最近頭の中でプロットを考えるとき、劉協がフリードリヒ四世陛下に、華琳がラインハルトに勝手に変化して困っていますw
それではどうぞ~
「れ、恋殿~!
ねねは、ねねは……寂しかったのです~!」
陳宮が恋の胸に顔をうずめて泣きじゃくっている。軍師として戦場に出ている時とはまるで別人だ。
そんな陳宮の頭を、恋は優しく撫でている。こうして見るとまるで親子のようだ。陳宮は既に成人しているはずなのだが、この姿が年相応に見えてしまう。
その様子を、一同は苦笑いしながら見つめていた。霞などは完全に呆れ顔だ。
「皆さん、お怪我がないようで何よりです」
「まあ、本気で攻撃しようって思ってるのは将ぐらいだったからね。一般兵は陛下に武器を向けるのも嫌がってた者が多かったみたいだし」
賈クが視線を恋と陳宮に向けたまま応える。隣で董承もうなずいていた。
「北郷さんに忠告されてたから、脱出の準備は整ってましたけど……心のどこかで、陛下が襲われるなんてありえない。そう思ってしまっていたのかもしれません。出発が少し遅れてしまって。恋さんがいなかったら、正直どうなっていたかわかりません」
「まあ、全員無事だったんやしええんちゃうか?
一刀もいつだったか言うとったやろ。終わりよければ全てよし、とかなんとか」
霞はいつも通り楽天的だ。のん気に口笛を吹いている。
「あんたねえ……」
賈クがじと目になるが、霞はどこ吹く風である。
一刀、うち怖いーと自分の後ろに隠れてしまった。
「え、詠ちゃん。
久しぶりに会ったばっかりなんだから、落ち着いて。ね?」
じと目からつり目に切り替わった賈クを、董承が必死に宥めていた。
「残念ながら、俺も文和殿の味方かな。
霞はもう一軍を率いる将軍なんだ。結果だけが全て、というわけにはいかない。曹操軍はそんなに甘いところじゃないぞ?」
「えーん、一刀までいじめるー」
「失礼な。いついじめたんだ」
目元に両手を当てて嘘泣きをしてみせるが、今度は騙されない。洛陽にいた頃からすると、自分だって成長したのだ。
「だってうち頑張ったやん?
この前の黄巾の時も、今回の戦も、めっちゃ頑張ったやん?
もっと褒めるとか、なんかご褒美あってもええと思わへん?」
上目遣いでじっと見つめてくる。
騙されるな。流されてはいけない。何故だか突然横から感じる二人の気配が険悪なものに変わりつつある。ここで流されてはどうなるかわかったものではない。
「ご褒美ならあるぞ。
霞個人にじゃなくて、霞の軍全体に、だけどな。先日ご主君に許可を頂いてきた」
「へ?ほんまに?」
一転してきょとんとした表情に変わる。先程の上目遣いより、素のこちらの表情のほうが可愛い。そう思った。
「ああ。
千人分、全員お揃いの具足と頭巾だ。色は紺碧」
へえ、という声が上がった。霞だけでなく、賈クと董承もだ。
「霞の牙門旗と同じ色だ。
これから霞の部隊は遊撃隊として動くことになる。与えられた戦場、裁量の中で自由に戦場を駆け回る遊撃隊。騎馬のみで風のように駆け回る神速の遊撃隊だ。
その象徴が、霞の牙門旗と全員が身に付ける紺碧の頭巾。戦場を駆け回る紺碧の風。壮観だと思わないか?」
「紺碧の風、かあ……」
しばしの間、皆が黙り込んだ。自分が語った霞の騎馬隊を想像しているのだろう。まだ頭巾は全員分作成できていないが、現実となっても間違いなく想像通り壮観なはずだ。
「かっこええな。絶対や。ますます気合入るわ」
霞が腕を組んでうんうんと何度もうなずく。どうやら気に入ってくれたようだ。
「わ、私も早く見てみたいです。霞さん、きっとこの前よりもっと格好いいと思いますよ!」
「まあ、悪くはないわね」
賈クと董承も口々に言う。
ところが、霞の『おねだり』はそこで止まらなかった。
「それもええんやけど……うちはやっぱり個人的なご褒美欲しいなあ。
……一刀から」
再び上目遣いで見つめてくる。
「俺から?」
一筋の冷たい汗が頬を伝った。ものすごく嫌な予感がする。
「……一刀」
霞が目を閉じる。そのまま自分の顔を見上げて止まった。
冷や汗がもう一筋。これは、あれか。そういうことなのか。
いつの間にそうなったのか、さっぱり心当たりが無い。先日の秋蘭といい、どうしてこうも厄介ごとが続くのだろうか。
戸惑っていると、霞の顔が本当に泣きそうに歪んだ。
まずい。これは、まずい。
「……霞」
柔らかな頬を、手のひらでそっと包む。
そのまま、ゆっくりと顔を近づけて――。
「そう言えば!!」
突然響いた大声に二人してぱっと飛びのく。
慌てて横を見やると、賈クが顔を真っ赤にしてどかどかとこちらに近づいてきていた。董承はというと、同じく茹で上がった顔でその場に座り込んでる。
「二度も命を助けてもらったお礼をしてなかったわね!」
怖い。言っていることはとても嬉しいことのはずなのだが、滲み出る空気がとても怖い。今の賈クは、或いは華琳にも匹敵するかもしれない。
「あの、そんな、お礼など……」
「いいから!
私のことはこれからは詠って呼ぶこと!あと敬語も禁止!いいわね!」
「は、はい……」
霞はいつの間にか再び自分の後ろに隠れていた。しがみついているせいか、何か柔らかいものが背中に当たって落ち着かない。それを見て取ったのか、詠からの重圧がますます強くなる。
「あ、あの……私も、月、で……」
詠の後方で、董承がおずおずと手を上げる。それを聞いた詠ががばっと振り返り、またこちらに向き直った時には重圧がさらに増していた。
身体が震える。後ろの霞が震えているのも、きっと演技じゃないはずだ。
「みんな、仲良し」
相変わらず陳宮の頭を撫でながら恋がぽつりと呟く。
「恋殿~」
今だけは、陳宮が少し羨ましかった。
一方その頃、城内、謁見の間。
二人の人間が向かい合っていた。
「久しいな、曹操よ。虎牢関以来になるか」
先に声をかけたのは上座の男――劉協だ。
「はい。謁を賜るのはこれで二度目になります」
膝をつかず、首を垂れるわけでもなく、正面から顔を合わせて応える。本来ならば不敬であるが、劉協はそのようなことは気にしなかった。
「そうじゃったの。
虎牢関で初めて顔を合わせたが、そなたのことはよく覚えておる。
一切の遠慮なく朕を値踏みする目。何もせずともその身の内から滲み出る覇気。荀攸の評した通り、朕が求めていた者はそなたじゃと、一目で確信した」
「それは興味深い。
荀攸は、私のことをどのように?」
自然と笑みになる。
部下に評される。あまり愉快なことではないはずだが、それが一刀であるならば興味の方が先に立った。
「この国の覇者になり得る者。その三人のうちの一人だと。
朕も同じ思いじゃ。そなたならば、常識を打ち破り、凝り固まった古い価値観を一掃し、新たな時代を切り開くことができるじゃろう。
軍を動かし領土を得ることができても、時代を切り開くことができる者は中々おらん。そなたは間違いなく覇者の器であろうよ」
「恐悦至極にございます」
覇者の器。確かにその自負はある。
興味を惹いたのは、三人のうち一人という言葉だ。
この曹孟徳の敵となり得る者が二人もいるのか。邪魔だという思いと、楽しみにする思いが同時に沸き起こった。
「しかし、乱世とはわからぬものじゃの。
漢帝国きっての名仕である袁家が揃って皇帝を名乗り叛旗を掲げ、覇者の器を持ち、漢という時代を終わらせようとするそなたが朕を手中に収めるとは」
劉協は実に楽しそうだ。
この状況を楽しむことのできる余裕がある。皇帝の器というものがあるならば、劉協は間違いなくその器だろう。
「陛下。私は別段自らが皇帝になるつもりはありません。
それに、私が陛下と共に袁紹に滅ぼされることもありえますが?」
一応の可能性を示してみるも、劉協は楽しそうな笑みのままだ。
「確かにの。
袁紹は領土も広く、そこに住まう民も多い。莫大な財を持ち、兵も、武具も、食料も豊富にある。荀攸は何故か袁紹を過小評価するが、感情を廃し外から見れば不利なのはそなたの方であろうよ」
無言のままうなずいて同意する。
政戦両略。戦術。武術の腕も悪くはない。ほぼ自分が満足する能力を備えている荀攸だが、唯一とも言える欠点がそれだ。理由はわからないが、ことさら麗羽を低く見る傾向がある。
「ところがの。
それでも朕は、そなたが袁紹に敗北する様がどうしても想像できぬのだ。
言葉にするなら……天意、かの。それを感じておるのやもしれぬ」
天意。天の、意思。
「天意という言葉は、あまり好みではありません」
「ほう?」
初めて劉協の表情が変わった。
「私が往く道は、私が決めます。そこに天意などというものが介在する余地はない。
私が天に背こうとも、天が私に背くことは許しません」
「そうか。そうかそうか。
そなた、やはり面白いの!」
劉協が腹を抱え大声で笑う。目の端からは涙まで流していた。
「では、あくまで自らの意思で、自らの力で袁紹を打ち破るつもりか」
「それは少し違います、陛下」
自らの意思ではある。だが、それだけではない。
「曹孟徳だけでなく、曹孟徳の臣下、曹孟徳の民。その全ての力を以て、です」
「なるほどの。
信頼しておるのじゃな、臣下を」
「はい。自慢の臣下です」
劉協の目に、僅かに楽ではない別の感情が混じる。決して臣下に恵まれたとは言い難い皇帝だ。
だが、その色はすぐに消え去った。
「では、その自慢の臣下と共に袁紹を打ち破った後はどうじゃ?
そうなれば、そなたは間違いなくこの大陸の覇者となろう。自らが作った玉座にのぼり皇帝を称しても歯向かえる者はそうはおるまい」
確かにそうだ。多くの人間は、なんの躊躇いもなくそうするだろう。
しかし、この曹孟徳は違う。
「皇帝とは、炉の中の火のようなものです」
「…………」
劉協は声を発さない。こちらの話を聞く構えだ。
「灰をかぶっていればいつまでも消えず、取り出せば赤々とした高熱を放ち、触れることができぬものでありながら人に不可欠のもの」
「火、か。朕が火だとすれば、それを護る灰がそなたか?」
理解が速い。やはり、この皇帝は自分の予想を越えて聡明だ。
「然り。
曹操は蒼天を飛翔する鳥にあらず。蒼天のもと地を往く者です。
皇帝という巨大な存在の下で、雄大に政を行う者」
「なるほどの」
いつの間にか、劉協は目を閉じていた。
「では、そなたは何になろういうのだ?」
目を閉じたまま問う。
「この大地に、一つの種から育ってくる無数の人間。その主席であることを望みます」
「主席、か」
「然り。
より主席にふさわしい人間がいれば、付き従うもよし、また斬り殺されるもよし」
未だ、目は閉じられたままだ。
「それで人は付いてくるのか?
皆心の中では漢の衰退を悟っており、次の世の皇帝を求めておるやもしれぬぞ?」
「皇帝として君臨せずとも統治はできます。
それに……」
目は閉じられたまま、眉がぴくりと上がる。
「それに?」
「やらねばならぬことが多い身に、皇帝の身分は余分です」
劉協が嗤う。先程までとは違う、低い嗤いだ。
目を閉じて嗤うその様は、何千万、何億という人間とその身一つで向き合ってきた闇と凄みが感じられた。
「余分。余分か。
やはり、そなたは面白い」
包拳礼をとり、膝を付く。
「陛下。
私は貴方を奉り、天下を睥睨いたします」
劉協が目を開く。同時に立ち上がった。
「曹孟徳!劉協陛下を奉戴申し上げる!」
「許す!!!」
この日、曹孟徳は献帝劉協を奉戴する。その知らせに、多くの人々が許に集った。
後の史書に記された曹操の臣下には、この時期に出仕した人物も多いという。
「ほら、風!一刻も早く曹操殿の下へ!」
「ふ、風は稟ちゃんのように血と精力があり余っているわけではないのですよ~。
もう少しゆっくり歩いてほしいのです……」
如何でしたでしょうか?
原作の華琳ならば自分が皇帝になることに意欲的かもしれませんが、蒼天航路の影響を受けているこの作品ではそうでもありません。
また、蒼天航路では逆に皇帝になるつもりは全くありませんでしたが、この作品ではそのほうが国、民のためになるならなってもいい、というスタンスです。
感想お待ちしております。
恋姫新作だぜひゃっほう!翠のxxxxシーン満載とか最高だな!←自重しろ