Tail of Twin   作:グラコ口

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本日午前0時のものを含めれば、本日2話目の投稿です。ご注意下さい。





第10話:決戦・ツインテイルズ

 

 

 

 黒い双暴が髪の如き自在さをもってドラグギルディに襲いかかり、その余波で地面を砕き、山を削る。その一撃一撃にこめられた属性力たるやドラグギルディをして守勢に回らざるをえないほどであり、周囲にいた戦闘員たちをもまとめてなぎ払い、レッドとブルーも近づくことすらままならない。

 

 

 

 

「―――――ァァァァアアアッ!」

「愛ゆえに、失われたことを憎む―――…それは我らが理解されぬのと同じく、我らには理解できぬことよ」

 

 

 

 否。理解してしまえば、それを糧とする同胞たちは生きてはいけない。

 しかしそれでも、眼前の光景には認めざるを得ない何かがあった。

 

 

 

――――――暴走したテイルギアは既に崩壊が始まり、自らの振るった力の余波で全身から血を流す。

 

 

 そして、眩いばかりの属性力の高まり。

 まるで燃え尽きようとするものが放つ最後の輝きのような。

 

 

 それを、レッドのツインテールと同じように美しいと見ることはできなかった。

 胸を満たすのは、もっと別の――――…。

 

 

 

 

「――――…だが、認めよう。お主の覚悟(ツインテール)を! 燃え尽きんとするならば、それより前に我が奪ってみせよう! それが――――我が愛よ!」

 

 

 

 

 

 我も、命を懸けて証明してみせよう――――!

 

 

 

 その闘気が頭部に集い、二つに分かれて流麗な流れを描き出す。

 属性玉の輝きに似た、生命そのもの、魂そのものの輝き。無数の光条が形作る、その姿こそはまさしく―――――。

 

 

 

「ド、ドラグギルディが……ツインテールに!?」

「これが我が最終闘態……ツインテールの竜翼陣(はばたき)! ツインテール属性を極限まで開放した、見敵必殺の奥義よ!!」

 

 

 そこには男がツインテールになることへの恥じらいも、不快さすらもなく。

 ただ、互いの覚悟(ツインテール)のみがあった。

 

 

 互いが放ったツインテールの闘気が大気を震わせ、地を抉り、戦闘員たちが宙を舞う。嵐と嵐がぶつかり合うような、起こるべからざる現象があらゆるものを破壊せんと荒れ狂う。最早余人に入り込む余地すらなく、近づくだけで命を失いかねない、そんな戦場に残る2人の戦士がいた。

 

 

「む、無茶よ、レッド! こんなの、人間にどうにかできるものじゃないわ!」

「――――…でも、それでも! あの子が……あの子のツインテールが、泣いているのを感じたんだ!」

 

 

 

「――――…大体、おかしいじゃない! なんでこんな大事な時にトゥアールは返事もしないの!? なんでホワイトがあんなになってるのよ!? やっぱりあたし達、トゥアールに担がれたんじゃ……っ」

 

 

 

 

 漠然とした、不安はあった。

 ツインテイルズの活躍で、世界にツインテール属性が拡散しつつある。それは、アルティメギルにとって都合のいい狩場なのではないか。そして、属性力を奪われたテイルホワイトと、目の前で戦うテイルホワイト――――。

 

 

 けれども、それでも。

 俺は―――――。

 

 

 

 

「――――それでも! 目の前で泣いてるツインテールを見捨てられるかよ!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 生きる意味なんて分からず、明確な目標もなく、ただ漠然と暮らしていく。

 それは、いつもと同じだ。そのはずだ。

 

 それなのに――――どうして心にぽっかりと穴が空いてしまったように感じるのだろう。

 なんとなく街を歩いてみても答えは見えず。

 

 

 

 ふと、何かが気になって視線を家の近くのバス停に向ける。

 ちょうど、二房に分けた髪をした女の子がバスに乗り込むところだった。

 

 

 

 

「―――――っ!?」

 

 

 

 

―――――ドクン、と心臓が大きく脈打ったような気がした。

 

 

 

 知って、いる。

 俺は今の光景を見たことがある。そうだ、その髪を■■■■■■にした女の子が、バスに乗るところを――――…!

 

 

 根拠のない予感に突き動かされ、自宅に走る。

 走りながら携帯電話のアドレス帳を、着信履歴を確認する。

 

 

 

 

―――――何も、ない。

 

 

 

 何も特別なことなんてない、友人の総二たちと何回か通話しただけの、寂しい着信履歴だ。アドレスだって、クラスメイトのものしか入っていない。

 

 

 

 けれども、けれども確かに、俺はいつも誰かと話していた。

 

 

 

 

 俺の“隣”には、あの時から――――…。

 

 

 

 

 

「―――――いないのかっ!?」

 

 

 

 エレベーターを呼ぶ間も惜しく階段を駆け上がり、鍵を開けて飛び込むように家に入る。特に何も考えず、けれども“誰か”がそこにいたのだという証拠が欲しくて、片っ端から物を漁る。

 

 

 

 パソコン――――何故か新型のものがあるような気がしたが、ない。とりあえず自分のパソコンの電源を入れておく。

 

 

 

 服――――誰かの寝間着を買ったような気がしたが、それもない。

 

 

 

 何も、どこにも妙なものなんてない。

 白衣のポケット――――そんな単語が頭に浮かんだが、俺は白衣なんて持ってない。

 

 

 

「……く、そっ」

 

 

 

 やっぱり、勘違いだったのか――――?

 

 そんな想いがどこからか湧き上がってきて。やけに喉がカラカラに乾いていた。……やはり、無駄に全力で走ったしまったからだろう。

 

 そして、いつもと同じくほとんど飲み物くらいしか入っていない冷蔵庫を開き――――そんなものはなかった。

 

 

 

 

 

「―――――…は、はは……あの、馬鹿……」

 

 

 

 それまで気味が悪いほど“いつも通り”だった部屋の中で、唯一“正常”なものがそこにあった。

 

 何を思ったのか、あるいはそれならセーフだと思ったのか冷凍庫には冷凍食品が詰め込まれ、冷蔵庫には健康に良さそうな名前のお茶やら、鍋に入った作りおきのカレーやらが詰め込まれている。

 

 

 

 

「……言ってなかったけどな、元々俺は料理するくらいなら外で食べるんだよ」

 

 

 

 外で食べれば、その途中で―――――■■ン■■■と出会えるかもしれない。

 大体、自宅なんてロクな思い出がない場所は、俺は大嫌い“だった”んだ。

 

 だから、料理なんてここに来てから一度もしていない。そのはずだった。レンジでチンする暇があるのなら、ツ■ン■■■を探しに街に出る。

 

 

 ほとんど空っぽになったシロップの容器を取り出し、一口舐める。

 

 

 

「……甘っ。どこの馬鹿だろうな、こんなのをすぐに空っぽにしたのは」

 

 

 

 甘いものよりツ■ン■ー■。常識である。

 

 なんとなくクローゼットに何かあるような気がして、駆け寄って開ける。

 確かここには俺の本が隠してあって――――…いや、なくなっている。

 

 

 ツ■ン■ールならなんでもいいとばかりに集めた雑多な本だったのだが、何を思ったのか隠されたか処分されて――――。

 

 

 

「……いや、一冊あったか」

 

 

 なにやら無理矢理元の場所に押し込まれたかのような不自然な折り目のついたその本の表紙たるや肌色全開。しかし、その素晴らしいツ■ンテール故についつい保管してしまった、いわゆるウス=異本。えろほんでも可。

 

 

 

「てぇ、あぁぁぁっ!? ツインテールに折り目がついてるぅぅぅぅ!?」

 

 

 

 思わず絶叫。

 その瞬間、右手から何かが砕けるようなピシッ、という音が響き――――。

 

 

 

「………何で俺、こんないかにも不審な指輪を」

 

 

 翡翠色に輝く、不思議材質の指輪。

 それはちょうど、ついこの間までここに輝いていたものと同じような感触で――――しかも、ヒビが入っていた。

 

 

 

「………」

 

 

 テレビをつける。

 ツインテイルズ総復習と題して、ツインテール幼女が二人して抱き合って泣いている映像が流れている。

 

 

 先ほど電源を入れたパソコンが、既に立ち上がっている。

 

 恐らく最も念入りに証拠を消されているだろうから無駄だろうが――――そう思いながら画面に目を遣り、メールが一件だけあった。

 

 

 

 

 

「こ、れは…―――――!?」

 

 

 

 

【件名:ツインテールからあなたへ】

 

 

 

 もちろん、知らない差出人。

 明らかにスパムメールじゃないですかやだー。

 

 

 

「あ、やばい手が勝手に」

 

 

 気がついたら俺は、そのメールを開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 二つのツインテールが激突した戦場では、ツインテールの形に雲が割れ、ツインテールの形に土砂が吹き飛び、ツインテールの地上絵を描き出していた。

 

 

 

 そして、ありとあらゆる生命が凍てつく極低温。

 まるでそのツインテールを永遠に閉じ込めておこうとするかのように、全てを拒絶する冷気が立ち込める。

 

 

 

「……ぅ、ぐ………ぁ」

 

 

 その白い世界に倒れ伏すのは、テイルホワイト。

 完全に黒く染まったツインテールと共に力なく氷の上に横たわり、既に半ばで折れた刀を辛うじて握っているだけ。目に意思の光はなく、誰が勝者かを如実に告げていた。

 

 

 

 

「―――――お主の負けだ。なるほどどんな手を使ったのか、確かにかつてよりも遥かに強大な力であった。だが、それだけだ…!」

 

「……誰が、これで…終わりだと……?」

 

 

 

 ふらり、と幽鬼のような有り様でありながら、それでも立ち上がる。

 全身が錆びついてしまったかのように軋み、僅かに指を動かすだけでも神経が灼熱する。

 

 

 もう、十分に戦った――――。

 

 

 もう、十分だ。だから、次で――――最後だ。

 

 

 

「……皮肉よな。同じ衣を纏う戦士を擁する世界、故に、同じ結末は避けられぬ」

「…………」

 

「どういうことだ!?」

 

 

 

 いつの間にか、自分を庇うようにテイルレッドが立っていた。

 

 

 

 

―――――そう、ツインテールの戦士は世界にツインテール属性を芽吹かせるためにアルティメギルがまく種。世界を滅ぼす、滅びの種。

 

 

 

 けれども、それを知ってもなおツインテールを愛し続けた人がいた。

 守れる限りのツインテールを守って見せるのだと、笑ってみせた人がいた。

 

 

 

 だから、これで終わらせる――――。

 その、まさにその瞬間。ずっと聞きたかった声が、聞こえた。

 

 

 

 

「―――――ダメです、リィリア…ッ!」

「……相、変わらず……仮面の、センスは――――」

 

 

 

 

 例えヘンな仮面を被っていても、見間違えたりなんてしない。

 たとえツインテールを失っても、変わらない。わたしのヒーロー。

 

 こんな時にも駆けつけてくれなくてもいいのに。と少しだけ笑ってしまった。

 

 

 

 

「………属性力(エレメーラ)制限解除(リミットバースト)……っ!」

 

 

 

 

 瞬間、黒銀の輝きが、周囲を覆い尽くすように広がった―――――。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『―――――まず始めに、お詫びをさせて下さい』

 

 

 

 メールに入っていたのは、動画ファイルだった。

 一瞬だけ有料動画を自動的に開く感じのアレかと思ってしまったが、そこに映っていたのは近未来的な機器に囲まれた白銀の髪の美少女だった。

 

 そして、その背後のモニターでは、黒銀の少女と竜のような怪物が戦っている映像が映し出されていた。

 

 

 

『私はかつて、リィリアと共に戦ったツインテールの戦士で―――…私は、世界を守れなかった。私を慕ってくれた子の、そのツインテールが失われるのを見たくなかった。あの子も、私のツインテールが失われてほしくなかった―――…』

 

 

 

 ドラグギルディを、侵攻部隊の隊長を仕留められる可能性ある方法はあったのだという。

 

 

 

 

――――…ツインテールの戦士がその属性力を全て燃やし尽くし、乾坤一擲の一撃を放つ。

 

 

 

 放てば最後。自ら全ての属性力を失い、ツインテールを失う。

 リィリアは執念でその仕組みを生み出し、そして使おうとした。彼女はそれを止めようとし――――その隙に、世界は侵略されてしまった。

 

 

 

『……そして今、彼女は再びそれを使おうとするはずです。……勝手な事を言っているのは、分かっています……っ。それに、彼女は恐らく限界近くまで貴女の属性力を取り出しているでしょう』

 

 

 

 そういえば、属性力とは献血のように悪影響がないように取り出すことも可能だと言っていた。つまり、今の俺はツインテール欠乏状態とでも言える。マトモに戦える状態ではないのだ。……戦いに巻き込まないようにした、というのは考えすぎかもしれないが。

 

 

 

『けど…! けど、あの子は本当にツインテールが大好きで……っ、でも、もうきっと私が止めても聞いてはくれないんです! それができるのは、今のテイルホワイト―――――貴女しかいないんです! お願いします、メールを返信してくだされば、私にできることならなんでもしてみせます…っ!』

 

 

 

 

――――――だから、どうかあの子を、リィリアを助けてください…っ!

 

 

 

 

 その頬に光るのは、涙。

 どうにもここ最近、女の子の最終兵器と名高いそれを何度か目にしている気がする。

 

 

 

 

「………やんなっちまうな、全く」

 

 

 

 ツインテールが好きだから、戦う。

 たったそれだけのはずだったのに、いつの間にか他にも守りたいものができてしまった。

 

 

 

『―――――ツインテール、好き…です?』

 

 

 

 1人の、素晴らしいツインテールを持つ少女と出会って。

 

 

 

『俺たちのツインテールは――――!』

 

 

 

 ツインテールを守るために、可愛らしいツインテール幼女と共闘して。

 

 

 

『――――そこまでよ、変態っ!』

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

『―――――お買い物、楽しみにしてますから…っ!』

 

 

 

 ……いつの間にか、隣にいるのが当たり前になって。

 以前の日々がこんなにも空虚だったのだと、思い知らせてくれやがった相棒。

 

 

 

「まぁ、ツインテールほどじゃないけど」

 

 

 

 ツインテールがない日々が、如何に空虚かはよく分かった。

 けど―――――二人揃って、初めて今の“俺”があるのだ。片方無くなってしまえば、それはもうツインテールじゃない。

 

 

 

 だから、だからさ―――――。

 

 

 

 

 

 

…………………

……………

………

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――暗い。どこまでも暗い心の底に落ちていく。

 

 

 まさか試し撃ちをするわけにもいかない属性力制限解除(リミットバースト)からの一撃は、理論上では全ての属性力を消費する――――どころか心が壊れる危険性すらあるものだ。

 そして、それを放とうとした……放ったはず。ということは、そうなのだろう。

 

 

 

(……もう、わたし………)

 

 

 

 

――――寒い。ただひたすらに、寒かった。

 

 

 

(けど、きっと……)

 

 

 

 これなら、ドラグギルディもタダでは済まないだろう。

 神宮寺さんの属性力を限界ギリギリまで貰って、自分の属性力を全て費やして起こすテイルギアの暴走は、最終的に局所的に次元の狭間を生み出すレベルで結実する。それならば、間違いなくドラグギルディを葬れる。その計算があったから、こんな勝手な行動をしたのだ。

 

 

 

 

(……トゥアール、さん……)

 

 

 

 きっと、怒ってるだろうな。

 

 それでも、1人でも多くのツインテールを助けたいと語ってくれたあの日の夢を、どうしても叶えてあげたかった。それ以外に、もうできることがないから。したいと思えることがなかったから。

 

 

 

 

 ふと気が付くと、黒く染まってしまった自分のツインテールが毛先から徐々に光になって消えつつあった。

 

 

 

(………ぁ)

 

『………はぁはぁ、ツインテール…っ』

 

 

 

 なんとなく、いつかの神宮寺さんの姿を姿を思い出してしまって、こんな時なのにくすりと笑ってしまう。どういうわけか、それをもう見られないのが少しだけ残念な自分がいたけれど。

 

 

 

 

(――――…もうっ、なんだか色々と台無しな気がします―――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、目の前に肌色成分全開な本があった。

 

 いわゆる、えろほんである。

 

 

 

「――――…ひゃぁぁぁああっ!? な、な、な、なんなのですっ!?」

 

「元気そうだな、リィリア……?」

 

 

 

 ひょっとして、例え想像の中でも神宮寺さんには常にリミッターとしてテイルリングをつけておかないと危ないんじゃないだろうか。そんなことを考えながら頭を振って幻覚を消そうとするが、逃がさないとばかりにがっちり頭を掴まれてしまった。

 

 

 

「……ここを、よく見ろ」

「み、み、み、見れるわけないのですっ!?」

 

 

 HADAKA! ZENRAじゃないですかっ!?

 

 

「いや、見ろ! ―――――このツインテールに折り目がついてるだろうが!!」

「………はい?」

 

 

 

 言われてみてみれば、なるほど確かに【自主規制】あたりにかかったツインテールに折り目が。

 

 

「~~~~~~っ!? むり、っ、わたしには無理です…っ!」

「――――ツインテールに集中しろよ!」

 

 

「いえ、絶対神宮寺さんの方がおかしいです…っ」

「知ってる。まぁとにかく、勝手に人の本を漁るからこうなるんだ」

 

 

 

 というかツインテールの本を隠す意味ないだろうに、と呆れ顔で言う神宮寺さんだけれど。もしそれを見て一時的なリミッターをつけておいたツインテール属性があっさり復活してしまうだけならいいのだが、自分がいたことを思い出されてしまえば無用な罪悪感を抱かせかねない。

 

 

 

「とりあえず罰として、後で同じポーズして写真な」

「…………ふぇ?」

 

 

 

 え、ちょっと待ってください。これわたしのただの妄想ですよね?

 それはそれで大問題ですが、まさか、もし万が一、そうじゃなかったら――――…。

 

 

 

 いっぱいいっぱいになった頭に暖かな手が置かれ、優しく撫でられる。

 

 

 

「……あ、あの…っ?」

 

「よく、頑張ったな。だから、とりあえず勝手にツインテールを解くなよ。――――ツインテールは、二つで一つ。二人揃って、テイルホワイトだ」

 

 

 

 どうしてだろう。

 こんなにも感動できそうにないのに、何故か目頭が熱くなってくる。

 

 寒かった身体に、触れられたツインテールから熱が広がっていく―――…。

 

 

 

「―――――どう、して……? わたし、勝手に……」

 

 

 

 勝手に属性力を奪って、飛び出して。記憶まで弄って、リミッターまで付けたのに。

 それなのに、どうしてこんなに優しくしてくれるのか――――。

 

 その言葉に、神宮寺さんは笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

「決まってるだろ―――――…好きだからだ。……好きだ、リィリア――――」

 

「――――…っ?! ………………わ、わた、わたしも―――…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――お前の、ツインテールが!」

「…………知って、ました…っ!」

 

 

 

 

 なんとなく察してましたよ、ええ!

 だからこの溢れ出てくるのは涙じゃないんだ。ぜったい違う。人生初の告白には絶対にカウントしない。

 

 

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

 

 

――――いつもの通り、俺たちで。二人でツインテールを守るために!

 

 

 

 

 その言葉にわたしも半ばヤケクソで頷き、叫ぶ。

 

 

 

「俺たちが――――」

「わたしたちが――――――」

 

 

 

「「―――――テイルホワイトだ…ッ!」」

 

 

 

 

 黒くなっていたリィリアの髪が、再び銀の輝きを取り戻す。

 光に包まれた葵の身体が小さくなり、その手に、脚に、胸に、装甲を纏う。

 

 鏡合わせのように立つ、二人のツインテール。

 ただ、僅かに髪の色が違うだけの二人の戦士が、静かに。そして全くの同時に刀を抜き放つ。

 

 

 

「――――…ん、それじゃあ」

「……いきましょう!」

 

 

 

 

 二つの刀が闇を切り裂き、白い光が広がっていく――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が収まると、俺はリィリアを抱きかかえて竜の怪物――――ドラグギルディと対峙していた。

 

 

 

「――――むぅ、馬鹿な!? テイルホワイトが二人だと…!?」

 

 

 言われ、自分の身体を確かめてみると確かにテイルホワイトになっている。

 が、リィリアもテイルホワイトのままだ。……テイルリングは俺の指の方についているが。まぁいいか。

 

 

 

「………ん、実は双子…。――――…ということにする(ぼそっ」

「ほう。では妹を救いに来た、と?」

 

 

 

 言われ、リィリアを見る。

 テイルギアはもう原型を留めないほどボロボロで、それでも安心しきったような顔で眠っている。そして――――その魂(ツインテール)は、確かに輝いている。

 

 だから俺は、静かに首を横に振るのだ。

 

 

 

「――――…世界の、ツインテールを救いに来た」

 

 

 

 

 世界のツインテールを守る。

 先ほどどういう理屈か迷い込んだリィリア心の中で色々な事情は知ったが、小難しいことは考えない。

 

 俺はツインテールが好きで、リィリアもツインテールが好きで。

 レッドも、ブルーも、トゥアールさんもツインテールが好きで。だから戦う。

 

 

 

―――――最初から属性力は底をついた状態だが、それが何だと言うのだ。

 

 

 ドラグギルディもこちらが弱り切っているのは察しているのか訝しげな視線を向けられるが。俺の横に、そこはかとなくボロボロで、ブレイザーブレードにもヒビが入ったレッドも並ぶ。ひとまずリィリアはブルーにトゥアールさんのところに連れて行ってもらうこにして、俺もまた、フォースリヴォンに手を触れた。

 

 

 

 

「―――――…来て、叢雲」

 

 

 

 光が集まり、すっかり手に馴染んだ刀を握る。

 

 

 

「大丈夫か、ホワイト?」

 

 

 どこか心配そうにこちらを見るレッドに、そっと笑いかける。

 

 

「……勿論。そっちは?」

「ああ、任せとけ!」

 

 

 

 隣に、同じツインテールを愛する仲間がいる。

 直接一緒には戦えずとも、志を同じする相棒がいる。

 

 

 

「―――――…ツインテール?」

「―――――ああ!」

 

 

 だから、交わすのは一言でいい。

 ツインテールが心にある限り―――――俺たちは負けない!

 

 

 

 

 

「「―――――俺たちのツインテールは、無限だ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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