魔法少女リリカルなのは~Nameless Ghost~   作:柳沢紀雪

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第十六話 Reconquista

 

 夜の海はとても静かだった。フェイトは仲間の輪の中にいながら、ずっと闇の書の暴走体に目を向けている。今自分がどんな表情をしているのか、フェイトには把握できなかった。ありとあらゆる感情が湧き上がってきて、それらが混ざり合ってそれぞれの感情の高まりを打ち消しているような感じだと、妙に冷静に判断していた。

 

 外に出れば全てが上手くいくと信じていた。きっとはやても立ち直っていて、あとはただ全力で事に当たれば良いだけだと確信していた。今思えば何故そんな確信を持っていたのか信じられない。絶対に守る、絶対に助ける。そのために自分はここにいるはずが、結局一番助けたい者を置いて自分だけが外に出ることとなってしまった。

 なんのために自分はここにいるのか。フェイトは本気でそれが分からなくなってしまった。

 少なくとも分かることは、自分は姉であるアリシアを置いて一人助けられてしまったと言うことだけだった。

 それがどうしようもなく悔しくて、アリシアであれば何が起こっても上手くやれると言われて、根拠もなくそれを信じてしまったことにフェイトは後悔するばかりだった。

 

「お姉ちゃん……」

 

 その呟きに、その場にいた全員が僅かに身を堅くした。取り乱すわけでもなく、泣き出すわけでもない。その声にはなんの感情も伺うことが出来ず、それでも呆然とするわけでもなく、フェイトはただ直立して出現した闇の固まりを睨み付けるだけだ。

 冷静を失ってくれ方が気が楽だったとクロノは思う。それなら、声をかけて彼女を平静に戻すことも出来た。声をかけることが出来るということは、声をかけられる方だけではなく、声をかける方にとってもある一つの安心を得る材料になるということだ。

 近い将来家族になり、自分の義理の妹になるはずの少女に何も出来ないと言うことにクロノは悔しさを覚え、それでも今はこの状況を打開するために執務官としての責務を果たすべきだと思い至る。

 

「大丈夫か? フェイト」

 

 それでも一言だけクロノはフェイトに言葉をかけておきたかった。

 フェイトは且く闇の固まりを凝視し、そしてその視線をクロノの方へと向きなおし、

 

「……うん、私は大丈夫だよ、クロノ。なんだかね、もの凄く冷静なんだ。本当は悲しくて、情けなくて、もの凄く腹立たしくて……だけど、そんなのが全部ごちゃごちゃになって、何も分からないんだ」

 

 そう呟くように答えを返した。クロノはそんなフェイトを非常に理性的だと感じた。一気に押し寄せた感情によって理性がはち切れるのではなく、その感情を理性的に理解しようとしている。

 

「フェイトちゃん……」

 

 クロノが展開したフローターフィールドの上に腰を下ろすなのはの呟きはフェイトの耳には届かなかった。なのはは今のフェイトの眼差しに危うさを感じている。あれはまるで、半年前、初めて彼女と出会ったときの表情に良くいていた。無表情の奥に見える深い悲しみ。それは、かつては自分も浮かべていた途方にもない寂しさを押し隠すものだった。

 

「大丈夫だよ、なのは」

 

「ユーノ君……」

 

 足もとに着いた手が温かいものに包み込まれる感触がなのはを襲った。見れば、なのはの手にはユーノの手が重ねられていて、視線を戻せばユーノの翠の双眸がしっかりとなのはの両目を見つめていた。

 その表情から感じるものは、悲歎と自責、そして明確に伝わってくる強い意志があった。

 

「大丈夫。きっとフェイトは繰り返さない。信じよう、フェイトを」

 

 ユーノのその様子は既に満身創痍。魔力の過剰運用によって拡大したリンカーコアの損傷は本来なら彼に声も出せないほどの激痛を与えているだろうにも関わらず、彼の声にはそんなものなど無いと思わせるほどはっきりと筋の通ったものだった。

 

「……うん……」

 

 彼は強すぎる。そして、フェイトもまた脆そうに見えて強い。クロノは堅固で揺れることが無く、アリシアはしなやかで強靱な意志を持つ。

 どうして彼等はそうある事が出来るのだろうかとなのはは思い、そうならざるを得なかった事情に思いをはせて、どんどん気分が下降していく。思えば、彼等は人の命を背負って立っているのだ。肉親の死を彼等は知っている。ただそれを二度と繰り返したくないという悲壮な意志をもととして彼等は強くならざるを得なかった。

 それはとても悲しいことだとなのはは思い、下がっていく面を何とかして持ち上げた。

 

「助けよう、アリシアちゃんを。私たちで……」

 

「うん、なのはの言うとおりだ」

 

 フェイトはなのはの言葉に深く肯いた。

 やはり、自分たちにとってなのはは眩しすぎる。そのあり方も、生き方も、何もかもが太陽のようだとフェイトとユーノ、そしてクロノさえも思う。自分たちのような歪なあり方で得た強さではなく、なのはは純粋な強さを持っている。

 フェイトは思う。自分も、いずれはなのはのような本当の強さを手にすることが出来るのか、そうあって欲しいと。

 

「……エイミィ、現状を報告してくれ」

 

 あの三人が一緒にいれば、大丈夫だ。クロノは頷き会う三人になんとか安心して、現状打開のためにアースラに通信を開いた。

 

『了解、クロノ執務官』

 

 呼ばれることを待ち受けていたのか、クロノの呼び出しに僅かなタイムラグも生じさせずにエイミィがクロノの眼前に通信モニターを開いてきた。

 

『現在、闇の書は暴走開始前の小休止状態になってる。内部を走査した結果、魔力エネルギーがすごい勢いで発散し始めてて、もう暴走開始までそんなに余裕はないみたい』

 

 エイミィはそう言いながら忙しく指を動かし、自分のモニターの横に闇の書の現状を説明するための解析モニターを投影させる。

 ワイヤーフレーム状にモデリングされた闇の書の巨大な固まりの周囲、あるいは内部に様々な数値や三次元グラフが投影され、それらはめまぐるしく移り変わっている。

 それを凝視するフェイトにはその数値の示す意味を読み取ることが出来なかったが、フェイトにとってただ一つ確かめておきたいことがあった。

 

「エイミィ、お姉ちゃんは?」

 

 フェイトの抑揚のない声にエイミィは一瞬口を噤んだ。出来れば、フェイトを安心させるために、ただ大丈夫と告げてあげたいとも思う。しかし、今の自分の立場を考えれば、全てをありのまま伝える以外にエイミィに出来ることはなかった。

 

『それが、分からないんだ。アリシアちゃんの反応は確かにあるのに、その位置がどうしてもはっきりしなくて』

 

 その様子はまるで、量子の雲のようだとエイミィは呟いた。あまりにも揺らぎが多く、一度観測されてもその次の瞬間を予測することが困難であること。あるいは離散的に観測されて一つにまとまらない。

 アリシアは確かに中にいる。しかし、どこにいるのか分からない。

 

「お姉ちゃんは……生きてるんだね?」

 

『うん、それだけは確実だよ』

 

「そう……」

 

 フェイトは心なしかホッと息を吐いた。生きているのなら、まだ助け出す余地があるということだ。僅か一瞬で永遠に手の届かない所へ行ってしまった母とは違い、アリシアは本当に目の前にいる。

 しかし、それを眺める周囲の者達はフェイトのその様子に調子を狂わせられる。本来なら、一番焦って声を荒げなければならない子が一番冷静で聞き分けが言い。

 なんだか、居心地が悪いとはやては感じながら、一同に黙ってしまった面々を眺めておずおずと手を挙げた。

 

「あの、それで、クロノさん、何か対策はあるんですか?」

 

「今のところ、二つだ」

 

 クロノはそう言って手に持っていたS2Uを懐にしまい、代わりに一枚の白銀のプレートを取り出して、全員に見えるように掲げた。

 それは、先ほどグレアムより託されたデュランダルと呼ばれたデバイスだった。

 

「まずは、このデュランダルで大規模な凍結魔法を使用し、闇の書を凍り付かせる」

 

 そして、クロノは感情のこもらない酷く覚めた表情で空を見上げ呟いた。

 

「あるいは、静止衛星軌道上のアースラからアルカンシェルをあれに打ち込むか」

 

 それは、フェイトには聞きたくない言葉だった。

 

「それはダメだよ、クロノ。それじゃあお姉ちゃんを助けられない」

 

 フェイトが首を振ってそれを否定する。確かに、アルカンシェルを使用すれば、ここにそびえる災いは全て文字通り蒸発するだろう。しかし、それでは救えないものがある。

 

「それにアルカンシェルを打ち込んだら、僕達の街も消えてしまう」

 

 ユーノはアルカンシェルの有効射程や効果範囲を頭の隅で計算しながら面を振った。ここは陸より随分と距離が離れている。しかし、いくら距離が離れていると言ってもそれは僅か十数km程度の事だ。アルカンシェルはその爆心地より半径百数十kmの球状空間内にあるものを例外なく消滅させる。

 ユーノは陸でこちらを見守っているだろうアリサとすずかのことを思いやる。この半年間のこと、アルカンシェルをここに打ち込めば、その全てが消えてしまうこと。たとえこの街が消滅することで、この星に住まう60億の人命が救われるといわれても、自分の世界が崩壊することと天秤にかけることは出来ない。

 それは、誰もが分かっていることだった。人の命に貴賤がないのなら、一つ一つの命は平等に扱われるべきだ。それならば、60億の人命と街に住む100万足らずの人間の命、あるいはアリシアただ一人の命、それらのどれがもっとも重たいものか、考えなくても分かる。足し算をしてもっとも大きなものがもっとも優先されべきものだ。しかし、それを選択することは人の道を外れた行為だということを誰もが感じていた。僅か数名に過ぎない自分たちがそれを判断することは出来ない。

 判断できない故に、誰もがそれを判断する人間をほしがり、沈黙に包まれる場の中で必然的に皆の視線はクロノへと集められる。クロノに辛い決断をさせる事になるかもしれない。それはとても悲しいことだと誰もが思った。

 

 フェイトはただ一人、視線の集まるクロノへと目を向けず、その紅い双眸を海上に佇む黒の半球へと向けた。

 それは表面を見る限り何らかの変化をしているようには思えなかった。しかし、内部の状況をモニターする映像には確かに変化が見られ、残り時間を示すタイマーの数字は時々増減を繰り返し安定しないが、確実にその数を減らしていく。

 

 その数字が全ての終わりとなる。良きにしろ、悪きにせよそれで全てが終わる。

 フェイトは震える肩を押さえるように自身を抱きしめた。終わってしまう。全てが終わってしまう。そのことが突然双肩にのしかかってきているようで、怖かった。縋り付くものもなく、この場にいる全員が縋るものを必要としている。

 

(お姉ちゃん……何をやってるの? みんな、お姉ちゃんがそこにいるから困ってるんだよ? なんで……一緒にいてくれないの?)

 

 フェイトは目を閉じて、心の内でそう念じた。闇の書の中に声が届くとは到底思えない。アリシアの位置は不明のままだ。それに加えて、闇の書には極めて強固な排他性があるため、よっぽど強い指向思念波を用いなければ内部まで声を届けることが出来ない。

 しかし、それでも正に藁に縋るような思いでフェイトは念じる。この声が祈りとなって届いてくれればと思う。

 フェイトは胸の前で腕を組み、握りしめられた手にキスを送ってただひたすら念じ続けた。この祈りは何に捧げるべきか。あるいはこの夜が始まって常に自分達を天から見守り続けてきた月に捧げればよいのか。フェイトは神仏の存在を知らず見たことも感じたこともない。しかし、ことあるごとに姉が思いをはせるあの月なら、あるいはこの祈りを聞き届けてくれるかもしれない。

 

『……フェイト』

 

 吹き付ける海風と空風の狭間に一塊の声のような音が差し込まれた。今のは空耳だったのだろうかとフェイトは面を上げた。誰かに呼ばれたような気がしてフェイトは後ろを振り向いた。

 クロノが呼んだのだろうか、それともなのはか、はたまたユーノだったのだろうか。しかし、振り向いた先に集まる面々は、今だ答えのでない議論を続けるばかりで誰もフェイトに気を向けていない。

 希望があると思いたかった。

 

『フェイト……』

 

「だれ?」

 

 今度は聞き逃さなかった。誰かが自分に話しかけている。フェイトはそう確信し、両耳に手を当てて外部からの雑音を遮断し、ただ意識をすませて心の耳をとがらせる。

 

『私の声を聞いて……お願い、届いて……』

 

 間違いないとフェイトは確信した。その声は聞き間違えるはずもない。自分と同じであるのに、やっぱりどこか異なる声。届いたとフェイトは涙を流しそうになった。

 

『お姉ちゃん!? どこにいるの。大丈夫!?』

 

 アリシアからの呼び声にフェイトは必死になって言葉を念じる。その思念波は周囲に放出するのではなく、ただ前へ指向性を持たせつつ、呼び声に応じて欲しいという願いを乗せてフェイトのもとから闇へと届けられる。

 

『もしこの声が届いていたら、できれば私の言うとおりにしてほしい。そうすれば、おそらくだいたいが上手くいくから』

 

『お姉ちゃん!? アリシア!』

 

 会話がかみ合っていないとフェイトは感じた。アリシアからの声は届いているにも関わらず、こちらの声は届けられていない。話がしたいとフェイトは切望した。一切の余裕も認められない状況だと言うことは承知していた、しかし、それでもたった一言だけでもいい、言葉と言葉を交わし合いたいとフェイトは願った。

 

「どうした? フェイト」

 

 話し合いの輪から離れて、声を上げずに取り乱すフェイトにクロノが気が付き、そっと声をかけた。

 

「うん、今お姉ちゃんの声が聞こえたんだ」

 

 フェイトのその言葉に、その場にいた全員がフェイトへと視線を向けた。

 自分たちには何も聞こえない。それだけなら、単なるフェイトの妄想かとも思えるが、藁にも縋りたいという思いは何もフェイトだけのものではない。

 

「話せるのか」

 

 クロノは焦る感情を沈め、静かにフェイトに問いただした。とても冷え切った声だったが、フェイトは確信を持って肯いた。

 

「うん。だけど、私の声が届かないんだ。お姉ちゃんに何か考えがあるみたい。上手くいけば、みんな助かるって……」

 

「提案? それって、どんな?」

 

 少し苦しそうに声を上げるユーノだったが、フェイトの「少し待って、集中するから」という言葉に口を噤んだ。

 

 ユーノ達の焦燥感の込められた視線を体中に感じながら、フェイトは無言で目を閉じ、外界の雑音を遮断するするように両耳に手を当てて深く意識を研ぎ澄ました。

 聞き漏らすわけにはいかない。こちらの声が届かない以上、アリシアに復唱を求めることも出来ない。

 

『私は今、闇の書の深淵。暴走した防衛体の中心にいる』

 

 アリシアの声はとてもゆっくりとしたものだった。

 

『暴走体のコアが私のリンカーコアと融合している。だから、今から私は闇の書の暴走を解放して、防衛体から暴走した部分を順番にパージしていく』

 

 情報を正確に伝達するために、殆ど箇条書きに近い言葉で淡々と状況と提案を告げられる。

 

『だけど、パージするには暴走体が攻撃と再生に集中している必要がある。そのために、みんなには表に出ている暴走体を全力で攻撃して欲しい。外から私が観測できるようになったら、何らかの方法を用いて私を外に引きずり出して欲しい』

 

 アリシアの提案は余りにも端折られたもので、根拠も不明に近い。

 しかし、フェイトはそれに一切の疑問を挟むことなくただ貪欲にその一言一句までも全て飲み込み消化しようとしていく。アリシアの声は自分以外に届いていない。その通信プロセスが不明な以上、この通信記録をバルディッシュに残しておくことも出来ないのだ。

 

『私が外に出られたら、後は…………』

 

 アリシアは最後の言葉を伝え、そしてフェイトの意識の中からアリシアの声が完全に消えた。

 

「分かった。絶対に助けるから、待ってて……お姉ちゃん」

 

 フェイトの眼差しが蘇った。面を上げて全員にむき直されたその双眸から感じられるものは先ほどの無感情な冷ややかさではなく、むしろ燃えるような決意を秘めた熱だった。言葉を交わすことも出来ず、ただ、彼女の声を聴いた。それだけであるのに、フェイトは自分自身を取り戻すことが出来たのだ。クロノはやはり、フェイトにとってはアリシアがもっとも重いものだと実感し、それは当たり前だと理解した。それが血の繋がりというものだ。

 

「みんな、落ち着いて聞いて。今からお姉ちゃんが言ってたことを話すから」

 

 そして、フェイトは話し始めた。アリシアの言葉通りに話した。それはまるで、アリシア本人のようだった。その口調、言葉と連動して動かされる腕の仕草やその表情に至るまで全てがアリシアのものだとそれを聞くユーノには感じられた。

 

「アリシアが暴走体のコアと融合している……か……少し信じられないな」

 

 フェイトの報告が終了し、与えられた情報の反芻が一通り終えたクロノは思わず額に手を当てながら呟いた。

 

「お姉ちゃんはこんな嘘を吐かないよ、クロノ」

 

「いや、それは僕もよく分かっている」

 

 アリシアは嘘つきで悪戯好きだ。クロノも、この半年でそのことに関しては身にしみて分かっている。そして、同時に彼女は嘘をつく場合をわきまえている。とりわけ命に関わることに関しては、彼女は不必要な嘘はつかない。単に、嘘だと思いたいだけだとクロノは自答して、フェイトから伝えられた情報をもう一度整理するべく口を閉じた。

 

 絶対うまくいくという確信はない。アリシアの提案に間違いはないという根拠もない。ともすれば、彼女はこちらが決定的な行動を躊躇するようなことを伝えていない可能性もあるのだ。しかし、迷っている時間はない。クロノは横目でエイミィが映し出した暴走までのタイムリミットを確認し、奥歯を食いしばった。

 

「……残された時間はない。まだ確証は持てないが、アリシアの案で行く。何か反論のある者は?」

 

 この状況で反論できる者はおそらく居ないだろうとクロノは予想した。仮にもしも反論されたとしても、決定的な代替案が提示されなければ、クロノは自分の決定を押し切るだろう。

 

(これは、僕の独断だ。だから、もしもすべてがうまくいかなかったら、責任はすべて僕にある)

 

 果たしてその決意は皆に行き渡ったのだろうかとクロノは自分に向けられた視線を一つ一つ確認していった。それぞれの双眸、その奥に込められた光にはよどみがない。皆が皆希望を託している。のしかかる重責は、もう何度も経験してきたことだ。自分の決断が一つの世界の命運を決めることも何度もあった。成功するときもあり、失敗するときもあった。こんなはずじゃなかった状況が何度も何度も襲いかかり、そのたびに後悔と自責に駆られる。

 

(だけど、僕はそれでも前に進んできた。今こうして僕はここにいる……それだけは事実だ)

 

 クロノは最後にフェイトの表情を伺った。フェイトには迷いがなかった。そう、クロノには感じられた。

 

「やろう、クロノ。私たちでお姉ちゃんを取り戻すんだ」

 

 それは全員の決意の言葉だった。フェイトは大剣型のバルディッシュを握りしめ、おもむろに固まりとなった闇をに目を向ける。

 別れを告げた人々の言葉がフェイトの脳裏をよぎる。自分を夢に誘い、それでもただ自分のために背中を押して消えていった、姉ではない姉の最後の笑み。手を伸ばしても決して届かない、渇望さえした夢の家族たち。幻と分かっていてもなお、それはかけがえのない者だった。

 そしてフェイトはちらりと横目で、自分を見る心配そうなクロノの表情を伺った。義兄になるかもしれないクロノ、そのクロノの側で呼吸を整えるユーノもまた、いずれ自分の義兄妹となるかもしれない人だ。家族にならないかと声をかけてくれたリンディ。皆、優しくて暖かい。本当の幸せが間近に迫っているかもしれない。

 

 そして、その光景は姉であるアリシアが居て初めて完璧となる。

 

「暴走開始まで残り60秒だ。全員配置につけ! いいか、この一戦で全てにケリをつけるぞ!」

 

「了解した、執務官。前は私とヴィータに任せろ」

 

 ようやく出番だと言わんばかりにシグナムは鞘より剣を解き放ち、猛々しい炎のような魔力を存分に振りまいた。自分は主より許しを得たが、それで償いが終わったわけではない。今この状況は間違いなく自分の不義がもたらした結果であるとシグナムは胸に刻み込む。それは死をもって償うとか、誰かに罰を与えられるとかそう言うことではないとシグナムは自己に言い聞かせた。不義の償いは義をもって行う。それが主より与えられた唯一の許しの道だとシグナムは誇りを持って剣を担うのだ。

 

「ああ、全部たたきつぶしてやる」

 

 ヴィータもそれに同調するように大槌を一降りしてカートリッジを二発激発させる。ただ破壊すること、己よりそれに勝る者はないと言わんばかりにグラーフ・アイゼンもまた誇らしげに筐体を震わせて白煙をなびかせた。

 

「ナビは任せてください、みんなは攻撃に集中して!」

「雑多な者は我が担う。一つたりとも撃たせん」

「守りはアタシにまかせな! 誰にも指一本ふれさせないよ!」

「もう、悲しいことはたくさんや。これで終わりにするで、みんな!」

「もう一頑張りだよ、なのは。身体は大丈夫?」

「うん、私はだいぶ楽になったよ。ユーノ君こそ、無理はしないでね」

 

 皆のその様は正に威風堂々。互いが互いの不安を払拭し、全てをもってすれば開かない道はないとフェイトは確信される。そして、フェイトは最後に闇の書の巨大な闇に目を向けた。それはまるで今にも孵化しようとする黒い卵だ。そこから生まれるのは災いなのか、それとも未来への希望なのかとフェイトは思いやる。

 

「帰ってきて、お姉ちゃん」

 

 出来ることなら、闇の中に光のあらんことをとフェイトは祈りを捧げ、剣を持つ手を強め、そしてそれを眼前へと構えた。

 世界は一瞬の静寂に包まれ、見上げた空には月が輝く。フェイトにはその月が今一際輝いているように思えた。

 

************

 

 闇の書の暴走が始まったとアリシアは見上げる空が静かに脈動し始めたことからそれを感じていた。

 草木の生い茂る庭園の中、先ほどまで穏やかに流れていた風は止まり、何時の間にかわき出してきた雲が照りつける陽光を徐々に徐々に覆い隠していく。これは、自分の深層を映し出す鏡なのか、それとも闇の書が終焉を迎えたことを歎く有様なのか。

 アリシアはそっとヒラヒラとした服の上から真っ平らな胸を押さえ、自身の心音に耳を傾けた。

 

 闇の書も生きている。その音は自身の鼓動に会わせ重なり手を介して耳に届けられていた。寂しいという感情、一緒にいたいという感情、一人でいるのは嫌だという感情。これは一体どこから湧き上がるのかとアリシアは考える。

 自分の感情なのか、それとも暴走した闇の書の感情なのか。もう、その二つが身体の中で交じり合って一つになり、区別することなど出来なかった。

 

 アリシアはそっと目を閉じて、湧き上がる感情に身をゆだねる。目蓋の向こう側に映るものは、今正に闇の書の防衛体が直面している現実という苦しみだった。

 何も壊したくない、終わりをもたらしたくない。それが悲しみの叫びとなり、その叫びは醜悪な咆哮となり、海を空を振るわせる。

 見上げればそこには月があって、その光の下に色とりどりの光が浮かんで折り重なりあるいは離れて自身を囲む。

 

(良かった、通じたんだ)

 

 アリシアはそう思って手を伸ばそうとするが、その手が彼等を掴むことはなかった。それが自分の手だとは一瞬考えられなかった。

 

(そうか、融合するというのはこういう事なんだ)

 

 自身が掲げた手だと思っていたもの、それは先端に眼球のような砲座を持つ蛇の鎌首だった。

 

『砲撃など撃たせん!』

 

 青い光が空に灯された。その光に立つ白髪の大男が腕を掲げ、そこからは莫大な広さを持つ鋼色の刃が一閃して襲いかかってくる。

 切り取られる鎌首からはヘドロのような体液が流れ出て、アリシアは思わず目を開き自身の腕を押さえた。

 

「くぅ……ぁぁあ゛ああ゛……」

 

 腕は無事だった。切り取られたのは自分の腕ではない、しかしその衝撃はまるで自身に与えられた者と等しい。

 

『アリシアを……返しやがれ! この化け物!!』

 

《Gigantschlag》

 

 紅の戦騎の哮りが脳裏に鋭く突き刺さり、そして、アリシアは頭上で巨大な鉄槌が振りかざされる様子を見た。

 叩きつけられる衝撃が自身を襲うが、それはまるで何かに守られているようだった。見上げれば自身を覆う四枚の防御壁が、天来の巨槌を押しとどめている。守られているという安心感と、そしてその内の一枚がその圧倒的なエネルギーの前に崩壊していく様を見せつけられる恐怖が同時に襲いかかり、アリシアは目を背けたかった。

 

(私が感じてる恐怖は、メルティアが感じた恐怖なんだ。逃げてはダメだ)

 

 攻撃はまだ自分/暴走体に届いていない。この防壁を突破され、自身の身体にその刃が届くまで、まだ何も出来ない。

 

 胸よりこみ上げる恐怖と悲しみ。アリシアはそれをなだめるように胸を押さえ、撫でつける。

 

「これに耐えれば、きっと楽になれる。どうか、頑張って。私も一緒だからきっと怖くないし寂しくもないよ」

 

 それは泣いている幼子に言い聞かせるようであって、自分に対する誡めだった。

 

『此度のことは私の不義が致したこと。闇の書よ、お前も過ちを犯したくて悲劇を繰り返してきたのではないのだろう。しかし、すまない。私ではお前を救えない。赦せ!!』

 

《Sturmfalken》

 

 紫の光が月を覆い尽くす程の光を放ち一閃し、出現した白銀の矢が障壁に到達して爆発を起こした。脆く砕け散る守りの盾は否応なく終わりを予感させる響きとして体中を駆けめぐる。

 その光景は、断罪の名の下に圧倒的な力で叩き伏せたあの時を思い起こさせる。国のため、仲間のためと剣を振るい力を持って敵を屈服させた300年前の戦場の縮図をアリシアはそこに見いだした。

 

『私はお姉ちゃんを助ける。それで、取り戻すんだ。邪魔をしないで。私はみんなと一緒に居たいんだ!!』

 

《Jet Zamber Execution Pillar》

 

 黄金の光が空を貫き、まるでそれは天を支える柱のごとくそびえ立ち、その中心にいる少女はなんの曇りもない眼をもってそれを振り下ろした。

 

 ついに最後の城壁が崩され、それでも金刃は速度を失うことなくアリシア/闇の書の頭上へとたたき落とされた。

 

 まるで半身に両断されるような衝撃がアリシアの身体を駆けめぐり、アリシアは声にならない叫び声を上げて膝を突き、頭から地面に倒れ込んだ。

 

(これは、私に対する罰か……)

 

 今にも薄れて消えていきそうになる意識の中でアリシアは唇を振るわせた。

 

(私……ベルディナが殺して死なせてきた者達の苦しみを受けているのか)

 

 祖国を守るため、忠義を尽くすため、愛するもの、気の置けない仲間達を守るためと言って彼は血屍(ちかばね)の道を築いてきた。

 

「だけど……」

 

 アリシアはそれでも立ち上がった。震える膝を叩き、自由にならない腕に鞭を打って地に足をつけ、立ち上がった。

 

「それでも……」

 

 外からの衝撃が内部まで届き、地鳴りのような震動が足もとを覆い尽くす。

 

「たとえ赦されなくても……」

 

 自分だけでは立っていられなくなり、アリシアはゆるゆると足を運び、側に出現した大樹に背中を預けて面を上げた。

 

「ベルディナは……最後には身を挺して命を救ったんだ」

 

 アリシアは胸に手を置いて、それを縛り上げる鎖を千切り、闇の書のコアを拘束する暴走を切り離していく。

 

『辛いのも、悲しいのももうたくさんや! 私は、自分の足で立って、歩いていきたいんや! もう、誰も……誰も失わせへん』

 

 銀色の槍が降り注ぎ、身体を貫いていく。手を、足を、心臓を、腹を貫き、そして固められていく。石化の槍(ミストルテイン)がハリネズミのように体中に突き刺さる感触、そして固められた表面が崩壊していく様は、まるで生皮を剥がれるような感覚に酷似していた。

 痛みを取り越して身体の感覚が壊れていく。

 

「そして、死んだ後も彼は苦しんだ。死ねないこと、終われないこと、自分が自分でなくなっていくことに苦しんだ。そして、私に願いを託して逝った」

 

 崩壊した身体の内部が盛り上がり膨張し、再生していく。まるで臓物が足りない表面を補うために膨れあがり、内と外が反転するような感覚がアリシアを襲う。

 目を閉じれば、自分を見おろす視線はそのあまりの醜さを蔑むように思えた。ここまで醜くなってもなお生き続けようとするのかとその視線は物語る。しかし、それでも生きていたい、終わりたくない、終わらせたくない、何も破壊したくないと闇の書の心臓は叫んだ。

 

『見ていますか? グレアム提督、母さん。今こそ僕達は悲劇の鎖を切ります。最後まで見守っていてください』

 

《Eternal Coffin》

 

 空色の光が緩やかに夜空に咲いた。吹き付ける風は海の水を空に持ち上げ、その光はその飛沫を真っ白な雪へと変えていく。拡大する氷の空間はブリザードを生み出し、海面を覆い尽くしていく氷床は雪原となり、それは月の墓標を連想させた。

 それは永遠の眠りをもたらす棺。光の御剣の名を冠する復讐者の杖だった。

 

 身体が氷河となる。永久凍土に閉じこめられる身体。しかし、アリシアの身体には一つとして傷はなく、そして感覚もない。

 

『…………見つけました…………』

 

 凛とした声が耳朶を叩いた。見上げればそこには緑の光があり、それは鏡のように輝く扉を開き、アリシアはズブリと心臓に腕が差し入れられる感触に溜飲をかみ殺した。

 

 もうこれ以上、犯さないでと泣き叫ぶ声がアリシアの耳を痛く振るわせている。

 

「もう少しだから、もう少しだけ我慢して。私も頑張るから……ほら、迎えが来た」

 

 眼前に扉が出現した。それは、庭園の空をにヒビを入れ、空間を割って浸食する。天蓋を乗り越えて到達した亀裂はアリシアの目の前で開眼するように左右に開かれ、薄ボンヤリとした境界面からは細くしなやかな女性の腕が伸ばされてきた。

 

「さあ、行こう。みんなが待ってる」

 

 何かを求めるように必死に延ばされる手をアリシアは掴み取った。

 自分の折れそうなほど小さな手が、白い手に優しく掴み取られ、そしてゆっくりと引き取られていく。心臓に突き立てられた痛みが和らいでいく。それは苦痛ではなく、快感でもない。ただ、幼い頃、母だった人に手を引かれて歩いた時の温もりに似ていると感じた。ベルディナの保護者であり母親だったソフィア・ブルーネスと”アリシア”の母親だったプレシア・テスタロッサ。生きる時代も異なり、思想も価値観も異なる。しかしそこにあったのは正しく母親の顔だった。

 その記憶はアリシアにとって他人事ではない。どちらも等しく自分の記憶として深く心に刻み込まれている。

 

(私は、フェイトの手を引いて歩いてあげられるのかな)

 

 それは、ベルディナと”アリシア”から願われたこと。ベルディナだけでは果たせず、”アリシア”だけでは至れない。フェイトの姉としての自分、フェイトを悲しませないため、フェイトのために生きることを今の自分は望まれた。

 

 アリシアはふと後ろを振り向いた。そこには暗黒の空間にぽつりと浮かぶ、緑にあふれた庭園が浮かび上がり、そしてそれは徐々に姿を消していった。

 夢は終わったとアリシアは感じた。そして、手を引かれていく闇の向こう側に小さな光の孔が、まるで夜空に浮かぶ一番星のように明るく瞬いている。

 

(あの光の先には、何があるんだろうか)

 

『来ます、準備をお願いします!』

 

 シャマルの声が響く。アリシアは闇の書の暴走体が見る最後の映像を心の中に深く焼き付けようと目を閉じた。目蓋の裏側に映るのは満天の星空だった。

 

「ちょっと我慢してておくれよ、アリシア!」

 

 自信に満ちた少女の声が耳朶に直接打ち付けられた。

 

「アルフ? そうか……私は、帰ってきたんだ……」

 

 満天の星空は目の前にあった。闇の書が見つめた星空はただただ広く雄大だった。それに比べ、自らの肉眼で見上げる夜空は狭く遠くに感じられた。見おろせばそこには残骸が海に浮かんでいる。それらはアリシアが切り離した暴走体の末端であり、それは拠り所を探して身をくねらせて、今にもその根源であるアリシアのリンカーコアに寄り添ってくるようにアリシアは思えた。

 

 先ほどまで自分の身体の一部だったそれらは今は唯の残骸としてうち捨てられている。

 

(だけど、貴方たちを受け入れるわけにはいかない……ごめんなさい。私は、貴方たちを見捨てます)

 

 気が付けばアリシアの右腕には橙色をした鎖がくくりつけられていて、それらはアリシアが海に落ちないように空中につり下げられた。

 

 全ての状況が整った。アリシアは目を見開き、毅然とした眼差しで僅かに上空に浮かぶ桃翠青金(とうすいしょうごん)の光に拘束されていない腕を精一杯広げ、

 

「お願い!」

 

 と声を張り上げた。

 

「決めるぞ、しくじるな!」

 

 デュランダルより持ち直したS2Uを掲げ、クロノはそう短く自分の側に待機する三人の少年少女に声を送った。

 

「ようやく出番だ」

「うん、アリシアちゃんは絶対に助ける!」

 

 魔力の枯渇と回復魔法では治療できない疲労のために攻撃に参加できなかったなのはとユーノはようやく訪れた役割に胸を躍らせ、ユーノはジェイド・ブロッサムがはめられた腕を掲げ、なのははAWSの翼を靡かせたレイジングハートを両手でしっかりと把持してその先端をアリシアへと向けた。

 

「みんな一緒に、タイミングを合わせよう」

 

 大剣を戦斧に戻したフェイトもユーノとクロノの間に身を滑り込ませ、バルディッシュに残された最後のカートリッジを全て激発させた。

 

「リリカル、マジカル……」

「妙なる響き、光となれ……」

「レイデン・イリカル・クロルフル……」

「アルカス・クルタス・エイギアス……」

 

 それは奇跡を起こすための言葉に違いなかった。

 その言葉と共に四種の色は四種の光を放ち、拡大し膨張し、全てを飲み込む大津波へと変じていく。

 

「封印するべきは悲劇の根源……」

「幾星霜を旅する呪われし器……」

「闇に染まりし邪悪なる禍根……」

「幻に生き続ける偽りの楽園……」

 

 しかし、その光は破壊の光ではない。全てを正常な姿に戻すためのもの。荒れ狂う幼子を優しく包み込み、揺り籠の眠りに誘うための子守歌。世界を調律する調和の提琴の奏でだった。

 

『闇の書防衛体……封印!』

 

 四種の光は線となり、清浄の旋律となり、羽ばたいた鳥の歌を響かせながらただまっすぐと宙に浮かぶアリシアに向かって殺到し、弾けた。

 一瞬、世界は光に包まれる。四色の光は一つになって混ざり合い、純粋な白い光となって輝きを放った。それはまるで、光の嵐。星空を映し出す海に現れた白夜の太陽だった。

 

《…………ありがとう……ありがとう…………》

 

 ようやく晴れた光の嵐にフェイトはゆっくりと目蓋を持ち上げた。あまりに強い光が瞬間的に目に差し込んできたため、まだ視界の中に薄膜のような残光がちらつく。

 

『闇の書の正常化を確認! やった、成功だよみんな!!』

 

 通信機越しにエイミィの興奮した声が響き渡る。

 

 フェイトは目をこらして光が爆ぜたその中心を必死になって見やり、アリシアの姿を探した。

 封印魔法の衝撃によって海に滴が霧となって周囲を覆い隠し、月の光を乱反射してじんわりとした白光を蓄えている。風によってそれは薄くたなびき、その中で確かに揺れ動くものをフェイトは確認した。

 

「お姉ちゃん!」

 

 その小さな影はゆらりと揺れて、身体の支えを失ったかのようにゆっくりと墜ちていく。アリシアの天地は反転し、頭上には海が待ち受け、足下には空が広がる。フェイトは封印魔法を行使することで疲労したリンカーコアに急いで魔力を流し込み、考え得る限り全力で身体を加速させた。身体に張り付くソニック・フォームのジャケットが空気を切り裂き、空力的にきわめて優れたその表面構造はまるで無気圧の大気中を移動するかのようにフェイトは感じられた。

 重力にとらわれ、アリシアの身体は徐々に徐々にその速度を増しながら墜ちていくが、その身が海面にたたきつけられる一歩手前で、フェイトはアリシアの身体をとらえることが出来た。

 

 アリシアの身体には傷一つない。そして、気を失う彼女からは規則正しく、可愛らしい寝息が聞こえて来ていた。

 

「お帰りなさい、お姉ちゃん。お疲れ様……」

 

 星々と月の光が彩る天の伽藍、フェイトはその中に立ち胸の中で眠るアリシアをそっと抱きしめる。

 

 

  世界はなんと美しく静かなのか。

 

 

 星空の下に広がる大海原は、寂静の天鵞絨(ビロード)を身にまとい眠りについた。

 

 

 


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