真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

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タグに蒼天航路を追加しました。
今回から蒼天航路のキャラが出ます。
その内、三極姫のキャラも出す予定。
そういうのが嫌いな方はブラウザバックお願いします。


虎牢関にて、呂奉先籠城す

 反董卓連合結成。

 その知らせが洛陽に届いた翌日、王允の屋敷。

 董卓軍筆頭軍師、賈クは配下の武将、呂布付きの軍師、陳宮の言葉を黙して聴いていた。

 

「……ですから!恋殿に全て任せておけば、ちんけな連合軍などいちころなのです!」

 

 腰に両手を当て、得意げにない胸を張っている。

 賈クは敢えて発言せずに黙っていた。

 王允は軍議の場では常に聞き役に回る。

 軍略に疎い一民政官が口を出すことではない、と。

 口を開いたのは、王允の隣に座っていた荀攸だ。

 

「それでは軍師失格ですよ、公台殿」

 

「なんですと!恋殿の強さを録に知らない奴が何をふざけたことを!」

 

 一理はある。恋の武は最早常人の域を大きく超えている。

 本気になった恋を、荀攸が見たことがないのも確かだ。

 

「奉先殿の強さは重々承知しています。

 おそらく私の想像の遥か上をゆくであろうことも。

 しかし、彼女は人です」

 

 陳宮がなにを当たり前のことを、という顔をする。

 

「首を刎ねられると死にますし、血を失いすぎても死にます。

 不眠不休で戦い続けることもできなければ、水や食料無しで生きることもできません。

 その食事に毒を混ぜるという手もあるでしょう」

 

 陳宮がうっと言葉に詰まった。

 

「勿論、今回の戦でそういった状況になる可能性は低いでしょう。

 ですが、全く考慮せずに奉先殿の武を頼みにするのは思考を放棄しているのと同じです。

 それは、軍師が絶対にしてはならないことだと私は教わりました」

 

「で、ですが――」

 

 何か言おうとした陳宮だが、結局言葉が続かない。

 項垂れて黙り込んでしまった。

 

「我々の最終目的は、皇帝陛下と董卓殿を李儒から解放し、その安全を確保することです。

 その目的を達成するために戦略を組み立て、その戦略に沿った戦術を用いなければなりません。

 確かに奉先殿が撃って出れば、それなりの戦果を得ることはできるでしょう。

 しかし、それは戦術的勝利でしかありません。

 目先の戦術的勝利にこだわるあまり、陛下と董卓殿をお救いできなければ本末転倒です」

 

「――貴方は良い師をもったみたいね」

 

 思わず口をついて出た言葉に、荀攸は本当に嬉しそうに微笑んだ。

 

「――はい。自慢の師です」

 

 この男が、これほど柔らかく笑うのを初めて見た。

 不覚にも、少し見とれてしまっていた。

 

「っそれで?貴方の言う戦略に沿った戦術の具体的な内容は何なのかしら?

 まさかそこまで大見得切っておいて、何も思いついていない、なんて言わないわよね?」

 

 荀攸は軽くうなずいた。

 

「一番重要なのはとにかく時間を稼ぐことです。

 稼げば稼ぐほど、陛下と董卓殿を安全に助けることのできる可能性が高くなる。

 故に――篭城するべきかと」

 

「ふん!やはり口だけの無能なのです!

 古来より、篭城とは援軍を前提とした作戦なのですぞ!

 この孤立無援の状況で、何処から誰が援軍に来るというのです!」

 

 荀攸が失言をしたとみたか、鬼の首を取ったように陳宮が早口で捲し立てる。

 一方、当の荀攸は涼しい顔だ。

 

「来ますよ。洛陽から。

 私がお連れします。ある意味では、奉先殿よりも強力な援軍を、ね」

 

「恋殿よりも強い武人などいるわけがないのです!」

 

 恋を侮辱されたと思ったのか、陳宮は激昂している。

 だが、賈クには荀攸の言う援軍が誰のことを指しているのか理解できた。

 

「援軍とは陛下のことね。

 月と陛下を救出した後、虎牢関にお連れするつもり?」

 

 息をのむ音が聞こえた。陳宮と王允が絶句している。

 無理もない。皇帝を戦場へと連れて行こうというのだ。

 およそまともな漢人の考えることではない。

 

「ええ。その場で停戦の勅を出して頂きます」

 

「なるほどね。確かに状況次第では恋以上に強力だわ。

 だけど、そううまくいくかしら。

 檄文には耳障りの良い言葉を並べてるけど、袁紹に天下への野心があるのは明らかよ。

 こちらが天子を思いのままに操ってるってことにして、無理矢理戦を続けそうなものだけど。

 残念ながら、風評では圧倒的にこちらが不利。

 一般兵も、大多数があちらの言い分を信じるでしょう」

 

「それは私がなんとかします。

 最悪、董卓軍が壊滅しようとも、董卓殿と陛下の安全だけは必ず」

 

 そう言い切る荀攸の顔は真剣そのものだ。

 この男に懸けてみよう。

 そう思えるような、強い意志に満ちた顔だった。

 

「ですが、兵力に差がありすぎますぞ。

 兵を交代で動員し、昼夜問わず攻め続けられればこちらは消耗する一方です。

 野戦でなければ、涼州兵の強みである騎馬隊も活かせません。

 亀のように閉じこもるのは、恋殿には似合わぬのです!」

 

「ちょっと私情が入ってるけど、音々音の言うとうりね。

 ただ籠城するだけでは、それほど多くの時間は稼げないわよ」

 

 どうするつもり?

 

 視線だけで問いかける。

 荀攸は薄く笑っていた。

 先程の真剣な顔から一転、悪戯小僧のような笑みだ。

 

「ところが、そうでもないのですよ。

 籠城とは、奉先殿にぴったりの戦術でもあるのです」

 

 困惑した。王允も陳宮も同様だ。

 籠城が、恋にぴったりの戦術?

 

「――この世界には、六の大陸があります」

 

 突然荀攸が話題を変えた。

 六の大陸?

 

「その内の一つ、漢の大地から遥か海を越えた別の大陸には、噛みつき亀と呼ばれる生物が住んでいます。

 その名の通り、噛みつくことが得意なのですが、中々恐ろしい亀なのですよ。

 甲羅の中から蛇のように素早く頭を出し、人の指程度なら容易く食いちぎってしまうそうです」

 

 隣で陳宮がぶるっと震えていた。

 想像してしまったのだろう。自分も顔が引きつっている。

 

「亀とは、何も閉じこもっているばかりではありませんよ?」

 

 今度の笑みには、暗さがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「矢を絶やすな!交代で常に射掛け続けろ!」

 

 虎牢関にて、曹休は兵の指揮を執っていた。

 攻撃はうまくいっていない。

 連合軍の兵による包囲が、だんだん遠巻きになっているのだ。

 曹休直属の兵も、遠間から矢を射かけるばかりで、効果的な攻撃ができていない。

 原因は明らかだ。

 だが、いつ現れるかがわからない。

 わかったところで、一般兵にはどうすることもできない。

 曹休とて、数合もつかどうか。

 あれは、最早天災の類だ。

 

「りょ、りょ、りょ、呂布だあーー!!!」

 

 呂布という存在は。

 

 突然門から飛び出して来るや否や、一直線にこちらの陣へと突っ込んでくる。

 大量の矢が射掛けられるも、全てが方天画戟によって弾かれた。

 突入したのは袁紹の陣だ。

 方天画戟が振るわれる度に、まるで何かに空間ごと抉り取られたかのように、そこに空白ができる。

 かすっただけで、兵が空を飛んでゆく。

 一縷の望みを懸けて馬を狙うも、呂布が操るまでもなく、馬が自らの意思で攻撃をかわしていく。

 

 天下無双の将、呂布。

 天下の名馬、赤兎。

 

 その進軍は、誰にも阻むことはできなかった。

 

 やがて、呂布一人の前に、全軍が後退するという異常な事態となる。

 兵は皆怯えていた。

 無理もない。今日で何回目になるのか。

 突然ふらっと出てきたかと思えば、一方的な蹂躙を繰り返して去っていく。

 何日も現れないかと思えば、忘れた頃にまた現れる。

 呂布の籠城が、これほど厄介だとは思わなかった。

 苦々し気に見やるも、当の本人はどこ吹く風だ。

 無人の戦場を、散歩でもするかのように馬を巡らせている。

 いや、あれは――誰かを、探している?

 そう気づいたところで、目が合った。

 呂布が背中から弓を取り出し、矢を番える。

 反射的に得物を掲げると同時に、衝撃が走った。

 暴れる馬を必死に御し、馬躰にしがみつく。

 放たれた矢は、兜の飾りを射抜いていた。

 臆して身を屈めていれば、兜ごと頭を射抜かれていただろう。

 安堵しつつ、矢を引き抜いたところで、違和感に気が付いた。

 これは――。

 

「文烈!無事か!」

 

 振り返ると、春蘭が駆けてきていた。

 

「大事ありません。それよりも」

 

「なんだ?」

 

「義姉上のところへ。報告せねばならないことがあります」

 

 

 天幕の中に入ると、華琳が立ち上がって待っていた。

 傍らにはいつもの通り、荀彧がいる。

 

「頭を射ぬかれたと聞いたけど……怪我はないようね。

 あんまり心配させないでちょうだい、優」

 

「ご心配をおかけしました、義姉上」

 

 一礼して頭を下げる。

 普段、華琳は他の家臣の前で自分の真名を呼ばない。

 幼い頃から姉弟同然で育ったとはいえ、今は臣下の礼をとっている。

 その華琳が、筆頭軍師である荀彧の前で自分の真名を呼んだ。

 どうやら、よほど心配させてしまったらしい。

 

「それで。報告しなければならないこととは何かしら?」

 

 次に口を開いた時には、いつもの華琳に戻っていた。

 覇気が内から滲み出ている。

 曹休は、手にしていた矢を差し出した。

 

「呂布が放ち、私の兜を射ぬいた矢です。

 布が巻き付けられていました。どうやら矢文のようです」

 

 華琳の目の色が変わる。

 だが、大きく反応を示したのは傍らの荀彧の方だった。

 

「それは――!」

 

 華琳が驚いて荀彧を見やる。

 普段の彼女は、敬愛する主の前でこれほど取り乱したりはしない。

 

「どうしたの?桂花」

 

「その布は、以前お話した洛陽にいる私の親族に。

 叔父の荀攸が旅立つ日に、選別として渡したものです」

 

 

 

 

 同時刻、虎牢関。

 

「お帰りー、恋。うまくいったんか?」

 

 こくり。恋は黙ってうなずいた。

 

「そらよかった。

 しかしえらいぎりぎり狙ろうとったな。

 相手が下手に動いとったら死んどったで?」

 

 ふるふる。今度は首を横に振る。

 

「それぐらいじゃないと、怪しまれる」

 

「ま、そらそうか。

 さて、ここまではアンタの思惑通りにいっとるみたいやけど。

 ここからが正念場やで、北郷」

 

 月や詠、皇帝を連れてこちらへ向かっている男に想いを馳せて、霞は空を見上げた。

 

 

 




というわけで蒼天航路から曹休君登場です。
華琳の甥になります。
真名が優(ゆう)なのは、作者が蒼天航路読んだとき、優等生キャラだなあ、って思ったから。
義姉上(あねうえ)って呼んでるのは、昔おばう……おや、誰か来たようだ。
感想よろしくお願いします。

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