そして一誠くんがドンドンとうざくなる。
俺って手品みたいなスキル持ちだけど、ちゃんとした人間だ。
なにやらしても負ける欠陥品かもしれないけどやっぱり人間のつもりだ。
うん……そう、人間なんだよ俺は。
なのにさ、意味がわからんと思うんだよ俺は。
「サーゼクス……ルシファー……?」
事の始まりは、体調不良にさえなりそうな程の清んだ朝から始まる。
あの男と金髪シスターは居ないけど、それでも小学生の時からの生活パターンを変えるつもりが無いので、何時もの通り朝の6時前くらいに家を出てポストを覗いていくといういつも通りの行動を起こしていたのだが、そのポストの中に1枚の封筒があった。
ダイレクトメールの葉書やら朝刊新聞等とは一線を画する特徴的なその封筒の宛名に、間違いなく俺の名前が書いてあるのだが……。
「……………。いや誰だし」
俺個人に手紙が来るなんて何年も無く、それだけでも珍しいなと思う訳なのだが、それ以上に送り主の名前に身に覚えが無さすぎる。
手紙の中身からして外人かと思われるが、生憎の所俺に外人の知り合いは無いし、この手紙の内容が中々に地雷要素が満載だったりするのだ。
「えーっと……何々?『兵藤一誠様。この度上級悪魔、リアス・グレモリー並びにライザー・フェニックスによるレーティング・ゲームを行うに辺り、兵藤様には是非御観戦をして頂きたいと思い、一筆申し上げると共に招待状を同封しました』……は?」
悪魔という単語には心当たりがあり、外国人なのに日本語で書かれている手紙に書かれた名前の片方にも聞き覚えがあるので思わず顔をしかめてしまう。
「………………。いやいやいやいや、何かの間違いだろこれ」
だが、頭の中で展開され始めた考えは即打ち切る。
只の無関係な人間が悪魔のゲームとやらの観戦ってバカらしい……どうせプレイヤーのあの男と何かしらを間違えたんだろう……無い無いと勝手に自己解決させた俺は、馬鹿馬鹿しいとばかりに手紙をポケットに捩じ込みながら通学を開始する。
悪魔のゲームの内容はおおよそセンパイから聞いているが、人間でしか無い俺には無関係だし、ましてや俺はチェス派じゃなくて将棋派なんだよ……独り回し将棋のな。
だから、チェスの駒に見立てて~なゲームに魅力をまるで感じないので見ないよ俺は。
な~んて思っていた俺の予想派見事にぶっ壊される事になるなんてのは何時もの事だったと知るのは、そのレーティング・ゲームの当日の日になってからだったりする訳であるのはご愛敬だった。
今日はジローとコジローの所へ行こうかなぁとか考えながら、終えた課題プリントをファイルに閉じている時だった。
「あ、いた……。準備は出来てるみたいですね、行きますよ一誠くん」
「ん……え? お?」
スタスタと教室に入ってきたセンパイに挨拶する暇も無しに引っ張られ、何事かと聞く暇もなしに連れてこられた場所は、例の紅髪の人が部活の拠点としてるあの趣味悪すぎ部屋にいつの間にか居た。
「何事だこりゃ?」
センパイに引っ張られ、気付けば紅髪の人の部室。
警察もビックリな連行術に俺はセンパイに文句を言う事は無いけどこの場に居ることに対して当然疑問はある。
よく見てみれば10日は居なかった紅髪の人とやら白髪の人やらその他やらあの男がこっち見てるし……。
「お久しぶりね兵藤君」
「あ、どうも…………って、何すかこれ? 俺は何で此処に連れてこられてるんですかね?」
訳も分からす困惑しながらも、確かこの部屋の主で合ってる筈の紅髪の人が挨拶してくるので、それを返しながら趣旨を問う。
すると、紅髪の人や隣に居たセンパイ…………では無く、その時まで居ることにすら気付かなかった見慣れぬ銀髪の人がヌッと薄暗くて良く見えなかった部室の奥から現れるではないか。
「お初にお目に掛かります、兵藤一誠様。
私、グレモリー家でメイド長をやらせて頂いてますグレイフィアと申します……以後お見知り置きを」
「………」
礼儀正しくど丁寧な挨拶を俺の真ん前でやらかす銀髪の人は、まあ、多分美人なんだろう姿してるんだが、彼女に1nanoも興味が無いので、挨拶されてもお見知り置きしないし、仲良くなろうとも思わない。
そんな事よりも俺がなんでこんな場所に連れて来られたのかだ。
「…………。で、センパイ。俺は何で此処に?」
紅髪の人も銀髪の人も勿体付けそうな気がするし、何より彼女等とは只の他人同士でしか無い。
だからこの中で一番話が分かるセンパイに聞いてみる。
ガン無視されたと思ってるのか、銀髪の人は無表情のまんまだが紅髪の人の顔はひきつってる………………うん、いや、知らん女に話し掛けられてもアレだし俺は悪くないだろ。
「……。その様子じゃ届いた招待状と手紙の内容を把握して無さそうですね……」
「は? ……………………あぁ!」
ちょっと困り顔で言うセンパイを見て、此処に来て朝見た変な手紙の事を思い出し、ポケットに捩じ込みっぱなしだった手紙を取り出して見せると、一瞬だけ部屋の温度が下がった気がしたかと思えば、センパイ以外この場に居た者達の顔付きがしょっぱい顔になっていた。
「……………。ずいぶんとグチャグチャですが」
「え、あぁ……何かの悪戯かと思いましてね……。後で捨てようかって……」
「捨てないでください。
このお手紙は魔王様――サーゼクス・ルシファー様から一誠くんに今回行うレーティングゲームの観戦の招待状なんですから」
「えぇ、じゃあコレ兄貴宛なのを間違えて俺に……って訳じゃ無かったのね……」
「兵藤君はプレイヤーの一人であって、観戦する訳じゃないでしょう? だからこれは正真正銘一誠くん宛の招待状です」
はぁぁ……と呆れ顔になって説明してくれるセンパイに少し申し訳なくなる……勿論センパイに対して。
しかしだからこそわからんのだ……俺は人であって悪魔じゃないのに、何故悪魔の話に俺が巻き込まれてるのかが。
「あれか、人間連れてって集団リンチでもするとか?」
「しません。仮にそうだとしたら私が連れてくるとでも?」
「あぁ、そりゃ確かにね」
俺のした予想を即否定するセンパイ。
となると……………なんだろ。
「私にも意図は掴めませんが、恐らく一誠くんにどうこうするほど魔王様は暇では無いとだけは断言出来ます」
「だろうね。俺の言った事が本当だったらその人に『暇人も大変っすねー』とか言ってやれましたが……クク」
結局何がしたくてイチ人間に魔王とやらがこんなものを寄越して来たのかは知らないけど、要するに悪魔のゲームを見てくれとだけは分かったし、連れて来られたのも合点がいった。
「ご理解頂けたようですね。それでは招待状を此方に渡して戴けますでしょうか?」
理解した様に見えたのか、そのタイミングで銀髪の人が寄越せと言ってくる。
その顔は業務的なまでの無表情で、俺は何と無くこの女は苦手な気がした。
だから、俺は持っていた手紙と招待状を――
「あーっと手が滑ったー(棒)」
目の前でビリッビリに破いて捨てた。
「なっ!?」
「あーぁ、やっぱりそう来ましたか。
しょうがない人ですね一誠くんは……」
驚く紅髪の人と兄者含めたその他お供の人達と、予想してたのか呆れた顔をするセンパイ。
「……………。私には把握しかねますのでお聞きしますが、何のつもりですか?」
そして此処に来て少し目付きが変わる銀髪の人の問いに、俺は笑って口を開いた。
「俺が理由言われたら黙ってついて来るとでも? おいおい、勘弁して貰えませんかねぇ? 俺はアンタ等と違って純粋な人間だぜ? だったら魔王様だか何様だか知らん訳の分からん奴の言う事を聞く義務なんてないでしょう?」
「……………」
そうさ、俺はそのレーティングゲームになんぞ興味なんて一切無いし、悪魔でも無いのでそのTOPの言う事を聞く義理も義務も無い。
だから断る。
レーティングゲームってつまんなそうだしね。
「だ、だからって手紙を破り捨てる事は……」
俺の行動が予想外だったのか、紅髪の人がちょっと怒った様子で俺に言うので、俺はニコやかに胸張って言い返してやる。
「こうした方が『俺は絶対行かないぞー!』って意思が伝わると思ったんですよ。
ほら、現にあなた方に伝わってるっぽいじゃない」
『…………』
口よりも行動で示せっておやっさんに教えられた通りにやったまでに過ぎないのさ、だから俺は悪くない。
「このバカ野郎!!」
悪くないのに、それを言った次の瞬間、俺の身体は頬に感じる突き刺さる痛みと共に吹っ飛び壁に背中を思いっきり叩き付けられていた。
「ごほっ……っあぁ……もーれつぅ……」
「一誠……お前は何処まで……!」
それまで見てただけの兄者によってね。
ひ弱な人間が悪魔にぶん殴られてタダで済む訳が無く、背を壁に叩きつけた俺はそのままズルズルと崩れ落ちそうになるところを、兄者は無理矢理胸ぐらを掴んで俺を立たせると、何時にもなく憤怒の形相で睨み付けてくる。
「痛いなぁ『お兄ちゃん。』」
「っ……心にもない事を口にするな……!
謝れ……今すぐ皆に……!」
「はぁ? 何でさ? 俺宛に送られたものをどうしようと俺の勝手じゃないか、それをたまたまキミ達がその勝手にする過程を見ただけじゃない。
だから俺は『悪くな――」
悪くない――そう言おうとしたその瞬間、兄者がまた俺の顔を殴り、俺は床に叩き伏せられる。
ぶっちゃけなくてもかなり痛い。
「酷いなぁ……奥歯が取れたじゃないかぁ……」
しかしそれでも俺は笑顔を崩さない。
どんな殴られようが、貶されようが、陥れられようがヘラヘラ笑って見せる……それが
取れた奥歯2~3本を床に吐き出し、ガタガタとなった身体に鞭入れながらゆっくりと半笑いになって立ち上がって見せる姿に兄者は思いきり『気持ちの悪いものを見る目』となって2~3歩後退する。
それはよくよく見てみれば、金髪のシスターやら金髪の男の人やら黒髪の女の人も同様に、嫌悪感丸出しな視線を俺に送っている。
「っ……は、早く……部長に……グレイフィアさんに謝れよ!」
その筆頭である兄者は、部長=紅髪の人とグレイフィアさん=銀髪の人に謝れと訳の分からんことを言い出す。
「あーん? 謝るねぇ…………まあ、良いけど」
が、まあ……怒ってるというのなら謝らないわけにもいかないので、俺は何か唖然としとる紅髪の人と無表情に戻ってた銀髪の人にそれぞれペコペコと頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
「すいませんでした、もうしません。頬を殴られて歯ぁ折られたお陰で目が覚めました。
だからもうこんなことはしないけど、『この頬の痛みと折られた歯の恨みはそこら辺を歩く何の関係も無い誰かを使って晴らす事にしますね!』」
人間、素直に謝るのが一番だしねと自分を納得させた上での渾身の謝罪は、銀髪の人や紅髪の人にちゃんと伝わったらしく、困惑気味な表情をしながら其々……。
「いえ……結構です……」
「わかったから、取り敢えず関係ない人は巻き込んで欲しくないかなぁ……」
と言って許してくれた。
いやぁ、誤解してたよ。この人達割りと良い人だね。
「「「「……」」」」
例の4人は俺のボコボコにされた顔を見て今にもその場で吐きそうな顔になってるがな……失礼な。
「あんまり皆さんを困らせるのはそのくらいにしなさい一誠くん」
「む……何だよセンパイ……味方してくれねぇのかよ……」
「味方ですよ、間違いなくね。
ただ此処でごちゃごちゃやって時間の浪費は無駄じゃなくって? ……そういう意味です」
「むむ……へいへい、確かにそうですわ。わっかりました……大人しく帰りますよ」
言われてみりゃあ時間の無駄なのは否めないし、これ以上は飽きてきたのもある。
静かに俺を咎めたセンパイに免じてこれ以上喋るのを止めた俺は、言った通り大人しく帰ろうと皆に背を向けて扉に行こうとするが、何故かそれは叶わず銀髪の人に止められた。
「招待状は無くなりましたが、あくまで形式上の事ですので無くても問題ありません。取り敢えずその傷の治療も予て来てください」
「あれ、話聞いてました? 俺はアンタ等悪魔のゲームとやらには興味が全く無いんですけど……」
そんなもん見るくらいならジローとコジロー達をモフモフしてた方が億倍有意義だ。
従う義理も理由も無いし、そのまま体よく断り続けようと……
「私は一緒にみたいな~……」
「すいません、前々からレーティングゲームに興味がありましてねぇ。
いやぁ、こんなしょぼい人間に見る機会を与えてくれるなんて魔王様はお心が広い! あっぱれ!!」
したけど、センパイが横でボソッと言って考えが変わったので快諾した。
うん、レーティングゲームって面白そうだよね。
『…………』
「ん、なんすか?」
「…………いえ。それでは先にリアス様列びに眷属の皆様をゲーム会場に移転させますので、シトリー様と兵藤様は暫くこの場にてお待ちください……」
どいつもこいつも仕舞いには渋い顔になるのを不思議に思いながら、銀髪の人の言う通り待ってる事にした俺は、結局悪魔のゲームを見る事となった。
見てるフリして終わるまで寝てようかな。
「ごめんなさい一誠くん。
ああでも言って置かないと無理矢理連れて行かれる可能性もありましたので……」
「いや別に……後で膝枕してくださいよ。それで手打ちにしますので」
「それは勿論、喜んで……」
うん、寝るで決定だね。
補足
スキル名を変更しました。
その2
取り敢えず彼は一発殴られたら即致命傷になる虚弱体質です。
その3
そろそろ本格化しますけど、朱乃さんって微妙ながら一誠くんの過負荷に当てられて………………………。