真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

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予想外に早く更新できました。活動報告が嘘になっちゃいましたね。気にしてる人はすくなそうですが。。
今回は蒼天の中でも結構好きなシーンになります。蒼天の荀攸というキャラの魅力が存分に詰まったシーンといいますか。
ではどうぞ~


曹孟徳の用兵

「劉備は統率者として素晴らしい資質を持っているわ」

 

 白馬津から撤退している最中、先頭を往く曹操が突然声を掛けてきた。

 

「民草の信を一身に集め、その気焔を天に届くほどに高めてみせる。それは学んで身に着けられるものじゃないわ。劉備がいるだけで軍の力は倍にまで膨れ上がりもする」

 

 淡々と言ってのける。

 長姉を賞賛しているように聞こえるが、この人がそれだけで終わるはずがない。

 

「けれど、統率者としての資質と統治者としての資質は別のものよ」

 

 統率者と統治者。

 率いる者と、治める者。

 

「劉備は、そこに在るだけで人心を焚きつける。

 関羽は、そこに在るだけで人心を治める」

 

「そのようなことは……」

 

 自分は一介の将だ。そのような資質が備わっているなどとは、考えたこともなかった。

 

「私は関雲長という者の為にふたつの装束を用意したわ。

 そのひとつが、敵を一瞬にして瓦解させるあの鬼将としての装束。

 もうひとつが、万民に畏れ敬われる厳格なる為政者としての装束よ」

 

 為政者。

 この私の中に、人を治める才覚を見出したとでもいうのか。

 

「関羽!

 将としての才を絞りつくし乱世を一刻も早く鎮めてしまいなさい!

 その後は政よ!」

 

 曹操が機嫌よく言う。

 

 『それが、この乱世をできるだけ穏やかに、できるだけ早く終わらせる方法です』

 

 自分に料理を振舞ってくれた男の言葉が、頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 関羽が黙り込んだままうつむきがちに馬を進めている。

 どう見ても心此処にあらずという状態だが、それでも馬を見事に御していた。未だ騎馬術に長けているとは言えない自分からすれば羨ましい限りだ。

 

「郭嘉先生!」

 

 兵の一人が声を上げる。

 

「……先生はやめなさいと言ったでしょう」

 

 一刀殿が稟はまるで学校の先生みたいだな、なんてわけのわからないことを酒の席で言い出してから、すっかり先生という呼び名が定着してしまった。

 ちらりと後ろを見やる。砂塵が上がっていた。

 

「華琳様!敵の先陣が見えました!

 敵は五千以上!予想を遥かに上回る速さで追ってきます!」

 

 前を駆ける華琳様に向かって声を張り上げる。

 

「ですが空馬を待機させているこの先百里の森まで力を振り絞って馬を走らせればなんとか逃げきれるでしょう!」

 

 真っ先に反応したのは華淋様ではなく、両脇にいる関羽と霞だった。振り返った顔は既に真剣なそれに変わっている。青龍刀を持つ二人の手に、それぞれ力が入るのがわかった。

 

「追ってくるのは誰かしら?稟」

 

 前を向いたまま問いかける華琳様はいつも通り飄々としている。

 まずい。非常にまずい。それほど長くもない付き合いだが、この主は誇り高き覇王である一方、ひどく子どもっぽい一面を持っているということはもう十二分に知っている。

 そして、その一面が出てきた時は決まってとんでもないことを平然とやってのけるのだ。

 

「旗印から察するに袁紹の二枚看板のひとり顔良!

 北方の荒くれ者を見事に纏め上げ……というよりは慕われているのですが、彼らを自分の軍略にのせて自在に戦える将です!」

 

「顔良、ね。予想通り過ぎてつまらないわ」

 

 指をこめかみに当てて何やら考えている。

 こちらも予想通りだ。こんな悪い予想は正直当たってほしくはないのだが。

 

「このまま逃げるのも退屈ね。

 ……久しぶりに私が用兵してもいいかしら」

 

 ほら来た。

 次の瞬間には、華琳様は自分の馬から私の後ろに飛び移っていた。

 そのまま腰に手をまわされる。ふくらみと呼ぶにはささやかだが、背中に感じるしっかりと柔らかいその感触に鼻血を必死に堪えた。

 

「な、何をなさるのですか!?」

 

 片手で鼻をつまみながら一応は抗議してみるも、華琳様はくすくすと笑うだけだ。

 

「私は今から兵馬を動かすのに専念するわ。

 貴女は私を運びつつ私の言う通りに兵を動かしなさい」

 

 はあ、と溜息が出る。こうなったらこの人は何を言っても止まらない。

 

「何か不都合があるかしら?」

 

 不都合だらけだ。というより不都合しかない。

 

「 『ああもう勝手にしなさい!

   どうせ私が何を言っても自分の思うままにしかしないんでしょう!?』

 

 ……と詠ならすねてそっぽを向くでしょうね」

 

 華琳様が噴出した。そのまま私の背中に額をあずける。

 

「声色がそっくりね。陳宮なら?」

 

「 『自軍に十倍する袁紹軍を引き回して戦い続けよ!という命に従い策を立てたのですぞ!

   水ももらさぬその作戦を単なる退屈しのぎの思いつきでころりと変えられたのでは百年かかっても勝てるわけがないのです!』 」

 

「風は?」

 

「 『つまりは華琳様が軍師の役をなさるということですか~?

   ここは作戦を変更してでも顔良さんを討っておくべしというご判断なのですね?』 」

 

 華琳様がまたくすっと笑う。

 

「さすがに親友だけあって風の真似が一番上手いわね。

 私が用兵することについての貴女自身の考えはどうなのかしら?」

 

 私自身の考え。

 こちらは強行に強行を重ねてきた三千。対して顔良軍は気力みなぎる五千で、しかもその後ろには万の大軍。冷静に考えれば、ここは逃げの一手だ。

 だが、主が戦うと決めたのだ。ならば、異論を差し挟む余地はない。

 

「……それぞれの軍師の思いが少しずつ入り混じり何やら混沌としています」

 

 結局それだけ答えた。

 それを聞いて背後の華琳様が柔らかく笑う。顔を見なくても、何故かわかった。

 

「貴女がつとめて自分を語らないのは、どうすれば元の作戦に加える変更を最小限に抑えられるか頭をめぐらせているからでしょう。

 その一方で私の用兵を存分に眺めて私の考えを我が物にしようとしている。その柔らかな執念深さが郭嘉という軍師の美点ね」

 

「…………」

 

 黙ってほほを掻くことしかできない。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。

 

「兵を動かすわよ、稟」

 

「御意!」

 

 一番近くで体感する曹孟徳の用兵。一体どのようなものか。

 正直、心の昂ぶりを抑えきれない。

 

「霞!百を率いて左手の林に向かいなさい!」

 

「応!」

 

 すぐさま霞が軍から離れる。僅かな合図だけで百が流れるようにそれに続いた。

 さて、顔良はどうでるのか。

 暫く後方に注意を払っていると、文醜の軍からもまた一部が離れた。

 

「およそ千が離れました!

 顔良らしい相当に考えたと思われる数です!」

 

 

 曹操軍、二千九百。 顔良軍、四千。

 

 

 しかしこちらの百を率いるのはあの霞だ。百騎で千を討つのはそう難しくはないだろう。

 敵と直接干戈を交えることなく顔良の顔良らしさを弄ぶように戦いつつ逃げ切ろうというおつもりなのか。

 霞の百と顔良軍から離れた千。その姿が共に見えなくなってから華琳様が次の指示を出す。

 

「関羽!貴女も百で林に向かいなさい!」

 

「承知!」

 

 関羽もまた即座に向きを変える。霞とほとんど遜色ない動きで百が続いた。まるで何年も率いた自分の兵のように曹操軍の兵を従えている。

 そして――顔良軍からも、再び兵が離れる。

 

「千騎です!

 関羽が率いていった百を顔良は再び千で追わせました!」

 

 

 曹操軍、二千八百。 顔良軍、三千。

 

 

 次の一手でいよいよ顔良は華琳様の存在がわからなくなる。

 続いて切り離す小軍の将は私か或いは華琳様ご自身か。

 問題は馬だ。いずれ選りすぐりの馬とはいえ馬の疲労は限界に近づいている。

 そんなことを考えていると、突然華琳様が背中にあずけていた頭をぱっと上げた。

 

「稟!全速よ!」

 

 全速?

 

「し、しかしこれ以上速く走らせれば逃げ切れなくなります!」

 

「あら?貴女まだ逃げる気でいたの?」

 

 若干悲鳴めいてしまった叫び声に、華琳様はあっさりと言ってのける。

 

「さあ稟!軍を動かしなさい!

 ここからが曹孟徳の用兵の本番よ!」

 

 主の実に楽しそうな声が空に響いた。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
うーん、やっぱり戦闘シーンは少し短くなっちゃう。『戦闘シーンの書き方』とかニコニコ生放送で林先生やってくれないかなあ。。
今回はやっぱり軍師たちの真似をするところを書くのが楽しかったです。恋姫の皆ならどう言うだろう?って想像しながらw
次回は同じシーンの向こう側視点から始まる予定。今度こそちょっと間が空くかなあ。
感想お待ちしております。

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