真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

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かなりお久しぶりの投稿となっていましました。
もうすぐ会社の決算なのでその準備が忙しく残業続きです。。
今回のタイトルはダブルミーニングです。上手く伝わるかな?
ではどうぞ~


軍師二人

「……どうするのだ?桃香お姉ちゃん」

 

 末妹の鈴々ちゃんが聞いてくる。先行きの見えない不安はあっても、悲嘆に暮れているわけではないのが救いだ。

 

「どうしようか、なあ……」

 

 自分ができること、できないこと。為すべきこと、そうではないこと。それをきちんとわかっている。己の中にしっかりとした優先順位があって、常にそれに沿って行動する。

 義姉である愛沙ちゃんとは良い意味で対照的だ。彼女は三姉妹の中では一番頭が回る。それ故に考えすぎ、頭の中で迷子になることもある。

 

「とりあえずは……こうしようか」

 

 手にしている上質な紙をびりびりと破る。鈴々ちゃんが可愛らしい目をまん丸にして驚いていた。

 

「へーかから貰ったものなのに、そんなことしてもいいのだ?」

 

「そこからして怪しいって私は思うんだけどね。

 仮に本物だったとしても、証拠を残すわけにはいかないでしょ」

 

 怪しい。実に怪しい。猛烈に胡散臭い。陰謀の臭いがぷんぷんする。

 そもそもからして、『密勅』という言葉があまり好きではない。勅というのは、天地を真っ二つに切り裂くように、高らかに堂々と発せられてしかるべきもののはずだ。

 たとえこれが天子の意思だったとしても、曹操さんを殺せなんて命令をこそこそ出すのは何か違う気がする。

 

「でも、どうしてへーかは曹操を殺せなんて命令するのだ?そんなことしたら袁紹に負けるし、困るのはへーかなのに」

 

 確かにその通りだ。冷静に考えてみれば、自殺行為でしかない。

 だけど――。

 

「多分だけどね。

 皆は、袁紹さんより曹操さんが怖いんだよ」

 

 そう言うと、末妹は納得できないという顔をした。

 

「鈴々は、怒った愛沙のほうが怖いのだ……。

 袁紹も曹操も、あんな風に怒ったりしないのだ」

 

 それは私もだけど。心の中だけでこっそり呟く。

 皆が――特に古くからの漢王朝の名門の士たちが感じている怖さとは種類が違う。

 

 人は未知を恐れる。

 彼らにとって、曹操さんは『得体の知れないもの』なのだ。

 

 漢王朝の中枢にありながら、儒を否定する。

 唯才さえあれば、徳や人格などどうでもよい。

 

 そんなことを公然とやってのける。そんな新しい気風、新しい価値観に、彼らは恐怖している。自らの地位や名誉の根拠が、根底から覆されようとしているから。

 軍政両方に稀有な才能を持っている。乱世の奸雄。確かにその通りの英傑だが、それは漢という尺度の内側からの評価でしかない。

 

 己の中に確固たる新しい価値観を持ち、それを世界にまで拡げる者。

 

 それが曹孟徳という人の本質だ。

 

 曹操さんにとっては、彼らが必死に築き上げ守ってきた権威など取るに足らないものなのだろう。そんな曹操さんを理解できずに恐怖し、自分達に取って代わろうとする袁紹さんに安堵する。それは、袁紹さんが今の自分たちの地位や権力をある意味では認めているということでもあるからだ。

 

「うーん。

 敢えて釣られてみるか、見向きもしないで逃げるか。その場で様子を見るか、はたまた餌だけ食べて逃げるのか……」

 

 最初のは悪手だ。この密勅、陛下が誰かに唆されて出したとかそんな簡単なものじゃない。

 暗黙の命を受けているわけでもないだろう。誰かが――ほぼ間違いなく孔融さんたちだろうけど――勝手に出した偽勅のはずだ。

 一目散に逃げる。悪くはないが、それだと愛紗ちゃんが取り残される。自分たちも直接の危険はなくなるだろうが、ありもしない罪をあれやこれやでっちあげられるかもしれない。

 やっぱり様子見をするのが一番ましだろう。目の前に落ちてきた餌に針がついているのはわかるが、そこから伸びる糸の先に誰がるのかは全くわからないのだ。

 暫くは気づかない振りをする。餌だけ食べられそうならそれでいいし、駄目ならそのまま根比べだ。

 

「鈴々ちゃん。いつでも許都から離れられるよう、準備だけはしておいて」

 

「わかったのだ」

 

 ひとつうなずいて走り出す。荷物を纏めにいったのだろう。

 

「とりあえずは、いつもと全く同じ態度でお茶会に参加して……。不自然にならないように公衆の面前で一人になれる方法考えないとなあ。ああ、そこに誰かが一人二人近づいてもおかしくないようにしないと……」

 

 年頃の乙女としてはよろしくないとは思うが、がしがしと頭を掻いてしまう。

 

「最近はあまり悩まなくてすんでたのになあ。

 やっぱり軍師が欲しい……」

 

 やっぱり乙女らしくない、切実な悩みだった。

 

 

 

 

「それで、動いたのは孔融らで間違いなのかの」

 

 玉座から荀彧と荀攸を見下ろす。天下にその名を轟かす智謀の持ち主二人が並んでいる。直接の臣下というわけではないが、こうしてみると中々に良い気分だ。

 

「はい。数日前、劉備の元に勅が届いたようです」

 

 荀彧が恭しくとは言えないが礼儀正しく返事をする。親族以外の男は皆嫌悪の対象であるらしいが、さすがに皇帝は別のようだ。それとも、皇帝は皇帝であって、男ではないということか。

 

「取り巻きの中には本物の勅であると思い込んでいる者も少なくないようです。

 単純に頭が足りないのか、あるいは孔融が敢えて知らせていないのか。後者であるならば、体良く罪を被せるつもりなのでしょう」

 

 荀攸が後に続く。こちらもその声にはあまり忠誠や崇拝といったものが感じられない。だが、荀彧のそれとは若干質が違う。

 初めて謁見の間で顔を見たときからそうだった。荀攸は、皇帝という地位そのものにはなんら価値を見出していない。荀攸にとっては、皇帝とはことさら頭を垂れ膝をつく必要もなければ、取り入らなければならないような権威ではないのだ。表面上はともかく、心の上では。

 報告しながら低く嗤う二人の姿はまさに悪役そのものだ。名士として名高い荀家が誇る二荀。敬虔な儒者が揃う荀家の筆頭二人がこのような顔をしているとは誰が想像できるだろうか。

 なんだか頭が痛くなってきた気がする。

 ……話を変えるか。

 

「劉備はどうしておる?」

 

「呆れるほどに普段どおりです。あれで強かですから演技なのでしょうが」

 

 ここ数日は敢えて劉備と謁見しなかった。三日と空けず顔を合わせていたのに突然それがぱったりと止まる。何か反応があるかと思ったのだが。

 

「まずは様子見か。

 とはいえ、劉備には軍師もおらねば草もなし。独力でできることには限りがあろう」

 

 今度は荀彧が口を開く。

 

「見て見ぬ振りをすることで孔融らの反応を引き出そうというでしょう。実際、取り巻きの一人が一度接触しています。

 ……まあ、お互い探りあいの化かし合いでしたが」

 

「なるほどの」

 

 関羽を先陣に加えたのはこの、状況も考慮してのことだろう。離れている関羽の存在は劉備にとって楔となる。逃げ出せば、関羽を自然に曹操陣営に引き込める。少なくとも袁紹との戦が終わるまでは劉備を追いかけることはないはずだ。

 そんなことを考えていると、目の端にどこか浮かない顔をしている荀攸が映った。

 

「どうした荀攸。

 何か懸念でもあるのか?」

 

「いえ。

 懸念というほどでもないのですが……」

 

 珍しく歯切れが悪い。

 

「よい。

 思うところを述べてみよ」

 

 そう促しても、戸惑ったような顔のままだ。そんな荀攸を荀彧も不思議そうに眺めている。

 やがてひとつ大きなため息を吐いたあと、顔を引き締めてから話し始めた。

 

「実は、先ごろから軍師を二人探しています。

 ですが、一向に見つかりません」

 

 軍師を二人。

 人の才を見抜くことにかけては並ぶ者がいない荀攸が探しているのだ。その二人も曹陣営に加えるに相応しい人物なのだろう。

 

「……その二人は、劉備の軍師と成り得る者です」

 

 荀彧の眉が僅かに上がる。

 

「ほう。劉備のか。

 その二人が劉備の軍師となると、厄介か?」

 

「この上なく。

 袁紹以上の強敵となる可能性もあります」

 

 即答した。どうやら本気らしい。

 劉備が野に逃げる前に抱き込んでおきたいということか。

 

「最後まで見つからなければそれでもいいのですが。

 場合によっては、うち一人は最初から存在しない可能性もあります」

 

 荀彧がまた妙なことを言いだして、とでも言いたそうな顔で荀攸を睨んでいた。

 とはいえ自分も同感ではある。劉備の軍師と成り得る。そうなればこの上なく厄介。そう断言するほどの人材が、最初から存在しない?

 さっぱりわけがわからない。一体どういう人物なのか。

 

「その二人の名は?」

 

「諸葛亮。そしてホウ統。

 伏龍、鳳雛と称される当代最高の軍師たちです」

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
ようやく名前が出てきたはわわとあわわ。実際に登場するのはもう少し先ですが。。
ちなみにいないかもしれないのは雛ちゃんの方です。ものによっては龍を引き立てるためにカットされてたりしますから、そういうことを言ってるんですね。
感想お待ちしております。

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