【「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」】
変身の言葉を紡ぎ包まれた光が収まったと思ったら、リフエットさんと母さんの叫び声に驚くこととなった。
なにに反応してるの?ふたりとも。
と言うか何か変身してから体のバランスが取りにくいなぁ。
胸のあたりに何か重いものがあるような……と思って胸に手を伸ばす。
むにゅん
という効果音がつきそうなほど柔らかいものが手に触れる。胸の下から手を伸ばしたのだが、手のひらの辺りには固い感触があるが指先は柔らかい。
指に力を入れてみると吸い付くような感触だ。
そして嫌な予感がして股に手を伸ばせば、あるべきものがぶら下がっている感覚がない。
うん、これはあれか。お約束的に叫んでおこうか、せーのっ。
「なんでボク女の子になってるのぉおおおおおおお!?」
「いよっしゃああああああ変身女体化ボクっ子戦士!!!ちーちゃん産んでよかったぁあぁぁああアアア!!!!!」
ガッツポーズ取ってちょっとイミワカラナイコトを言うこの女性は誰なんだろう。あぁ、僕の母か……
【女体化!そういうのもあるのか!!そして巨乳!マーベラス!ディ・モールト!!ハラショー!!!】
あれあれー?リフエットさん?どうしたんですかさっきまでのしおらしい様子は。母さんと相違ない感じになってるんですけどー?よだれダバダバ出すのはどうかと思いますよー
まぁ、いいや。叫んだらちょっとスッキリして落ち着いたし、変身解除すれば元に戻るでしょう、変身者のお約束的に。深く考えるのはやめよう。
【あぁ、神よ。女の体を何も知らない無垢な男の子が女の子になるという素晴らしい現場に立ち会えたことに私は感謝します!!】
「あぁ、女体化いいわー、娘ができたみたいで素晴らしいわ。ちーちゃんあとでその状態で一緒にお風呂入りましょ?娘も欲しかったのよねー」
聞こえてくるリフエットさんと母さんの声はスルー。というかリフエットさんはもう呼び捨てでいいかな?いいよね。異世界の変態は呼び捨てでも十分だと思う。
理解できないことはそういうものだと諦めた方がいいと僕はこれまでの人生で学んでいる。諦めは人生をある程度豊かにするね……
それにしても、これ戦闘中になったらパニックどころじゃないよなぁ……
うん、前もって知っておいて良かったということにしよう。何事もポジティブに考えよう、身バレしにくくなったとも考えられるし!
さて、装備の確認しよう。見た目は後でいいや。直視したくない現実は後回しだ。
「えーっと?これどうすれば武器とか出てくるの?リフエット?」
【あぁ、はい。私のギアは基本的に頭のリボンを触れば出てくる仕様でした。なので同じだと思いますけど、何故急に呼び捨てに?】
へー、そうなんだ。リボンリボンっと。あれなんで頭の横に髪の束があるの?サイドポニー?
と思って反対に手を伸ばせばそちらにもある。あれ?これってもしかして。
僕の気分がどんどん下がっていく。変身した時よりもテンション下がってきた。
「……ねぇリフエット、なんで僕ツインテールなの?ポニーテール属性なんじゃなかったの?」
思ったよりも平坦な声が出たな。ポニーテールだと思ったらポニーテールじゃなかった期待を裏切るのは許せないなぁ……!
サイドポニーを両方に作ったと考えるか……?いやそれはツインテールに対する侮辱だ。 ツインテールはどうしたってツインテールなんだ。触って確認するとかなりいい感じのツインテールなのが余計腹が立つ!これがこの感触がポニーテールなら僕だって喜んだのに……!!
糞が…!怒りと絶望で闇に飲まれて暴れまわってやろうか……!!
【えーっと多分変身したブレスが先輩のものだったのかもしれませんね。故に装備の仕様上ツインテールになったと考えられます。後呼び捨てになった理由はなんでしょうか。】
「なるほどねー、もう片方で変身したらポニテになるのかな?後ですね、呼び捨ての理由は、赤の他人の変態につける敬称はないし、ポニーテールの戦士に変身するかと思ったらツインテールの戦士になるとか嘘つくのは許しがたい裏切り行為だよね!畜生マスコットって呼んでやろうと思ったけど慈悲の心で呼び捨てなんだからね!!」
産んで育ててくれた母さんは敬うけど、いきなり現れて女体化させて喜ぶ変態にさん付けとかしませんよ。後言ったとおりポニテをツインテにされた恨みは深い。心のなかで畜生マスコットと枕詞つけて呼んでやる。
畜生マスコットのリフエットは僕の言葉とゴミを見るような視線にドン引きしているみたいだけど、そんな顔しても呼び捨て変えませんよ僕は。
そして気が付くといない母さん、どこ行ったんだろう?
ちょっと畜生マスコットのリフエットに毒を吐いてスッキリしたところで、母さんが何か大きな物を持ってきた。
「ちーちゃん!姿見持ってきたわよ!!これで自分の状態が確認できるわ!!ほーら変身した自分を見て、新しい自分を見つけるのよ!」
わー余計なお世話ー。でもないか、どうせ確認しなきゃならないんだし。たーだもうちょっと後が良かったかなー心の準備的に。
そして僕は鏡に写った自分自身を見て現実に向き合うこととなる。
「これが僕……?」
なんかもう驚きすぎて冷静になってきたな。改めて見ても髪型がポニーテールではなくなっている怒りかもしれないけど。
そこには白と銀が映っていた。銀の髪を2つに束ね、肌の露出を控えめに、白のタイツで体を覆う異世界の戦闘服。
素肌に密着するボディスーツに白タイツて、かなりボディラインくっきり出る装備ですね。装甲少なめだから機動型かな?と言うか左腕の梵字みたいなこの文様何。
「うんうん素晴らしいデザインよね、まさに変身戦士って感じで!!でもこのボディラインが出てる装備あれね、ロープライスのエロゲにありそうな装備ね!!素敵ィ!!!」
ぶん殴ってもよろしいでしょうかお母様。
いや確かにぴっちりスーツに手甲系装備ってそんな感じですけれどもね……
そう思いながらもとりあえずリボンを触り武装を出そうとするが
「あれ?リボン触っても武器でないよ?記憶違い?頭大丈夫?」
【ひ、酷い……ええっと、見た目も私の知っているものからずいぶん変わっていますし、もしかしたら仕様も変わっている可能性があるので色々いじってみてください。】
畜生マスコットのリフエットからそう言われて、とりあえず耳あてのようになっているものを触ると、目の前にバイザーが展開される。「バイザー!!しゅごい良い!!」とか言ってる母親は無視無視。
さらにバイザーに幾らかの情報が現れる。高速で羅列される文章を全て読み切ることは出来ないが、人の体をしている絵があり腰のパーツが光っている。
なので腰にある宝石のような結晶体に触れてみると手が入る。うわ気持ち悪い、なんだこれ。と思ったら弾かれた、硬いと思うと叩けるのか不思議結晶だな。
手を入れてみると何かが触れたので、それをつかみ取りだす。片手でつかめるサイズの棒?
【あ、それは万能棒ですね。なにかちゃんとした名前があったはずですけど、なんにでもなったので私は万能棒って呼んでました。それが取り出せたってことはやっぱりギアが混ざってるようですね。】
「どうやって使うのかしら?エネルギー系武装っぽいけど動力源は?」
なんで僕が質問するより先に母さんが聞いてるんですかね。いや、説明してくれるならもうそれでいいや。
【動力は属性力ですね、イメージして注ぎこむことで形を変えます、持ち手が棒なので近接装備のイメージになりがちですが、飛び道具とかにもなりますよ?】
使用者の感想を細かく聞いてみると、ビームサーベルのような使い方から、その伸ばしたエネルギーサーベルを鞭のようにしならせることも出来て、力加減で束縛出来るようにもなるという。
剣をイメージすれば切ることが出来るようになり、棒をイメージすれば打撃武器にもなるという。それにしてもイメージした形状になるのは本当に便利だな。
【いくつかあった時は一本づつ両脇に保持してブースター変わりにしたり、連結して大型武装にしたりしてましたね。】
イメージとエネルギー次第では斬馬刀サイズもラクラクらしい。ほんとに万能棒だな。そしてバイザーに正式名称がでてる。レヴォリューションスティックか。これ名づけた人のセンスすごいな。あ、名前変えられる。
「これ装備の名前って意味があるの?」
【ええ、叫ぶと注いだ属性力が倍になります。】
ふと気になって聞いてみればそんな答えが返ってくる、シンプルだけど強い効果だなぁ。
「名前変えられるんだけど、デフォルトがレボリューションスティックなの?」
【はい、なので私は万能棒にしてました。そうだ!お母様が装備の名前を決められてはいかがでしょう?】
えっ
おい畜生、いいこと思いついた!みたいな顔して言ってるけど、こちらとしてはあまりよろしくない。使って叫ぶの僕なんですよ?
「いいわね、万能属性の装備なのよね。マルチプルアーム……いえ、マルチプルウエポンね!」
うん、もう好きにさせよう。少年のようにキラキラした笑顔の母さんを止めることなんて僕には出来ない。それにまぁ割とマシな名前出てきたし。
僕の考えたカッコイイ武器の名前とか誰しも一度は憧れるものねーもう好きにさせよう。
現実逃避だ現実逃避、もうどうにでもな~れ!
「それ読みだよね、なんて書くの?これ打ち込むタイプだから、ルビも振れるよ?」
「じゃあシンプルに多機能武装でいいんじゃない?」
割と普通だ……なんかもっと神話にちなんだ名前とかつけると思ってたよ。
「ねぇリフちゃん、これ変形する武装ごとに名前ってつけられるの?」
【えぇ、出来ますよ。千歳さんのイメージが武器になるので。各種変形武装ごとに名前ついてたほうがいいですね。】
あっ、これマズイヤツだ。
その後イキイキとした母さんに各種武装のイメージ構築とネーミングで本日がほぼ終わったのは予想通りだった。
合間合間に畜生マスコットのリフエットが解析をかけていたようだけど、わかったことは元々のテイルギアの機能と今のギアはずいぶん変わってしまっているらしいということ。
最後に一度変身を解除して、もう片方に意識を集中したけど変身できなかった。チッ
いろいろ試したが出せたのが
頑張れ、結果次第で枕詞の畜生マスコットは取ってあげよう。
ちなみに僕が起きるより早く起きていた父さんは終始スルーし会話に入ってこなかった。
そして大方の話が終わったタイミングで「そうか、頑張るんだよ。千歳……」としみじみ云われた。そして畜生マスコットのリフエットは受け入れられて家族のようなものになった。
その後夕飯時に畜生マスコットのリフエットと話す父さんの適応力と寛容さはさすがこの母の夫であると関心したのであった。
作品タイトル回収。
千歳が切れてますが、イメージした髪型と全然違ってしまえば怒りますよね。
そんなことになったら原因になった人に心の中で悪態付くぐらいありますって。