Tail of Twin 作:グラコ口
なお、タイトルは”動き出す
アルティメギル基地、そのホールでは再び会議が開かれていた。
「……以上、この20日余りで撃破された同胞は隊員28名、
「ふう~む」
「これほどのものか、ツインテイルズ……!」
アルティメギルはそのペースを落とすことなく次々と戦力を投入。しかし総二、愛香、葵はその悉くをもろともせずに撃破していた。
強いていうのならホワイトがブルーに若干怯え気味ではあるが、元々無口なのでレッド以外には懐いていない、と世間的には認識されていた。
「一方、この世界に降りてよりわれらが手に入れた属性力は皆無。一度捕獲した属性力も全てツインテイルズによって奪還されております」
「……三人、というのが手強い。破壊に身を委ねるかのような青の戦士は勿論だが、赤の戦士と白の戦士が組んだ時の爆発力は信じ難いものがある」
妄想による攻撃を得意としてたフォクスギルディが、その己の得意とする土俵で完膚なきまでに叩き潰された戦いは今だに記憶に新しい。そしてもちろん、そこから容赦なく味方の人形ごと撃破した青の戦士の蛮行もだが。
侵攻から20日間。
いよいよアルティメギルにも焦りが見え始めていた。
――――そんな中、ドラグギルディが腕組みをしながら呟いた。
「―――――どうやら、諦めの悪い亡霊がいるようだな」
その言葉と共にモニターに映し出されるのは、かつての“とある世界”。そこで相見えた戦士の映像である。……最も、その戦士は既に
「こ、これは……そうか、あの時の!」
「……フッ、我らがかつて最も追い詰められた戦……その戦士らの差金とあっては一筋縄ではいかぬのも道理よ!」
その言葉とともにドラグギルディは部下たちを見遣り――――。
「我が行く」
その言葉とともに、ホールはどよめきに包まれた。
「ドラグギルディ様自らが!?」
「貴方様が自ら行かれるなど!」
「くどい!」
マントを翻し、ホールを出て行くドラグギルディ。
その溢れんばかりの闘士と、それに比例して増すばかりの威圧感は、最早ただの怪物の範疇には収まらないと思わせるほどであり。
「……さすがは、五大究極試練であるスケテイル・アマ・ゾーンを乗り越えた、ただ一人のお方……ドラグギルディ様よ…!」
そんな畏怖の声を背後に、ドラグギルディは獰猛な笑みを浮かべていた。
(愚かよな――――来るならば来るがいい。だが、後悔か、諦観か……かつての世界と同じ手を取った時点で既に全ては決しておるわ――――ッ!)
―――――――――――――――――――――――――
今日もエレメリアンを倒し、家に帰る。
最近では戦闘に慣れてしまったからか、変身している間は意識してクールな無口系幼女になりきることで敵の言葉に流されにくくなり、ずいぶんと戦いも楽になった。
リィリアは相変わらず時折テイルレッドのツインテールを見ながらぼんやりすることがあるものの、来たばかりの頃と比べて仲良くなれたと思う。
すっかり日課、悪く言えば作業のようにエレメリアンを倒す日々。
そんな状況だからか世間にも危機感のようなものはなく、ただ徐々にアルティメギルと遭遇してしまった時の対処法や防犯グッズが取り上げられるようになった程度。
……あのフォクスギルディとの戦いから、どうにもブルーを前にするとホワイトが上手く喋れないという問題は発生しているが、それは時間が解決してくれると信じるしかない。
そんな、ある日の夜――――。
「――――神宮寺さん、お風呂終わりました。」
「ああ、わかった」
以前買い物に行った時に買った薄桃色の寝間着を着たリィリアがタオルを頭に巻きながら部屋に入ってきて、ふと思い出したかのように呟く。
「……あ、そういえば。少しテイルリングを調べておきたいのでお借りしてもいいですか?」
「ん、ああ」
すっかりつけっぱなしにする癖がついている指輪を外してリィリアに渡し、そのまま風呂に行く。そこまでは、まだいつも通りだったのだ。
「―――――…っ!?」
「……そ、その、どう……ですか?」
風呂から上がると、待っていたのはリィリアだった。
―――――僅かに恥ずかしそうに俯き、翡翠色の瞳を潤ませる。
そして、その顔を彩るのは、他でもない―――――…。
二房に結ばれた銀色の髪。天使の翼のようなツインテール。
かつて、初めてリィリアを見かけたときに夢見た理想のツインテールが、そのままの形で目の前にあった。
「――――ツ、ツ、ツインテール…っ!」
「えっと、ですね。テイルリングには身につけている間の余剰な属性力を貯蓄する機能をつけているんです」
わたしの唯一の“発明”で、だから指輪をつけている間はテイルレッドみたいな素晴らしいツインテールを見てもそこまで興奮しなかったんじゃないですか?
と、どこか困ったように言うリィリアに、しかしツインテールに目を奪われた俺はぼんやりとそれを眺めるばかりで。リィリアは視線を逸しながら小さく呟いた。
「……その、………さ、触ってみてもいいですよ?」
「ありがとう!」
「きゃっ!?」
言うが早いか、変身している時に負けない反応速度で距離を詰め、目の前に差し出された宝石に触れるかのように、恐る恐る手を伸ばし――――。
「……お、おおお……っ」
さらりとした髪の毛には僅かなくすみもなく、やわらかく、花のような匂いがして。天使の羽に触れてしまったかのような罪悪感と昂揚が同時に沸き上がってくる。
「……ち、ちかいです…っ――――というか、その……そんな風に触られたらわたしも恥ずかしいといいますか…っ」
「………はぁはぁ、ツインテール…っ」
「―――リザドギルディになってますっ!?」
「俺、ようやくアイツの気持ちがわかったよ……」
とはいえ、嫌なら床にヘッドバットを決めてでも自制する用意はあるけども。
「……で、できれば一生たどり着かないでほしい境地です…っ。けど……」
何を思ったのか、リィリアはかつてリザドギルディが望んでいたように親指と人差し指で自分のツインテールを摘み――――。
「――――…ぇいっ」
ぺちっ、という音とともに、俺の頬に滑らかなツインテールが触れた。
「………かはっ」
――――――あ、これやれば大抵のエレメリアンは即死するんじゃないかな。
至福の感覚に導かれるまま、俺は近くにあったベッドに倒れこみ。
魂が抜けていくような感覚とともに、リィリアを見上げ―――――。
「――――…神宮寺さん、今まで……ごめんなさい」
「……リィ、リア……?」
一気に、現実に引き戻された。
その頬にうっすらと光る雫に。そして、その悲しげなツインテールに。
―――――なんで、泣いてるんだ。
わけも分からず、しかし何か言おうとしても声が出ない。
喉は痙攣したように動かず、腕を持ち上げようにも僅かに指が動くだけ。
「………ずっと戦ってもらって、勝手なことだって、分かってます……」
だから、私にあげられるものならなんでもあげようと思ったんですけど。と、リィリアは寂しそうにそんなことを呟き、少しだけ不満気に唇を尖らせた。
「……なのに、欲しいのがツインテールだけなんてあんまりだと思います。……これじゃ私、ずっと忘れられないじゃないですか……」
「……な、に……を」
いつもテイルホワイトとして喋るために格闘していたからか、僅かにだけ声が出て。リィリアは乱暴に自分の涙を拭うと、翡翠色に輝くリングを取り出した。
「―――――…お別れです。………葵さんは次に気がついた時には私のことは忘れて、いつもの日常に戻っていますから。だから―――――」
そっと、唇に柔らかなものが触れて。
俺の意識は、ブレーカを落とされたかのように断ち切られた。
――――――――――――――――――
朝が来た。何の代わり映えもしない、そんな朝が。
いつも通り適当に朝飯を見繕い――――菓子パンがあった――――テレビをつければ最近話題の幼女ヒーローのニュース。
『テイルレッドたんは今日も可愛いですねぇ!』
「はぁ、なんだかなぁ……」
たしかに可愛いが、そんな話題になるほどのことなのだろうか?
そんなことを考えながら、なんとなく誰かに話しかけたいような気分に襲われる。
「………寝不足かな」
ぼんやりテレビの中で涙目になっている二人の少女――――“そのうちの1人がしている、髪を二房に結んだ髪型は、一体何と言っただろう?”
「――――…っ」
胸の中で、何か気持ち悪いものが渦巻いている。
もうひとりの、“長く白い髪を結ばずにまっすぐ伸ばした”少女を見ると、その感覚は更に大きくなり―――――…。
「――――…学校、いこう」
ふらふらと立ち上がり、荷物を手に家を出る。
「……行って、きます」
その言葉は、誰に向けて言ったのか――――。
誰もいない家に虚しく響くそれを深く考えることもなく、いつの間にか右手に嵌っていた翡翠の指輪をぼんやりと見つめた。
――――――――――――――――――――――
その日、朝から観束家の地下。そこに設置された秘密基地はかつてないほど重い空気に包まれていた。
「俺は……俺は、大切な
――――――世界は今日も何事もない、はずだった。
昨日もエレメリアンを撃破して、油断していたのかもしれない。
しかし、朝起きてニュースを見ると昨日までは確かにあったはずのテイルホワイトのツインテールが消えていたのだ。
何度と無く触れ、素晴らしさを分かち合った大切な仲間の
あんなに素晴らしいツインテールを持っているホワイトが負けるはずがない――――。
いつでも気高く、冷静で、助けられ、高め合ってきた
こんなことならば、もっと連絡を取るように、取れるようにしておけば――――。
「そーじ……」
血が滲むほどに唇を噛み締めても後悔は消えず。
力なく地面に膝をつく総二に、愛香が言いにくそうにしながらも口を開く。
「ねぇ、トゥアール。確か……」
「……はい、およそ24時間経過してしまえば、奪われた
愛香としても何かと怯えられてしまうホワイトは苦手な部類だったが、それどころではないのも十分に承知している。
総二がかつて無く落ち込んでいるからか、あるいは事態を重く受け止めてくれたからか、トゥアールも珍しく真剣な表情で口を開く。
「………恐らくですが、ヤツらがわざわざ時間切れを待つことはないはずです。次に出てくるであろう強敵を倒せば――――希望がある、と言い切れはしないのですが」
エレメリアンが属性力を奪う仕組みは完全には理解できていないのだが、奪った相手を倒せさえすれば、という以外に希望の持ちようがない。
―――――しかし、こちらに一切察知させずホワイトが倒されるというのは尋常ではない。
現在はトゥアールが出現反応のログの洗い出しを行っているのだが、その表情から成果が芳しくないことはわかる。
(―――――何か、何かがおかしい)
言いようのない不安が胸の中に渦巻いていた。
しかし。そんなことを考慮してくれるはずもなく、耳をつんざくようなアラートが響いた。
「―――――エレメリアンの反応です! ……属性力の反応は強くありませんが、罠の可能性もあります!」
愛香とトゥアール、二人の視線が地面に膝をついたままの総二に向けられる。
「……俺、は………」
「――――あー、もう! しっかりしなさい、このツインテール馬鹿ッ!」
愛香は起き上がらない総二の襟元を掴んで無理矢理立たせ、言う。
「ツインテールだってね、お風呂に入る時や寝る時は解くのよ! だから……だから解けても、また結び直せばいいじゃない! まだ、間に合うんだから…!」
「―――――っ!」
そうだ。
俺のツインテールへの愛は、解かれてしまっただけで無くなってしまうものなのか?
―――――違うだろう、そうじゃないだろう。
そこにツインテールがなくても、俺のツインテールへの愛は消えるものじゃない!
「……ありがとう、愛香。俺、行くよ――――」
その言葉とともに総二は光に包まれ―――――その瞳を炎のように燃やしたテイルレッドが、ツインテールをなびかせてワープカタパルトに飛び込み。
残された愛香もまた変身し、そっと呟いた。
「……ごめん、トゥアール」
「………妙な気なんて回さないでいいですから、行ってあげてください。総二様のためなら、私もサポートは惜しみません」
もう、間に合わない―――――失ってしまったトゥアールに小さく頷き、愛香もまたワープカタパルトに飛び込む。
「……けど、これは――――」
1人残されたトゥアールは小さく呟き、写真を。“ツインテールがはっきりと残ったテイルホワイトの写真”を表示する。そしてその隣には、ツインテールが消えてしまった”この世界で見たテイルホワイト”の写真を。
「リィリア…?」
あの話し方、見た目、テイルリング。
テイルホワイトは、かつての仲間だと――――リィリアだと思っていた。
どんなに通信で連絡を取ろうにも繋がらず、直接会う勇気も持てなかったけれど。
けれど、そうではなかったのではないか。
漠然とわだかまっていた嫌な予感が、急速に固まりつつあった――――。
「……ま、まさか――――っ!」
トゥアールの声が秘密基地の中で虚しく響き、モニターの向こうでは既に戦闘が始まろうとしてた―――…。
*なお、属性力が奪われてからの時間制限が24時間っていうのはアニメの序盤で言っていたものです。原作だと特に書いてなかったような気もしますが。
あ、ちなみにリィリアは別にキスはしてませんので悪しからず。ヒント:ツインテール