・オタ提督:某鎮守府の提督。ひょんなことから提督になった。月箱を所持している。
・球磨:オタ提督の主な秘書艦。語尾以外は意外と優秀。
・青葉:鎮守府のパパラッチ。今回の主役。たまに見せる妖怪めいた姿はイメージ映像です。
・夕張:Fateにハマってそのまま流れで月姫をプレイしようと思うも、プレイする手段が限られすぎていることを知り絶望。尚、今回は登場しない。
【某月某日、重巡洋艦青葉の報告書】
【早朝】
早朝です! 重巡洋艦青葉です! 今日も元気に鎮守府の皆さんを取材しちゃいます!
朝食前のこの時間でも鎮守府は結構騒がしいです。カメラを片手に外に出れば、太陽が姿を見せ始めた水平線をバックに一部の艦娘がランニングをしています。感心ですね。
おっと、港に人影があります。なんと一航戦の赤城さんと加賀さんではありませんか。荷物を持って、何かを始めるようです。ちょっと取材してみましょう。
「おはようございます、青葉です! お二人共、何をされているんですか?」
「釣りよ。見ればわかるでしょう」
そっけない対応をしながら釣り道具を取り出す加賀さん。手慣れた様子です。隣の赤城さんは無言で仕掛けを作っています。きっとお腹が空いているのでしょう。
「お二人で良く釣りをしているんですか?」
「食料源です。前に網を使ったら提督に禁止されたので今は地道にやっています」
提督。ナイス判断です。鎮守府近海から魚影が消滅するところでした。
「一航戦の誇り、お見せします!」
赤城さんはこちらを全く気にせず釣りを始めました。というか、隣に調理道具と七輪まで置いてあります。その場で食べるんですね。充実した朝です。
「それで、青葉さんは何か用?」
「私はお腹が空いています」
「いえ、何をしてるか気になっただけです。失礼しましたっ!」
二人共なんか殺気立ってる様子なので、青葉、離脱します!
ちなみに、大漁だったけど、全部二人で食べちゃったらしいです。
【朝食の時間】
さて、朝食の時間です。基本的に朝食は食堂で頂きます。
出撃や遠征している艦娘以外は大体集まっていますね。
おっと、あそこに見えるのは一航戦のお二人です。朝釣りだけでは飽きたらず、ここで二度目の朝食の模様。ホビットみたいですね。
朝食セットを受け取って、空いてる席に座った私の向かいに居たのは、重雷装艦の北上さんと大井さんでした。さっそく、観察してみましょう。
「はい、北上さん、あーん」
「もー、大井っち、恥ずかしいってばー」
朝から大分暑苦しい感じです。これ、大井さんはもう諦めるしとて、北上さんが満更でもない感じなのが問題ですよね。
いやあ、しかし、お二人共朝から周囲を気にしないラブい空間を作ってます。特に大井さんが上機嫌なのが大きいみたいですね。
「……青葉さん、さっきからこちらを見て、どうかしました?」
気づかれました。目の前ですから、遅いくらいですけど。
「い、いやー。今日は二人共いつにも増して仲が宜しいなと思いましてー」
「え、そう? いつもこんな感じだよね、大井っち」
「うふふ。最近北上さんの出撃が多かったから、ちょっと嬉しくてそう見えるのかもしれませんね。……だから私達の邪魔するんじゃないわよ、パパラッチが」
今約一名本音が漏れてたというか、絶対わざと聞こえるように言ってますよねこの人!
ちょ、ちょっと怖いので、御飯を手早く食べ終えて離脱することにしました。
【午前】
午前中のお仕事の時間です。今日は青葉の出撃の予定はありません。雑務と訓練をこなしつつ、他の艦娘の様子を見てみましょう。
出撃する艦隊(今日は潜水艦がオリョール海に旅立ちました。長い旅に……)と遠征艦隊を見送った青葉はそのまま港の見回りです。
入ってきた物資を運ぶ人、駆逐艦の教練をする軽巡洋艦、早朝とは違う賑やかさで活気がありますね。
のんびり歩きながら港の外れ、人気のないところまで行くと、駆逐艦の敷波ちゃんと会いました。何やら困っている様子。
「どもー、青葉です。敷波ちゃん、どうかしたんですか?」
「あ、青葉さん! 磯波を、磯波をみかけませんでしたか?」
「いえ、今日は見てませんけど。何かあったんです?」
「そ、それが、昨日、磯波が提督に挨拶したんですが、その時に「あれ? 磯波って前からうちにいたっけ」って言われたのがショックだったみたいで」
「…………」
提督。最低です。磯波ちゃんはこの鎮守府では最古参の一人ですよ。
「それは提督が悪いですね。青葉も一緒に探しますから、安心してください!」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「任せて下さい! ついでに提督のツケにして間宮さんのスイーツもごちそうしてあげます!」
「そんなことしていいんですか!」
「後で私から提督に言っておくから大丈夫です!」
「あ、ありがとうございます!」
「では、一緒に探しましょう!」
30分後、港の隅の小屋で魚介類を焼いて振る舞ってる磯波ちゃんを発見しました。たまに気晴らしでやってるらしいです。
敷波ちゃんと慰めた後、三人で間宮でパフェを食べました。精神ケアの必要経費ってことで、宜しくお願いします!
【昼食】
残念ながら、昼食時は変わったことはありませんでした。
オリョール海から帰ってきた潜水艦の皆さんが慌ただしくご飯をかきこんで、また出撃して行きました。
最近、多いですね。先週まで手違いで大和型がずっと演習に出てた影響ですか?
【午後】
午後です! 突然ですが青葉ピンチです!
特に理由もなくカメラを構えた状態でトイレの近くにいたら、たまたま古鷹さんに目撃されてしまいました。
古鷹さんったら、震え声で、
「青葉さん、ついにそこまで墜ちて……。流石に看過出来ません!」
って言った後に鬼の形相で私に襲い掛かってきました。はっきり言って今回は誤解です。前に着替え中の写真を撮ったことが相当効いてるみたいですけど。
そんなわけで、青葉は全力ダッシュ中です。
「待ちなさい! 今日という今日は許しません!」
「誤解です! 誤解ですよ!」
「じゃあ、なんで逃げるんですか!」
「捕まったら酷いことされるじゃないですか!」
「後ろ暗いことがあるからそうなるんです!」
交渉の余地無し。でも、青葉もこれまでの経験から学びました。このまま逃げ回っていると吹雪ちゃんなんかが加わって完全に包囲されちゃいます。
そのために、作戦を考えました。
とりあえず、手持ちのカメラを投げ捨てます。
「誤解ですってばー!」
「あ、ちょっと! カメラ!」
投げ捨てたのは予備のカメラです。中に入っているのは無難な写真ばかり。いえ、無難じゃない写真を撮影してるわけじゃありませんが。
古鷹さんのことだから、カメラの中身を確認(提督から頂いたデジカメです)すれば安心するでしょう。性格的に後で私に謝罪に来るかもしれません。
提督からの戴き物を投げ捨てるのに抵抗はありますが、これも生き延びる術。涙を飲んで実行しました。
「よし、追撃なし。大丈夫です」
しばらく様子見した感じ、追ってはありませんでした。青葉、久しぶりの勝利です!
と、そんな風に勝利に酔いしれていたら、珍しい光景が目の前に展開されていました。
逃げているうちに鎮守府入り口近くに来ていたのですが、そこにはいつものように荷受をしている長門さんが見えます。
そこまでは普通の光景ですが、荷物を受け取りにやって来た艦娘が意外です。
長門さんから荷物を受け取ったのは軽空母の龍驤さんに、装甲空母の大鳳さんです。
当鎮守府で一番多い荷物は提督宛、次いで夕張さんです。それ以外の艦娘はあんまり荷物を受け取りません。
これはレアケースなんじゃないでしょうか。こちらに近づいて来ますし、ちょっと取材してみましょう。
「どもー、青葉です。珍しいコンビですねー、何の荷物か聞いてもいいですか?」
「うわっ。あんたいきなり出てくるな。どっから見てたんや」
「えへへー、たまたま見かけまして。珍しいなーと」
「べ、別に大したもんやないで。なあ、大鳳はん」
「は、はい。ただの衣類ですよ。ほら」
お二人共、何やら焦りながら私に荷物を見せてきます。どうかしたんでしょうか。
「ふむふむ。確かにそう書いてありますね。私服でも買ったんですか?」
「そうそう。うちら、艤装以外の服、あんま持っとらんからな。試しに通販してみたんや」
「ほ、ほら、サイズも近いですし」
「なるほどー。確かにお二人共、身体のシルエットが似通っていますからね」
「…………」
「…………」
あれ? お二人共、突然黙りこんでしまって、どうかしたんでしょうか?
何はともあれ納得です。戦う兵器と言えど女の子。お洒落したい心はよくわかります。
「理解しました。今度、私服の写真を撮らせてくれると嬉しいです!」
「ま、まかしとき。綺麗に撮ってや」
「ちょっと恥ずかしいけど、お願いしますね」
「お任せください! それじゃ、青葉、ちょっと外の撮影に行きたいんで、失礼しますねー」
「お、おう。ほなねー」
「そ、それではー」
そそくさと荷物を持って去る二人。何か怪しいです。そして青葉、きっちり送り主の会社名を記憶したので、手持ちのスマホで軽く検索してみました。
お二人が衣類を買ったのは、矯正下着のメーカーさんでした。特に、胸回りの矯正に定評のある。
青葉、見なかったことにします!
【夜】
夜になりました。午後の演習と出撃も特別な事なし。全て順調で良いことだと思います。
青葉は今、談話室にやって来ています。
今日は重巡洋艦の高雄さん主催のアニメ上映会があるからです。
高雄さんは提督の趣味を理解するために、時々アニメを借りて談話室で見ているんですね。
最近は第六駆逐隊の子たちと一緒に鑑賞しています。
本日の作品は「魔法少女まどか☆マギカ」の第3話です。何でも提督に有名どころを貸してくれとお願いしたら、出てきたタイトルらしいです。
青葉も2話目まで一緒に見ましたが、今のところはちょっと敵のデザインが気持ち悪い以外はそれほどでもって感じですかね。
おっと、上映が始まります。駆逐艦の子たちとお茶を飲みながら、楽しく視聴ですよー!
…………。
あの、金髪の子が頭からぱっくりいっちゃったんですが……。
これ、死んで……なるほど、確かに話題性はありそうですね。
ってか、駆逐艦の子たちが涙目です。暁ちゃんとか震えて恐慌状態になってます。ちょっと刺激が強すぎたんではないでしょうか。
あ、高雄さんが顔を真っ赤にして談話室を飛び出しました。怒ってます、顔が真っ赤です、あと高雄さんも涙目でした。提督に八つ当たりしに行く気ですね、あれは。
提督、大丈夫でしょうか。
第六駆逐隊の子達には精神ケアとして間宮でスイーツを奢っておきますね。勿論、提督のツケで。青葉、お手柄です。
☆
就寝前、青葉の姿は執務室にあった。
秘書艦の球磨はおらず、室内にいるのは青葉とオタ提督(以下、提督)の二人だけである。
「青葉、今日も御苦労だった」
提督は青葉から渡された書類に目を通し、満足した様子で彼女に労いの言葉をかけた。
「任せて下さい! 青葉、頑張りました!」
「うむ。今後も宜しく頼む」
青葉は毎日、提督に鎮守府の様子をレポートとして提出している。
これは、彼女の重要な任務である。
鎮守府が大所帯になるにつれて提督一人では艦娘達の状況が把握できなくなり、苦肉の策として信頼のおける艦娘に部隊の様子を報告させるようにしたのだ。
この任務は青葉だけでなく、吹雪や鳳翔といった何人かの艦娘にも依頼されている。
今のところ、試みは概ね上手くいっていると言えた。
「しかし、あの古鷹がどうしてお前にだけは厳しい対応をするのか以前から疑問だったのだが。ようやく理由がわかったよ」
「いやー、やっぱり下着姿を撮影しちゃったのは不味かったですねー。カメラを持って近づくと、物凄い警戒されちゃいます」
「そうか。昔のことを気にしているのかと思ったんだが」
「それは大丈夫ですよ。あの古鷹さんですから」
「なら良い。ところで、その写真とやらは……」
「残念ながら、海の藻屑です」
「そうか……残念だ」
心底残念そうに提督は言った。実際、とても残念だった。
「それはそれとしてだ。青葉、一つ言っておきたい」
「何でしょう」
「以前、重巡以上に俺のツケで奢るのはやめろと言ったな」
「はい。言いつけは守ってますよ?」
「いやお前、駆逐艦を間宮に連れてった時、ちゃっかり一緒に食べてるだろ。しかも一番大量に。請求書を見ればわかるぞ。一日に何度甘味を食べるつもりだ」
「あ、いやー、せっかくですし、報酬代わりにいいかなーと」
「報酬代わりにそう安くないカメラを買ってやっているだろう」
「…………」
「…………」
静かな緊張と共に見つめ合う二人。
珍しくマジ顔な提督と、誤魔化す笑顔の青葉。
先に動いたのは青葉だった。
海上でも見せたことのないくらいの高速で、部屋の出口に向かってダッシュした。
「あ、こらっ。逃げんな!」
「青葉、離脱します! すいません! 反省はしてます!」
そう言い捨てて、青葉は部屋から消えた。
「全く……」
提督はため息を一つついてから、受話器を手に取り、内線である艦娘を呼び出した。
「古鷹か。俺だ。青葉がまた余計なことをしでかした。悪いが捕まえてくれ。夜だから川内を使っても構わん」
20分後、中破状態の青葉が執務室に連行される姿が目撃された。