Tail of Twin   作:グラコ口

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いつから次回予告で嘘をつかないと錯覚していた…。
タイトルが違うのは仕様です。

そして明けましておめでとうございまツインテール。





第4話:貧乳星の二房髪姫

 

 

 

「――――と、言うわけで新装備の説明なのです!」

「……おー(パチパチ)」

 

 

 というわけで。エレメリアンが一度も現れなかったからか、拍子抜けするほど連休はあっさりと終わってしまった今。

 暇だったお陰だとかで、新装備が(ほぼ)完成しました! と喜ぶリィリアに頼まれ、俺は自宅でテイルホワイトに変身していた。そうして渡されたのは、蒼色に輝く真新しいリング。

 

 

 

「――――説明しましょう!」

 

 

 どういう仕組なのか、風もないのに白衣を靡かせるリィリアが空中にスクリーンを出現させ(そういえばアルティメギルの宣戦布告のときも似た技術を見たかもしれない)、珍しくノリノリで説明する。

 

 

 

「今回の新装備はこの、多重装填(ツインカートリッジ)リングです! これを指に嵌めて起動ワードを唱えることで、リングに対応した属性が展開して―――ツインテールがパワーアップします!」

 

「――――…っ!?」

 

 

 

 つ、ツインテールが、パワーアップ!?

 

 思わず即座にリィリアからリングを受け取って右手―――中指はテイルリング弐式があるので人差し指――――に嵌め。

 

 

 

 

――――まさにその瞬間、アルティメギルの出現を知らせるアラートが鳴った。

 

 

 

 若干空気を読んで欲しい気はしたが、逆に空気を読んだ結果と言えなくもないことに気づいたので気を取り直す。

 

 

 

 

「――――…ツインテールが、呼んでる…!」

「呼んでないです」

 

 

 冷静に突っ込まれてしまった。

 とはいえ、ツインテールを狙われた女の子が助けを求めているんじゃなかろうか。そんなことを考えている間に素早くパソコンを操作したリィリアがその表情を驚きに染めて叫ぶ。

 

 

「――――葵さん、ものすごい属性力(エレメーラ)反応です…っ! ま、まさか幹部クラスのエレメリアンが二体も……!?」

 

「………大丈夫、問題ない」

 

 

 

 例え相手が幹部?だろうと、こっちにはレッドとブルーがいるのだ。ブルーが、いるのだ…。どうせまた虐殺になっちゃうんだろうなぁ……と思っていると、リィリアに枕を投げつけられた。

 

 

「………?」

「幹部クラスが二体は、つまりドラグギルディ並が二人ということですっ!」

 

 

 

 

……

………

…………What?

 

 

 

 

 え、ちょっと待って。アレが二人?

 あれってゲームとかなら『第一部、完!』とかなる感じのボスが、二人……!?

 リィリアがダメージを与えた後、レッドと二人でギリギリ勝ったのに!?

 

 

 

 

「………うん、今こそ新たな力。がんばる。」

「――――ちょ、ちょっと待って下さい葵さんっ!? まだ調整が―――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「この摩天楼を颯爽と闊歩する、巨乳のツインテールはおらんか!」

「違う! 私たちは正しく貧乳のツインテールを求めなければならぬのだ!」

 

 

 

 転送ゲートの光の中を抜けると、そこでは汚らわしい言葉が乱舞していた。

 テイルレッドに変身した俺と愛香は同時に蹴躓き、両手を腰の横でピンと伸ばした姿勢でボブスレーのように地面を滑走。いつぞやのクラブギルディの気分を味わいながら延々と滑り続けた。

 

 

 

「……何よ! 何なのよ最近のこいつらは! なんで乳ばっかに拘ってるのよ!?」

 

 

 

 嗚呼、さっきのトゥアールとの「実は巨乳ギアでも貧乳な愛香さんを嘲笑ってあげようと思ってました!」「ギアさえ貰えれば血祭りにあげるつもりだった!」という修復不能な溝ができそうな告白で何故か、恐らくはその場の空気のお陰で奇跡的に愛香とトゥアールが分かり合い、かつてなく盛り上がっていた気分が冷水を掛けられたかのように萎んでいくのがはっきりと分かる。が、このまま帰りますというわけにもいかない。

 

 

 

「落ち着け、ブルー! 今までだって大概だっただろブルマとかスク水とか!!」

「あたしは乳を力に変えて戦う全ての存在が許せないのよおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 男の俺には理解の埒外にある怒りでブルーが咆哮し、都心のビル群にその声が響き渡る。……その声のお陰で避難の遅れていた人の一部が慌てて逃げ出したが、最近はエレメリアンが危害は加えないという安全神話が流布されているせいで残っている人が大勢いる。そして同時に、その声で二体のエレメリアンがこちらに向き直る。

 

 

 

「これだけ人が密集している場所で幹部クラスとやりあうのはまずいぞ…!」

 

 

 

 できれば属性力測定器の誤作動であってほしかったのだが、向かい合うだけで感じ取れる、押しつぶされるような圧迫感は有象無象の敵とは別物だ。これこそが幹部級の証なのだろう。

 もしこのまま山林でのドラグギルディ戦のような戦いになれば、撮影や観戦をしているギャラリーなどひとたまりもないだろう。

 

 

 そんなことを考えていると、全身にヒレのようなパーツの目立つ巨大なエレメリアンが俺を見る。

 

 

 

「こ、これがテイルレッドか……巨乳属性の俺の心をも揺さぶる、三千世界に轟く究極のツインテール………惜しい! 成長したその時に出会えていれば……そのツインテールを天の川に輝く煌星のように巨乳が彩っていただろうに!」

 

 

 

 すると、もう一人のイカのようなエレメリアンがそれに対して怒声をあげる。

 

 

 

「妄言はそこまでにしろ、俗物め! 彼女の美しさは既に完成されている! ありもしない妄想でそれを汚そうなど、破滅に至る傲慢だ! それに、もう一人のツインテイ、ル、ズ…………は……」

 

「はいはいテイルレッドテイルレッドね、もー慣れたっての」

 

 

 

「ブルー!!」

「ッ――――!?」

 

 

 

 

 

 呆れたようにブルーが呟いたその一瞬の隙。その間、瞬きほどの間で、そのエレメリアンはブルーの眼前にまで接近していた。

 致命的な隙を見せたブルーにしかし、そのエレメリアンは騎士がその主にそうするかのように地面に片膝をついて礼をした。

 

 

 

「………………美しい……」

 

「え?」

 

 

 誰が呟いたのかもわからない、そのつぶやき。恐らくそれはこの場に居合わせた全員の総意だったに違いない。が、そんなことはお構いなしにそのエレメリアンは話し続ける。

 

 

 

「我が名はクラーケギルディ。我が剣を貴女に捧げたい。我が心のプリンセスよ」

 

 

 

 そう言ってクラーケギルディは腰に携えていた細身の長剣を抜き、刃に手を添えて愛香に差し出す。

 

 

 

 

 

「――――わたしは、テイルホワイト。……レッド………ツインテール?」

 

 

 

 

―――――そして何故かこっちはホワイトがツインテールを差し出してるううう!?

 

 

 

 なんだろう、カッコイイから真似してみたかったけど言い切れなくてとりあえずツインテールって言っておこうかなみたいな空気がする! けどありがとう、ツインテールはしっかり触らせてもらう!

 

 そしてそのままユニフォーム交換の如く抱き合って互いの健闘(ツインテール)を讃え合う。何故か野次馬からの写真のフラッシュが凄まじい激しさになった気がしたが、お互いにツインテールに夢中でそれどころじゃなかったりした。……と、いうか。そうすることで凄まじい勢いで感じる嫌な予感から目を逸らしていたかった。

 

 

 

 ………最初にあのイカ風エレメリアンが言っていた「貧乳のツインテールを」という言葉。それが、きっと、全てを示している……。そして、今。それは再び放たれた。火薬庫に爆弾を投げつけるかのごとく。ロケットランチャーを撃ち込むが如く。

 

 

 

 

 

「―――――最高の貧乳を持つ、麗しきプリンセスよ!!」

「…………………………………………………は?」

 

 

 

 あ、これヤバイ。

 ホワイトと抱き合ったまま、互いの身体がぞくり、と震えたのを感じる。しかし愛香の貧乳への感動のあまり空気が変わったことに気づけないのか、クラーケギルディはその魂の叫びをやめてはくれない。

 

 

 

「ツインテールには貧乳こそ相応しい……生涯をかけた私の思いが今、ようやく結実したのです! 最大級のツインテール属性をもつあなたが、よもやこれほどまでに美しく光り輝く貧乳をも兼ね備えていらっしゃるとは!!」

 

 

 

 遠巻きにギャラリーがいる中、これが公開処刑でなくてなんなのだろう。

 あるいは挑発としてなら歴代最優秀賞を謹んで送ってでも中断させたいレベルだった。しかもそこで何故か、トゥアールが通信で追い打ちをかける。

 

 

 

『もしかして愛香さんがさっき変身できなかったのって、愛香さんに貧乳属性が着々と芽吹いているせいなのかもしれませんよ! ププ――――プププププ!!』

 

 

 

 あれだけ、さっき結束を確認したはずなんだけどなぁ……。

 死体に鞭打つようなトゥアールの高笑いにしかし、愛香は逆に少し落ち着いたように見え。もしかしてこのために――――と思った俺に、ホワイトが小さく呟く。

 

 

 

 

「………また、おかしい人をなくした……」

 

「い、いや、あれは落ち着いたんじゃ――――?」

 

 

 

「ねぇ、トゥアール。帰る前に、シャワーを浴びて待っててね―――――」

『えー、愛香さんったら、いきなりステップアップしすぎですよーぉ』

 

 

 

 

「――――綺麗な身体で、逝きたいでしょう?」

 

 

 

 

―――――ホントだ!?

 

 

 

 今、愛香が……愛の遥か彼方を超え、憎しみを超越し、阿修羅をも凌駕した…!

 能面のような無表情で、ただその瞳だけがギラギラと輝くその姿は、まさに鬼神! 迸る怒りのオーラが大気を歪め、陽炎を生み出しているような錯覚すら覚える。

 

 

 その迫力たるや、もはや幹部クラスを凌駕するレベル。

 今の愛香を止めるのは、恐らく生身で暴走特急を止めるくらいの覚悟が必要だろう。

 

 

 

『そ、そ、総二様! 倒して下さい! あれは敵です! エレメリアン以上の、地球の脅威です! 倒せるのは貴方しかいないんです、総二様ァァァ!!』

 

「……すまん。もう強敵が二体いるし……」

 

「…………強く、生きて」

 

 

 

 幹部クラス二体、そして大怪獣。とても勝てる相手じゃない。特に後者はヤバい。テイルギアごと粉砕されて玉砕する未来がもう見えている。

 

 

 

「………帰ろうかな」

 

 

「いや、待ってくれホワイト! 頼むから置いてかないでくれ!」

「もうみんな避難した…? この辺全部更地にしても保険が利くかな?」

 

 

 

 まだ俺たちの避難が終わってないんだよおおおお!!

 そんなことはお構いなしにブルーがウェイブランスを出現させ、かつてなく獰猛な風切音とともに振り回す。そして、その時。声が響いた――――。

 

 

 

「テイルレッドー! ホワイトー! 頑張ってくださいましー!」

 

 

 

 背後のギャラリーから聞こえる、俺たちを応援する幼い少女の声。

 半ば諦めかけていたホワイトが再び敵に向き直り、俺もブレイザーブレイドを出現させて握りしめ、ホワイトと顔を見合わせて頷きあう。

 

 

 ……子どもの清らかな声援を貰っても、俺たちに惨劇は止めらないのだろう…。

 

 

 

―――――けど、それでも。

 

 

 

 最後まであがき続けるのが、きっと俺たちに見せてやれる唯一の、ヒーローっぽい姿ってやつなのかもしれない……と。

 

 

 

 

 

「………あ、会長。」

 

「え――――? って、本当にまた会長がいる――――!?」

 

 

 

 横で刀、叢雲を出現させたホワイトの呟きに振り返ると、桜川先生に連れられて本当に神堂会長がいた! そして、そのことはギリギリのところでブルーの怒りを押しとどめてくれた。

 

 

 

「まずいわ、会長に気づかれたらこの騎士馬鹿に狙われちゃう!! 会長はあたしよりも胸が小さいわ……あたしよりもね……!!」

 

「何故繰り返す!?」

「……大事なこと…?」

 

 

 しかし皮肉にも、俺たちが騒いだことで、噂の奴も会長に気づいてしまい――…。

 クラーケギルディはとても真剣な表情とともにその言葉を言い放った。

 

 

 

 

「確かによいツインテール属性だ。だが――――…幼い少女は胸が小さくて当たり前なのだ! ときめく道理は、ないッ!」

 

「……つまり、あたしは当たり前じゃないって言うのね……ハハハ、ハハハハハ……」

 

 

 

 もうやめてくれぇぇぇっ! もうブルーの堪忍袋のライフは0だぁぁぁっ!! 緒とかそんなレベルじゃなく、堪忍袋そのものが破裂した音が聞こえたような気すらする。

 

 

 騎士道。研ぎ澄まされた刃の如き信念が愛香に突き刺さり、愛香の心が血を流す様が目に見えるようだった。そして壊れた心が、失った血を求めている――――。

 

 

 

 まさに惨劇が起ころうとした、その瞬間だった。

 

 

 

「さあご覧あれプリンセスよ! これで私が本気だと分かっていただけるはず!」

 

 

 

 クラーケギルディがおびただしい闘気を漲らせ、その纏っていた鎧がはじけ飛ぶ――――かと思われたが、そうではなく。鎧だと思われていたのは、無数の触手。急速に広がったそれらが、摩天楼に囲われた空を俺たちから覆い隠す。

 

 

 

「あれが、あいつの戦闘形態なのか!?」

「………強そう」

 

 

 

 恐らくは、ドラグギルディの“ツインテールの竜翼陣”と同種の戦闘形態。ドラグギルディが竜の翼の如くツインテールを広げたように、伝説の海魔、クラーケンの如きこの姿ことがクラーケギルディの全力なのだろう。

 

 しかし、その敵の姿より驚くべきことが起きた。

 

 

 

 

 「い、い、い、いやああああああああああああああああああああ!?」

 

 

 

 なんと、それを見た愛香が突然絹を裂くような叫び声を上げたのである。

 

 

「落ち着け、ブルー! どうしたんだ!!」

「触手……触手ううううううっ」

 

 

「……ああいうの、苦手な人も多いらしい。………ってリィリアが(ボソッ」

 

 

 

 ……グロテスクというよりはどこかコミカルな感じのうねうねだと思うのだが、ホワイトが言うなら女性からするとあれでも十二分に気持ち悪いものなのかもしれない。とりあえず、ホワイトは大丈夫そうだが。

 

 

 

「……とにかく、ブルーを守らないと…! ホワイト、俺がクラーケギルディの相手をするか?」

 

 

 

 一応、苦手ならこちらで引き受けたほうがいいかもしれない。

 そう思ったが、ホワイトは静かに首を横に振った。

 

 

 

「……イカは食材。捌くならこっちのほうが切れ味いい。」

 

 

 あと、わたし疾いから。多くても平気。と刀を構えて呟くホワイトに頷き返し。俺はもう一人の巨乳属性エレメリアンに、ホワイトはクラーケギルディに向かっていった――――。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「なぜ怯えられるか、姫! これは我が求婚の儀! あらん限りの愛の証明なのです!」

「嘘オオオオオオオオオ触手にプロポーズされたアアアアアアア!!」

 

 

 

 ブルーはもはや白目を剥き、血を吐かん勢いで絶叫している。なんかよくわからないが、女の子にとってプロポーズはやはり重要なものなのかもしれない。……最近、婚姻届をやたらと配る人をみかけたせいでプロポーズって軽いもののような気がしちゃってたけど。

 

 

 

『……葵さん、プロポーズは。初プロポーズは、好きな人からされてみたいんです……』

 

 

 

 まぁ当然プロポーズ”される”という関係からそうそう上手くいくものでもないのだろうが。しみじみと呟くリィリアから察するに夢くらいは見たいのだろう。……俺も一度でいいからツインテールが似合う人から告白とかされてみたいし。無理だろうけど。

 

 

 

「ひどいよ、こんなのってないよ!」

 

 

 まさかブルーが号泣するのを見ることになるとは。鬼の目にも……いやなんでも。

 とりあえず、まぁ。嫌がってる人に触手を見せびらかせ続けるのはあまり関心しない。

 

 俺は新しく人差し指に輝く蒼のリングに意識を集中させ――――叫ぶ。

 

 

 

 

「―――――多重装填(ツインカートリッジ)、……接続(コネクトオン)…!」

『……って、えっ!? あ、葵さんっ!?』

 

 

 

 

―――――髪紐属性(リボン)

 

 

 

 

 瞬間、身体が純白の光に包まれる。ボディースーツのみを残して全ての装甲が光に変わり。ツインテールを結わえるフォースリヴォンを基点に、テイルギアが大きくその姿を変える―――!

 

 

 ちょうど髪紐属性(リボン)を発動させたブルーのように大きく伸びた純白のリボンが翼のように大きく広がり。それに応えるようにリボンをイメージさせる、軽やかでありながらふわりとした軽量の装甲が四肢を彩るように瞬くほどの間に展開される。

 

 

 そして、俺の意思に応える翼となったリボンを大きく羽撃かせ、冷気を散らしながら、俺は厚い触手の壁に囲まれつつある空を見据えた。

 

 

 

 

 

――――いける!

 

 

 

 

 まるで全身が翼になったかのような軽やかさ。属性力の蒼い輝きに包まれた叢雲を手に、クラーケギルディとブルーの間に躍り出る――――!

 

 

 

「――――…ゃぁぁぁああっ!」

「む、私の邪魔を――――!」

 

 

 

 刀を握る右腕を一閃。羽撃く翼を体現するかのようなリボンの装甲を得た腕が、風を斬るたびにその速度を増す。刀の届く範囲の触手全てを斬り落とし、更なる獲物を求めて一歩前へ。踏み出した右足が風を踏み、風に乗り、またその速度を増す。

 

 かつてない速度で放たれた二の太刀が気流を乱し、その流れに乗って更に速度を増す。

 

 

 

「な、なんだ、その疾さは――――!?」

 

 

 

 クラーケギルディが驚愕の声をあげるが、こんなものじゃないはずだ。

 

 

 

―――――まだだ、もっと、もっと疾く!

 

 

 

 本能(ツインテール)(リボン)に突き動かされるまま、大気を踏みしめる。

 

 

 

 

『こ、これが髪紐属性(リボン)を得たテイルギアの―――ホワイトの力…っ!? 風を味方にして、速度を上げている――――っ!』

 

 

(ツインテールも、リボンも、風に靡くもの。だから、今の俺も―――風を掴めない道理は、ない…ッ!)

 

 

 

 虚空を踏み抜くはずの足が、リボンが、大気を掴む。しっかりと風を踏みしめて、ただひたすらに、真っ直ぐに、前へ!

 靡くツインテールとリボンの翼に後押しされ、触手に覆われた空に舞い上がる―――!

 

 

 

 

「ぁぁぁぁあああああああああああ!!」

 

 

 

 

 斬る。腕を振るう度、歩を進める度に速度を増す。斬る度にその刃はひたすらに鋭くなる。斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る斬る!!

 

 

 いつの間にか風すら置き去りにして、自在に空を駆け巡る!

 

 

 

 

「―――――ブレイク……、レリぃぃ―――ズ…ッ!」

 

 

 

 

 完全開放された刀から、そしてリボンの翼と装甲から白銀の冷気が放出される。その力に後押しされるかのように、鋼糸の如く細かく分かれた純白のリボンが天を覆う無数の触手を切り裂きながら爆発的に広がり、ツインテールの後光の如く眩い輝きを放つ―――!

 

 

 

 

「――――――…パーフィリオン、グレイブ!」

 

 

 

 

 瞬間、展開されたリボンが、そしてそのリボンに切り裂かれた触手の全てが小さな氷の欠片になって降り注ぎ。開けた空からの太陽の光が、それらを、そしてツインテールを宝石の如く輝かせる。

 

 

 

 

「……な、なんと美しきツインテールか………」

「す、すげえ……」

 

 

 

 いつの間にか戦闘を中断して見入っていたらしいもう一人のエレメリアンとレッドの声を受けて、地面に降り立ち――――がくり、と膝が抜けた。

 

 

 

「………あ」

『――――あ、葵さん! すぐに離脱して下さい!』

 

 

 

 オーバーヒートです! と叫ぶリィリアの声に応える余裕もなく、凄まじい虚脱感を感じてその場にへたり込んでしまう。……どころか、展開されていたリボン装甲がアンダースーツだけを残してただのリボンに変わり――――。

 

 

 

 

「………う、うごけない…っ」

 

 

 

 リボンで梱包されたような姿勢で、引きちぎろうにも身体に力が入らず、これではツインテールを差し出すプレゼントと変わりない。思わずレッドに視線で助けを求めるが、もう一人の幹部エレメリアンと向かい合った状況のレッドは動けない。……それなら?

 

 

 ブルーを見る。

 が、未だに大泣きしている状態で、どうにもなりそうにない。いよいよ万事休すか―――そう思ったその瞬間。

 

 

 

「……ちっ!」

 

 

 

 もう一人のエレメリアンが大げさにそっぽを向いて舌打ちし、

 

 

「興が削がれたわ! 元々小手調べのつもりであった故、目的は果たした!」

 

 

 

 そして、クラーケギルディの肩を掴んで退却を促した。

 

 

 

「テイルレッド! 今日のところは勝負を預ける! 次の戦いまでに不甲斐ない仲間の涙を拭き、せいぜい身体を休ませておくがいい!」

 

「お前……」

 

 

 

「俺の名はリヴァイアギルディ! 巨乳属性(ラージバスト)を奉ずる戦士! 俺は、こやつ程甘くはないぞ!」

 

 

 

 ……ひょっとしなくても、見逃してくれるのだろうか。

 義理堅いエレメリアンのことだから、もしかすると仲間がブルーを泣かせてしまった責任を感じているのかもしれない。

 

 

 

「ぐうう! 姫、姫えええ!!」

 

 

 そんなリヴァイアギルディに引きずられるクラーケギルディは、往生際悪く最後に一本残った触手を伸ばし、それがピトリ、とブルーの手の甲に触れ。

 

 

 

「え………お………………きゅう」

 

 

 なんとも言えない声とともに、ブルーが気絶してしまった。

 そしてその瞬間、素晴らしい反応でレッドがブルーの救助のために飛び出す。

 

 

「まずい!!」

『葵さんっ、煙幕を!』

 

「――――…っ!」

 

 

 

―――――無茶言うな。

 

 

 

「………ぇいっ」

 

 

 仕方なく最後の力で軽く冷気の煙幕を出し、そのまま倒れこむように転送装置を起動させ―――――光に包まれ、変身の解けかけたブルーを抱えたレッドを見送りながら、自身もその場を離脱するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

「あー、おー、いー、さんっ! なんて無茶をするのですかっ! まだ調整は十分じゃなかったのに…! ……葵さん?」

 

 

 

 ごめん、もう無理。

 声を出す気力もなく、ベッドの上に転送された体勢のままで目を閉じる。

 

 

 

「………あ、葵さん……? し、しっかりしてください…っ!? う、うそ、そんな………………わ、わたしのせいで……? ふ、ふえぇ……」

 

 

「………い、生きてるから」

 

 

 

 お願いだから涙目で揺するの止めてくれ…。

 罪悪感とプラス揺すられて気分が悪くなってくるから……。

 

 

 

 

―――――次は、心配かけないように勝とう。

 

 

 

 そんなことを考えながら、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 




Q.すごい、ホワイト強そう! ……大丈夫なの?

A.リヴォンコネクト(仮称)の最高速度でレッドのフォーラーチェインの初速とほぼ同じ(白目)です。なお、持続時間もこっちの方が短い模様。ただし必殺技は広範囲攻撃なので優秀。





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