真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

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幕間のはずが普通に話が進んじゃいました。
最後の登場人物をこの外史でどういう扱いにするか結構迷ったんですよねー。
べ、別にシンデレラガールズ見てて遅くなったわけじゃないんだからねっ!


危うさの正体

 

 その女二人組は遠目からでも目立っていた。

 入城を求める者の列は天子がこの許を仮の都と定めてから日に日に増えている。今日もその終わりが確認できないほど続いているが、その二人は順番がくるずっと前から門番の印象に強烈に残った。

 一方は黒髪に眼鏡をかけた理知的な顔立ち。領主曹操ほどではないが、姿勢を正したくなるような威厳が感じられた。

 もう一方は、小柄で明るい金髪を長く伸ばしていた。そのゆるやかに波打つ髪と同じく、どこかふわふわとした雰囲気を持っている。手には子どもが喜びそうな飴。頭の上には奇怪な人形。これほど特徴的な者も珍しい。

 

「何者か!?」

 

 門番が声をかける。

 前に進み出たのは黒髪の女性の方だった。

 

「郭嘉と申します!荀彧殿の招きで参りました!」

 

 

 同時に綺麗に指を揃えて伸ばした右手で眼鏡をくいっと上げる。思わず先生と呼びたくなるような優雅な動作だった。

 

「同じく程立と申します~」

 

 飴を口元に当てたまま連れも答える。

 郭嘉。程立。

 聞き覚えはある。数日前に筆頭軍師である荀彧殿から通達があった。曹操様に仕えるために訪ねて来るはずだから丁重に迎え入れろ、と。

 失礼なまねをしたら切り落とすわよ、とも言われた。ナニを切り落とされるのかはわからない。きっとわからないままのほうが幸せのはずだ。

 

「お聞きしております。お通りください。

 城内にいる者に声をかけて頂ければ、別の者が案内します」

 

「ありがとうございます」

 

 郭嘉が一礼して通り過ぎる。程立も無言のまま一礼して後を追った。

 噂は聞いたことがある。神算鬼謀の士であり、その思考の鋭さは刃の如し。荀彧殿が自ら招いたのだ。自分の想像など遥かに超える頭脳の持ち主なのだろう。

 袁家との戦を前に人材を集めているということか。皆が思っているよりも、戦は近いのかもしれない。

 同僚の声で仕事に引き戻されるまで、二人の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。

 

 

 

 

 

「お招きいただきありがとうございます」

 

 謝辞を述べると荀彧はそんなに畏まらなくていいわ、と肩をすくめた。

 

「礼を言いたいのはこっちのほうよ。

 賈クと董承が加わったとはいえ、陛下が許を仮の都を定められたから文官の仕事が急激に増えてるの。二人とも、ばりばり働いてもらうから覚悟しなさいよね?」

 

「心得ました」

 

「了解なのですよ~」

 

 賈クに董承。洛陽で皇帝陛下にお仕えしていたはずだ。

 正式に曹陣営に加わったということだろう。賈クの軍師としての能力は勿論、董承は陛下との繋ぎ役としても期待できる。人材は順調に集まっているようだ。

 一息ついたところで報告と議論が始まった。

 

「劉表が兵をこちらに進める用意をしているそうです。南陽、章陵の諸県が彼の味方についたとか」

 

「荊州に居座るあの唯我独尊の男が?裏で糸を引いてる奴がいるのかもしれないわね」

 

 賈クが荀攸に反応し眼鏡の中央を指で持ち上げながら言う。

 

「優殿。調練の進み具合はどうですか?」

 

「元劉岱配下の兵はほぼ満足できるところまで仕上がっています。実戦を経験すれば、その錬度はさらに上がるかと」

 

「とりあえずは心配なさそうね。

 袁家の動きはどうなの?」

 

「袁術が天子に軍を差し向けながらも敗走したという噂は既に十分に広まっているのです。孫策軍におされていることもあって人心は離れ始めているようですな。まあ、元からそんなものがあったのかどうかも疑問なのですが」

 

 各人が次々に発言していく。さすがに割合でいえば文官が多いが、曹休のような武官も分け隔てなく意見を交わしていた。

 

 ――この自由闊達な雰囲気は素晴らしい。私はこういう場に招かれたのか。

 

 それを誇らしく感じると同時に、僅かに漂う危うさにも気がついた。一体この危うさの原因は何だろうか。

 

「袁紹の方はどうかしら?」

 

 荀彧がもう一方の袁家の動向を問う。

 

「未だ公孫賛を攻めています。手こずっているようですね」

 

 そう述べる荀攸の顔を見て、危うさの正体に思い至った。

 ちらりと隣の風を見やる。目が合った。どうやらこの小さい親友も同じ考えらしい。

 

「劉表の動きにその袁紹をはめればうまく繋がりませんか?」

 

 意を決して声をあげる。こんなに緊張したのは旅に出る時以来だ。

 

「ふむ……」

 

「なるほど」

 

 考え込んだのは荀攸で、その隣の曹休は素直に感心していた。

 

「中々の目の付け所ですね、郭嘉殿。

 しかし、あの袁紹に劉表を操るほどの器量があるでしょうか?」

 

 荀攸が問うてくる。

 

「そうね。

 自分の手元の人材すら持て余している気がするし」

 

「財にまかせて膨大な兵力を抱え込んでも、使いこなせなきゃ意味ないわよ」

 

 賈クと荀彧が口々に同意する。

 間違いない。先程から感じている危うさの正体はこれだ。

 

「皆さんは、袁紹さんの領地を訪れたことはありますか~?」

 

 風が間延びした声をあげた。

 その場の軍師たちが顔を見合わせる。

 

「ありませんね」

 

「ないわ」

 

「ないわね」

 

「あるわけがないのです!」

 

 順に荀攸、荀彧、賈ク、陳宮である。

 

「袁紹さんの領地はこの許都に負けず劣らず栄えているのですよ。官吏だけでなく民も皆豊かに暮らしています。 

 まあ、名門袁家の領地がみずぼらしいなどありえない、そこに暮らす民もまた華麗であるべきだ、という理由なのが袁紹さんらしいのですが」

 

 聞いた話によると、曹操殿と袁紹は幼馴染だという。

 皆が知らず知らず曹操殿の才覚によりそうからか、幼い頃から比較対象であっただろう袁紹もおのずと過小評価されている。

 

「荀攸さんのおっしゃる通りの愚物ならば、それほど領地が発展するわけはありませんし、人が集まることもないのですよ。

 戦う前から相手を侮って低く見るのは如何なものかと風は思うのです」

 

「……………」

 

 荀攸が腕を組んで唸っている。

 風もまた、無言で見つめ返した。

 

「…………ぐー」

 

「「寝るな!!」」

 

「おおっ」

 

 突然聞こえたいびきに自分と賈クの声が重なった。

 以前三人で旅をしていた時はよくやっていたが、まさか出仕して初の会議でしでかすとは思わなかった。

 扉の外から声が聞こえてきたのはその時だ。

 

「程立の言う通りよ、北郷。

 何故だか知らないけど、貴方は麗羽をどうしても低く見てしまう傾向があるわ」

 

 入ってきたのは、見事な金髪を優雅に巻いた、小柄な女性だった。

 彼女はそのまま窓へと歩み寄る。

 

「袁本初とこの曹孟徳。

 どちらの天賦の才が大きい?」

 

 曹孟徳。

 これが、この人が、曹操。

 覇道を突き進む、乱世の奸雄。

 

「それは勿論華琳様に決まってます!」

 

「その通りです!華琳様は大陸一の英雄ですから!」

 

 荀彧がすぐさま声をあげると、今までずっと腕を組んで黙していた夏侯惇も大声で同意する。

 文武筆頭の両名からの賛辞を受けても、曹操の顔は涼しいままだった。

 

「麗羽には不要な才能がないわ。

 そういう人間は時間とともに強くなり疲れを知らない」

 

 主の言葉に、先程まで喧騒に満ちていた部屋が静まり返っていく。

 

「故にこの曹操をしのぐ場合があるわ。

 相手を侮ることは自分の力への驕り、その始まりでもあるわ。以後気をつけなさい」

 

 軍師たちは、皆うつむいてしまった。

 

「申し訳在りません。

 どうやら袁紹とはこういう者だ、という先入観に囚われていたようです」

 

 荀攸の謝罪に、曹操は穏やかに笑った。

 

「わかったのならいいわ。

 私が言わなくても、程立の言葉で十分反省していたようだしね」

 

 曹操がこちらに顔を向ける。慌てて風とともに一礼した。

 

「郭嘉と申します」

 

「程立です~」

 

 また、笑う。惹き込まれる笑みだ。

 

「桂花から名前は聞いてるわ。

 二人とも、早速役に立ってくれたみたいね」

 

「いえいえ~。

 風が言わなくても誰かが指摘したと思いますから」

 

 風は相変わらずののんびりとした口調だ。緊張など全く感じさせないその声に、強張っていた身体がほぐれていく気がした。

 

「貴女は泰山で日輪をその手で支える夢を見たそうね。それは正夢よ。

 以後程昱と名乗り私を支えなさい」

 

 風がまた一礼する。

 その時、新たな声が外から飛び込んできた。

 

「珍しいものが見れたな、曹操よ。

 荀攸のあのような姿、王允にも見せてやりたいものだ」

 

 入ってきたのは曹操よりいくらか背が高い青年――いや、少年か。後ろには見たことのない装飾の服の娘。おそらくは侍女がいた。

 朗らかに笑いながら曹操に近づく。

 

「これは陛下。

 謁見はどうなさいました?」

 

 曹操が苦笑いしながら問いかけた。

 慌てて膝を付くと、皇帝、劉協は実に面倒そうにうなずいた。

 

「逆賊袁家討伐の詔勅を諸侯に発せよとせがまれるのにうんざりしての。

 司空に会うてくると言うて逃げ出してきた」

 

 あっけらかんと言ってのける。

 この皇帝陛下は、想像していたよりもなんというか、人間くさい。

 

「いけませんね。

 詔勅とは天上の意志を伝えるもの。

 この程度の事態で発せられてはなりません」

 

 曹操が語る。

 その言葉は、雄大な熱をもってこの場の人間を包み込む。

 

「この曹操が奉戴いたす天子の御心とは、遥か高みにそびえ地上を覆い尽くす大きさを有するものです。

 それが見えねば見えぬほど、万民はその存在を強く感じるものでございます」

 

「袁家のことなどまるで知らぬかのように振舞え、ということかの」

 

 かつて、天子に器量の大きさを求める司空がいただろうか。

 曹操は、まるで天子の師のようだった。

 

「まあ、暫くは心配することはないかの。

 袁紹が公孫賛を攻略するには時間がかかると見ておるのだろう?」

 

 劉協の視線が荀攸へと向いた。

 

「はい。

 公孫賛の白馬陣は騎射において大陸で並ぶものはそうありません。公孫賛自身もそこそこに有能です。そこそこ止まり、とも言えますが。

 ただ、圧倒的に将が不足しております。いずれは袁紹が勝つことになりましょう」

 

 荀攸の言葉に皆がうなずく。自分も同意見だ。

 

「同門だった劉備が援軍に駆けつけるでしょうけど、それまで持ちこたえられるかしらね。

 生き延びていても、篭城戦にに持ち込まれればかなり厳しいわ」

 

「やはり、部隊を任せられる将の不足ですな……」

 

 ふと脳裏に、仕えるべき主を探すと別れた友人の姿が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 その状況を一言でいうと、『メンマ』だった。

 酒のつまみもメンマ。ラーメンに乗せるものもメンマ。締めはメンマ丼。

 最初から最後までメンマ尽くしの食事を堪能して満足気な表情をしているのは、白い服に身を包んだ女性だった。風に揺れる鮮やかな青い髪が美しい。

 

「さて、そろそろ往くか。

 馳走になった。店主、勘定を頼む」

 

 少しばかり多い銭を机において立ち上がる。

 

「へえ。早く逃げた方がよろしいでしょう。

 ……袁紹が攻めてきて、ここいらももうすぐ戦場になるって話です」

 

 店主の忠告に、脇に立てかけていた槍を軽くふるいながら女性はまるで散歩にでも行くかのように答えた。

 

「逃げる必要はない。その戦場へ往くのだからな」

 

「へ?」

 

 呆気にとられる店主をそのままに、女性は足取り軽く去って行った。

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
彼女の詳しい話は次回になります。
最近他にも荀攸主人公の作品が出てきたみたいでわくわくしている作者です。
感想お待ちしております。


おまけ 先日の夢

  「ねえ、兄ちゃん兄ちゃん~」

一刀「どうした?季衣?」

  「兄(C)?季衣で誰なんだYO!まさか浮気→?」

一刀「!?」


  一刀君、いつの間にかプロデューサーになってましたw

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