マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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というタイトル通り、ある程度ながら、此処の一誠くんの苦手なものが一つ克服です。


まあ、そのかわりちとうざったくなりますが。


一誠くんの日常
ちょっぴり克服一誠


 …………。センパイの顔面を剥がしても気持ちにブレが無かったという事を完璧に自覚した瞬間、俺の中にある過負荷(マイナス)はほぼ完璧といえる制御を可能としたのと同時に分かった。

 殆どの生物に嫌われていたその殆どが自分のこの性格(キャラ)だったんだなと。

 しかしそれを今更知っても直す事は無い。

 だって直す必要が無いとセンパイが言っていたから。

 センパイはそんな俺のしょうもない性格(キャラ)を好きだと言ってくれたから。

 だから俺は変わらないし変えない。

 俺に過負荷を教えた、あの安心院なじみ以外で全てを知るセンパイだけにこの幻実逃否(スキル)は使わない。

 センパイの身に降り掛かる嫌な現実は俺がその手を無理矢理取って逃げてやる。

 それが俺の生きる意味だ。

 その為なら他なぞ……今まで無駄に敵愾心を抱いていた兄と名乗るあの男も最早どうでも良い。

 奴が何者で何処から来て、何で兄と自称しても周りから疑問に思われず生きてこれたのかも考える必要も無い。

 そんな身元不明(ジョン・ドゥ)よりセンパイと一緒に居る方が余程有意義だ。

 

 

「俺のクラスの人達の半分が学校を辞めちまったみたいんですよ」

 

「そのようですね。何でもその内の殆どが突然精神を病んだとか」

 

「てっきり集団食中毒かと思ってたんですがねぇ」

 

 

 センパイが好きだったんだと知ってから早いもので数日が経った。

 俺の所属するクラスの生徒の過半数が謎の精神病で学園を去っていった事以外は何も変わらずで、ただただ穏やかな日々をセンパイと一緒に過ごしていた。

 のどかな陽気の屋上でこうして話をするのも、センパイに対する気持ちを完全に自覚したあの日を境にとても気分の良いものへとなっている。

 なんていうの? 安らぐって奴かな? 自分と同じ者が居るというだけで感じるあの安心感って奴を俺は感じているんだよね。

 

 

「あ、そういや忘れてた。兄貴が女を家に連れてきたんすよ。金髪で、どこぞの教会か何かに居そうな外人のシスターみたいな女の子」

 

「ああ、確かリアスの新しい眷属になった方ですね。

確か僧侶……だったかしら」

 

 

 ぽかぽかする気分のまま、昨日あった事をふと思い出した俺の話に、センパイはある程度事情を知ってる様子で返してくれる。

 どうやらあのシスターさんは紅髪の人が新しく眷属にした人らしい。

 

 

「へぇ、教会ってカミサマ奉る人間の集団って聞いたのに、それが悪魔ってかなり皮肉効いてますね」

 

「どんな経緯があって転生したのかは詳しく知りませんが、まあそうですね」

 

 

 俺からすればあの金髪のシスターがとうなろうが知ったことでは無いし、昨日の様子からして悪魔になっても自殺する様子も無い。

 寧ろあの男と一緒に居るのが嬉しそうに見えた所を考えれば、気にする必要が皆無だろう。

 

 

「その金髪のシスターも俺を見た瞬間、ものっそい怯えたりしたんですけどね」

 

「何故? 何処かで会ったとか?」

 

「いや、初対面っすね。

まあ、嫌われるのには慣れっこですから全く気にしちゃいませんよ。

両親もその金髪のシスターをお気に入りみたいですし」

 

 

 聞けばあの金髪シスターは家に住むとか何とか。

 あの男はどうも俺が居るからという理由だか何だか知らないけど乗り気じゃあ無さそうだったが、両親はめちゃめちゃ乗り気だったので多分住むんだろう。

 部屋なら確か余ってたし。

 

 

「そうなんですか。

一誠くんは反対しなかったのですか?」

 

「え、しませんよそんなもん。

意見を聞いてくれるとは思えないし、そもそもどうでも良いですもん」

 

「はぁ……」

 

「どうせ中学卒業したら出てく予定だった所でしたしね。我が儘言って避けて来た両親にこれ以上迷惑掛けたかありませんから」

 

 

 この事に関しては割りと本音だ。

 あの日から両親を信じられずに避けて来といて、今更家の方針に口出しする程俺も馬鹿なつもりも図々しくもない。

 だから何にも言わない。

 例え両親が犯罪の隠蔽を強要して来ても俺は従うつもりだ。少なくとも高校を卒業するまではね。

 

 

「それなら仕方ないですね。

同年代の女の人と一つ屋根の下というのは少し不健全な匂いがしますけど……」

 

「えぇ~? 不健全な事なんて俺にあると思います? あってあの兄貴にでしょうよ。あはははは」

 

 

 ちょっとジト目なセンパイに俺は思わず笑ってしまう。

 不健全という意味も何と無く分かるが、初見で思いっきり『ひいっ!?』とか悲鳴あげられた人とそんな事になる訳がない。

 断言出来るくらいに何も無いと胸張れる。

 大体、俺もあの子も互いにどうでも良い相手だし、何がどうしてウチに来たかとか、知りたいとも思わない。

 何かやむにやまれない事情とやらがあったとしても、俺には関係の無い話なのだからね。

 

 

「なら良いですけど……。

どうも最近は一誠くんの近くに誰か居るだけでモヤモヤします……」

 

「おいおい……」

 

 

 俺と同じが故なのかは知らないけど、考え方が俺に似てるセンパイに思わず苦笑い。

 俺が他の人と居るのを見るのが嫌らしいのだが、そりゃ俺もであるのだ。

 まあ、こんな世界で生きる上では嫌でも人と関わらなくてはならんから我慢はするけど、それでもベタベタと誰かにセンパイが触られてるのを見ると殺意が沸くのは否定しない……………って、俺はいつの間にかセンパイに対して気色の悪い執着心を抱いてしまってるんだよなぁ。

 いやぁ、恋とは末恐ろしいぜ。

 

 

「まあ、大丈夫ですって。

俺の性格知ってるセンパイなら、単なる他人に変な真似はしないって分かるでしょう?」

 

「…………まあ」

 

 

 腑に落ちなさそうな顔をしつつも、一応はといった様子で頷いてくれるセンパイに少しほっとする。

 少なくともあの金髪シスターの顔面を剥がして確かめたいとかいう気分にはならんし、本当にそこの所は大丈夫なんだけどねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 少女は運が良いのか悪いのか……よく解らない人生を只今送っていた。

 神に遣える者として一生懸命生きたつもりが、どんな存在でも治せてしまう力を持つがゆえに恐れられ、疎んじられた結果、ある堕天使の末端みたいな者達に利用されて一度完全に命を落とした。

 そんな短い人生だった少女自身、これも神からの試練だと思って受け入れていた。

 故に利用されて死んでしまっても致し方ない。

 本音を言えばトモダチが欲しかったけど、それすら許されないのなら仕方ない…………そう思っていた。

 悪魔となったあの少年と出会うまで。

 

 

「セーヤさん!」

 

「おう、アーシア。やっぱし制服似合ってるな」

 

「えへへ……ありがとうございます」

 

 

 結論から言うと、少女――アーシア・アルジェントは今を生きていた。

 自身がセーヤと呼び慕う少年・兵藤誠八に救われるという形で失った命を悪魔としていう形で取り戻して。

 神に遣える存在でありながら、悪魔に身を堕としてしまった訳だが、最早少女には悪魔として生きる道しか残されてなかったのと、誠八という初めてのトモダチが出来たという事が重なり、アーシアは割りと楽に受け入れた。

 

 

「学校にまで通わせて頂いて、本当にありがとうございます!」

 

「お礼ならリアス部長に言いなよ。

俺は大した事はしてないし」

 

「でも、セーヤさんとお友だちになれたから私……」

 

「はは……何かむず痒いな……」

 

 

 そして、元々帰る場所も無かったので、誠八の家に居候する事になったアーシアだが、此処で初めて誠八に双子の弟が居る事を知った。

 

 どんな人なのだろう。

 誠八みたいな人なのだろうか……。

 

 何処か苦々しげに双子の弟が居ると言った誠八の横で一人想像していたアーシアだったが、会ってみて最初に抱いたのは――――

 

 

「んじゃセンパイ。今日もまた『放課後にでも』」

 

「ええ、例の様にまたフラフラと先に帰らないでくださいね?」

 

「わーってますって」

 

 

 まだ昼休みの終わりだというのにガラリとした……いや、アーシアと誠八しか居ない教室の外から聞こえる男女の声に、それまでのほほんとした空気で会話をしていた二人の表情が強張る。

 それは、聞こえた声が知った声であり、二人にとっては無条件で警戒心を抱いてしまう声であったからだ。

 

 

「んっんー♪」

 

 

 ガラッと教室のドアが開かれ、アーシアと誠八は自然と強張った顔付きのままその場所に視線を向けてしまう。

 開けられた扉の前に居る……誠八とそっくりな少年に。

 

 

「ぅ……」

 

 

 姿形は誠八とそっくりで、本来なら仲良く出来る相手である筈だ。

 先日初めて見た時と比べて、明らかに機嫌良さそうに鼻唄歌ってる姿を見ても思わない筈だ。

 けれどアーシアの身体は、本人の意思を嘲笑うかの様にカタカタと小さく震えていた……。

 目の前の、一誠という少年を無条件で拒絶するかの様に……。

 

 

「さてと、5時間目はまた自習かな。

いい加減早くまともな授業もしたいねぇ……」

 

「「………」」

 

 

 誰に対してでもなく、独り呟きながら机から出した課題のプリントに取り組み始めるその姿の何処にも、間違いは無い筈だ。

 というか寧ろ不自然な程の学生っぷりとも言える訳で、本来ならどうにも思わない筈だ。

 だというのに、アーシアの身体は拒絶反応の如く震え、誠八も先日以降から更に変わった――いや、退行した様にしか見えない弟を険しい顔付きで見つめていた。

 

 

「ぅ……うぅ……!」

 

(アーシアが怯えている……。

くっ……だから俺はアーシアを居候させる事に反対したんだ……それを部長が……)

 

 

 寒さに耐えるかの様に自分の身体を縮こませるアーシアを見て、誠八は後悔していた。

 アーシアをあの堕天使集団から救い、悪魔に転生させてしまった事に対しても負い目があったが、アーシア自身が誠八と一緒に居たいと許してくれたから少しはその負い目も無くなっていたのに……リアスが誠八に自身の家に居候させてあげなさいと言ったもんだから……。

 

 

「(甘かった。

アーシアみたいな子ならと思っていたが……やっぱり一誠は危険だ……あらゆる意味で)アーシア……大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です……。

何もしてないのに、私が勝手に怯えてるだけですから……」

 

 

 一誠の持つナニかを本能的に感じて、すっかり怯えてしまったアーシアを案じて優しく語り掛ける誠八にアーシアは健気にも微笑んで見せる。

 普通なら今の一誠を見ただけで心が折れてしまう。

 それは今ガラリと自分とアーシアと一誠しか居ない教室を見れば分かる。

 既にこのクラスの大半は一誠の持つナニかに当てられて精神を病んで学園を辞めたか不登校となっている。

 それを考えれば、怯えてはいるが一誠の姿を直視出来ているアーシアの心は強い部類だ。

 けど、それも何時まで持つかは解らない。

 居候をさせているという事はこの場でも家でも、嫌でもアーシアと一誠は顔を合わせる事になる。

 ともなれば、何時かは完全に心を折られ、精神病んでしまうかもしれない……誠八はそれを危惧していたのだ。

 

 

(部長と小猫ちゃんはアイツを見てもまるで動じて無かったが、木場や朱乃先輩……そしてアーシアは明らかに嫌悪をしている。

一体何が違うのかは解らないが、このままだとコイツのせいでこの学園の人間の心が折れてしまうかもしれない……)

 

 

 こんな事なら中卒で家を出ていこうとした一誠を止めるべきでは無かったと、誠八は心の底から後悔していた。

 あの時点ではまだ一誠は単なる卑屈なだけの奴だったのに、今はどうだ。

 本人は無意識かもしれないが、対面する人間の殆んどが一誠に明確な嫌悪感を示している。

 そこまでに至るまで一体何があったのかは誠八の知るところでは無い。

 しかし、一つだけ思い当たる所を挙げるならば……一誠が恐らく一番に仲が良い相手であるあの人物。

 

 

(ソーナ・シトリー……あの人と一緒に居始めた頃から、一誠は劇的に退行した気がする。

それは彼女がそうさせたのか……それとも元々一誠がこんな性格だったのを隠さなくなったからなのかは知らないけど……)

 

 

 先程も教室の扉の向こうで別れていた少女。

 自身の主であるリアス・グレモリーと同じく、悪魔を正体とする存在であるソーナ・シトリーとの出会いが一誠を更にマイナスへと堕としたと考える誠八。

 その考えは強ち間違いでも無いのかもしれない。

 けれど、最早ソーナと一誠は誠八の思っている仲を遥かに凌駕する……普通の感性ならまず吐き気のするような関係まで深まっている事を知らない。

 

 

「セ、セーヤさん……ごめんなさい。

その、私……」

 

「いや、良いんだ。

アーシアは何も間違ってない。アイツを見て何も思わない方が異常なんだよ」

 

 

 ソーナ・シトリーとかな。

 双子の弟に対して怯えている自分を恥じて謝ろうとするアーシアを元気付けながら、誠八はペンをクルクル回してプリントの問題に取り組む一誠を睨む。

 リアスと小猫には一誠のキャラを予め教えていたからあの態度だったのだろう……それを考えると只出会っただけに過ぎないソーナがああまで一誠を気に入っているとすると、もしかしたらと誠八は思ってしまう。

 

 

(一誠に塗り潰されたのか、それとも前に俺に言ってた通り、元々そういう所があったのか……。どちらにしても――)

 

 

 一誠とソーナの関連性についてあれこれと考える誠八。

 しかしその思考は停止する。

 他ならぬ、一誠によってだ。

 

 

「あのさ、さっきからこっちをジロジロと見るその理由は何なの? 俺、何か悪いことしてるか?」

 

「っ!?」

 

 

 気付けば、プリントに向けられていた一誠の視線が自分とアーシアに向けられており、その表情はジロジロと見られていた事に対して不満げであった。

 この一誠の言い方にも誠八を困惑させる要因の一つでもあった。

 

 以前の……それこそ少し前の一誠ならこんなラフに話し掛けて来る事なんて無かった。

 無視をするか、殺意の籠った目で睨まれるかのどちらかで、こんな風に話をするなんてのは無かった。

 それがどうだ……今の一誠は人が変わった様に不機嫌そうではあっても殺意が全く無い雰囲気で自分に話し掛けてくる。

 誠八はただただ困惑するだけだった。

 

 

「ていうかキミ等は自習の課題はどうしたんだい?

あぁ、金髪のキミは転入したばかりだから無いのかな?」

 

「あ……いや……その……」

 

「っ……ああ、そうだ。アーシアは転入したばかりで課題は無い。それと俺はもう朝に全部終わらせた……」

 

 

 まさかこうして弟とまともな会話(?)をする日が来るとは……。

 隠せないままの動揺を見せながら返す誠八と上手く喋れないアーシアの二人に、一誠は興味なさげに『ふーん』とだけ言うと、再びプリントに視線を戻しながら口を開く。

 

 

「流石、優秀な『お兄ちゃんだぜ。』どう足掻いても敵わねぇや」

 

「………………」

 

 

 皮肉のつもりなのか、それとも本当にそう思っているのか分かりづらい声でそう一言だけ言ってカリカリとペンを走らせる一誠に、誠八の顔は大きく歪んだ。

 これまで兄とすら呼ばれた事が無かったが故に、今こうして呼ばれた事に対する、巨大なまでの嫌悪感に。

 

 

「う……う、ご、ごめんなさい……」

 

「は? 何でキミが謝るんだ? あぁ、俺を気持ち悪いとか思っちゃった事に対してか?

なら別に謝る必要は無いぞ、どうにも昔から俺は嫌われ体質でね。

だから、そんな事を初対面で言われてる事に慣れてたりするんだ。

大丈夫気にしなくても問題ないし、『キミは全く悪く無いぜ?』」

 

 

 人見知りが激しい筈なのに、震えながらそれでも謝ろうとするアーシアに対して、貼り付けた笑みを浮かべて悪くないとまで宣うその姿に吐き気すら覚える。

 

 

「ち、違います! わ、私は……!」

 

「おいやめろ! アーシアをこれ以上っ……!」

 

「はぁ? おいおい、何を言ってるんだ? 俺はただこの金髪の女の子が謝るから気にするなって言っただけだろ? ん、今のが暴言にでも聞こえたのか? 聞こえないだろ? ほら……だから『俺は悪くない。』」

 

 

 これ以上アーシアに何か吹き込まれない様にと庇う誠八に一誠は真顔で自分は悪くないと宣う。

 それは確かにそうかもしれないし、現に一誠はアーシアに何にもしちゃ居ない。

 けれど……一誠の吐く言葉と形容しがたいドロドロした雰囲気のせいで全て台無しとなっていたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 




補足


考えた結果、この一誠とアーシアが出会う理由が一切無く、前回ソーナさんの顔面を剥がしてから数日の間に事件は兄者と仲間達によって解決しました。

で、その間の一誠は逆にソーナさんに頼んで顔面を剥がして貰ってたりしてます。

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