マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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次の章に行けますやっと。




帰還と帰還後

 何故だか妙に長く感じた冥界への滞在も、最終日に朝まで神経衰弱をする事でやっとの終わりを向かえることが出来た。

 

 姫島朱乃と塔城小猫……それから死体みたいに寝てる誠八の後の事をソーナ達に任せ、シトリー家の誰からも惜しまれる事も無く冥界を去った一誠達は、人間界のソーナの自宅に戻るや否や、死んだ様に眠った。

 

 理由としては朝まで本当にトランプして勝手にひっついてた二人の話を聞いていたのから来る微妙な気疲れだったのかもしれない。

 とにかく三人が起きた頃には既に夕方になっており、遅すぎるおはようを三人で交わした後、安いシリアルでお腹を満たし、ソーナが帰ってくるまでの残りの夏休みをどうしようかと相談しながら、興味が無いタレントが滑稽に思える感動エピソードで勝手に泣いてる様が映るテレビをぼんやりと鑑賞していた。

 

 

「宿題が完全に免除扱いだからやることが一切無いよね、これからセンパイが帰ってくるまでどうしてる?」

 

 

 人間界へと戻ったその瞬間、それまで冥界の悪魔達から受けた傷の全てを否定し、最初から傷なんて無かった様な姿へと戻った一誠がまだ寝起きで頭が覚醒してないのか、ぼーっとした顔で同じくぼーっとしてるイリナとゼノヴィアに問い掛ける。

 

 

「その時思い付いたら何かすれば良いんじゃないの? どうせ私達が予定立てたって、その通りに動ける訳じゃないだろうし」

 

「私もイリナと同じ意見だ」

 

「あ、そう……確かにその方が良いかも」

 

 

 つまりダラダラしてれば良いという、ニート宜しくな怠惰な生活をしようぜという提案に一誠も反対する理由が無く頷くと、徐に席を立った。

 

 

「んじゃ行ってくる」

 

「へ?」

 

「何処へ?」

 

 

 そそくさと此処に住み始めてたから購入したセール品の安い服へと着替えた一誠の脈絡無しな行ってきますにキョトンとしてしまう二人。

 元々一誠は覚醒前だと卑屈で一人で焼肉屋行ってニヤニヤしながら肉を食べたりする性格―――てのは微妙に知らない二人は、ソーナも居ないのに一体何処へ行くつもりなのかと、テレビから目を離して興味津々だ。

 

 

「一緒に来る? 二人にとっては退屈かもだけど」

 

「「行く」」

 

 

 ソーナ以外に誘い言葉を放った一誠にたいして二人は即答し、いそいそと着替える。

 一体全体何処へ向かうと云うのか……それは、ある意味でソーナよりも早く打ち解けられたトモダチの所であり――

 

 

 

「おーい、ジローにコジロー達~ 居るかー?」

 

『にゃーん♪』

 

 

 お猫様の住み家であった。

 

 

「猫ね」

 

「猫だな」

 

 

 一誠についていく事数十分、誰も近寄ろうともしない廃墟へとズンズン入っていくのに慌てて追いかける二人が目にしたのは、呼んだその瞬間、びっくりするくらいの早さで一誠目掛けて飛び込んできた白い猫の親子達だった。

 

 

「おぉ、コジロー達ったら大きくなったなぁ。まだジローより小さいけど」

 

『にゃーにゃー!』

 

「あー、ごめんごめん、最近色々あってさぁ」

 

「にゃー……」

 

「あー……まぁな? ごめんごめん、忘れてたとかは無いからな拗ねるなよジロ~ うりうり~」

 

 

 

「………。会話してるわね」

「………。会話してるな……」

 

 

 基本的に殆どの生物からも嫌われる一誠が、白い猫の親子に滅茶苦茶懐かれてるどころか、どう見ていても普通に会話をしてる様に見えると言う、二人にとってはとても新鮮な姿に暫し呆然としながら眺めてる。

 

 

「あぁ、この子達はトモダチ、うん、そうそう……え? また女の子だって? おいおい、これでも一応男のトモダチだって居るんだぜ? ……………向こうはどう思ってるのかわかんないけど」

 

「にゃー……」

 

「え、他の雌の匂いがしてちょっと嫌だ? おいおいジロー……俺人間だっつーの」

 

「にゃ!」

 

「勿論ジローだってトモダチだぜ? お前だけ優しかったしなぁ」

 

 

 埃っぽい廃墟で服が汚れるというのにそれも気にせず壁を背に腰掛けて小猫――では無くて子猫達を膝に、親猫を抱っこして撫でながら話しかけてる一誠の姿はある意味で非常に珍しい。

 というかチワワにすら全力で噛み殺されそうな程に動物に嫌われてる一誠が気紛れと揶揄される猫に滅茶苦茶懐かれているのが奇跡である訳で、どれを見ても白い猫達をモフモフしてる一誠にイリナとゼノヴィアは若干遠慮がちに話し掛ける。

 

 

「イッセーくん、この猫達は一体?」

 

「野良猫なのに異様に慣れてないか? しかもお前に」

 

「おう、笑うかもしれないけど俺の数少ないトモダチ」

 

 

 よじよじとコジロー達の何匹かが身体をよじ登るのに抵抗もせず受け入れつつ、雌なのにジローと呼ばれる親猫のお腹を撫でる一誠が二人にヘラヘラした何時ものそれとは違う笑みを浮かべながら答える。

 

 

「実を言うとセンパイよりも付き合いが長いんだよね。子供産んだのは最近だけど」

 

「へー? 私も触って良いのかな?」

 

「私もモフモフしてみたい」

 

 

 どちらかと言えばモコモコしたタイプの毛並みであるジロー達にイリナとゼノヴィアがちょっと期待した眼差しをしながらソッと心地良さそうに目を閉じてるジローに手を伸ばす。

 マイナスの一誠が良いなら同じマイナス、もしくはマイナスですらないゼノヴィアが触れても普通なら何の問題も無い―――――筈なのだが。

 

 

「フシャー!!!」

 

 

 イリナとゼノヴィアが手を伸ばしたその瞬間、それまでゴロゴロと喉まで鳴らしていたジローが突如一変、全力で拒否してやると云わんばかりの威嚇と共に二人の手に割りと威力のある猫パンチをした。

 

 

「な、なによこの猫……!?」

 

「きょ、拒否されたぁ……」

 

 

 誰がテメーなんぞに触れられてやるかといわんばかりに毛を逆立て、二人を睨む様な目で一誠の腕の中で見据えるジローにイリナは微妙な敵意を、ゼノヴィアは拒否られた事による悲しさで涙目になってしまった。

 

 

「えーっと、ジローは嫌なんだって……。なんか俺が二人とトモダチなのが気に食わないみたい」

 

「気に食わない!? なんでよ!」

 

「パンチされた……ぐすん……」

 

「センパイにもあんまり心を開かないからなぁジローって。こればかりはちょっと……」

 

「あの悪魔にも? というかイッセーくんってさっきからその猫の気持ちが分かるって感じだけど……」

 

「あぁ、スキル使ってそこら辺の障害を否定したからね。俺にはジローが何を言いたいのかがわかるんだ。

折角だし、二人にもわかるようにしてあげるよ」

 

 

 そう言って猫と軽く修羅場ってるイリナとメソメソと泣いてるゼノヴィアに幻実逃否(リアリティーエスケープ)を使い、ジロー達とのコミュニケーションが取れる様に仕込んだ。

 

 

「ほらジロー? 二人に挨拶を」

 

「にゃん。(嫌よ、只でさえあの悪魔の子にイッセーが取られてるのに、その上どう見てもイッセーが好きそうな雌とこれ以上仲良くなりたいないわ)」

 

「はぁ!? 悪魔の子ってソーナの事よね!? 何でアイツが良くて私はダメなのよ!?」

 

「にゃ。(騒がしい上に、イッセーの話とか全然聞かなそうじゃないアナタ? その隣はニンゲンっぽく例えたら一々うざそう)」

 

「うざ!? わ、私は猫にまでウザいと思われる性格なのか……そっか、そっかぁ……うぇ、うぇぇん……!」

 

「お、おいおいジロー!? お前なんでそんな毒舌!?」

 

「にゃー♪(これ以上イッセーと一緒に過ごせる時間が減らされたくないの♪)」

 

「こ、こんの猫がぁぁっ!! 昨日の小うるさいチビ猫といい、白い猫の性格はこんな悪いわけ!?」

 

「「「「にゃん。(おねーさん、ちょっとうるさい)」」」」

 

「うる!? こ、子猫達まで……ぐ、ぐぬぬぬ!」

 

 

 しかしコミュニケーションが可能になった事が却って余計な修羅場を増やしてしまう事になり、イッセーの膝に乗って甘えまくりながら、どこか自慢してる様にイリナやゼノヴィアを見据えるお猫様親子に、イッセーがとにかく好きでしょうがないイリナは一発でソーナと同じ意味での敵と認定し、激しく睨み合うのだった。

 

 

「にゃふ。(あの悪魔の子に横入りされるように取られショックを知らないでしょう? これ以上横入りされるのはごめんだわ)」

 

「へへんだ! 所詮普通の猫のアンタじゃイッセーくんに本当の意味で愛されないもんね!」

 

「にゃー。(そうね。けれどもしイッセーがあの時目覚めた不思議な力を使ったら、私達とて同じ姿になれるかもよ?)」

 

「いや、色々と被るからそれはやめよーぜ。それにほら、別に俺イリナちゃんとはそんなんじゃねーし」

 

 

 猫と人がマジな意味で修羅場ってる。

 そんな不思議な光景はひぐらしの鳴き声と共に廃墟内へと融けていく。

 

 

「にゃーご。(そういえば前に私達と同じ匂いのするイッセー達と同じ姿の女の子が居たけど、あの子はどうしたのかしら? 確かに私が同じ姿になったら被りそうねぇ? まあ、あんな小さくはないけど私)」

 

「仮な話、あの後輩と同じという幻想にしたらジローって………人妻みたいな雰囲気の人になりそうだな。

けど、それはちょっとなぁ……ジロー達はそのまんま方が良いよ絶対。

ありゃ似非だもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち!」

 

「大丈夫小猫ちゃん?」

 

「ずずっ……はい。多分誰かに噂されてるんだと思いますから」

 

 

 人間界へと帰り、猫達と戯れてる一誠達と時を同じくして、冥界に残っている者達……勝手に城を抜け出してシトリー家に上がり込んだ小猫と朱乃は、覚醒と共に怨念にまみれた誠八による告げ口で、自室待機をリアスに命じられていた。

 

 つまる所、暇を相当にもて余していた。

 

「リアス部長に皆さんから書いて貰ったフォローの書状を渡したのに、あんまり意味は無かったみたいですね」

 

 

 グレモリー家の客室に留まり、同じく待機を命じられた朱乃と一緒になってお茶をしながら暢気に話す小猫。

 

 

「ええ、というよりリアスはそこまで怒ってなかったわね。あれはどちらかといったらセーヤくんが……」

 

「ええ、裏切っただのと滅茶苦茶騒いでましたね。

確かにあの人にしてみれば裏切ったも同然ですが」

 

 

 目の敵にしている一誠達の方が居心地が良いとつい宣言してしまったせいで、すっかり誠八から裏切り者扱いされ、それをリアスに精神バランスがおかしい状態で告げ口したせいでの軽い謹慎なのだが、二人の心は不思議な程に落ち着いていた。

 

 

「凄まじく居心地が良かったわね」

 

「ええ、ごろ寝しながらお菓子食べられる様な感覚というか、種族の違いなんてあの人達にしてみたら関係ないんですよきっと。

だから私達みたいな『後ろめたいもの』がある存在にとっては良い場所なんです」

 

 

 ポリポリとシトリー家からの帰り際に一誠から貰ったポッキーを二人で食べながらうんうんと頷き合う。

 心底自分達……牽いては誠八に関わりたくないといった顔をしたままだったが、確かにあのシトリー家にお邪魔していた時は、サイラオーグ達や匙達と共に、何にも考えずに遊んでたし、その時だって投げ槍っぽくも色んな意見をくれた。

 

 その中でも一番二人の印象に残ってるのは……。

 

 

「自分にある不運(マイナス)を全部受け止める……か」

 

「目を逸らして来た私達には考えもしなかった事でしたね」

 

 

 理不尽、不幸といったマイナスの全てを受け入れる。

 二人にとってはとても出来そうに無い行動だったが、彼等にそれを言われてからは何故か前向き――いや、後ろ向きに考えられる様になっていた。

 

 

「私がハーフであり、バラキエルを父に持つ事実を受け入れ……その上で否定する」

 

「SS級のはぐれ悪魔が姉である事を受け入れ、その上で逃げる」

 

 

 人も、猫妖怪も、ハーフの堕天使も皆同じ。

 一度でも心地よき体験をしてしまえば、その元を手放したくはない。

 最低で、最悪で、息をする様に周りにその不幸を撒き散らすだけの欠陥達が集い、そしてその集いに引き寄せられた不思議な集団達による一切の差別が無い空間。

 

 後ろめたい過去を持つ二人にとってはとてつもなく素晴らしき居場所。

 そこに居れば誰からも後ろ指を差されない、自らの過去を忘れられる。

 

 二人が居座りたいと思うのもある意味仕方ないのかもしれない。

 

 

「はぁ……やっとセーヤが落ち着いてくれたわ」

 

「あ、お疲れ様ですリアス部長」

 

「あの子はどうしてますか?」

 

「同じ事を言い続けて疲れたのか、アーシアと祐斗に支えられて部屋に籠っちゃったわ。

あなた達が裏切ったって」

 

「あー……まあ、そう解釈されても仕方ないので反論はできませんね」

 

「ええ、それにアナタに無断だったわけですし」

 

「それは良いわ、サイラオーグやソーナ達からの手紙も貰って、招待されたという事になってるから。

でも問題は誠八の弟君と一緒に行っちゃったというのがね……セーヤは最近特に弟君を目の敵にしてるから……」

 

 

 誠八を落ち着かせ疲れた様子で部屋にやってきたリアスに、朱乃はお茶を入れながら様子を聞くと、やはり小猫共々裏切ったと思われてるらしい。

 深くソファに座ってお茶を飲むリアスの疲労の色からしてちょっと悪かったと二人は軽く反省する。

 

 

「今度ソーナ達とゲームをする訳だし、あまりそういう行動はね……」

 

「はい、ごめんなさい」

 

「申し訳ありません」

 

「いえ別に良いのよ。元々弟君はお兄様の客人だった訳だし、そんな客人を傷つけてしまった私達に落ち度しか無いのだから」

 

 

 多くの悪魔が一誠達を嫌悪してた中、一人オロオロしていただけに、そこまで一誠を嫌悪してないリアスが苦笑いを浮かべている。

 

 

「下手に刺激だけはしないで欲しいのよ。何故か彼ってお兄様から相当大事なお客様扱いされてるし」

 

「………」

 

「………」

 

 

 魔王であり兄であるサーゼクスに生まれて初めてかもしれないレベルで激怒された事がまだ残ってるのか、リアスの表情はかなり切実だ。

 しかるに無言となる二人は既に知ってしまったのだ。

 

 

「で、そんなに居心地が良かったの? ソーナと弟君達のグループは?」

 

「ええ、とっても」

 

「何もかも忘れられますわね」

 

「そう……あのサイラオーグが一緒に居たみたいだし、何か不思議なものでも持ってるのかもしれないわね……」

 

 

 何も考えずに自分で居られそうな場所を……。




補足

地味に小猫さんと朱乃さんが自覚なしに巻き込み始めてます。

お陰で更に兄貴が一誠を憎悪する……最悪のループだぜ。

その2
卑屈で、マイナスで、最低……しかしやはり原作一誠みたいなお人好しさが根に残ってる。
だから押されるとついつい余計な手助けをしてしまい、そのせいで作らなくても良い敵が大量生産……。


その3

ジローとコジロー達が小猫ちゃん種族になったとしたら……。

まあ、ジローは完全に黒歌さん――いや、殆どの女性キャラを小娘扱いする人妻っぽい何かになるんじゃね? ならんけど。


その4
次の章の軽いダイジェスト。


やっとソーナが戻ってきた所で、一誠くんは犬みたいにちょこちょこついていく。

なんか知らないけど、釣り人おっさんスタイルで普通にやってきたサイラオーグさんが、一誠くんと匙くんに煌めく笑顔で……。

「行こうぜ、釣り!」


と、釣りの道にまで引きずり込もうとする。


学校が始まり、永久自習の一誠のクラスに小猫や朱乃が出入りし始めて誠八の精神がいよいよまずくなる。

時を同じくして、朱乃さんと小猫さんの様子が段々と沼地に沈むが如くやばくなるのをそれぞれの肉親が感知し、様子を見に行った瞬間修羅場になる。


 何やかんやあって放置されたヴァルキリーが……。


「いやこっち来ないでお兄たまの所行って貰えません?
マジでこっち来ないでください、勘弁してください」

「な、なんでですか!?」


 うっかりソーナとイリナとゼノヴィアで見てて哀れに思って三人して変に優しくしたら付きまとってきた。
 背景からしてまず地雷な方に……。


「わ、私と何となく被るんだ! わ、悪いがダメだ! 弄られキャラだけは渡さんぞ!」

「女って時点でアウトよ。最近一誠君は云われもない言い掛かりで殴られてるんだから」

「そもそもヴァルキリーですよねアナタ……?」

「だ、だって私クビに、い、行くところが無いんですよぉ!!」

「いや知らんし、あ、ほらお兄ちゃん! この女の人困ってるからアンタの上っ面だけの優しさで何とかしてやれよ! 」

「俺のどこが上っ面なんだ!! ふざけるな!」


と……なるかは不明

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