なんか恥ずかしいです。
「やはり来てくれましたか」
昨日のカフェに入ると既に男ーーー中田幸木が座って待っていた。流石は社会人といったところだろう、彼は人を待たせるより、待つ側の人間なのかもしれない。
「昨日の話を聞きに来てくれて嬉しいですよ」
「まぁ・・・・話だけなら・・・」
『そう、話を聞くだけ』と照れ隠しをしつつ、向かい合うようにして座ると、中田は持ってきた鞄から昨日より詳しい資料が記載されている書類を机の上に広げる。
「まず、オーディションが受かり、訓練生となった場合のスケジュールなのですが、平日は2時間、休日と祝日は3時間近くの練習をーーーー」
そう丁寧に説明する中田を簪は聞き流しながら、1人乙女の妄想に更けていた。
もし、瑠奈と同じアイドルになり、同じ事務所に所属することになったら・・・・・
事務所にて
『え!嘘、なんで簪がここにいるの!?」
『わ、私、瑠奈と同じアイドルになったんだ・・・・』
『すごいよ簪!君と一緒にステージで踊れるだなんて!!これから一緒に頑張っていこう』
『うん!』
練習後
『はあ・・・・はあ、あー疲れた・・・』
『瑠奈・・・これ・・・飲み物・・・・』
『ありがとう簪、気が利くね。ごく・・・ごく・・・・あー生き返る。ほら、簪もどう?」
そういい、飲んでいたペットボトルを突き出してくる。
『え・・・でも・・こ、これってか、か、間接・・・・』
『ほら、照れるなよ。アーン』
優しく、丁寧に飲み口を簪の唇に当て、飲ませてあげる瑠奈。
『んん・・・・あ。ありがとう・・・・うぅぅ・・・か、間接キスしちゃった・・・・・』
『ん、簪何か言った?」
『な、何でもない・・・・・えへへへ・・・・・』
ファーストライブ前にて
『うう・・・・緊張する・・・』
『大丈夫!ほら大きく深呼吸して、すーはーすーはー。どう、落ち着いた?』
『う、ううん・・・・まだ緊張する・・・・』
『まだダメか・・・・・だったらーーーーー』
『ひゃん!!』
突然、覆いかぶさるような形で簪に抱き付く。
『る、瑠奈?』
『こうしておけば人間は落ち着くんだよ。いいからもう少しこのままで・・・・』
『瑠奈・・・・ありがとう・・・・・』
コンサートライブ前にて
『やばい・・・・緊張する・・・・』
『瑠奈、しっかりして』
『ごめん簪・・・・まさかコンサートライブまでいけると思ってなかったからまだ現実味がないっていうか、信じられないっていうか・・・・こんな頼りないのがメンバーでごめんね』
『瑠奈・・・・あ、そうだ・・・』
『うわ、簪!』
ファーストライブの時に瑠奈が抱きしめてくれたように、簪が瑠奈に覆いかぶさるようにして抱きしめる。
『あの・・・・緊張が解けるまで・・・・・その・・・・・このままでいいから・・・・』
『・・・・・・・簪』
『なに・・・?』
『このコンサートライブが成功に終わったら君に伝えたいことがある。そのときは聞いてくれるかな?』
『うん、必ず聞くから今はライブに集中して』
『はは・・・・言うようになったなぁ・・・』
次の日の朝刊
『電撃!!あの人気アイドル、インフィニット・アイドル事務所の超人気アイドル更識簪と小倉瑠奈、衝撃の交際宣言。そして意外なことにもこの2人はあのIS学園のルームメイト同士であったことが判明』
「えへへへ・・・・・」
「---さん・・・・---さん!!」
「え・・・・」
「更識さん!?」
「えっ!!・・・えっ・・・・」
「ちゃんと私の話を聞いていますか!?」
目の前の男ーーー中田幸木の声によって簪の白昼夢世界から強制送還される。現実に戻されたことによって、今の自分の状況を認識し始めていく。
「以上で説明を終わります。ご理解できたのならこの契約書にサインと印鑑を」
「え、あ、はい!」
さっきまで意味の分からない妄想をしていた自分が恥ずかしくなり、誤魔化すように急いでサインと印鑑を押す。
中田幸木は契約書を確認すると
「では、次回はオーディション会場にご案内いたします。そこでは自己アピールの試験も行いますので、スピーチ内容を考えていてください」
「え、もうですか?いくらなんでも急すぎるんじゃ・・・・」
「いつもなら数回の面接を挟むのですが、勝手ながらあなたは私の一押しの方なので、一刻も早く上司にあなたを見せたいのです。それとも、指定の日は何か用事などがあったのですか?」
「い、いえ!大丈夫です!そっか・・・・一押し・・・・えへへへ・・・・」」
つまり自分が期待されているということなのだろう。
いよいよアイドルになるという話が軌道にのってきた。この調子だと瑠奈と並んでステージで踊る日も遠くないのかもしれない。そう思うだけで頬が緩んでくる。
「それでは次回の指定の場所に遅れないようにお願いします」
そう簪に営業スマイルを出すと契約書を鞄に仕舞い、カフェ代を机の上に置いて店を出ていった。心臓の鼓動が聞こえてくるのではないのかと思いほどに簪は高ぶっていた。
「もうすぐ・・・・だよね・・・・」
そうつぶやくと、目の前に置いてあるオレンジジュースのストローに口を付けた。
「うぐっ!!」
とある路地裏で苦しそうな男の声が響く。
「何度も言っているだろう、こちらが求めているのはテロ組織などの情報ではなく誘拐組織の詳細だ」
目の前で男の首を右腕で締め付けている背の低い男性らしき人間が機嫌悪そうに物言う。身長ではこちらが勝っているはずなのに目の前の男は抵抗ができないほどの大きな力で首を絞めつける。
「しる・・・かよ・・・・。どうしても・・・・知りたかったら・・・・警察に・・・ぐぐぅ・・・言えよ・・・・」
「それでは意味がないんだよ・・・・ちっ」
軽く舌打ちすると右腕を大きく右に振って男を投げ飛ばす。
ここ数日組織を調べまわっていたが、目新しい情報を手に入れることができなかった。なかなか尻尾を掴ませない狡猾な組織だ。やはり、このまま調べまわるのではなく潜入捜査のほうが確実で速いだろう。
正直これだけはやりたくなかったが、これ以上被害者を出すわけにはいかない。はぁ・・・・とため息をつくと携帯を取り出し
「千冬か・・・・・すまないが用意してもらいたいものがある」
急ぎ歩きで路地裏を走っていった。
ーーーー
数日後、簪はバスに揺られて中田の言っていたオーディション会場に移動していた。周りの座席にも簪と同じぐらいの少女たちが座って雑談をかわしている。
どうやら彼女たちにとっては楽観的な様子だが、簪は試験前の緊張感が心を包んでいた。
ここでダメだったら四六時中考えていたスピーチ内容や鏡に向かいながらしたウォーキング練習などがすべて水の泡になってしまう。
本音にも付き合ってもらったのだ、何としても勝利報告をしたい。
『まもなく、会場に到着いたします。完全に停車するまでシートベルトを外さないでください』
バスのアナウンスが流れ、会場の駐車場にバスが停車する。
(大丈夫、大丈夫、あれだけ練習したんだから・・・・)
自分を誤魔化すように内心思いつつ、バスを降りて案内についていくと体育館ほどの広さの建物の中に入っていった。
「ここでオーディションで使う衣装の採寸と顔写真を撮影します。顔写真を先に撮影する組と採寸する組に分かれてください。なお、両方が終わったのならオーディション会場に移動します」
説明を受けてぞろぞろと移動し始める。簪は先に顔写真を撮影する組に区分された。天井から降ろされた大きなカーテンを境に撮影組と採寸組に仕切られる。
「ではこちらへどうぞ」
案内についていくと、写真を取るためのカメラが設置されてある場所へたどり着いた。
『いよいよだ』と自分で気合いをいれるとカメラの前に立ち、撮影される。
「では撮影が終えた方はこちらへ来てください」
撮影が終了してからしばらく経ち、採寸する組も終わり、交代となるのだが、なぜか採寸組の少女たちの顔が赤くなっている。
なぜかという疑問はすぐに解消された。
「それではこれより採寸に移ります。みなさんは服を脱いで採寸を受けてください。あ、下着も外してくださいね」
『下着も脱ぐ』というとんでもない言葉にざわざわと騒がしくなる。今は真夏で寒いというわけではないが、建物内とはいえ、外で全裸になるのだ、抵抗がないはずがない。
「え・・・それはちょっと・・・・・」
「ここで・・・・?」
「下着も外さなきゃいけないの?」
ほかの少女たちも抵抗があるらしく、ざわざわと騒ぎ出すが
「ほらほら!!さっさと脱ぐ!!嫌ならここで帰ってもいいんだぞ!」
前に立っていた採寸係と思われる女性がそう大きな声で叫びと観念したらしく、各々服を脱いで目の前の籠にいれていく。
当然ながら簪にもとんでもないほどの羞恥心に襲われていたが、『周囲がやっている』という集団心理が働き、しょうがなく、服を脱ぎ始める。
「それではこちらへ来てください」
全員が下着を抜き取り、全裸になったことを確認すると、少女たちをカーテンで仕切られた空間に案内した。そこには何やらボードを持った係員の女性が大勢立っていた。
「これからISスーツの採寸を行います。細かい採寸まで行いますので多少身体を弄らせてもらいますが、狼狽えることなく、じっとしていてください」
メジャーを持ち、案内人は簪の背後に立つ。簪もIS学園に入学するときにISスーツの採寸をしたが、さすがに全裸ではなく下着を身に着けた状態だった。何かがおかしい、頭の中に小さくはない疑問が浮かぶがその疑問はすぐに吹き飛ぶことになる。
「きゃっ!!」
背後で採寸をしていた係員が簪の胸の突起をつまみ上げたからだ。突然の知らない感覚とむずがゆい快楽に口から悲鳴のような声がでてしまう。
「あ、あの・・・・こ、これは・・・・?」
「ISスーツの採寸をしていますので、あなたは静かに動かないでいてください」
「で、でもこれは・・・・」
「もう一度言います。静かにしていてください」
無感情で圧力を感じさせる言葉に気弱な簪は黙り込んでしまう。不安になっている簪を尻目に、背後に立つ案内人の手つきはさらにエスカレートしていく。
小さな胸を揉んだり、持ち上げて揺れる胸部をいやらしい目で凝視している。下腹部を人差し指で撫でたり、健康的な肉付きの太もものを摩ったり、マッサージのように両手でもみ込んでいく。
「んんっ・・・・・っあ・・・・んく・・・・」
気恥ずかしい声を漏らしながら、少し変わった検査だと思っていたがこれではまるで簪の身体を吟味や品定めしているようだ。他人に自分の命運を決められているような恐怖と与えられる快楽を、必死に口を噤んで耐えていたが
「っ~~~~!!んんっ!!」
次の瞬間、その噤んでいた口から悲鳴が飛び出しそうになるほどの羞恥が簪を襲う。
主に上半身を採寸していた案内人の手が下に移動し、プリッとしたお尻をわしづかみする。それだけならまだしも、さらに両手でそのお尻の谷間を割り開いたからだ。
誰にも見せたことがない禁断の部分を、なぜか人に見せている。
「や、やめて・・・・く、ください・・・・・」
消えてしまいそうな声で必死に頼み込むが、まるで相手にしていないかのように、無視して『採寸』を続ける。
禁断の秘所に指を挿し込ませかけたり、周囲の溢れる粘膜を指先に濡らし、爪で秘部を優しく掻くなど、行為はどんどんエスカレートしていく。
「ふ~~」
「んぐっ!」
声を抑えて耐えている簪を責めるように、背後にいる係員が割り開いている菊の園に息を吹きかけてきた。いくら相手が女性だとしてもとてつもない羞恥心が襲ってくる。
周りの少女たちも全く同じ体験をしているらしく、熱っぽい息や抑えきれていない声が聞こえている。自分のされている行為はわかっているはずなのに、誰も異議や抵抗することなくされるがままの状態だ。
そんな異常と思える空間にもついに終わりを迎える。
「はい、それでは採寸を終わりにします。みなさんは衣服を着用し、私についてきてください」
ボードを持った別の案内人が入って、そう告げると簪を初めとする少女たちの身体を弄んでいた係員たちは離れ、部屋をでていった。
「ひんっ・・・」
その時、簪の『採寸』をしていた係員の女性が、簪のお尻から溢れている粘膜をグチュッと音を立てて、人差し指にこすり付けて指に尻部の粘膜を付着させる。そのまま、その指を銜えて味わうように舌を這わせると、簪の裸体を舐めまわすかのように、濁った笑みを向けて
「あの子は・・・・私がもらうわよ・・・・・」
誰にも聞こえないほどの音量で呟いた。
ーーーー
その後、簪たちはさっきとは違う建物の中に案内された。
やはり、一大プロジェクトなのだからだろうか。かなりの手間がかかっている。
「では、先ほどお配りした番号札を胸につけてください」
手元には、少し前に配られた番号札がある。
先程は不可解な採寸があり、困惑していたが、今の簪はすごく晴れ晴れとした気分だった。先ほど、簪を含めた数人の少女に係員の女性に『あなたを雇いたいと言っている会社の人間がいる』と告げられたからだ。
つまり、自分はこの審査に合格したということだ。その証拠としてさっきまでいたライバルたちは、ほとんど帰らされている。
「番号札を付けた方は、その番号の部屋に入ってください。そこにあなたたちのこれからの説明をするわたくしたちの代表者がいます」
今いる通路には学園の寮のように、たくさんの個室が並んでいる。その中に自分たちの将来を告げる人間がいると思うと、今にも飛び込みたい衝動に襲われるが、ぐっとこらえる。
出来るだけ落ち着いて、大人っぽく。それを心の中で暗唱しつつ、中にはいると
「どうも、初めまして」
「あ、あなたは・・・・」
室内は1つの机は設置されており、2つの椅子が挟むように置かれているシンプルな部屋だ。
それよりも気になったのは、そこに座っていた女性だ。代表者と思われるその女性は、採寸のとき簪の身体をいじくりまわした係員だった。
だが、さっきまでその女性はスーツを着ていたのに対し、今は全身が赤の豪華なドレスを着ている。まるでどこかの富豪のようだ。
「どうぞ、座ってください」
「は、はい・・・」
先程の出来事が出来事なだけに、奇妙な気恥ずかしさを感じるが、気分を切り替えて、椅子に座る。
しかし、簪が座ったといのに、女性は何もせず、簪の身体を凝視している。
「あの・・・・どうしたんですか?」
「ああ、ごめんなさい。さっき見たあなたの身体がとても綺麗だったからね、見とれちゃったのよ」
「っ!・・・・その・・・・ありがとうございます」
「その身体がもうすぐで私の物になるなんて、本当に・・・・・いい買い物をしたわ・・・・」
簪に聞こえない音量でそうつぶやき、唇をペロリと舐める。それはまるで餌を前にして焦らされる肉食動物のようだ。
「それでは、あなたの
女性は足元にあった高そうな鞄を手に取り、数枚の書類を取り出した。簪はてっきり、雇用届かなにかと思っていたが、その書類には簪の細かい身体データに加え、個人情報が載っていた。
「ああ、あとこれ」
追加で差し出された書類には、簪の顔写真が付いた商品カタログのようなのページのコピー。それと、領収書だ。何百万の小切手によって支払われた領収書。
「あの・・・・これは・・・・?」
「わからないの?あなたは私に買われたの、この値段でね」
領収書を突きつけて、無知な子供に向けるかのような、憐れみと同情が含まれている残酷な笑みを簪に向ける。しかし、憐れみがあると言っても自分が買主であることに対する罪悪感は片鱗も感じられない。
「さっきの採寸の時間は、私たち買主の商品の品定めの時間だったのよ。あのとき、私はあなたを見つけてね、直感で買おうって思っちゃったわ。これでも衝動買いを抑えようと努力はしているつもりなんだけどね」
ふふふっと反省するかのような笑いを浮かべるが、簪には現実味を感じられない。
自分が買われた? この人に買われた? そんなのあり得ない だが、この領収書は偽物とは思えないほど緻密によくできている。
「なにより、あなたのあのお尻はいいわよね。瑞々しくて、白くて柔らかいあの感触。あなた高校生なんでしょ?調教しがいのある身体をしているわよ、貴方」
この時点でやっと簪は気が付いた。自分の身体を淡々と語っているこの女性は異常なのだと。異性ならともかく、同性で、しかも自分の身体のことしか興味のないような口調だ。
そして何より恐ろしいのはこの人の濁りきった目だ。まっ黒に濁りきり、怖気を感じさせる。
「お尻からあふれ出たあの粘液は美味しかったわよ。あれが毎日飲めるだなんて、本当にお得な商品ねあなたは。そうだ、せっかくだし、ついでにあなたのお尻の穴も楽しませてーーーー」
「いい加減にしてください!!」
自分の恥ずかしい箇所を、楽しそうに語られていることに我慢がならなくなったのか、自分でもびっくりするほど大きな声で叫び、立ち上がる。
「もういいです!あなたの会社には勤めません。私は帰らせてもらいます」
流石に、これ以上は我慢ならない。一秒でも長くこの場には居たくない。早歩きで入ってきた扉に向かい、ドアノブを掴むが
「あ、開かない!?なんで・・・・」
外から鍵を掛けられたらしく、扉は開かない。何とか開けようと、ガチャガチャとドアノブをひねっていると
「いぎっ!」
背中に強烈な痛みを感じ、扉に寄りかかってしまう。後ろを向くと
「はあ・・・・今この場で自分の運命を受け止めればいいのに」
呆れたような表情で簪の買主となる女性がどこから取り出したのか、手元に長い鞭を持って立っていた。おそらく、先ほどのあの痛みは持っている鞭で叩かれたものだろう。
「あなたをここに呼んだのは、貴方に私が買主だというのを伝えるため。つまり、貴方はここで私の所有物になるのよ?反感なんてしたらどうなるかわかるでしょうに」
痛みに怯えている簪を楽しんでいるらしく、鞭を周囲に振るい恐怖を煽る。生き物を服従させるのにうってつけなのは痛みだ。
自分の身に大きな痛みを感じれば、その痛みを与えた者に逆らうことはなくなる。
「それじゃあ、鑑賞といきましょうか。服を脱ぎなさい」
「もうやめてください!いいから私を帰してーーーーひぎっ!!ああっ!」
話し終わらないうちに、鞭を振るい、簪に容赦のない鞭打ちを食らわせていく。慣れているらしく、その鞭の扱いは巧妙で服の覆われていない箇所の腕や顔などの皮膚が露出している場所を打っていく。
「きゃあっ!!」
放たれた鞭の1つが頬に直撃し、掛けていた眼鏡が飛ばされて地面に倒れる。視界の定まらない目でちらりと叩かれた箇所を見てみると、真っ赤な跡が残っている。
「ひぐっ・・・・うぅぅ・・・・」
痛さのあまり涙が流れ、口から嗚咽が漏れる。まともに抵抗できない自分の無力さ、そしてこんな事態を招いてしまった不甲斐なさが心を締め付けていく。
パンっ!!
泣いている簪の眼前の床に鞭が叩きつけられる。
「いつまで泣いているの?さっさと立ち上がって服を脱ぎなさい」
イラつきと怒りが混ざった強い口調に恐怖を感じて立ち上がると、今日のために精一杯のおしゃれをした服を脱いでいく。
自分の中ではあまり履かないミニスカートのチャックを下ろし、脚から抜き取る。続けて半袖のワイシャツのボタンも1つ1つゆっくりと外していき、脱ぎ捨てる。
今は夏で暑くてあまり重ね着はしていないため、これで簪が身に着けているのは白い靴下と水色のブラとパンツだけだ。
「うぅぅ・・・・」
他人に脱がされているのではなく、自分で衣服を脱ぎ捨てて人の前に自分の裸体を晒していることに大きな羞恥を覚える。
「うん・・・・・いい身体をしているわね。ほら、早く下着も脱ぎなさい」
「お、お願いします・・・・もう許してください・・・・」
嗚咽を堪えながら精一杯の願いを言うが無情にも鞭の一振るいによって却下される。
「ぐすっ・・・・ぐすっ・・・・」
涙を流しながら、ブラを外してパンツも脚から抜き取る。これで脚に履いている靴下以外は生まれたままの姿だ。
「ふーん、何度見ても可愛いお尻」
「み、見ないで・・・・下さい・・・」
腕を身体に回して、しゃがみ込みたい衝動になるが人に鞭を振るうことに一片の罪悪感も感じない人間だ。そんなことをしたら、全身に真っ赤な鞭打ちの跡が残るまで叩かれるだろう。
そう思うと、恐怖で身体が動かない。
「そのままよ」
そう言い、直立不動状態の簪の目の前に立つと懐から『カンザシ』とプレートの入った首輪を首に巻き付ける。
一瞬抵抗しようとしたが、『動くと、さっきの倍打つわよ』と殺気に満ちた言葉を耳元に囁かれて動けなくなる。
「じゃあ遊んであげましょう。お尻をこっちに向けなさい」
「い、嫌です・・・・・あぎっ!」
口答えした瞬間、剥き出しの太ももに鞭が直撃する。その時感じた痛みで抵抗する気力は一瞬で削がれた。
「もう一度言うわ。お尻を私の方に向けなさい」
ブンブンと鞭が空気を裂く音に震えながら、
全裸で首輪を巻かれ、お尻を突き出すようなポーズになっている自分の姿に簪の自尊心はボロボロだ。
自分に真っ白なお尻を突き出す行為に歪んだ優越感と安心感を壁に寄りかかりながら感じている。次に鞭を打った時、自分の大好物であるこの少女は一体どのような声で啼いてくれるのだろうか。
鞭を持っている手を振りかぶり、突き出されている尻部に渾身の一撃を喰らわせようとした時
「な!? うぐっ!!」
突如、背後のもたれかかっていた壁から白い装甲を纏っていた腕が飛び出し、買主の首を締め上げる。突然の状況にパニックになりながらも、必死にもがくがどんどん締め上げる力は強くなっていく。
「がっ・・・・・あ・・・あっ・・・あ・・・・・」
その言葉を最後に、ガクッともがいていた身体が動かなくなる。それと同時に突き出した腕が壁を破壊し、その手の主が入ってた。その人物は
「人を鞭で叩くのは旦那相手と、SMクラブの時だけにしておきな、大富豪さん」
心底迷惑そうな顔を浮かべた瑠奈だった。意外な人物の登場に、自分が裸であることを忘れて佇む。そんな簪を一瞥すると、手元から携帯を取り出して作戦の合図を連絡した。
「こちら小倉瑠奈、作戦は成功しました。・・・・はい、はい、証拠は全て揃っています。この建物を包囲しつつ、警官隊を突撃させてください。関係者を1人も逃さないように注意して下さい」
そういった瞬間、外から慌ただしい音とパトカーのサイレンの音がかすかに聞こえて来た。
ーーーー
「いやぁー小倉さん。捜査協力ありがとうございます」
明るい声で目の前にいる20代ほどの婦警が声を上げる。
今回の事件で誘拐組織の関係者とそのスポンサーをまとめて逮捕することができた。その功績には瑠奈の働きが大きく、何度も礼を言われる。
「もうお礼はいいですからさっさと行ってください」
しっしっと手を払う瑠奈に苦笑いしながら婦警はパトカーに乗り、去っていった。この場に残されたのは
「で、なんで君がここにいたんだ?」
瑠奈と簪だ。何度も質問しているが、簪は俯き、無言を装っている。
だが、なぜここにいた理由など瑠奈には関係ないことだ。とりあえず、簪に言うべき用件だけ済ませてしまおう。
「簪、君宛だ」
持っていた茶封筒を簪に差し出す。ちなみに、瑠奈はこの封筒の中身を知っているが口で言うより実際に見た方が理解は早いだろう、百聞は一見に如かずだ。
丁寧に封を解き、中に入っている書類を取り出す。
「差出人は君が所属しているIS機関、倉持技研」
中にはいっていた書類を見た瞬間、大きな衝撃が簪を襲った。中にはいっていた書類は『解雇通知』
「な・・・・なんで・・・・」
「君がこのアイドルオーディションを受ける条件は現在所属している組織の脱退が条件だったはずだけど、君は契約書をみてないのか?」
簪は契約書にサインするとき、変な妄想していたことに気恥ずかしくなり文章をよく見ないでサインをしてしまった。
それ故に気が付かなかった、自分の焦りと不注意が大きな不幸を生んだことに。
「だ、だけど中田さんはそんなこと・・・・い、言ってなかったのに・・・・」
「当たり前だろ。どこの世界に自分にとって都合の悪いことを進んでベラベラしゃべる商人がいる。数十分まえに君の専用機は倉持技研が回収した知らせを受けた。残念だが君はもう日本の代表候補生でもなければ専用機持ちでもない」
その言葉を合図に簪は地面に蹲り、ぼろぼろと涙を流す。
残念だが、これは事故でもなければ事件でもない、更識 簪という少女自身が望んだ結果だ。
選択を行う者は苦痛を味わうように、無理に力を追い求めたものは大きい代価を背負う。
「う、うぅぅぅぅ・・・・・あ・・・あ・・・・・」
地面で泣きじゃくる簪を一瞥すると、瑠奈は1人歩き始めた。まだ暑さが厳しい8月の出来事だった。
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