真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

21 / 40
今回は星がきちんと登場します。桃香もですね。
桃香の性格が蒼天航路補正で結構かわってますので、原作キャラの性格改変が嫌いな人はブラウザバック願います。
今回はかなり好き嫌いわかれそうだなあ。。
ではどうぞ~


大馬鹿か、大物か

「愛紗ちゃんみたいな姿勢でお茶を飲むと美味しいねー」

 

 キ州のとある天幕にて、劉備――桃香は実に幸せそうに笑う。

 

「だけど愛紗ちゃんは一年中この姿勢だよね。疲れない?」

 

「いえ、私は問題ありません。

 ……疲れているのは兵の方でしょう」

 

 目の前に置いた木板を眺める。そこには、長姉である桃香が書いた地図があった。普段ののんびりした雰囲気からは想像しにくいが、盧植に師事していただけあってそれなりの学がある。

 

「袁紹は強くなりました。我らがついている白蓮殿は防戦いっぽうです」

 

「袁紹はそんなにすごいのか?鈴々にはそんな風には見えなかったのだ!」

 

 干し肉を噛み千切りながら大声を上げたのは末妹の張飛――鈴々だ。

 

「戦地戦場においての強さは人物の出来だけではかれるものではないぞ鈴々」

 

 そう諭すと、姉妹二人が疑問の声を出す。

 

「どういうことなのだ?愛紗」

 

「どういうこと?愛紗ちゃん」

 

 あの。鈴々はともかく、貴女がそれでは……。

 

「袁紹には負けを負けとも思わせない巧みな収拾力があります。見ようによっては詭弁、詐術とも言えますが。

 早くから有能な軍師、武将を集めた成果でしょう」

 

 それを聞いた桃香がうーんと唸る。

 

「じゃあ袁紹さんに今勝てそうなのは誰かな?

 洛陽は袁術さんの軍がいて混乱してるらしいし、その袁術さんは孫策さんに押されてる。陶謙さんはお歳をめされてるからなのか軍を動かすつもりはなさそうだし。劉表さんは……袁紹さんの味方かなあ」

 

 

 思いの外冷静に時勢を見極めている。反董卓連合での停戦以来、この主はできるだけ戦を起こさずこの乱世を収めるという自らの理想に大きな希望を見出した。それがこの余裕に繋がっている。

 

「愛紗ちゃん、曹操さんは今どうしてる?」

 

 曹操。曹孟徳。

 あの荀攸が選んだ主。

 

「先頃天子を奉戴したことは桃香様のお耳にも届いているでしょう。

 曹操殿はわからない人です。今日の小が明日にはいきなり大になっていても不思議のない人間、とでも言いましょうか。

 そのあたりは、桃香様に似ていますね」

 

 最後の言葉は、掛け値なしの本心だった。

 曹操殿は確かに英傑だが、自分の主も決して引けを取らない。そう思っているからこそ、姉と慕っているのだ。隣の鈴々も大きくうなずいていた。

 

「ありがとう愛紗ちゃん。

 さて、それじゃあ……今日も元気に助っ人に行きますか!」

 

 立ち上がって見せた長姉の満面の笑み。その笑みが、全身に力を与えてくれる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 キ州、清河郡界橋の南二十里。

 公孫賛軍四万、袁紹軍六万が対峙していた。

 袁紹軍の士気は高い。

 戦力は相手の二割り増し、さらには袁家の豊富な資金がその要因である。

 

「まるで兵を動かそうとしないな、相手は」

 

 陣の中央辺りにいる兵の一人が隣の同僚に話しかける。

 

「歯ぎしりするくらいしか打つ手が無いんだろうよ。

 いくら白馬長史、白馬陣といっても四万と六万じゃあなあ。こっちには武器も食料もたっぷりあるし」

 

 同僚は欠伸を噛み殺しながら答える。

 

「士気もこっちの方が上だ。いつもの三倍の報奨金らしいしな」

 

 二人がそんな話をしている頃、はるか後方で一人の女性がたった一騎で袁紹軍のど真ん中に踏み入った。

 

「道を開けろ」

 

 最後尾にいた兵は、その女性の静かな迫力にたじろぎ言われるがままに道を開けた。

 

「おう。おまけにあの白馬義従には一騎十倍の値だってな」

 

 女性はそのままゆっくりと、しかし誰にも遮られることなく前に進む。

 

「討ちたいもんだなあ」

 

 そこで、後方から進んできた女性が二人の居る場所まで近づいてきた。

 最初に話しかけた男が気配に気づき振り返る。

 

「あん?なんだお前は?」

 

 美人だった。

 白を基調としたした上下。脚は際どいところまで露出している。風に流れる青い髪が美しい。

 

「キ州の住人だ。道を開けろ」

 

 強い口調に同僚が幾分機嫌を損ねて声を荒げた。

 

「なんだとう?此処をどこだと思ってやがる?」

 

「戦場だと心得ている。

 ほら邪魔だ。さっさと道を開けろ」

 

 人相の悪い男にすごまれても女性は涼しい顔のままだった。それどころか、はっきり邪魔だと言い切っている。

 それ以後は、何も言わなくてもただ馬を前へと進めるだけで兵が勝手に二つに割れていく。中央から前方へ。袁紹のいる本陣の真横もそのまま通り過ぎていった。

 そのまま袁紹の軍を通り抜け、無人の野を進む。誰もがその異様な光景に驚きながらも、誰一人としてそれを止める者がいない。

 やがて彼女は公孫賛の陣に着き、今度は正面から踏み込んでいった。袁紹軍と公孫賛軍の違いはあれど、再び兵が二つに割れる同じ光景が繰り返される。

 そのまま暫く進み続け、彼女が止まったのは公孫賛の目の前だった。

 

 

 目の前の女が馬上で一礼する。自分ではどうやっても敵わないくらいの美人だ。ただの礼にも、どこか色気が漂っている気がする。

 

「キ州の住人趙雲。字は子龍と申す」

 

 いきなり話しかけられた公孫賛は戸惑った。

 

「あ、ああ。公孫賛。字は伯珪だ」

 

「キ州の住人はほぼ全てが袁紹につきました。

 だが私は、公孫伯珪殿。貴女に従おうと思う」

 

「へ?そ、そりゃまあ嬉しいけど。

 なんでまた一人私につくんだ?」

 

 趙雲がふっと笑う。

 同性だが、思わず見とれてしまった。

 

「なに、貴女のほうがましに思えたから、ではいけませんかな」

 

 ましって。それはどうなんだおい。

 そんなことを思っていると、懐かしい声が後ろから聞こえてきた。

 この能天気な声は――。

 

「すごいね~愛紗ちゃん。

 両方の陣を真っ直ぐ突っ切って来たよ」

 

「ええ。よっぽど自分の腕に自信があるのでしょう」

 

 振り返ると、予想通り見知った顔があった。

 

「桃香!来てくれたんだな!」

 

「やっほー!

 久しぶり、白蓮ちゃん!」

 

 傍らには関羽と張飛も居る。なんとも心強い援軍だ。

 

「ごめんね。袁紹さんに勝つ戦術を考えてたら遅くなっちゃって」

 

「おお、是非聞かせてくれ!」

 

「それがまるでなくて。

 今は戦わないほうがいいんじゃないかな」

 

 思わず馬上でずっこけそうになってしまった。後ろで趙雲も笑っている。

 

「あ、趙雲さんもそう思ってるんだ。

 そうすると不思議な人だねえ。弱いほうにつこうとしてる」

 

 弱いって……。

 昔からこうだった。天然でずけずけとものを言うが、何故だか憎めない娘なのだ。

 

「よかったらうちに来ない?

 こっちが次姉の関羽で、こっちが末妹の張飛。私のところは居心地いいよ?」

 

 おいこら。せっかく私のところに来た奴を目の前で勧誘するな。

 

「魅力的なお誘いだが、私は既に公孫賛殿に従事を申し出たのでな。

 今回はお断りさせて頂こう」

 

 ほっとする。ここで趙雲に出て行かれたら士気ががた落ちするところだった。

 

「う~ん。ますますいいねえ~。義の人だねえ~」

 

 桃香が腕を組んで唸っている。大きな胸が押しつぶされて持ち上がっていた。

 べ、別に羨ましいわけじゃないが。

 

「どうする?白蓮ちゃん。

 先鋒の麴義さんは白馬義従の戦いぶりを知り尽くしてるよ?

 しかも文醜さん、顔良さんの二枚看板は温存する余裕だし……」

 

 確かにそうだ。兵の数も将の数も、圧倒的な差がある。このままではじり貧になるのは間違いない。

 そんな話をしていると、その麴義が部隊を率いて突っ込んできた。

 

「今だ!敵を殲滅せい!」

 

 小難しいことを考えるのは後だ。とりあえず迎撃する。

 指示を出そうとしたところで、それより先に趙雲が飛び出した。

 

「ここは私が!手土産を取ってきましょう!」

 

 麴義は、単騎で飛び出した趙雲を見て取りにやりと笑って、自らも単騎で先頭に出る。

 

「おお!公孫賛の軍にも少しは活きがいいのがいたか!」

 

 両者の距離が縮まっていく。もうすぐ一騎打ちが始まる。

 そんな私の予想は、すぐに裏切られることになった。

 

 

「我が名はき――」

 

 麴義が名乗り終わる前に。趙雲の槍が、その喉を貫いた。

 そのまま、ゆっくりと。馬上から、麴義が崩れ落ちた。

 趙雲が軽く槍を振って血を払いのける。

 

「我が名は趙雲!字は子龍!

 文醜!顔良!まとめて相手をしてやるから出て来い!」

 

 これならなんとかなるかもしれない。

 ほんの僅かだが、希望が見えたような気がした。

 麗羽の軍の兵が動揺している。先方を任された将が一撃であっさり切り捨てられたのだ。士気は当然落ちる。

 趙雲がゆっくりと麗羽の軍の眼前を横切っていく。文醜と顔良を探しているのか。

 

「綺麗な人だねえ~」

 

 並んで見ていた桃香がのほほんと言った。天然でやるこういう言動が、不思議と周りの人間を落ち着かせる。

 

「槍を振るってる時も、まるで舞ってるみたいだったねえ。

 でも、あれは相当の無茶だよねえ……」

 

 確かにそうだ。今は趙雲の武に気おされているが、万の大軍が一斉に攻めてきたらまずい。人は無限に動き続けられるわけではないのだ。

 

「というわけで私ちょっと行ってくるね!」

 

 突然駆け出す桃香。

 

「へ?お、おいちょっと待てって桃香!」

 

 慌てて止めるがもう遅い。関羽と張飛は既に一緒に駆け出していた。

 三人はすぐに敵前を横切る趙雲に追いつく。

 そして大声を張り上げた。

 

「袁紹さん!虎牢関で荀攸さんとお話したこと覚えてますか?私は覚えてます!」

 

 それは麗羽の面子が丸潰れになった話だろ。挑発してるのか?

 

「できるだけ戦を少なくして、民の皆を泣かさずに天下をおさめる!それが真の覇業でしょう!?

 反董卓連合の盟主だった人が!中原最強の兵力を以って天下をうかがおうっていう人が!それでいて領地を見事に発展させてるお人が!こんなところで無駄に兵を戦わせちゃいけないでしょう!」

 

 いつの間にか、兵が皆桃香の言葉に聞き入っていた。

 思えば、昔からいつもそうだった。良い意味でも悪い意味でも空気を読まない。そしていつの間にか皆桃香の持つ独特の雰囲気に惹き込まれる。

 

「漢帝国再興の大儀に生きる劉玄徳!天下万民に代わって袁紹さんに進言します!

 まずは天下を治める皇帝を名乗りながらもただ重税を取り民を苦しめるだけの袁術さんから江東の民を解放するべきです!そうすれば白珪ちゃんは勿論孫策さんだって袁紹さんに付き従わざるを得ないようになるはずです!

 それこそが王者の覇業ってものでしょう!」

 

 やりきった。そんな顔で得意げに笑っている桃香を見て、なんだか身体の力が抜けた。

 軍中で麗羽がどんな反応をしていたのかは知らない。けれど、結果として麗羽は軍を引いた。

 わからない。長い付き合いだが、桃香という人間はさっぱりわからない。

 趙雲もそうだ。あんな無茶をやらかしておいて、桃香と楽しげに話しながらご機嫌にこちらへと帰ってくる。

 桃香。趙雲。

 理解できない二人。 

 麗羽を超える大馬鹿か、或いは麗羽を超える大物なのか。

 ひょっとしたら、こういう人間が世の中を動かすのかもしれない。戦ってないのに虎牢関のとき以上に疲れた身体で、なんとなくそう思った。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は伊藤……じゃなくて、丸大……じゃなくて、公孫賛、白蓮視点多めでした。
この外史では、かなり人間臭い桃香になってます。頭の中の理想は原作と大体同じですが。
感想お待ちしております。

追記 明日から残業祭りなので、またまた更新が遅くなるかもしれません。
   うーん。更新再開するころには桃香ファンがごっそり離れてそうで怖いw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。