真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

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新規投稿です。
文量はまだ少ない方ですが前回より多少まし、かな?


反董卓連合、その裏側で

「……董卓の専横を許すまじ。漢の忠臣よ、今まさに立ち上がるべし」

 

 書簡を読み終えるとそれを丸め、華琳はしばし黙り込んだ。

 

「あの麗羽にこのように美しい文が書けるとは思えないのだけれど。

 言葉というのは学べるようでいて、ない者には永遠に身につかないものよ」

 

「おそらくは陳琳という者かと。

 何進に仕えていましたが、董卓の洛陽入りに合わせて職を辞し、今は袁紹の下に身を寄せています」

 

「欲しいわね。覚えておきましょう」

 

 敬愛する主の言葉に、桂花は少し複雑になる。

 文官の人手が足らず、本来武官である秋蘭にまで手伝いを頼んでいる現状、人材の補強は喜ばしい。

 桂花個人としては、主の寵愛が別の者にも向けられることは歓迎できない。

 しかし、優先すべきは公事である。表には出さず御意、とだけ答えた。

 

「それで、実際のところはどうなのかしら。

 この檄文を信じるならば、洛陽は随分と酷いことになっているようだけど」

 

「檄文を発した理由の大半は、董卓への嫉妬と反感でしょう。

 宦官勢力の排除は過激であったようですが、武力行使はそれのみです。

 以後洛陽は落ち着きを取り戻し、民衆の評判も上々でした」

 

「でした、ね。やはり先帝陛下の崩御から?」

 

「はい。劉弁陛下が崩御して後、洛陽の治安は悪化する一方のようです。

 街では董卓軍が賊となんら変わりない振る舞いをしているとか。

 以前と同じように賄賂なども横行しているようです」

 

 華琳はふむ、と1つうなずく。

 

「本性を隠していたというのなら見事だけど。

 董卓本人の性格等は把握できているの?」

 

「かなり用心深い、ということだけは。

 董卓の顔を知っているのは自軍の幹部、司徒の王允等数人のみ。

 普段の指示はその全てが軍師であるカクから出ているようです」

 

 華琳の眼の色が僅かに変わる。自分と同じく、何らかの匂いを嗅ぎ取ったのだろう。

 

「今洛陽では、ある噂が不自然なほど早く広まっているようです。

 劉弁陛下の崩御は病によるものではなく、董卓に毒殺されたのではないか、と」

 

「さもありなん、ね。麗羽の予感も、案外正しかったのかしら」

 

 華琳がはあ、と息をこぼす。

 袁紹は馬鹿だ。それは間違いない。

 だが、馬鹿であるが故に道理を超えたところで大きな何かを為すときがある。

 今回がそうだったということなのだろう。

 

「反董卓連合、参加するわ。手はずを整えておきなさい」

 

「御意」

 

 礼をして部屋を辞そうとすると、華琳から先程までとは温度が違う声が掛けられた。

 

「少し顔色が悪いわよ、桂花。

 体調が優れないのなら無理しないで休みなさい。

 体調管理も仕事のうちよ」

 

 足が止まる。どうやらばれていたらしい。

 

「そいうわけではありません華琳様。ただ……」

 

「ただ?」

 

「洛陽には親族がいます。それが少し、心配です」

 

「そう……。私も、無事を祈っておくわ」

 

 ありがとうございます。

 再び一礼して、今度こそ部屋をで出た。

 

 

 自室までの廊下を歩きながら考えるのはやはり一刀のことだ。

 王佐の才と呼ばれる自分が手ずから鍛えたのだ。

 身内の贔屓目を差し引いても、軍師としての能力は中の上はある。

 伏龍、鳳雛と称される諸葛亮、ホウ統や、江東の孫策の軍師周瑜には及ばないだろうが。

 いつの間にか一刀が自分から訓練を願い出ていた剣の腕も中々で、そこらの一般兵よりは強い。

 洛陽での政変程度は乗り切れるはずだ。

 不安な点は、一刀が幼いころから時折みせる、自分の命をどこか見限っているところだ。

 特に自分が絡むと、その傾向が強い気がする。

 一抹の不安を抱えたまま、桂花は自室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 袁紹が檄文を発し、反董卓連合が結成されてしばらく後、洛陽。

 夜の帳が下り、灯り1つない路地裏を、一刀は滑るように進む。

 素早く、しかし音は立てないように。

 李儒を排除しようとした自分の動きはとうに知られているし、末端の兵士にまで人相書が回っているだろう。

 見つかれば問答無用で斬られる。

 本来ならば洛陽の治安を守るはずの兵は、今は賊と化しているのだから。

 足は一度たりとも止まることなく王允の屋敷へと向かう。

 彼の下で民政に携わっている間は、時間を作っては視察と称して洛陽中を歩き回った。

 今洛陽で、自分以上に路地に詳しい文官はいないだろう。

 予め打ち合わせしていた通り、鍵を開けてある裏口から身体を滑り込ませ、一刀は大きく息をはいた。

 

 

 応接室に入ると、既に王允と賈クが待っていた。

 待たせたことを詫びながら席に座る。

 

「茶の一杯も出せなくてすみませんな。

 私はもう寝ていることになっているもので。

 火など使っては怪しまれてしまいます故」

 

「お気になさらず。

 我々は人の屋敷に勝手に上がり込む不届きものですからね。

 こちらこそ、王允殿には泥を被らせてしまいました」

 

 洛陽の民政を立て直した功労人から、董卓の無法を見逃す男へ。

 王允の名声は地に墜ちた。

 史書にもそのように記されるだろう。

 それを承知で、一刀に協力してくれているのだ。いくら感謝してもしたりない。

 

「なんのなんの。董卓殿には大恩を受けておりますからな。

 それに、男とはいくつになっても女性に格好をつけたいものなのです。そうでしょう?」

 

 違いない、と笑いあうと、今まで黙したままだった賈クが初めて口を開いた。

 

「本当にごめんなさい。私がもっとしっかりしていればこんなことには……」

 

 言い終わらないうちに、一刀の人差し指が賈クの唇を押さえる。

 

「それ以上は言いっこなしですよ、文和殿。2人とも、望んで此処にいるのです。

 それよりも、李儒の様子はどうですか?」

 

 暫く何かいいたそうに一刀を見つめていたが、やがて顔が切り替わった。

 

「数日後には長安に移るようよ。陛下と月を連れて、ね。

 本気で遷都をするつもりみたい。

 連合は私達で対処しろ、とだけ言っていたわ」

 

「反董卓連合、ですか……。また何とも間の悪いことで。

 子飼いの兵力を汜水関と虎牢関の防衛に回さなくてはいけません」

 

 王允がおどけたように言う。

 

「ですが、これは好機でもあります。

 今なら、李儒も油断している。

 文和殿、董卓殿の身の安全はどうなっていますか?」

 

「王允殿の養女が護衛に付いてくれているらしいわ。

 自分から李儒に手は出さないけど、月には身も心にも傷一つつけさせない、って」

 

「では……明日、決行しましょう」

 

 一刀の言葉に、賈クと王允が同時にうなずく。

 

「暴虐非道の男、董卓を討ち、陛下と人質の少女を解放します」

 

 

 

 

 

 

 




というわけで裏側はこんな感じです。
事情はつたわる、よね?
感想お待ちしております。

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