Tail of Twin   作:グラコ口

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追記
若干文章を追加してわかりやすくしました。


第6話:青き怒涛、粉砕する

 観束家の地下にある秘密基地。そのメインルームでは、愛香とトゥアールが血相を変えて慌てていた。

 

 

「あんの馬鹿、いくらツインテールだからって人形相手に!! っというかあの白いのも! そーじと同じただのツインテール馬鹿じゃない!」

 

 

 愛香は総二と一緒に戦うことができるツインテールの少女、テイルホワイトには内心複雑な想いを抱いていたものの、それでも苦しむ総二を助けに来てくれたときは安堵した。――――だからこそ、総二の同類なためにホワイトも人形に手も足も出ないと分かってより右往左往し始めたのだが。

 

 

『うああああ……や、やめろーせめて服を着せろ!』

『………お風、呂…? ツインテール、ほどく……? かふ…っ』

 

 

『い、いやだぁぁぁっ、服がなくてもツインテールは……ツインテールだけはぁぁぁl!』

 

 

 

 というかむしろ馬鹿が二人になったせいで迷走っぷりが悪化しているのだが。

 愛香からすれば「いいから人形を壊しなさいよ!?」というところなのだが、同時に総二には例え人形だろうとツインテールは破壊できないということも十分すぎるほど理解していた。

 

 

「どーしよ、そーじが! そーじが!! ねぇ、こっから発射できるミサイルとかないの!?」

 

「………………こうなれば、もう……」

 

 

 この言葉に篭められた、苦渋と呼ぶべき感情は愛香にもはっきりと感じ取れ。

 

 

「トゥ、トゥアール…?」

「………愛香さん、頼みがあります」

 

 

 

「あたしにできること!? そーじを助けられるなら、なんでもするよ!」

「では……変身してくれませんか」

 

「わかったわ、変身すればいいのね―――――――――は?」

 

 

 

「もう一人の適正者である愛香さんなら、テイルギアを装着できるはずです。細かいこと気にしてる場合じゃないですよほら! ―――…けど、一つだけ約束して下さい」

「……なによ?」

 

 

 

「――――総二様の初めての女になるのは、私に任せてもらえると!」

「おい」

 

 

 と、そこで狙いすましたかのようにテイルレッドとホワイトの悲鳴が響く。

 

 

『やめろぉぉぉぉツインテールと手をつないでスキップするな―――――いい声でハミングするな――――――ああああ』

『………ぁ、ぅ……ツインテールが一房……二房……ひとふさ、たりない……?』

 

 

『足りてる! 足りてるよおぉぉぉっ!』

『……ぁぁぁ、ぁ、ツインテールが、三房……』

 

 

『ぎゃあああぁぁっっ!?』

『……ぁぁぁぁっっ!?』

 

 

 

 

「………時間がありません! いいからうんと言って下さい! でなければ渡しませんよ!? それとも、今からヒーローになろうという方が、まさか力づくで奪って行くとでも言うんですか!?」

 

「………」

 

 

「あ、愛香さんはそんな人じゃないですよねー?」

 

 

 愛香は、ニコリと優しく微笑み―――――。

 

 

 

 普段はただのツインテール馬鹿でも、それでも大切な幼馴染のためなら修羅になる―――――この眼前の変態がこの世界に来てから、とっくに覚悟を完了していた愛香は、いささかの躊躇いもなくそれを実行した。

 

 

 

 

「殺してでも うばいとる…!」

「な なにをするんですか A以下(あいか)さん――――ぷげむっ!?」

 

 

 

 ヒーローって、なに?

 そんな純粋な疑問とともにトゥアールは地面に沈み、愛香は自慢のツインテールをなびかせて走りだす。

 

 

 

「待ってて、そーじ……――――テイルッ……オン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テイルレッドは、観束総二は苦しんでいた。

 

 ツインテールを守るために、戦う。その気持ちにはいささかの曇りもなく、しかしそれ故に目の前の人形(ツインテール)を傷つけることができず、生きているかのようなその人形によって行われる羞恥プレイをモロに喰らっていた。

 

 

「おやおや、あそこのお菓子が食べたいのですか? 仕方がありませんね……こらこら、頬にクリームが付いてしまっていますよ?」

 

「…………かふっ……」

 

 

 

 どういう仕組みなのか、目を瞑っても頭の中に描かれる情景を防ぐことができない。……それどころかむしろ悪化するくらいで、虫の息になって地面に倒れるレッドにできるのは、隣で膝をつくホワイトのツインテールを見て気を逸らすことだけだった。

 

 

 

(……ぁ、ぁあ……綺麗、だ…………)

 

 

 

 真っ白に積もった雪のようなツインテール。毛先に交じる蒼色は、氷の下をゆっくりと、しかし確かに流れる生命の水のよう。

 

 

 そして、ツインテールと同じく雪のように白いテイルホワイトの顔も目の前で繰り広げられる惨劇に苦しげに歪んでいるもの――――それでも、まだその蒼穹のような瞳には生命の光があった。

 

 

 

「…………フォクスギルディ」

 

 

 静かに、されどしっかりとした足取りでホワイトが立ち上がる。

 フォクスギルディは静かな微笑みとともにこちらを振り返り、しかしその妄想は止まらない。

 

 

「ふっ、何でしょう? おや、ダメですよ大人しく待っていなければ……今水着を着せてあげますからね」

 

「…………れ、が……」

 

 

 誰がそんな真似をするか、と叫ぼうにも気力が湧いてこない。

 トゥアールと愛香が通信で何か叫んでいるのはわかるのだが、内容は頭に入ってこない。ホワイトはそんな俺に一瞬だけ悲しげな目を向けると、決意を秘めた言葉を放った。

 

 

 

 

「―――――…わたしの、人形は?」

 

「ほう…!」

「ほ、ホワイト…っ!?」

 

 

 

 正気か、と思わず口に出そうとしてしまったが、呑み込む。

 

 そのツインテールが、語っていた。

 邪魔をしないでほしい――――、と。

 

 

 

「さて、どういう風の吹き回しでしょうか? ――――とはいえ、求められては是非もありません! お望み通りにして差し上げましょう!」

 

「……だ、ダメだ! ホワイト―――ッ!」

「………ん」

 

 

 しかし無常にもリボンは放たれ、俺の時もそうだったようにホワイトの周りを何周か回った後、フォクスギルディのところに戻り。

 

 

 

「――――結晶せよ、我が愛!」

「あ、あぁ……」

 

 

 

 制止も虚しく、フォクスギルディから属性力を注ぎ込まれたリボンが慌ただしく変形し―――――フォースリヴォンが、そして更にそこから純白のツインテールが、そして頭、胴体、手足と、まるで手品のように飛び出し、ついにホワイトの人形が完成してしまう。

 

 

 

 二つ仲良く並んだ人形、そしてその見事なツインテールは壮観で。

 しかしこれから、どんな惨劇が始まってしまうのか――――俺は無意識に身体が震えてしまうのを感じ。そんな俺に、ホワイトは静かにつぶやいた。

 

 

 

 

「――――…あの人形は、にせもの」

「…っ! 分かってる、分かってるけど……!」

 

 

 それでも、あれを壊すことなんてできない―――――。

 首を横に振る俺に、けれどもホワイトは言い聞かせるように言った。

 

 

 

「―――――…ツイン、テール…!」

「――――っ!?」

 

 

 

 その一言に、どれだけの感情がこめられているのだろう。

 言葉数が少ないホワイトだからこその、万感の想いがこめられたその言葉が。そしてそのツインテールが、語りかけてくるような気がした。

 

 

 そうじゃない、変態に惑わされちゃいけない。ツインテールはそうじゃないんだ、と。

 

 

 

――――そうだ。ツインテールと、同じなんだ。

 

 

 

 ツインテールにも、たくさんの想いがこもっている。

 俺だって知っていたはずだ。ツインテールには、その持ち主の感情が宿ることを。想いの篭ったツインテールこそが本物のツインテールだと。

 

 だから、あの人形のツインテールは――――…フォクスギルディの想いが篭められているあのツインテールは本物で、偽物でもある!

 

 

 

 

「………あれは、わたしたちのツインテール」

 

 

 

 

 優しく、穏やかに言うホワイトに迷いはない。

 胸の中に、再び僅かな火が灯る。

 

 

 

 

(――――そうだ、俺はずっと、心のどこかであれは偽物だって思い込もうとしてた)

 

 

 

 フォクスギルディによって生み出され、妄想の贄になっているツインテール。

 ダンスを踊り、お風呂に入れられ、寝かしつけられ、水着を着せられ、考えられるものも想像すらしたくなかったものも、たくさんの羞恥に晒された。

 

 

 それが自分の愛するツインテールで行われているなんて、認めたくなくて当然だ。

 けど、だけど。それでも――――!

 

 

 

 

 あれは、俺だ。俺の、ツインテールなんだ!

 ―――――唯一つ、一つだけ足りないものを除いて!

 

 

 

 

 

「―――――う、おぉぉぉぉっ!」

 

 

 

 最後の力を振り絞り、身体を持ち上げ、立ち上がる。

 膝が笑ったが、それでもいつまでもツインテールを、芝生とはいえ地面につけておくわけにはいかない!

 

 

 

「ほう、まだ起き上がるのですか。……ならば次でトドメとしましょう」

 

「―――――受けて、立つ!」

 

 

 

 ホワイトの隣に立ち、互いのツインテールが触れ合う。

 静かにホワイトが瞑目し、フォクスギルディが微笑みとともに口を開く――――!

 

 

 

――――――今だッ!

 

 

 

 

 

 

「絵本を読んで差し上げましょう――――!」

 

 

 

 瞬間、目の前に展開されるのはベッドで三人ならんで寝転がるテイルレッド、ホワイト、そしてフォクスギルディ。その二人はフォクスギルディに絵本を読むようにねだって――――…。

 

 

「………うおおおおおあぁっ! 」

「………ぁぁぁぁぁぁああッ!」

 

 

 

 

 悲鳴ではない。耐えるだけでも、悪あがきでもない。

 テイルレッドとテイルホワイト、二人の魂の叫びが響き渡り――――。

 

 

「「―――――ツイン……テエェェェル!」」

 

 

 

『おやおや、甘えん坊ですね。何の本にしましょうか――――』

『じゃあ俺、ツインテールの本がいいー!』

『………ツインテール』

 

 

 

「……は?」

 

 

 そんな間の抜けた声を上げたのは、誰だっただろう。

 フォクスギルディは思わず呆然と己の人形を見、そして二人の“戦士”を見た。

 

 

 

「―――――それは、俺だ! なら俺は、ツインテールの本しか読まねぇ!」

「………ツインテールなら、負けない」

 

 

 

 二人からあふれる属性力の輝きが、この状況を招いた理由を何よりも如実に語っていた。―――――すなわち、妄想による妄想の塗りつぶし。

 

 

 

 

「その人形は、ツインテールは偽物だ! 俺たちの持ってる、ツインテールへの愛が足りてないんだ! ――――だから、俺たちが本物にしてやる! お前の妄想なんかに、俺たちのツインテールが負けるもんかよ!」

 

「ば、馬鹿な……私の妄想を上書きするですと!? そんな、そんなことが――――」

 

 

 

 あるはずがない、そんな風に考えたフォクスギルディが見やったテイルレッドの人形はとても残念そうな顔で呟いた。

 

 

 

『えー、ツインテールの本ないのー? じゃあいーらないっ』

「う、ぐおおおおぉぉぉぉぉっ!?」

 

 

 

 違う、私が読む本をこの子は喜んでくれるのだ――――そう思い込もうにも、目の前でツインテールへの溢れんばかりの愛を叫ぶテイルレッドが、ツインテール以外の本を読むはずがない―――――フォクスギルディもまた、そう納得してしまっていた。

 

 

 

「ま、負けませんよぉぉぉっ! では、お買い物に行きましょうか! なんでも好きなものを買ってあげましょう!」

 

『え、ツインテール買ってくれるの!?』

『……ツインテールが汚れるから、いい』

 

 

 

「う、がァァァァっ!? ツインテールは売ってませんよぉぉぉぉっ! それに反抗期ですとぉぉぉぉっ!?」

 

 

 

 ごふっ、と吐血して膝を突いたフォクスギルディは、それでも諦めきれぬと人形に話しかけた。

 

 

 

「で、ではお風呂に……」

『『……えー、ツインテール解きたくないからやだー』』

 

 

 愛すべき人形に、白けきった目を向けられる。

 そんなことは有り得ないとわかっているはずなのに、その瞬間をハッキリと思い描いてしまったフォクスギルディは血涙を流しながら叫んだ。

 

 

「ぐ、おぉぉぉっ!? 私としたことが、なんという凡ミスをぉぉぉぉっ!?」

 

 

 

 そしてそれが悪かったのか、はたまた他の要因か、相乗されるツインテールの妄想が限界を超え、妄想の中で人形のツインテールがピコピコと動き出した。

 

 

『ツインツインツインテール、ツイツイツイン、ツインテール!』

『……ツインテールツインテール……ツインテール?』

 

 

「な、なにを……!? い、いけませんよ、そんな……そんな……ツインテールでは…っ!」

 

 

 

――――いける!

 

 

 あらん限りのツインテール愛を漲らせ、レッドとホワイトはそっと視線を合わせて微笑み合う。

 

 

「「―――…そうだ!」」

 

 

「……俺たちのツインテールは――――!」

「……私たちのツインテールは――――!」

 

 

 

 

 その瞬間、まさに二人で決めゼリフを叫ぼうとしたその瞬間に、まるで雷鳴のような轟音が響き渡り――――。

 

 

 

 

「―――――そこまでよ、変態っ! 属性玉変換機構(エレメリーション )!」

 

 

「「「え」」」

 

 

 なんとなく呼ばれたような気がして3人とも振り返り、降り立った修羅を見た。

 

 

 

属性玉(エレメーラオーブ )―――――人形属性(ドール)!」

 

 

 

 その瞬間、空間に満ちていた巨大な妄想が跡形もなく消えていく。

 

 

 

「あたしは、テイルブルー……いくわよ!」

「いや、ちょっ――――!?」

 

 

 

 フォクスギルディが何か言いかけたものの、そのテイルブルー……愛香は「ほいっと」という気の抜けた声と、対照的に一切の容赦の無い拳でテイルレッドとホワイトの人形を、砂糖菓子のようにあっさりとぶち抜いた。

 

 

 

「「「……ぁ、ぁ、ぁぁぁああああっ!?」」」

 

 

 二人の込めた属性力(もうそう)でつい先程までは生きているかのように輝いていたツインテールがひしゃげ、根本からポロリとモゲる様が、まるでスローモーションのようにハッキリと見えてしまった。……かつてない残虐なその映像に、当分の間は悪夢を見るのは間違いない。

 

 

「「ぁぁぁ、ツ、ツ、ツインテールがぁぁぁぁっ!」」

 

「ば、馬鹿なっ!? 何の躊躇いもなく仲間のツインテールを!?」

 

 

 フォクスギルディのその割とマトモな糾弾にも、テイルブルーは笑みを絶やさずに大切な仲間の方へ振り返り―――――。

 

 

「仲間なら、ここにいるじゃない。ね?」

 

「「………ぅ、ぅぅ、ぐす…っ。つ゛いんて゛ぇぇるがぁぁぁ…っ」」

 

 

 

 ボロボロ涙を流しながら抱き合う幼女二人に、そっと視線を戻して叫んだ。

 

 

 

「よくもレッドを! 喰らいなさい――――エグゼキュート、ウェイブ!」

 

「ば、ばかなぁぁぁぁ――――!?」

 

 

 

 次元ごと穿つような処刑の刺突が問答無用とばかりにフォクスギルディを貫き、爆散。

 後に残ったのは号泣する幼女二人と、清々しい顔のブルー。そしてテレビ局のカメラだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うん、難しい。
とりあえずここからは1日1話投稿を目標に頑張って行きたいと思います。
……できたら、ですが。


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