレメリアン、その人の愛した属性を奪う私達の敵です。何度もいいますが、属性を奪われた人は生涯その属性に関わるものに興味すら持てなくなってしまいます。なので絶対に阻止してください。】
映像として空間に展開された彼女はエレメリアンを睨みつける、親の敵をみるよりも憎悪を込めて。
そして怪物、いやエレメリアンはその言葉を叫ぶ。一部の人間に絶望を与える言葉を。
「フッ、フハハハハハ!この世界の生きとし生けるモノ、全てのツインテールを我等の手に収めるのだ!!」
「モケェーーーーーーー!!」
その声とともにツインテールの子を捕まえて集め始める戦闘員。幼女のツインテいじって遊んだりしてる奴も居るが、基本的にツインテールの子を集めそれ以外を追い払っていく。
そしてその中から選りすぐりのツインテールの子にぬいぐるみをもたせる怪物。
……うん、客観的に見ると頭おかしい。でもそれを馬鹿には出来ない。なぜならば。
「愛したものに生涯関われなくなる、そんな悲しい思いをさせる訳にはいかない!」
僕にはツインテールが大好きな友人がいる、彼ならきっと僕と同じことを思うだろう言葉を言う。
覚悟を決めて相手を睨みつけ、変身しようとした所でリフエットがそれを遮る。
【ちょっと待ってください、軽く確認しておきましょう。千歳さんの変身後の装備についてです。】
「装備って言ったって武器のことならわかってるでしょ?」
【いえそうではなく、変身後の各部にも名前があります、その説明も必要でしょう。】
「あぁ、解析の終わった腰部にある結晶とかの名前か。でも今やること?」
【軽く分かるところだけです。防御周りの説明もまだでしたし、戦いながら説明されるのは大変でしょう?というわけで腰部の結晶の説明から行きましょう。】
そして小さく変身後の姿の映像が映し出される。まずは腰の大きな結晶が大写しになる。
【まずは腰部のフォースクリスタルですね。これは武装展開装置です。叩くことで
今度ズームされたのは柄だけの棒状の物。母さんの名付けた武器だ。
「今使えるメイン武装だよね。他の武装ってまだ解析終わってないから使えないんだっけ?」
【そうです、なので今はこれだけですね。そして体の各部にある結晶は
そして次に示されたのは身体各部にある小さな結晶。両腕と両膝と両足の甲の位置にある結晶だ。
「そうなんだ、じゃあダメージは僕自身には来ないってこと?」
【そうですが、肩代わりということを覚えておいてください。使い捨てバリアがあるぐらいの気持ちで戦ってくださいね。】
「了解、胸下の結晶と胸の結晶は?後首元の。」
【胸の結晶とその下の結晶はまだ解析している場所です。首の結晶は
あぁ、正体ばれなくする装置ね。首の結晶へのダメージには注意しとこう。
「なるほど、じゃあ展開形のバイザーいらないんじゃ?」
【バイザーは情報装置です、今のように映像を出したり、新しい武装が出現した時や緊急事態の対処法が装着者のみにわかるように展開されます。正体隠すのはそのおまけですね。】
「あぁ、2つの意味があったのね、あれ。今わかるのはこれで全部?」
【そうですね。……最後の確認です、これからアルティメギルとの戦いになりますが、大丈夫ですか?】
振り返り、不安げに聞いてくるリフエット。
腕輪を見下ろし考える、確かに得体の知れない敵に、変身して戦う自分。
不安はある、でも。さっきの熱意は嘘じゃない。
「正直に言えば不安だけど。でも戦う力があるのに見過ごすなんてことはしたくないし、するつもりはない。誰かが悲しむのがわかっていて、救えるかもしれない力があるのに見て見ぬふりはしたくない。」
【……そうですか。有難う御座います、私のせいで巻き込んでしまったのに。】
そう言って肩を落とし顔を伏せるリフエット。
正直このへんは気にしすぎてもしかたないと思うので僕はリフエットに声をかける。
「まぁ、そんなこともあるよ。気にしないで、さぁ行こう。」
そう言ってリフエットに微笑みかける。
【えぇ!アルティメギルをぶっ潰してください千歳さん。】
その言葉に力強く頷き、左腕のブレスを胸の前に掲げ
「転身!!」
光りに包まれ僕が変身する。
その体は女性のものとなる。
ボディスーツに要所を守る装甲が音を立て、各部分の結晶が青白く輝き、バイザーが展開される。
リングを抜けた女の子達のツインテールが解かれていく。
もう少し相手の戦力分析したかったけど、そろそろ潮時かな。戦闘員多数にリーダーが一人、戦闘力は双方不明、これは出たとこ勝負かな。
ゆっくりと身体に力を込める。初めての戦闘だけどやってやれないことはないだろう、恐れもある怖さもある、でも覚悟もある!
人生はいつだってぶっつけ本番なんだ!
「行くよっ!!」
気合を入れて僕は飛び立った。白い、真白のツインテールをなびかせて。
◆
俺、観束総二は恐怖と混乱の局地にいた。
目の前の怪物たちの行動に激怒して、女科学者トゥアールに渡されたブレスで変身して。
いざぶっ飛ばそうと思ったら身体の制御がきかず、怪人のリアクションがおかしいと思って鏡を見れば、そこにはあら不思議、かわいいツインテールの幼女がいるじゃありませんか。
ついさっき決めたはずの覚悟が、木っ端微塵に砕け散ってしまうほどにそれは衝撃的で。
自身が可愛いツインテールになって、ツインテールが大好きな奴に迫られるという現実を受け止められなくて。
愛香の言葉も、トゥアールの言葉も耳に入ってこない。ただただこいつがコワイ。
「ハァハァ……ツインテール……!!」
駄々っ子のように殴るだけで戦闘員はきらめく粒子になって消滅するが、こいつは、このトカゲの化け物みたいな奴はゾンビのようになんどでも立ち上がってくる。
その血走った瞳が怖くて、息遣いが気持ち悪くて、俺は生涯で上げたことのない悲鳴を上げてしまっていた。
「きゃーーーーっ!!」
頭を抱えて震え、現実から逃げ出そうとした時にその声が降ってきた。
「させるか!この変態ッ!!」
その場にいた誰もが目を見開いただろう。
二メートルを超える巨大なトカゲのバケモノが白い閃光に吹き飛ばされ、アスファルトを破壊しながら転がっていったのだから。
白い閃光はうまく反動を殺して俺の前に着地する。
俺はその白に一瞬で俺は魅了されてしまった、輝く白、曇りのないその白いツインテールに。
流れるツインテールは気高く、宝石のように輝いている。それはさながらダイヤのように、揺れて反射する光をプラチナに変えて。俺の目を、心を魅了するツインテールだった。
そのツインテール中に込められた思いは同じくダイヤの様であると感じられた、高圧下で熱せられて生まれるダイヤのように、熱くたぎる心とともに固められて歩んだツインテールなのだと俺は感じた。
その有り様に俺は心を震わされたのだ。
「よっ、と。キミ大丈夫?立てる?」
呆けている俺にその人は困り顔で手を差し伸べてくれた。
基本的な色が真っ白なスーツでところどころに銀と金の装飾が入ったと装甲、バイザーに隠されて素顔はわかりにくいがその奥の瞳はきっと心配に揺れているのだろう。
そしてその後ろで揺れるツインテールはまるで天使の羽のように俺には感じられ、こんな時だというのに思わず
「綺麗だ……」
と言葉を漏らしてしまった。
そんな俺に苦笑して「もう大丈夫そうだね。」と声をかけて、俺を立たせて走り去っていくあの人の背中を、この時の俺はただ見つめるだけだった……
◆
赤いツインテールの幼女を立たせて、ふっ飛ばしたトカゲの化け物の方へ駆けていく途中にリフエットの声が耳に届く。
【あれが、別のツインテールの戦士ですか。潜在能力は高そうですけど、あの様子ではあまり期待できそうにないですね。】
「でも、多分初変身だったんじゃない?自分の体に戸惑ってる感じだったし。」
あの赤いツインテールの幼女はきっと強い、リフレットの言う潜在能力とは属性の強さ、それは心の強さと直列だ。
あの子の覚悟が決まればきっとどんな敵も倒せる、そんな予感があのツインテールから感じられる。
だから今は、僕が彼女の心が決まるまでの時間を稼ぐ!
武器を出したいところだけど、ここはあえて様子見で素手で行く。ただの勢いをつけた蹴りで吹っ飛ばせるみたいだし。
不意打ちでふっ飛ばしたトカゲのバケモノが体制を立て直し、こちらに指を指し声を飛ばす。
「くっ!不意打ちとは卑怯ではないか!見るからに戦士であろう、戦士としての誇りはないのか!?」
「子供は宝だ、何に変えても守る価値のある希望だ!故に誇りも何もかなぐり捨てて守ってなぜ悪い!」
僕は走りながらそう返す。内心としては幼女いじめんな!かわいそうだろ!である。
「むぅ…。」
そう言って黙ったトカゲの懐にダッシュで潜り込む。あっさりと潜り込めた懐から、身体を捻り渾身のガゼルパンチを放つ。
「がっ…!」
綺麗に決まったガゼルパンチで相手の体が浮く。
重い!?そして頑丈だね!頭ふっとばすつもりで殴ったのに体が浮くだけとかどうなってるんだ!
そのまま体が浮かされ反応できない無防備な身体に、拳を2,3入れた後、さらに踏み込んで回し蹴りを叩き込む!
「なんのっ!」
「くぅっ!」
こいつ腕で防御できないからって、あるのかどうかわからん腹筋に力入れて堪えた!?あまりの硬さに鉄柱蹴り飛ばしたかと思ったよ!?
ただその衝撃を活かして双方距離を取る。
仕切りなおし、って!?何か構えをとった?
つきだしたその手の前にはバチバチッと火花が散りながら球状を形成していく。
「喰らえ!稲妻スパーク!!」
「ちょおっ!?」
電撃玉!?マズイ!これを避ければ気絶している後ろの人たちが!?
とっさに腕をクロスさせて防御の体制に入るがその横に赤い影。
「させるかーー!」
という声とともに僕の横を颯爽と駆け抜けていったのは、さっきの赤い幼女だった。
「ペチってやるぜ面出しな!」
小柄な体を活かして小回りを利かせて回りこみ、横合いから蹴り飛ばして技を中断させ蹴った反動でこっちに飛んでくる。
そしてこちらに背を向けたまま、顔だけこちらに向けて僕の顔色をうかがってきたので、拳を握り親指を立てるサムズアップのジェスチャーとウインクで返す。
「ふん。なるほど、なかなかの戦闘力。戦士として心躍る戦いができそうだ。我が名はリザドギルディ!アルティメギルの切り込み隊長にして、少女が人形を抱く姿に心奪われた存在よ!聞こう、貴様らの名を!」
リザドギルティね。ならばこちらも名乗ろうか。前から決めていたとおりに!ポーズも決めて、ね!
左腕を斜めにしてブレスを胸の前に、右の拳は引いて腰に。そして名乗りは高らかに!ここで恥ずかしがるのは二流!!
「闇夜を照らす煌めく光!テイルシャイニング!!」
「……燃え盛る紅蓮の炎!テイルレッド!」
「テイルシャイニングにテイルレッドか……しかと聞いたぞ、貴様らの名を! 顔とツインテールは傷つけぬように配慮するが、多少の怪我は覚悟せい!!」」
「覚悟なんているもんか!なぜならお前は俺達に倒されるんだからな!」
「そもそも、さっきまでボクに一方的にやられてたのに二対一で勝てると思ってるの?」
返す言葉には挑発を混ぜる、冷静さを少しでも奪えれば御の字だ。
それにしても覚悟を決めたあの子はカッコイイな、あんなに大きな相手にも臆さずに啖呵切れるんだもん。
うーんそれにしてもツインテール幼女に大剣、見る人が見たら喜ぶ映像だなぁ。
【グヘヘ、大きな剣とょぅι゛ょ……!】
リフエットがなにか言ってるけどきかなかったことにしよう。
幸い僕にしか聞こえてないみたいだし。
「二人がかりか…だがそうは行かぬ!アルティロイド!」
「「「「モケーェ!」」」」
どこから湧いてきたのか多くの
わらわらとこちらに群がってくる戦闘員に、囲まれると判断した僕はレッドを掴んで投げ飛ばす!
「食らえ、リザドギルティ!ツインテール魚雷!!」
「へっ?うわぁああああああああ!!」「ぬおおおお!?」
派手な音がして二人がぶつかり、その勢いのまま端の方まで飛んで行く。
よし!これでレッドとリザドギルディのタイマンだ。こっちを向いた時に吹っ切れた顔してたし大丈夫でしょ。
これで分断成功っと。
「さーて、ボクはボクで戦闘員をお掃除しましょうか。
腰のフォースクリスタルを叩き、柄を取り出す。これはエネルギーを注ぐことでなんにでも出来る便利武装だ。
「モード、グレイプニル!」
そして鞭状にして地面に叩きつけコンクリートを破壊する、威力も十分だ、思わず頬がゆるむ。
……あれ?なんで戦闘員の皆さん若干後ずさってるんですかね?
◆
津辺愛香はおっぱいを締めあげていた。
いや正しくは自身に無いおっぱいを持つトゥアールを締めあげていた。
「ちょっとどういうことよ!そーじがいなくても何とかなったんじゃないの!?ていうかあんたそっくりじゃない!どうなってるのよ!!」
「私にだってわかりませんよ!あれは私の知らない戦士です!というかちぎれますちぎれます!もげちゃうううううう!!」
愛する幼なじみがこの胡散臭いおっぱい女に騙されて腕輪を付けられて幼女に変身して危険な戦場に身を投じたというのも気に入らないというのに。
もしかするとその危険を犯す必要がなかったのではないかという戦闘力を持った白い女性が現れたのだ。
それだけでも気に入らないのだが、愛香はその女性に総二が見惚れていたのが気に入らないのだ。
ついでにおっぱいが大きいことも。
「あんた。嘘言ってると縊り殺すわよ?」
野生の獣も全速力で逃げ出すような愛香のメンチビームがトゥアールに決まる。
実際睨んだだけでクマが逃げ出したというエピソードがあるのだが、それを知ってるのは愛香と総二と千歳だけである。
「ひぃっ!う、嘘じゃありません!もう一つ総二様に渡したと同じものはありますが、それも私が持っています!本当に無関係なんです信じてください!」
命の危機を感じたのかもう一つの青い腕輪を見せるトゥアール。それを見て愛香は怒りを収め始める。
「そうね……今は信じてあげる。ただ後で確認させてもらうわ、あんたが本当にあの戦士のことを知らないかどうか。あとでそーじと一緒に聞くから覚悟してなさいよ!」
そう言って愛香がおっぱいから手を放し、トゥアールは地上に生還する。
二人がじゃれあっている間にも二人の戦士の戦いは続く。
◆
僕の当初の予想に反して戦闘員たるアルティロイドの戦闘力は、束でかかっても僕にダメージひとつ入れられないほどだった。
というのも鞭モードを振るうだけで、敵が吹っ飛ぶんだもの。数が多いだけで苦戦はしない。
また一度鞭を振るい何匹かのアルティロイドをしばき倒す。単なる作業になりつつある戦闘員の駆逐をしながらリフエットに問いかける。
「奪われた属性ってあのリングを破壊すればいいんだっけ?」
駐車場に設置された巨大なリング、SF作品に出てくるのワープゲートのようなリングを指さしてリフエットに聞く。そしてまた近寄ってきていたアルティロイドに鞭を振るい吹き飛ばし光にする。
アルティロイド、死すべし。慈悲はない。
【そうです、あれを破壊すれば奪われた属性は元に戻っていきます。ただ、24時間以内という制限は付きますが。】
「なら先に壊しておこうか。モードチェンジ!
すると手に持った鞭が光を放ち剣になる。そしてジャラジャラと音を立て連結鎖状刃となっていく。
この武器はイメージで構成されている。ゆえに剣の軌跡はある程度イメージで補正できる、軽く振ることでリングを守るようにいたアルティロイドを全て蹴散らす。
ホーミングレーザーソードとか言ったほうがいいんじゃないのこれ。
「壊れろ!」
そして二度目の剣戟でリングを横に真っ二つにし破壊する。中から光が現れ女性たちに降り注ぎ、彼女たちはツインテールに戻っていく。
よかった、無事に戻ったみたいで。
「それにしてもちょっと長すぎて使いにくいなぁ、アルティロイド散らし用にしとこう。」
見渡してみればアルティロイドは全滅したが、駐車場はズタボロである。ちょっと操作ミスって駐車場抉っちゃったけど、だいじょうぶだよね?
そして分断して一対一になったテイルレッドを見てみれば、炎をまとった必殺技を放ってリザドギルディにとどめを刺していた。
「ふ、くあははは!ツインテールに頬を撫でられて逝く、なんの悔いがあろうか……これぞ男子本懐の極み!」
満足気に最期の言葉を言い放ち、爆発するリザドギルディ。
うん、そうかい。キミはブレなくて素敵だねー、もしかしてエレメリアンてこんなのばっかりなのか?
「ふぅ。終わったかな。」
ボスも倒したし、奪われた属性力も開放した。もうここに用はないからとっととこの場を離れよう。
と思っていたらテイルレッドがこっちに駆け寄ってくるのが見えた。どうしよう?と思えばリフエットから声が掛かる。
【軽く交流しておいたほうが良いのでは?敵と思われても面倒ですし、ツインテールの戦士なら、これからまた共に戦うこともありますし。】
それもそうか。ということで軽く手を降って答える。そして喜んで走り寄って来るのはなんか大型の犬を思わせる。
「あのっ、本日はありがとうございました!助かりました。」
改めて見ると小学生ぐらい低学年かなと思うほど小さい。こんな小柄な体であの巨体と戦うなんてとても勇気のいることだ、僕にはとても出来ない。
それだけの勇気を振り絞って戦ったのだ、本当にツインテールが好きなんだろう。
「いやこちらこそだよ、正直一人であの戦闘員の数とリザドギルディは相手にできなかったもの。それにごめんね、あの時囲まれそうだったからって投げ飛ばしちゃって、頭痛くない?」
そう言って頭に手を置き、撫でる。すると彼女の顔が見る見る間に赤くなっていく。あぁうん流石に恥ずかしいか。
「だ、大丈夫ですっ!」
わたわたと慌てるさまはちょっとかわいいと思う。そういった微笑ましい交流をしていると後ろから声がかけられた。
「……あの。」
控えめなその声は、僕の学校の神堂慧理那会長だった。そういえば会長も総二が見惚れるツインテールの持ち主だったな。
狙われてしかるべきというかなんというか。
「助けて頂いて……有難う御座います。」
そう言って破れたスカートの端を軽くつまみ、おじぎをする会長。
「いえ、困っている人を助けるための力なので。お気になさらず。」
僕はそれに軽く手を上げて答える。
この辺りの受け答えも母さんさまさまである。ただあの人がどんな事態を想定してこの言葉を用意していたのかは知らない。
テイルレッドはアドリブきかないのか慌てているが。
「お二人共、とても素敵な戦いぶりでしたわ。特にレッドさんはまだ小さいのに本当に勇敢で……シャイニングさんは大人の冷静な判断力。わたくし感激いたしましたわ!」
うん、多分分断したことなんだろうけど。あれ思いつきだから成功してないとレッドが戦闘不能になってた可能性あったし微妙だよ?
そして慌ててるところにそんな声をかけられたもんだから、レッドがパニックになりかけてる。褒められるのに慣れてないのかな?
「あの……あなた方は一体……?」
「せ、正義の味方です……さ、早く逃げてください。」
ちょっと噛んじゃったけど、まあ及第点かな。我ながら正義の味方ってなんだよとは思うけど。まぁあながち間違いじゃないしいいか。
「助けていただきありがとうございました!……またお会いできますか?」
できれば会わないほうがいいんだけど、それに去り際の台詞は決めてなかったなーと思っていたら。
「貴方が、ツインテールを愛する限り。」
そうテイルレッドが言っていた。そして会長が深くお辞儀をして走り去る。
そしてにわかに周りが騒がしくなる。周りの人も起きだして警察や消防のサイレンまでこちらに向かってくる。こりゃマズイ。
「じゃあテイルレッド、待たね!」
そう言って手を振り、空に向かって全力で飛び上がる。
それはさながら空に向かう光の矢のように見えただろう。
「リフエット転送よろしく!」
【了解です!転送っ!!】
高い空の上で転送の光に包まれ、僕の初陣は終わったのだった。
さて往々にして世の中とは思い通りには行かないもので。この時の僕はまだ、ちょっとした珍事件程度で終わるものだと思っていたんだ。
それがあんなことになるなんて、この時の僕が知るはずもなかった……