今回はルイズが別の覇種(厳密には至天ですが)モンスターを呼び出したお話を外伝として書かせて貰いました。
色々アンチ色が強い作品になりましたけどこれを読んで本編の平和さを噛みしめて下さい。
この飛竜、足踏みに巻き込まれただけで最前線ハンターの方が虫の様に殺される世界です。勿論私は倒せません。
ちょっと誤字修正ついでに描写変更
「あなたが…私の使い魔…」
春の使い魔召喚の儀式でルイズが呼び出したのは巨大な一匹の黒いワイバーンだった。
一般的に竜とワイバーンではワイバーンの方が一段格が落ちるとされている、が、その様相は先に召喚されていたタバサの風竜シルフィードの偉相を完全に霞ませていた…
黒曜石の様に艶やかな光を帯びる漆黒の鱗は見る物全てに根源的恐怖をもたらす。
また、その黒鱗は全身を汲まなく覆っているが身体の各所にはまるで鮮血の様な赤が目を引いている…
その赤が怪しく煌めくのは脚爪、翼爪、そして尾から伸びる棘であり、そのそれぞれが独特の湾曲をしており、その全ての進化へのベクトルは全て獲物を切り裂き抹殺する為だと雄弁に主張していた。
太く長く逞しい尾はハルケギニアに存在するあらゆる竜種とは違った特徴を持っていた…普通竜の尾は根元が太く先端に行く程細くなりその様は騎士の持つ突撃槍、ランスの様な物が一般的だがルイズの呼び出した漆黒のワイバーンは違う…
太いのだ…明らかに先端が。そして尾の先端、そこから伸びる大剣の様な赤い針と沢山のかぎ爪…
翼長は20メイル、前腕が進化した両翼は力強く、翼膜も例外なく漆黒で微かに色合いの違いから紋様の様な柄が確認出来る。
全長もほぼ同じ20メイル級で一般的な火竜と比べても一回りは大きい。その上に何よりも周囲を恐れ、竦み上がらせたのはその紅蓮の炎よりも赤く、ルビーよりも美しい…どういう環境に生息すればそうなるのか?と言う程の死を意識させる血の色をした紅玉の赤眼だった…
言い表すならば正に『禍禍しい』の一言に尽きる…
ルイズはその漆黒の飛竜にこれでもかという程に愛情を注いだ。
だが、それに反して飛竜はまるで飼い慣らされる事を拒む様に学院の周囲を縄張りとして生活を始めた。
そうして時折巨大な黒い影が学院の上空を飛行する事になる。
多くの使い魔がメイジに仕え、人と共に生きる様になってもやはり其処は動物、やはり危険察知能力が高いのかその日以来あらゆる飛行生物がその影を怯える様に滅多に空を高くは舞う事は無くなった。
幸いにも飛竜は人を襲う事は無かったがその代わりルイズの元には黒い恐ろしいワイバーンに牧場が襲撃され家畜が食われた。といった噂が入ってきてその度に手痛い出費と当該地域の貴族への謝罪で苦労をさせられた…
仮に討伐隊なんて編成されたら大変な事になってしまう…勿論それは討伐隊の被害的な意味でだ。
そんなある日事件が起きた。
とある日の深夜の時間、怪盗フーケが魔法学院に破壊の杖を盗み出そうと30メイルはあろうかという巨大な土のゴーレムで襲撃をかけたのだがルイズのワイバーンがそれを縄張りへの侵入者と判断したらしく学院の中央塔、その先端に降り立つと威嚇の為に魂すら凍てつく様なおぞましい咆哮を上げた。
その瞬間、目を覚まさなかった学院の生徒は一人も居ない。
目撃者の衛兵曰くその瞬間、月をシルエットに赤いオーラの様な物が確かに飛竜を包んだらしく、またその真下に位置する学院長室にいたオールドオスマンは塔そのものが確かに震え上がるのを感じたという。
明確な敵意を持っての飛竜の飛翔…その結果が何をもたらしたかと言えば惨状としか言えない…上空からの砲弾の様な火炎のブレスが放たれゴーレムに着弾すると冗談の様な爆発と共に青と紫という色合いをした異界の炎が大地を焦がし尽くしたのだ。
この時点でゴーレムの肩に陣取っていたフーケは灰燼となり、ゴーレムも魔法の補助を失い崩れ去るのみとなったのだが飛竜は続けざまさらにゴーレムへと滑空し襲いかかるとその両足で容易くゴーレムを踏み砕いてしまった。
いとも容易く行われた蹂躙劇、まるでそのカーテンコールの様に飛竜は再び咆哮し大地を踏み締める…
その夜、安眠する事が出来た人間は学院には居なかった。
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時は過ぎ、あっという間に噂は風に乗ってアンリエッタの耳にも届く事になる。
尾ひれが付き腹ひれが付き、しかし本当の意味でその黒き飛竜の真の恐ろしさなど全
く伝わる事は無く…何せそれは主人であるルイズですら計る事が出来ないのだから…
学院を訪れたアンリエッタは一つの頼み事をルイズに託す…
それは即ちレコンキスタとの戦争で風前の灯火となったアルビオン王家への密書の回収。
そしてルイズは愚かにもこれを引き受けた…黒き翼があれば何処まででも飛べる。それは慢心と揺るぎなき事実。
翌朝同行者として待っていたのはかつての婚約者ワルド、ルイズとワルドは飛竜の翼を借りて一気にアルビオンのニューカッスル城へと飛んだ。
ワルドは現役の魔法衛士隊グリフォン隊の隊長を務め上げる風のスクウェアメイジ。自他共に認めるトリステイン国内におけるメイジの最高峰。
そんなワルドは乗りこなせぬ幻獣無しという自負を持っていたがルイズの飛竜だけは乗りこなす自信が全く持つ事が出来なかった。まるで乗り手を殺す為に背中の甲殻に生え揃ったとしか思えない毒針の剣山を前にすればルイズの使い魔で無ければ誰もが絶対にお断りだろう…
そんな黒き飛竜はレコンキスタが支配するアルビオンの空を大胆にも戦列艦の間をくぐり抜けて飛んだ。
大砲も龍騎士も歯牙にもかけず戦場の空を王として欲するままに支配した…
大砲など当たらぬ、届かぬ。杖を抜き、風竜火竜を駆る蛮勇の勇者は尽く切り裂き焼き尽くした。
ルイズは初めて見る戦場…否、使い魔による一方的な蹂躙の光景に泣いた…泣いて使い魔に懇願した…戦うな、逃げよと…これ以上殺さないでくれと…
果たして敵から逃げ切ったのか敵に逃げられたのか、追う者と追われる者の境界が入れ替わった時、気が付けばルイズ達はニューカッスル城で滅びの時を待つアルビオン王家に迎え入れられていた…
亡国の最後の晩餐、優雅で悲しいその時間に打ちひしがれた心のままにルイズは一人己の使い魔の元に向かう。
夜の闇より尚暗い、己の使い魔が天を仰ぎ、遠くアルビオンの空を王家から奪った敵を唯々睨む…
翌朝ルイズは最終決戦の前に礼拝堂で最後の祈りを捧げるアルビオン皇太子ウェールズから密書を受け取り筋違いな事と知りながらも申し出た。
「お望みとあらば我が使い魔の力を持ってレコンキスタの艦隊全てを焼き尽くせましょう。」
ルイズの言葉にウェールズが応えようとした瞬間だった。
「そんな事をさせる訳にはいかないよ。君の使い魔、たった一匹の力でレコンキスタは壊滅の憂き目にあうだろう。」
言ってワルドの鋭い閃光の突きがウェールズの心臓を貫く…
あっさりと崩れ落ちたウェールズ…ルイズはその時になって初めてワルドが裏切り者でレコンキスタに与していた事を悟った…
気づく事等出来はしない。何故ならここに辿り着くまでが余りに短い旅路だったのだから…
「君を討てばあの飛竜を操る者は居ない…残念だよルイズ。君があの様なモンスター等呼び出しさえしなければ!」
「ワル…ド…」
返し様、ワルドの魔法が今度はルイズに襲いかかる…絶体絶命のこの場面に颯爽と駆けつける様な英雄はこの物語には居はしない…
無慈悲な風の刃はルイズの胸をいとも容易く貫いた…口元から一筋の血が流れ落ち、その瞳から輝きが失われる。
ワルドはルイズの亡骸の血を綺麗に拭き取りその瞼を閉じさせて遺体を整えるとウェールズの密書を回収する…
苦しむ間も無くルイズの命を絶ったのはワルドなりの元婚約者の少女に与えられる最後の慈悲だった。
「ルイズ…許してくれとは言わない…」
己の外道振りに自嘲の笑いをワルドは浮かべて今度はウェールズを討った証として御印を回収しようとした…しかし次の瞬間、突然の襲撃にワルドは全力で警戒の態勢へと移った。
アルビオン脱出の為に礼拝堂の外に待機していたルイズの使い魔、黒き飛竜が礼拝堂の天井を破壊して目の前に舞い降りてきたのだ。
「まさか主人の仇を討ちに来たとでも言うのか…!?」
本来連れ添った年月の短い使い魔の多くは使い魔契約が消えれば野生に帰る者が殆どだ。
特に竜種等の気位の高い生物はその傾向が高い…それがワルドのこんな危険な賭に出た事の勝算だったのだ。
しかし、飛竜はワルドに襲いかかる事は無かった…
飛竜の取った行動は唯一つ。
ルイズの遺体を食ったのだ…
まるでその姿を焼き付けるようにしばし眺め、咀嚼は行わず、まるで飲み込むかの様に飛竜はルイズを食らう…ワルドはしばし呆然とその光景を見つめていた…
(この竜はもしやルイズを憎んでいたのか?)
そして主人を己の血肉とした飛竜は一瞬青いオーラを纏ったかと思うと咆哮と共に翼を広げてワルドの目の前から上空へと一気に飛翔して消えた。
(どうやら去った様だな…少なくともアレが次に現れた場所がどうなるか検討も付かんが最早レコンキスタにとっての驚異とはなるまい。)
そう判断したワルドであったが次の瞬間、全身を怖気が走った…
風のスクウェアだからこそより繊細に解る風の流れ。まるで悪い夢の様な大嵐、風が悲鳴をあげているかの様なそれが突然礼拝堂を包んだと思った瞬間、一気に礼拝堂の屋根とガラス、果ては外壁までもが高く黒い風と共に空へと舞上げられたのだ!!
何が起きた!?等と考える間も無く、ワルドは本能的に必至に地面にしがみつくと風の魔法で何とか自身の身体を地面に縛り付ける…
そして一瞬の凪の様な無風の後、地面に叩き付けられて砕け散る礼拝堂であった物。
凄まじい粉塵と地響きにこのままでは危険と判断したワルドが頭を起こし視界前に向けた瞬間、それは再び礼拝堂に降り立った…
神をも恐れぬと言わんばかりに唯一礼拝堂の中で原型を留めていたブリミルの聖像を踏み砕き、舞い降りたのは漆黒の飛竜。
しかしその姿はさっき見た物よりも更に禍禍しくおぞましい物へと変貌を遂げていた…
目の錯覚などでは無い、はっきり視認出来る程の全身を覆って揺らめく赤と黒のオーラ、血の様な赤だった身体の各部の爪や棘は全て燃えさかるマグマの様な脈動を浮かべ、黒一色だった翼膜までもが紅蓮に染まっている。
鋭く怪しげな牙が並ぶ口からは呼吸に合わせて常に赤い炎が漏れだし、かつて紅玉の様であった瞳は隈取の如く赤く染まり最早生物の瞳には見えなかった。
目が合った…
そう理解した瞬間、知らず知らずワルドの奥歯がカチカチと音を立てて鳴っていた。
過去に命の危険くらい何度も感じた事はあったしその全てを己の力でくぐり抜けてきた。しかし恐怖で泣いた事など一度も無かった…しかし今は身体の震えと恐怖からの涙が止まらないのだ…
目の前の飛竜は明らかに自分の知っている恐怖とは違う。希望がまるで見え無い絶対の死という絶望の具現…
ゆっくりと飛竜が片足を振り上げ…叩き付ける…それだけで地面が砕け散る…
それが唯飛竜が走り出す為の助走の第一歩だと知った時にはワルドの肉体は瓦礫の染みの一つとなっていた…
『絶望の黒龍』
突如現れ、そう呼ばれた一匹のワイバーンによってニューカッスル上空に集まっていたアルビオン艦隊はその全てが轟沈した。
ブレスの一発、羽ばたきで巻き起こされた乱流、脚部を使った滑空からの突進、それら全てがとてもでは無いが戦艦の装甲程度で耐えれる物では無かった…無論、そこにはレキシントンも含まれる。
また、打ち上げられたブレスは天に昇るとまるで罪深き者に与える裁きの雷の様に人々に降り注いだ。
逃げ去ろうと走る馬上のメイジを背後から貫く赤い爪の弾丸…流れ出た毒が肉を腐らせ骨をも溶かす。
薙ぎ払われた光線のような灼熱のブレスが撫でた大地は溶解し何も残す事は無い。
焼ける焼ける焼け落ちる…王軍もレコンキスタも関係無い。
それこそが慈悲と言わんばかりに死が降り注ぐ…
空を見上げる全ての人間に等しく黒き風を纏った嘆きが襲いかかる…地に蹲った全ての人間に大地を砕く絶望が襲いかかる…
たった半日の時間でレコンキスタ空軍とアルビオン王家は灰燼となって世界から抹消された。
憤怒と慟哭の咆哮が白の国を焼き続ける…
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ルイズが魔法学院を発ち消息を絶ってから凡そ一月が経った。
レコンキスタは神聖アルビオン共和国と名を変える事は無く、またトリステインに侵略戦争を仕掛けてくる事も無かった。
当然だ。アルビオンという国そのものがもう存在していないからだ。
「…生存者は無しですか…」
「はい、各国合同調査隊も帰還したのは一割にも満たなかったそうで御座います。報告書はこちらに…」
沈痛な表情でマザリーニから手渡された資料を読んだアンリエッタはその絶望の文字列から震えながらも目を逸らす事が出来なかった…何故ならそれは己の浅慮が招いた悲劇なのだから…
友人は帰って来なかった…果たしてアルビオンで何が起きたのか?死人に口なし。真実を知るもの語る者は一人として居はしない。
それでも確実に言えるのはルイズが生きていたならばきっとあの飛竜はもう止まっているだろうと言う事だ。
アンリエッタは声を漏らさず涙を流した。
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ハルケギニア全土でこの度とある御触れが出された。「アルビオン、取り分けニューカッスルへ立ち入る事を禁ずる」と。
ニューカッスル城跡地、其処には最早瓦礫と死しか存在しない。
曇天の空、そんな中を黒い一匹のワイバーンがゆっくりと滑空し着地する…
そこはかつては敬虔なブリミル教徒によって祈りが捧げられていた建物だった。
その身体には多くの傷が刻まれている。弓矢で射られた物、火と雷で焼かれた物、大砲で撃たれた物、風の刃で切られた物…様々だったがそれ以上の比べものにもならない大勢の血がこの一匹のワイバーンによって流された。
このワイバーンの名は後生には決して伝わる事は無かった…その伝説はただ畏怖を込めて『飛竜』とだけ伝えられる。
その伝説が生まれた年、アルビオンに春を迎えた命は無い…
『UNKNOWN』 読んで字の如く、今回呼び出されたモンスターの名称である。外見はリオレイアに酷似しており通称黒レイアとも呼ばれる。F最強モンスターは何か?という話が出た際にはまず間違いなく推薦される基地外モンスである。
ガリアもロマリアも襲撃させようかとも思いましたけど攻め込む理由も無いし私も無意味に殺したい訳じゃ無いのでやめました。