真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

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久しぶりにそう間をおかず投稿できた気がします。
Fateのりんちゃん見てたらテンション上がったんですよ。笑
私は遠坂のりんちゃんも好きですが、渋谷のりんちゃんも好きです。あと星空のりんちゃんも好きです。
結局何が言いたいのかというとりんちゃんはかわいいということです。
今回は蒼天随一のユニークなキャラが……登場しません。笑
さすがにあの登場の仕方はいただけなかったので半分オリジナルキャラになりました。
ではどうぞ~


武人三人

 

「呑気ですね、春姉は」

 

 ちらりと隣を駆ける義姉を見やる。

 猛将夏侯惇の副官。それが今の自分の立場だ。

 

「うん?そう見えるか?」

 

 見える。おそらくよのほとんどの人が自分に同意してくれるであろうと思うほどにそう見える。

 

「官渡まで撤収とは一体どういうことなのですか。

 この戦は黄河の渡河点の奪い合いで決まるのではなかったのですか?」

 

「北郷がそう言っていたか?」

 

 うなずく。

 直心殿は気持ちの良い御仁だが、友人と呼ぶには聊か年が離れている。曹陣営では珍しい年若の男として、一刀殿は得がたい友人だった。

 最近では茶を一緒に飲む仲だ。その折、軍政を問わず自分が質問したことをわかりやすく説明してくれる。今回も許都を発つ前に戦の趨勢を聞いてみた。その返事がそうだった。

 

「実に軍師らしい答えだな。わかりやすいよう単純に説明してくれている。

 だがな、優。我らは曹孟徳の臣なのだ」

 

「そんなことはわかっています」

 

 何を今更。

 何年あの人の義弟として過ごしたと思っているのか。

 

「いや、わかっていない。

 華琳様はいつも単純なものを直角に曲げて答えをだす。そのほうが面白くなるからだ」

 

「面白いなどという理由で戦略をころりと変えるのですか?

 武人としてはたまったものではありませんよ」

 

 自然とぶすっとした物言いになってしまったのは仕方ないだろう。春姉を苦笑いしながらこちらを見ていた。

 

「あきらめろ、優。

 昔から華琳様の戦に作戦の変更はつき物だろう?大戦ともなれば尋常な変わり方ですむはずがあるまい」

 

「それは、そうですが……」

 

 わかっている。本当はわかっているのだ。

 義姉がそういう人だということも、結局自分はそれに従ってしまうことも。

 だが、わかっていても愚痴りたくなってしまう時はあるのだ。

 

「どんなに理不尽で腹が立つように思える策に変えられても、それを並の知恵で追いかけようとするな。頭が湯だって死んでしまうぞ?

 私を見ろ。頭が足りないのはわかっているからな。最初から気にしていないから腹が立つこともない」

 

 そういって胸を張る。形の良い立派な胸だとは思う。が、言っていることは決して自慢するようなことではないと思うのだが。

 

「しかしですね……」

 

「優」

 

 発しかけた言葉は、今までと温度の違う真剣な声で遮られた。

 顔も、さっきまでの表情が嘘のように真顔になっている。

 

「おそらくそれが、お前がまだ一人で一軍を任されん理由だ」

 

「春姉……」

 

「すべてを華琳様に委ねて心で感じろ。

 目の前にいる時よりこうして何百里を隔てているほうがずっと華琳様のことがよくわかる」

 

 春姉は……いや、一軍を任される将は皆、曹孟徳という人をそんな風に感じているのだろうか。

 曹孟徳は、義姉だった。ずっと家族だった。主従の立場になったとはいえ、未だ自分は心のどこかでそれを理由にして甘えていたのだろうか。

 

「夏侯惇将軍!」

 

 後ろを見ると、伝令兵が大急ぎで駆けてくる。

 頭を振って悩みを追い出した。個人的な理由で悩むのは後だ。そんなことは後からいくらでもできる。

 

「撤収途上の徐晃将軍の軍が袁紹軍三万につかまりました!

 敵の数はさらに増え続けておりこのままでは全滅は必至です!」

 

 まずい。噛み付かれた。

 そう思った時、後方から空を覆いつくさんばかりの鳥の大群が文字通り飛び出してきた。

 あっという間に日の光が遮られる。こんなに多くの鳥は見たことがない。

 

「全軍止まれ!反転するぞ!」

 

 言うが早いが春姉が手綱を引き絞る。馬が悲鳴を上げそうになっていた。

 

「引き返すのですか!?

 私たちは五千!袁紹の軍は三万を超え増え続けています!おそらく我が軍の撤収を嗅ぎつけて早くも進軍に出たに違いないでしょう!

 この尋常ならぬ現象もその進軍によるものではないのですか!?

 戦の大局を考えれば、ここはその徐晃とやらを見捨ててでもこの五千の兵を退却させるべきです!」

 

 大声で怒鳴るも、既に春姉は後方へ向けて駆け出している。

 その顔にあるのは笑みだ。

 

「続け優!

 華琳様ならばその袁紹の進軍を見ずにはおかん!

 そして華琳様のように感じれば、このただならん状況も心が躍りうきうき嬉しくなってくるぞ!

 それこそ曹操麾下の取るべき道だ!」

 

 一点の曇りもない笑顔でそう言ってのける。

 やっぱりこの人には敵わない。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 官渡、曹操軍本営。

 主である曹孟徳の天幕の前で見張りをしていた兵が声を張り上げた。

 

「夏侯惇将軍らがご帰還でございます!」

 

 左手に軍師たち。右手に護衛の兵がいる。その中央の入り口から、曹操が姿を現した。

 

 ――思ったよりも小柄だ。

 

 それが主を初めて見た感想だった。

 とても世間で乱世の奸雄だの魔王だの言われている人物には見えない。

 

「貴女が徐晃ね。

 一刀から話は聞いていたけれど、実際に顔を見るのは初めてかしら。

 私が曹操よ」

 

 少し驚いた。

 新参の私が最初に声をかけられるとは思っても見なかった。

 

「姓は徐、名は晃。字は公明と申します」

 

 名乗って一礼する。

 主は黙ってうなずいた。

 

 静寂。

 

 きょろきょろと主と夏侯惇将軍の顔とで視線を往復させていた曹休がまず声を上げた。

 

「曹休より報告いたします!」

 

「もう聞いたわ。

 風の便りは貴方たちの逃げ足よりも速かったようね」

 

 曹休がきょとんとした顔をする。

 そんなことは気にもしていない様子で主は階段に腰掛けた。

 

「じきに全土に知れ渡るでしょう。

 で、春蘭。

 袁紹四十万の大進軍はどうだったかしら?胸が躍った?」

 

 夏侯惇将軍が渋々といった様子で話し始める。

 本営に到着した時からずっとぶすっとした顔のままだ。一体あれをどのように感じたのか、興味はある。

 

「戦意十分の大軍なら胸も踊りました。

 ですが、あのような進軍を見せられてもそうはなりません」

 

 まあ、確かに面白くはない。

 主は無言のままにこやかに笑っただけだった。

 

「新将軍の徐晃は?」

 

 横目でちらりと曹休を見る。

 いくら階級の上ではこちらが上位とはいえ、親族より先にぽっと出の私が先に声を掛けられる。さぞ不満だろうと思ったが――意外にも真面目な顔をしていた。どこか周りが見えていない感じだ。

 今はそれよりも自分のことだ。さて、あの進軍を見ての感想か。

 

「理解しきれないものは語れません」

 

 僅かに視線に含まれる色が変わる。

 お気に召したのか、そうでないのか。

 

「文烈」

 

 字を呼ばれて曹休がはじかれたように顔を上げた。そのまま一礼して語り始める。

 

「あ、あれは単に己の軍容を誇示したに過ぎず、周りの諸侯を誘い入れるための宣布のようなものかと」 

 

「誰が軍師のように語れと言ったかしら」

 

 鋭い一声に曹休が項垂れる。

 初めて顔を合わせた時も、どうにも心が道に迷っているように見えた。

 

「ではその軍師たちに聞きましょうか。

 この報告を受けてどうとらえる?」

 

 主が半身で振り返る。その視線の先には二人の文官風の女性が立っていた。

 おそらく郭嘉と陳宮だろう。前線に出てきている軍師はその二人だったはずだ。

 

「尊大にして気宇の小さい袁紹のこと!どうせ緒戦の敗退の挽回策なのですぞ!

つまりは形ばかりの王道にこだわる恥知らずな進軍なのです!」

 

 まず口を開いたのはちびっ子の方だった。噂に聞く容姿によると、あれが陳宮だ。なるほど、生意気という言葉が服を着て歩いているように見える。

 

「結果袁紹の補給線は伸びこちらは縮まりました。

 これからの戦いはそこを衝くことが肝要かと」

 

 次に発言したのは黒髪眼鏡の女だった。おそらくあれが郭嘉だ。

 こちらも噂通り気の強そうな顔をしている。眼鏡を持ち上げる姿も様になっていて、まさに『先生』という感じだ。

 

「前線の報告を聞く軍師の耳とはその程度なのかしら」

 

 だが、そんな軍師二人の言葉に主は不満げだった。

 

「この三人の言葉の中では徐晃の反応が最も状況を語っているわ。

 つまり麗羽の大軍を頭に思い描けば、語る術べ無しなす術べなしという言葉が相応しい。

 今の麗羽は私の想像を超えるほどに見事な麗羽だわ」

 

「つ、つまりはこのまま袁紹にやりたいようにやらせるしかないということなのですか!?」

 

 陳宮がどもりながら言う。

 君主が部下の目の前でなす術べなしなんて言っているのだから当然ではあるのだが。

 

「稟。貴女は袁紹という敵を巨獣にたとえて恐れたわね。

 巨獣を破る時はその最も美しい所が光輝いている時に討つのが良い」

 

 ……わかりにくい。

 一刀殿のように、とは言わないがもう少しわかりやすく話してもらいたい。

 

「急報!急報でございます!」

 

 伝令兵が駆け込んできた。

 君主の天幕の前だというのに騎馬のままだ。袁紹軍に何か動きでもあったのか。

 

「敵の進軍はこれより北五十里で止まった後、東西百里以上に渡り野戦陣地を築き始めております!」

 

 どこまでも尊大で余裕のある進軍を続けるつもりか。

 さて、主はどうでる?

 

「この圧倒的劣勢から私が勝ちを拾うのか。

 それとも麗羽の足元にひれ伏して敗れるのか。

 面白くなるわよ」

 

 結局、とりあえずは今日は就寝ということになった。

 

 

 

 

 

 

 与えられた天幕に向かってゆっくりとあるく。

 将軍という位のせいか、夏侯惇将軍とほとんど遜色ない個人の天幕を一つ用意してくれているそうだ。ついこの前まで賊紛いのことをやっていたのが嘘のようだ。

 元李儒――世間では董卓ということになっている――の兵だったというだけで、どの地に行っても忌避された。洛陽での李儒の振る舞いに賛同していたわけではない。が、見て見ぬ振りをしていなければ慰み者にされ、殺されていたはずだ。自分は呂布将軍ではないのだ。数の暴力は、個人には如何ともし難い。

 同じような仲間と共に流れに流れた。食うに困り、役人を襲うこともした。殺してはいないし、賂をたかる輩に限ったつもりだが、罪の意識はある。

 それも長くは続かなかった。いよいよ進退窮まったところで、奇跡的に荀攸という人に逢ったのだ。

 

 『貴女が徐公明殿ですね。

  その力、曹陣営のために振るっていただけませんか?』

 

 そう言いながら温かに笑った顔は、今でもはっきり覚えている。

 

 それから数日の後、いついの間にか将軍になっていた。異例なことばかりする曹陣営でも異例なことだったらしい。それを主である曹操は笑って許可したとも聞いた。荀攸が才あると言う者に間違いはないと。

 そうして、今ここにいる。

 官渡に向かって発つ直前、一刀殿に言われた言葉を思い出す。

 

 『貴女の戦い振りを調べさせてもらいました。

  まず始めに退却路を確保し、常に撤退を考慮する。何よりもまず生き残ることを優先する。

  万人受けはしませんが、少なくとも私は一向に気にしません。

  この戦、必ずどこかで戦略上上手く負ける、負けとはいかずとも上手く撤退する必要が出てきます。その時、血気に逸る皆を落ち着かせ、できるだけ損害を少なくして軍を引くこと。それを貴女にお願いしたい』

 

 どうやらその役目はそう遠くないうちに回ってきそうだ。

 

 『期待していますよ、負けずの徐晃殿』

 

 二つ名まで貰った恩に報いるためにも、しくじるわけにはいかない。

 大斧を握る右手に、力が入った。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回初登場徐晃さんの外見は三極姫そのまま、性格境遇はオリジナルです。
だって女性だらけなのに初登場が全裸にはしたくなかったんだもん!仕方ないよね!笑
感想お待ちしております。





追記 本編とは全く関係ないので興味ない人はスルーしてください

   先日作者がサブマスターだったSW2.0キャンペーン『ルキスラ英雄伝説』が終了しました。姉が皇帝の寵姫になってしまった軍人が簒奪を目指すA卓と、現王朝を打倒し民主共和制の樹立を目指す自由冒険者同盟の冒険者パーティーのB卓との同時進行、途中から合同というセッションでした。リプレイ需要ありますかね?

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