魔法少女リリカルなのは~Nameless Ghost~   作:柳沢紀雪

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第五話 Star Light

 

 地面に達つけられたオレンジの狼娘、ビルに突き刺さった黒金の少女、そしてビルのがれきに埋もれた翡翠の少年。

 荒い息に肩を揺らしながら、シグナムとヴィータは増援に駆けつけた男に気を許した笑みを贈った。

 

「助かった、ザフィーラ」

 

 シグナムはそういい、漸く使用することが出来たカートリッジをリロードし炎で熱せれた刀身を血払いのように振るった。

 

「別にあたしは問題なかったけどね。上出来だ、ザフィーラ」

 

 ヴィータもシグナムに習い、使い切ってしまったカートリッジをリロードしようとするが、既に予備のカートリッジが消費し尽くされていることに舌打ちし、改めて吹き飛ばされ分断された敵に目を向けた。

 

「手強かったな」

 

 「ふう……」とシグナムはため息をつき、表出させた剣の鞘にレヴァンティンを一旦しまい、身体から緊張を抜くように肩の力を抜いた。

 

「間違いないね」

 

 ヴィータもそれに応え、応援に来たザフィーラに目を向けた。

 

「ところでザフィーラはどうしてここに? 確かお前には敵司令官の探索を頼んでおいたはずだが」

 

 シグナムは本来予定になかったザフィーラの行動に疑問を挟む。

 

「シャマルの指示だ。司令官はシャマルが対応し、我はお前達を助けるようにとな」

 

 ザフィーラの応えにヴィータもなるほどなと頷き、噂の当人からの通信を受信し、念話回線を開いた。

 

『ごめんなさい、勝手に判断しちゃって』

 

 ザフィーラに指示を与えた本人、シャマルは明るい声を少し暗めに落としそう二人に詫びた。

 

『いや、気にするな。お前の判断は適切だった。それで? 司令官は?』

 

 シグナムは彼女たちのチームのリーダーらしい気風でそう言葉を贈ると、シグナムが対応すると聞いた敵司令官のことを問いただした。

 

『今発見したところ。これからあの子を蒐集するわ』

 

 シャマルは既にその準備をしているのか、戦場より少し離れた場所から微弱に感じられる仲間の魔力波動を感じシグナムは、ならば問題はないと応え、

 

「ということは、敵の指示系統は事実上瓦解し、後は個別撃破に持ち込める。どうやらこの戦、我らの勝ちのようだ」

 

 小破したビルの隙間から襲いかかるフォトン・ランサーの弾頭を、シグナムは居合い切りの要領ではじき飛ばすと再び剣を構えた。

 ヴィータも、三つの鉄球を呼び出しユーノが墜落したビルの瓦礫に向かってそれらを発射する。

 地上で何とか彼らの隙を見て仲間と合流しようとするアルフをザフィーラは油断なく睨み付けながら三者は自分たちの勝利を確信した。

 

『こちらシャマル。敵司令官の蒐集を完了。量は少なかったけど、他の子達からも魔力を貰えれば………何これ!?』

 

 シャマルの言葉尻に残した悲鳴が三人の脳裏に響き渡った瞬間、彼らは突如現れた恐ろしいまでの魔力の奔流に目を見開き、その魔力の根源へと目を向けた。

 

「あれは……」

 

 ザフィーラの呟きは夜の空に消えた。

 

「あのヤロ、まだ動けたのか!」

 

 ヴィータの憤りもまた夜の空に消えた。

 

「まずい、あの魔力量では結界が!」

 

 シグナムの叫びはさらに高まりを見せる桃色の魔力波動に拡販され消滅していった。

 そして、彼女たちが見たもの。それは、まるで夜の地上に生み出された太陽のように、ただ純粋な魔力の固まりが一人の少女の眼前にかき集められ収束していく様だった。

 

***

 

《コールです、マスター》

 

 レイジングハートの声になのはは漸く訪れた決着の時を感じ、強く頷き多少の自己修復が施された自らの相棒を掲げた。

 

「レイジングハート。ステルス・フィールド、パージ。収束魔力解放!」

 

 なのははレイジングハートに命じる。

 

《了解。ステルス・フィールド解除。収束魔力表出開始》

 

 レイジングハートの答えにより、今までなのはの周りを覆っていた銀のピラミッドに隙間が生まれ、それらは内側から吹き飛ばされるように四散し夜空に散った。

 

「スターライト・ブレイカー発射準備。カウント・ダウン開始」

 

 それこそがアリシアが出来れば使いたくなかった切り札だった。

 負傷したなのはをあえて後方に下がらせ、戦力外であると敵に誤認させる。その上でなのはの反応を消すステルス・フィールドを構築し、なのはが気づかれないように時間をかけて周囲から集めた魔力を収束させる。

 

《魔力チャージは既に完了、カウント・ゼロ》

 

 故に、発射状態のまま待機となるその最大砲撃は敵の介入を許さない程の速度を持って打ち出すことが可能となったのだ。

 

「これで、みんなを助けられる。ごめんねアリシアちゃん。そして、ありがとう」

 

 アリシアはなのはにこう命令していた。

 

『コールと同時に撃て。それで戦闘は終了する。しかし、それは最後の手段だ。おそらく、私が戦闘不能となったそのときがタイミングとなる。しくじるなよ、高町なのは。お前が最後の砦だ』

 

《やりましょう、マスター!》

 

 レイジングハートの雄叫びになのはは再度頷き、天高く構える愛杖を握りしめ、そして自分たちを閉じこめる結界の頂点を睨み付けた。

 

「スターライト!!」

 

《我らに打ち抜けぬもの無し!》

 

「ブレイカァァァーーー!!」

 

《すべてを灰燼に。私の光は闇夜を貫く!》

 

 なのはは自らの頭上に輝く魔力の固まりを光の翼をまとったレイジングハートを持って叩き付けた。

 一瞬による魔力の爆発は正しい指向性を持って夜空に向かって打ち出され、圧倒的な魔力の激流は着弾した結界の表面をあっさりと打ち抜き、そしてそれらは結界のすべてを破壊へと導く。

 昇天する帚星。

 地上より放たれる流星。

 その破壊は、分断された内界と外界とを正しく結合させ、街に光を取り戻させた。

 

 戦闘は終了し、アースラの観測チームは冷静かつ素早い判断により離脱する四人の騎士達を必死に追尾するが、多重転送によって逃れ続ける彼らについにそれは間に合わず、彼らは敵を見失うこととなった。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん! しっかりして、目を開けてよぉぉ!!」

 

 光が戻り、それまでの破壊がなかったことにされたビルの頂上でただ一人意識を失い倒れるアリシアにフェイトは掛けより、その肩を必死になって揺する。

 

「フェイト、ダメだよ。そっとしておかないと」

 

 狼狽するフェイトを何とか宥め抑えるアルフにフェイトは必死になって抵抗し、なおも姉の名前を呼び続ける。

 

『アースラ、アリシアが負傷して意識不明なんだ。速く転送準備と医務室の確保を!!』

 

 ユーノの要求は素早くかなえられ、アリシアを含む現場の者達は薄い魔力残滓を残して地球を去る。

 よみがえった街の雑踏は、先ほどまでの激戦をまるでなかったことにするようにただ穏やかな夜を彩っていた。

 

 

 

 


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