ボク、ツインテールにされました。   作:大木桜

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本編開始。


第三話:僕と幼馴染達

 記念すべき高校生活初日。幼馴染がやらかした。

 

 僕と幼なじみの観束総二と津辺愛香ちゃんの三人は総二の家であり、喫茶店である「アドレシェンツァ(思春期)」で昼食をとっている。

 と言っても、食べているのは紅一点の愛香ちゃんだけで、総二は沈鬱な表情でコーヒーを覗きこんでいる。

 

「なんで俺あんな事書いちまったんだろう……」

「ツインテール部はないわよねぇ。」

「フォローする間もなくあれよあれよと自爆していったからねぇ……」

 

 事の起こりは入学式の後、クラスに戻ってから入部希望用紙を書くときの事。

 入学式で様々なツインテールに見惚れてその余韻に浸っていた総二がその入部希望用紙にツインテールと書いてしまったのが凹んでいる理由。

 

「何も先生声に出して読まなくても……」

「声に出して読むほどおかしな内容だったんでしょ。」

 

 酷い流れだった、名前の無い希望部アンケートに疑問を持った先生が「ツインテール部?」と声に出して読まれ、続いて先生の「ツインテールが好きなんですか?」に総二が食い気味に「好きです!」と即答して。

 高校三年間のポジションが、もう決まってしまった総二にはこの言葉を送らねばなるまい。

 

 覆水盆に返らず。後の祭り。

 

「もうどうしようもないよ、諦めよう総二。むしろ早めにツインテール馬鹿ってバレて隠す必要なくなったって考えよう、ね?」

「ぐあっ……!」

 

 あ、総二がカウンターに頭落とした。

 

「トドメさしてどーすんのよ、ちとせ。」

「だって落ちるとこまで落ちたらあと這い上がってくるだけなんだから、トドメさしたほうが良くない?」

 

 そう言ったら愛香ちゃんが若干引いていた。いや、諦めた方が物事ポジティブに考えられるよ?あと、這い上がる距離が長いほど男の子はかっこよくなると誰かも言っていた。つまりがんばれ総二。

 

「そもそも間違って書いたことよりもその後のフォローがまずかったのよ。あんたテンパりすぎ。」

「まぁ、自分でも意識しないで書いた上で、読み上げられたら普通パニクると思うけどね。」

「わかってたならふたりともフォローしてくれよ!友達だろ!?」

「いや、僕だって友人がツインテールとか希望調査に書いたのを、読み上げられたのを冷静に対応した上での即フォローは無理だよ。」

「友達、ねぇ……」

 

 僕の言い訳を他所に愛香ちゃんが不機嫌そうだ、とは言え総二はツインテール以外のことに対して察しが悪いから、その理由はわからないだろうけど。

 幼なじみで友達って、恋人とか伴侶とかそれ以上の関係になるの難しいと思うけどなぁ。

 とか考えつつ僕と愛香ちゃんで凹んでいる総二にフォローを入れる。

 

「過ぎたことは仕方ないよ。あきらめよ?次に同じ様なことがないように気をつけようよ。」

「そうよね、過ぎたことをグチグチ言ってもどうにもならないしね。」

 

 これでこの話は終わりだ。総二が鮮烈なる高校デビューしたことはきっと伝説になるだろう。悪い意味で。

 

 ぶつけた頭をそのままにして、カウンターに突っ伏す総二。愛香ちゃんはそれを仕方ないなぁという感じで見つめている。

 

 

「うぅ、俺にもっとアドリブ力があれば……」

 

ようやく頭を上げたかと思えば、唸りながらそんなことを言う総二。

 

「いやぁ、例えあったとしてもツインテール部とかいう言葉からのフォローは、かなり難しかったと思うよ?」

「そうね、第一総二がツインテールに関係ない方向へ話を持っていけるとは思わないわ。逆にいかにツインテールが好きか語って今よりひどい事態になったんじゃないの?」

 

 愛香ちゃんが酷いけど僕も同じだと思う。それだけツインテールを愛してるってことなんだろうけど。

 そして愛香ちゃん?手を付け始めたその三杯目のカレー、僕のなんだけど。と言うか総二の分も無くなってるけど、いつの間に総二の分のカレー食べたの。

 そんなことを思いながら、僕は珈琲を飲み干す。

 

「また総二くんがやらかしたのかい?千歳。」

「うん、そんな感じだよ。父さん。」

 

 カウンターの奥から出てきて、僕に二杯目の珈琲を出してくれるのは、父さんだ。

 家が隣ということと、母親同士が学生時代からの友人ということがあって、主夫である父がたまにここで働いている。

 総二のお母さんで、ここのマスターの観束未春さんは今買い出しに行っているようだ。

 総二達からちょっと席を離して、グラスを磨く父さんの近くに行く。

 すると父さんが声を潜めて僕に問いかけてくる。

 

「ところで千歳。総二くんと愛香ちゃん、いつくっつくと思う?」

「あー、総二がツインテール以外にもっと興味を持ったらだと思うよ。」

 

 そう言った視界の端では総二が愛香ちゃんのツインテールをいじってラブコメしていた。

 

「ね?」

「そうだね。総二くんはもっと女の子の気持ちを理解できればねぇ。何事にも真っ直ぐでいい子なんだけどね。」

 

 昔からツインテールのことに関しては勘が鋭いけど、その他のことには鈍い総二が、ずっと乙女している愛香ちゃんに気が付かなかったからなぁ。

 愛香ちゃんがツインテールにしてる理由、総二はツインテールが好きだからだと思ってるけど、実際の所は総二に好きな髪型だからだもの。

 と言うかツインテールに真っ直ぐすぎてツインテールが関わらない他のものが見えないだけなんじゃなかろうか。

 

 あ、総二がなんか反応している。どうしたんだろう?

 

 まぁとにかく。

「僕は今のままだと無理だと思うなぁ、良くてツインテールの好きな親友と思ってるよ総二は。」

「そうだねぇ、っと。あそこのお客さんにオーダー取ってこないと。」

 

 そう言ってカウンターから出て行く父さん。

 あれ?いつの間にあんなとこにお客さんが?と思っているうちに読んでいた新聞をたたんでこっちに歩いてきた。

 

「相席よろしいですか?」

「待て待て待てぇ!」

 

 

 ……良し、さらに距離を取ろう。そうでなくてもラブコメ空間に巻き込まれたくなくて席を離して父さんと話し込んでいたんだ。

 僕は当事者になりたいわけじゃなく、それを端から眺めてニヤニヤする友人ポジで居たいんだ。

 愛香ちゃんが突っ込み入れ始めた時点で、ろくな事にならないのが目に浮かぶ。もうちょっと離れよう、巻き込まれたくない。

 あ、父さんが注文を聞きに行った。凄い、谷間にストロー挿すとかツインテールダイスキとか、わけのわからないことになりつつあるあの空間に注文取りに行った!

 そして流れるように相席を申し出たテュアール?さんの注文受けてカウンターの奥に下がっていった。

 その間にも横では私私詐欺に始まり、愛香ちゃんに殴られて吹き飛ばされた演技して総二に近づいたりと、何これコント?

 そして繰り広げられるコントのような腕輪争奪戦?のようなものに終止符が打たれる。

 総二の腕にその腕輪が装着されることによって。

 

 

 ん?あれ?あの腕輪僕が今している奴(・・・・・・・・・・)に似てる気がするな……

 

 

 とか思ってる間に三人が光に飲まれて消えていた。

 光学迷彩か何かかな?

 

 わーふしぎだなー、めのまでひとがきえちゃったぞー、そーじたちはいったいどこにいってしまったんだー?

 

 

 さてふざけるのはやめて現実を見て、覚悟を決めよう。まさかこんなに早く事が起きるなんて思っても見なかったな……

 

「父さん、事件です。」

 

 ちょうど注文の品を持ってこっちに来ていた父さんに話しかける。

 

「そのようだね。」

 

 うん、困惑している様子はあるけど取り乱していない、流石僕の父さんである。

 

「まさか本当に、ほんっとうに!こんな事態が本当に来るとは思いたくなかったんだけど……」

「そうだね。百合華さんが喜ぶ事態だからできればこないほうが良かったよね。あの人がここにいたら「ついにこの日が来たのね……!」とか言ってる頃だね。」

 

 人が目の前で消える、という超常現象に対してあまりに驚きが少ない。二度目の超常現象となれば案外取り乱しはしないものなんだろうか。

 

 両腕に付いた白と黒の腕輪を見ながらそう思う。

 

 つい先日この腕輪をつけることになったせいで、だいぶ耐性がついてるんだろうけど。それはいいことなのか悪いことなのか。

 

「じゃあ千歳頑張って。僕は何も知らない。奥に行ってるうちに皆どこかに行っていた。そういうことにしておくよ。」

「うん。…ついにその時が来たってことだよね。やらなきゃ悲しむ人が確実に出るんだ…!頑張るよ。」

 

 じゃあ、一度家に帰ってから行ってみようか、お客は多分来ないだろうけど未春さんにバレると色々あれだし。そう思いながら腕輪に語りかける。

 

「起きてる、リフエット?」

【はい、起きてますよ?やっぱり来ましたねエレメリアン、いえアルティメギル。座標はチェックできてますから、いつでもイけますよー?期待してますよー千歳さんげへへ】

 

 腕輪からリフエットの合成音声が流れる。中の人はこちらに意識を割いていてくれたようだ。

 なんか語尾が気になるけど、応援してくれてるみたいだし気にしないようにしよう。

 そう思いながら僕は喫茶店を飛び出した。


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