Tail of Twin   作:グラコ口

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第3話:俺、HENTAIにはなりたくない。

 

 

 

「よかった。男に戻れて、よかった……」

「……可愛かったと思いますけど?」

 

 

 というわけで。俺、神宮寺 葵は自称・異世界の科学者見習いのリィリアとのすったもんだの問答の末に家に帰ってきた。色々あって下宿しているので、マンションで一人暮らしである。

 ……不思議そうに小首を傾げるリィリアは見た目からして低年齢そうなので男が女にされようが気にしないのかもしれないが、健全な高校生であるこちらからすれば大問題だ。

 

 

 結局、女児化の原因はリィリア曰く『開発者が小さい女の子が好きだからかもしれない。私は知らない』とのことで、現在はリィリアがいつの間にやら羽織っていた白衣のポケットからニュルっと出した小型スクリーンで、先ほどの強化スーツ――――テイルギアの説明を受けていた。

 

 

「――――つまり、テイルギアは心の力である属性力(エレメーラ)を利用する異世界の兵器で。エレメリアンっていうのはアルティメギルっていう組織にいる属性力を餌にする怪人。属性力を奪われると失われたものは二度と戻らない……ってことか?」

 

「そういうことです。全ての属性力を奪われれば、そこに残るのは何の感動もない無機質な世界――――…もう、あんなものを認めるわけにはいきません」

 

 

 

 なんとなく、リザドギルディを見ていると大変な変態という印象ばかりが先行してしまってイマイチ世界の危機というものは感じ取れなかった。

 

 けれども、違うのか。

 こうしてアイツらのしようとしていることを改めて聞いて、俺は初めてその本当の危険性を感じていた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 そのころ、いずことも知れぬ場所にあるアルティメギルの秘密基地。

 移動母艦でもあるそこにある一面鈍色の大ホールには、個性豊かな姿の怪人たちが集っていた。

 

 

「馬鹿な、リザドギルディが倒されただと!? どういうことだ!」

「ありえん! 油断したというだけでは説明がつかんぞ!?」

 

 

 文明レベルがそれほど高くない世界にも関わらず切り込み隊長であるリザドギルディが敗北したという事実はエレメリアンたちに少なくない衝撃を与え、あちこちから怒号があがるほどの混乱となっていた。

 

 

 

「――――静まれぃ!!」

 

 

 

 そんな中、ただの一喝で狂乱を静めたのは竜のような姿をした怪物。

 ただ座っているだけにも関わらず、その巨躯から発散される闘気は大ホールを埋め尽くすほどであり、他の面々とは明らかに格が違った。

 

 

「ド、ドラグギルディ隊長……」

 

「リザドギルディの力は師である我がよく知っておる。しかし、それを打ち負かすほどの戦士たちが密かに存在していたということだ」

 

 

 

「――――これを見よ」

 

 

 

 その言葉とともに部屋前方の大型モニターに映しだされたのは、変身した総二と葵の姿――――すなわち、テイルレッドとテイルホワイトだった。

 

 

 おおおお、と一斉に感嘆の声があがり、即座に怪人たちから意見が上がる。

 

 

「なんと見事な! むぅぅ、あのツインテールならば頷く他あるまい……」

「しかし、レッド、ホワイトということはまだ他にもツインテール幼女がいるのではありませぬか……!? はぁはぁ」

「落ち着け、ブラックとホワイトの二人組ヒーローというものも存在すると聞いたことがあるぞ!」

「これほどのツインテールを持つ幼j……戦士が、同じ世界に二人も存在するとは…!」

 

 

「神が生み出した偶然としか言いようがあるまい。例え文明レベルがどうであれ、その理を超越した戦士が一人二人存在しようと不思議はない。これまでも、何度か我らを脅かすほどの強敵と相まみえたであろう」

 

「……ですが今までの強敵もすべからく我々の手で――――――むおおこれはっ!?」

 

 

 ガタガタッ、と一斉に屈強な戦士たちが立ち上がり、その視線の先には六分割されて幼い戦士を各方向から余すこと無く映し出すモニター。当然のごとくツイテールが躍動する瞬間を事細かく撮影されており、葵か総二が見れば一体何人に撮影させたんだよ!? と叫びながら戦慄するのは避けられなかっただろう。

 

 

「……いやしかし、テイルレッドのなんと愛らしいことか」

「だが、無口幼女も捨てがたい」

 

 

 ざわ……ざわ……と口々に好き勝手なことを呟きながら食い入るように画面を見つめる怪人たちの中、とある意見があがった。

 

 

「しかし、出会って早々に握手を交わすということはこの二人には面識があるのではないか?」

 

 

「「「―――――!!」」」

 

 

 流石のエレメリアンといえど重度のツインテール馬鹿二人が出会った化学反応だとは気づけなかったようである。少なくとも、同じツインテール馬鹿なエレメリアンでもなければ。

 

 

 

「まさか、かつてはツイテールの愛ゆえに争った間柄でありながらレッドのピンチに駆けつけた……つまりはそういうことか!」

 

「いいや、これはかつてレッドがホワイトを助け! その借りを返しに来たのでは!?」

 

「だがこのコンビネーション……一朝一夕でできるものではあるまい」

 

 

 

 ……リザドギルディを悼むはずが、いつの間にかツインテールの品評会に。更に勝手に妄想をふくらませる場になっていた。

 そして、数分の時がたってあらかたの意見が出尽くし。頃合いと見たドラグギルディが口端を吊り上げつつ言った。

 

 

 

 

「さて、どうする? 怯えて尻尾を巻き、別の世界へと旅立つか?」

 

 

 その顔に僅かに笑みさえ浮べて、一同を見渡し。

 聞くまでもない、という共通の想いとともに皆不敵に微笑んでいた。

 

 

「何を仰います。あれほどのツインテールを前に他の雑多な世界へ逃げろと!?」

「二対の髪(ツインテール)、二人の幼女……まさしくここが我が求めた理想郷! 何をためらうことがありましょう!」

 

 

 

「―――――ならば、何も変わらぬな! 何よりも鮮烈に輝くあのツインテールともども、この世界の全ての属性力を頂くのだ!」

 

「「「「然り! 然り! 然り!」」」」

 

 

 

 一糸乱れぬ掛け声が割れんばかりに響き渡り、震わせる。

 

 彼らはアルティメギル。

 世界を超越し人類に仇なす、非情な怪物たち――――ということに一応なっているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 そんなわけで粗方テイルギアやエレメリアン、アルティメギルについての説明を聞き終え、日も暮れてきた頃。

 

 

 

「そういえば、テイルギアを造ったのは小さい女の子好きの科学者って言ってたけど知り合いなのか?」

「…………………面識は、ありますよ?」

 

 

 果てしなく長い沈黙の末、リィリアが応える。だが、眼が死んでいた。

 お願いだから聞かないでくれ、とその小さな肩が語っているような気すらする。

 

 

「……そ、そっか。じゃああれだ。えーと、そう! 今日一緒に戦った――――テイルレッドは? 知り合いだったりするのか?」

 

「いいえ。私も初めて見ました。ですが、もしかしたら……その、例の科学者が選んだツインテールの戦士か――――はぁ……」

 

 

 

 ……まじでその科学者は何者というかどうしたらこんな反応になるのだろうか。リィリアのSAN値がダダ下がりしているのが目に見えるかのようなんだが。

 いや、その科学者の好きな“小さい女の子”の範囲にほぼ間違いなく入っているリィリアなら何かしらの嫌な目に遭わされたのだろうと察すべきだった。

 

 

 

「と、とにかく! この指輪……テイルリングって言ったっけ? は俺が使っていいんだよな?」

 

「―――――…いいの、ですか?」

 

 

 

 先ほどから、リィリアがそのことをどう切り出そうか迷っているのはなんとなく感じていた。

 

 

――――――戦い続けるのか、否か。

 

 

 エレメリアンは無数にいるという。

 当然ながら今日の相手より強い敵がいるのは間違いなく。自分の命ともいえるツインテールへの愛を賭けて戦わなければならないだろう。そうでなくとも今までのような平穏な生活には戻れないかもしれない。

 

 

 

「……まぁ、どうせ特に目標を持って生きてるわけでもなかったしな。あんな小さい女の子だけに任せとくわけにもいかないし――――ツインテールのためだし。俺も戦う」

 

「神宮寺さん……」

 

 

(これ、あの子も変身で小さくなってるのかもって言わないほうがいい……ですよね?)

 

 

 頭の中で危険の笑みを浮かべる某科学者を思い浮かべつつ、「まぁ、あれだけ可愛らしいのに男の子なわけないですし。女の子には違いないでしょう」と自己完結したリィリアは笑顔で頷いて言った。

 

 

「じゃあ、サポートは任せてください! 転送装置とサーチャーもすぐに準備しますね!」

「おう!」

 

 

「これから、がんばりましょう!」

「ああ!!」

 

 

「じゃあ、行き場がないのでここに泊めてもらいますね!」

「おうよ! ……ん?」

 

 

 

 

 そんなこんなで泊める泊めないで言い争ったり、晩御飯のカレーの具材で揉めたりしながらも、これから二人でアルティメギルと戦っていくのだと――――そう気持ちを引き締めて。

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

 つぎのひ。はやくも こころが おれそうだ。

 

 

 

 

「―――――私は、あの少女たちに、心奪われましたわ!!」

 

 

 

 陽月学園は一時限目の授業を中止し、体育館で急遽全校集会を開いていた。

 壇上には昨日アルティメギルに狙われたうちの1人でもある生徒会長こと神堂 慧理那さん。

 

 で、体育館に溢れかえっているのは うおおおおお! と地響きかと見紛うほどの喝采を叫ぶ全校生徒。いやまて、お前らノリが良すぎるだろう?!

 

 

「その言葉、待ちわびたぜ会長!」

「会長が言うなら、最早ちっちゃい子はぁはぁすることに何の躊躇いもないぜ!」

「むしろ会長はぁはぁ!」

「躊躇うな、振り返るな! 戦え! 社会がなんじゃー!」

 

 

 

 おまわりさん、こいつらです。

 

 ここには学校じゃなく病院が必要なんじゃないだろうか。昨日のリィリアを彷彿させる死んだ眼をしながら周囲を見渡していた俺は、なんとなく似たような眼をした観束と目が合った。……ツインテール好きでも、案外常識人だったんだな……。

 

 

 

「これをご覧あれ!」

 

 

 と、そこで響いた神堂会長の声に、反射的に前を見てしまった。

 そこには、大型スクリーンにデカデカとテイルレッドと変身した俺の写真が。

 

 

「「「ウオオオオ―――――ッ!!」」」

「ぎゃぁぁぁっ!?」

 

 

 

 やめて、死んじゃう。社会的に。

 というか周囲と真逆の悲鳴を上げてるのに完全にかき消されてるんだけど!? 

 

 

「う、ぐぅぅぅ」

 

 

 胃に凄まじいダメージが直撃しているものの、それでもついついツインテールを目で追ってしまう。

 

 

 ………素晴らしいツインテールだ。

 

 今なお壇上で熱弁を振るう神堂会長と、画面内でありながら燦々と煌めくテイルレッドのツインテールは、最早魂を奪い取りにきているのではと疑うほどの壮観さ。

 

 そしてテイルホワイトのツインテールも、自分が変身した姿だと考えなければ……。

 

 

 

「神堂家は、あの方たちを全力で支援すると決定しました! 皆さんもどうか、わたくしと共に新時代の救世主を応援していきましょう!!」

 

 

 

 大きくなる歓声に、俺(テイルホワイト)たちのツインテールに向けられる熱い眼差し……。

 ああ、ツインテールに、あのツインテールに触れてみたい――――…。

 

 

 ……あれ、変身すればできるんじゃね?

 

 

 

 一瞬、テイルホワイトのツインテールをはぁはぁしながら触っている自分の姿が脳裏に浮かび。そっと自分の左頬をぶん殴った。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 応援してもらえるのは嬉しいことだ。――――幼女化という、果てしない業を背負ってさえいなければ。

 

 

(バレたらどうなるのか、なんて恐ろしすぎて考えたくない…っ)

 

 

 そこら中のうわさ話全てが、テイルレッドとホワイトに関するものなのでは、という気すらしてきてしまい、正直に言って授業どころじゃない。

 

 ……リザドギルディと戦うのとどっちが精神ダメージが大きかったかなぁ……などとぼんやり考えてしまうくらいに疲労しながら、ようやく昼休みになった時に思わず安堵の溜息を吐いてしまったほどだ。

 

 

 

(……人気の、人気のないところで静かに飯が食いたい…っ)

 

 

 リィリアに持たされた弁当箱を持ってふらふらと席を立ち上がり――――。

 

 

「おお、この画像はまだ見たことなかった!」

 

 

 声の聞こえた方に反射的に視線を向けてしまうと、そこには窓際にたむろして食い入るようにタブレットを見つめるたくさんの男子。

 

 ……どんな画像か気になりはしたものの、そっと踵を返し――――。

 

 

「決―めた! 今日から俺が、テイルレッドたんのお兄ちゃん!」

「ッブ~~~~~~~ッ!?」

 

 

 あ、観束がフルーツオレを吹いた。無意識なのか、ツインテールにはかからないように津辺さんの顔面に直撃させるあたりは流石ツインテール部の創設希望者か。

 ……というか、ゴメン。観束ってツインテールが好きすぎてリザドギルディと同じ方向性な人なんじゃないかとまだ疑ってたんだけどホントに常識人だったんだな…。いや、これで「俺がテイルレッドのお兄ちゃんだ!」とか叫んだら失望するが。

 

 

 とかなんとか考えている間に男たちのひそひそ(?)話はヒートアップしていき、傍目にも手がつけられない状況になっていく。

 

 

「かわいいなあ! かわいいなあ! かわいいなあ!!」

 

 

 お前らも少しは可愛げのある応援をしてくれ……。

 

 

「俺、巨乳好きだったんだけどなぁ……目覚めちまったよ」

 

 

 何にだ。何に目覚めた!? いや、頼むからそのまま眠らせといてくれ!

 

 

「うへへ、剣に刀……我武者羅に振り回してるのが堪らなくかわいいな! 俺も斬ってほしいなぁ」

 

 

 今すぐ我武者羅に切りまくってやりたい。

 

 

「あー、もう、たまらん!!」

 

 

 タブレットの持ち主が、ついに口を尖らせて画面に近づけ――――。

 

 

 

「うおぉぉぉぉいっ!?」

「オアーーーー!!」

 

 

 テイルレッドかホワイトか、どちらが狙われたのか判断する暇もなく咄嗟に空のペットボトルを投げつける。それはギリギリのところで顔とタブレットの間に割り込むことに成功し。更にその側頭部に叫び声と共に観束の投げたマグボトルが直撃した。……痛そうだな。

 

 

「痛ぇ!? 何すんだ、観束! それと神宮寺!」

 

 

 ……昨日やらかした観束はともかく、よく俺の名前まで覚えてるな!?

 と、俺が驚いている間に観束が叫ぶ。

 

 

「お前、恥を知れよ、そんな小さな女の子に!」

 

 

 ……自分のことで必死な俺と違って、なんて立派なんだ観束…!?

 ちなみにタブレットに映っているのはテイルレッドだった。……俺ならスルーしてしまったかもしれない。昨日は一緒に戦った仲間なのにな……。

 

 だが、このクラスメイトにそんな常識は通じなかった。

 

 

「ああ、恥なら受け入れたさ! そして俺は今……ここにいるッ! そしてもちろん俺は、テイルホワイトたんも――――」

 

 

 どこをどう迷子になればそんな境地に辿り着くんだ。

 ……って、やらせるかぁぁぁぁっっ!

 

 今度はテイルホワイトの写真を画面に出しやがった変態に思い切り飛びつき、ヘッドロックを決める。

 

 

「……ドウモ、ロリコン=サン。ロリコン死すべし慈悲はねぇ!」

「アイェェェェェッ!? プロレス!? プロレスナンデ!? プロレスならテイルホワイトたんとがいい……ぐぇぇぇぇぇっ!?」

 

 

 

 

 望み通り、満足いくまで食らっておけ。

 

 

 ………ていうか俺、こんな世界守らないといけないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これでストック0ですー。まぁ、ここまでおよそ2日で書いたのでそこまで影響はないと思いますが…。

書いてみると難しいですねー、この作品の二次。

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