真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

15 / 40
以前書いた幕間とその次の話を結合しました。
悩んだ末にこの方がいいかな?と思ったので。
それではどうぞ~


涙の二人、折り合わない二人

「お加減はいかがですか?何か不自由することは?」

 

 寝台の横の椅子に座って声をかける。

 

「ありがとう。最近はだいぶ動けるようになったの。

 ご飯も美味しいし、こんなに良くしてもらってもいいのかな」

 

 一刀の気遣いに、張三姉妹の長姉、張角は寝台の上で上半身を起こした格好で答える。

 流々が加入し食事を用意するようになってから張角は見違えるように回復していった。保護した当時は軽度の脱水症状と栄養失調でやつれていた姿も、今は元の美貌を取り戻しつある。

 

「我が主、曹孟徳は青州黄巾全てを民として受け入れると宣言しました。その全てには、当然貴女たちも含まれています。何も遠慮することはないでのですよ」

 

「だけど……」

 

 張角がそこで言いにくそうに口ごもる。

 

「乱の責任、ですか?」

 

 一刀の言葉に張角はうつむいて黙ってしまった。寝台の両脇に座っている妹二人も同様だ。

 

「確かに、責任が全くないとは言いません。少なくとも董卓が洛陽入りするまでの初期の黄巾の乱は貴女たちが原因でしょう。貴女たちの人気が、求心力が間違った方向に進んでしまった、その結果です」

 

 三人はますます身を小さくする。

 

「だからこそ、貴女たちにはやらなければならないことがあります」

 

 一刀の力強い口調に、姉妹は揃って顔を上げた。

 

「今回の乱では、心に傷を負った民が大勢います。己が為した所業の残酷さに、罪の意識に苛まれて夜も眠れない日々を過ごす者も多い。あの男に操られていたと認識しているとはいえ、実際に手を汚したのは自分ですから。

 そんな民にとって、貴女たちは心の拠り所なのです」

 

「心の、拠り所……」

 

 次姉、張宝が呟く。

 姉妹それぞれが、一刀の言葉を己の中で反芻しているようだった。

 

「はい。

 最初期、なんの邪心もなくただ貴女たちの歌と踊りに酔いしれていた人々。そういう者が、いまこの街にも大勢います。結果として賊となってしまいましたが、その頃の純粋な心が取り戻せるならば、まだやり直せるかもしれません」

 

 張梁がゆっくりと顔を上げてこちらを見つめる。

 その目に、段々と前を向く意思の光が戻ってきていた。

 

「古来、人々は歌で意思疎通をはかりました。

 言葉の通じない異民族でも、歌ならば通じ合うことができます。私の故郷には、『音楽に国境はない』という言葉もあります。

 音楽には、言葉とはまた違う力がある。

 檄文に乱を起こすことができるなら、詩歌で人の心から乱世を終わらせることもできるはずです」

 

 三人が、泣いていた。

 溢れ出る涙を拭いながら、一刀の言葉をしっかりと受け止めていた。

 

「私たち、また歌ってもいいの?

 あんなこと、しちゃった、の、に……」

 

 言葉にならない。涙が、止まらない。

 その涙を、一刀は指でそっと拭いた。

 

「歌ってください。

 貴女たちの歌で、皆の心を癒してください。

 皆、初めはただ貴女たちの歌が好きで、その歌を聞きたくて集まった人たちです。

 彼らを癒せるのは、貴女たちしかいない。

 貴女たちにしかできない、大切な仕事です」

 

 張角が一刀の胸に顔をうずめる。

 泣く子をあやすように、ただ抱きしめ続けた。

 

 

 暫くして嗚咽は収まった。

 もう大丈夫、という言葉と共に胸から離れる。

 

「あーあ、恥ずかしいところ見られちゃったな」

 

 そういって明るく笑う。泣き笑いではあったが、可憐な笑みだった。

 

「さて?私は何も見ていませんよ?」

 

「それはそれで残念なんだけど……」

 

 唇を尖らせて文句を言う。妹二人も苦笑いしている。どうやら本当に大丈夫なようだ。

 表情を切り替える。

 

「今日伺ったのは、聞きたいことがあったからでもあります」

 

 空気が変わったのを察したのか三姉妹も真剣な表情に変わる。

 

「もしかして……あの男のことかしら」

 

 張梁が眼鏡を持ち上げながら問う。姉二人の顔がこわばった。

 

「ええ。張角殿を人質に取っていたあの男です。

 どういった経緯であのようなことに?」

 

「……あの男、名前は聞いてないけど、突然現れたのよ。

 暴動が一旦下火になってから、私たちは一部のまともな黄巾の人たちに匿われてたの。

 ある日突然あの男がごろつきを連れて乗り込んできて、波才さん、を……」

 

 張梁の目に涙が浮かぶ。

 その波才という人物が彼女らを匿っていたのだろう。

 

「私はそのままそのごろつきに捕まえられて……。

 たまに水をほんの少し飲ませてもらえるだけで、生かさず殺さずって感じだった。

 だけど、何でか傷つけることはしない、って言ってて。ごろつきの一人が私に手を出そうとしたんだけど……蹴りでその人の首を折っちゃった……」

 

 その時の光景を思い出したのだろう。震えながら肩を抱いていた。

 

「ふん!傷つけるより酷いことしてるじゃない!ちいは絶対に許さないんだから!

 この子も、そのせいで……!」

 

「なるほど……」

 

 そういう事情か。納得はできる。だが――。

 

「では、あれだけの人数をどうやって操ったのですか?

 元々そのような妖術が存在するなら悪用する者が他にもいそうなものですが」

 

「……ある書物が原因なのよ。名前は『太平要術の書』。

 暴動が起きちゃって私たちが捨てたはずのそれをあの男が持ってきて、ここに書いてある通りに妖術を使えって……。私は妖術を使わされただけで、細かい命令は皆あの男がやってたみたいだけどね」

 

 張梁が苦々し気に言う。

 

「何故あのようなことをしたのか、目的については何か言っていましたか?」

 

 顔を見合わせる。やがて声を上げたのは張角だった。

 

「はっきりとは覚えてないんだけど……『この外史を滅ぼすため』とかなんとか言ってたかなあ。

 意味はよくわかんないんだけどね」

 

 外史。またその言葉だ。洛陽で董承も耳にはさんだという。

 おそらくは、外典や番外などの意味の外に歴史の史の意味合いだろう。一刀にだけはその意味が理解できる。

 主な人物が皆女性となっているこの世界は、正しく外なる歴史と言えるのではないだろうか。

 

「その男、まず間違いなく董卓を唆した男と同一人物ですね。

 陛下と董承殿を人質に取り、洛陽を地獄に陥れ、反董卓連合の火種となった男……」

 

「やっぱり!とんでもない極悪人だったのね!」

 

 張宝が憤慨している。姉妹の中では一番の激情家のようだ。

 

「ええ。

 そして伝国の玉璽を盗み出し、袁術に渡した男でもあるでしょう。

 それが原因で今世には皇帝を自称する者が二人存在し、陛下は軍に狙われ洛陽を追われました」

 

「北郷さん、此処にいて大丈夫なの?それ、結構一大事なんじゃ……」

 

 張梁が訝し気に聞いてくる。

 

「問題ありません。既に霞が向かっています。

 こと騎馬戦において、特に速度を旨とする今回のような戦では、彼女に並ぶ者はいません」

 

「ふーん、信頼してるんだね、張遼さんのこと」

 

 張角は何故か不満げだ。

 

「でもでも、例えば敵に凄く頭の良い人がいて罠にかけられたら?」

 

「それも問題ありません。後発で軍師が出発しています。

 戦術能力は私よりも上です。袁術軍にはまともな軍師は付いていないようですから、後れを取ることはないでしょう」

 

 

 

 

 

 

 遅れる馬が出始めた。徐々に速度を上げつつ駆け通してきたが、これ以上の行軍は兵の戦闘能力にも支障をきたす。黄巾を迎え撃つ直前に行った野営訓練で兵の気力はこれぐらいでは問題ないように鍛えてあるが、馬はそうはいかない。どうやら限界のようだ。

 

「全員止まり!此処で野営準備や!」

 

 火を起こし僅かばかりの休息を取る。

 霞も獲物を抱いて眠りについた。

 

 馬の往く音で目が覚める。一瞬で構えをとり得物を掲げると――現れたのは、音々音だった。

 

「音々音か」

 

 並足よりも更に遅く、一歩一歩ゆっくりと進んでいる。

 

「此処に来てどれくらいなのですか?」

 

 全身が埃まみれだ。あの小さな身体でずっと駆け続けてきたのか。

 

「二時くらいやな」

 

「流石に速いですな。

 半時後再び同じ速度で軍を進めれば、敵との遭遇は明日の夜半から明け方にかけてなのです。

 ねねは先に行きますぞ」

 

 そう言って目の前を通り過ぎていく。歩みを止める気配はない。

 

「眠らずに行く気かいな?無理して戦場で役に立たんかったら意味ないで」

 

 返事は、振り返らないままだった。

 

「ねねの騎馬術ではそちらの行軍にはとても付いていけないのです。

 それに軍師は戦場で指揮をとるだけの力を残しておけばよいのですぞ」

 

「音々音……」

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 

「董承殿!前方に砂塵です!!」

 

 護衛の兵が大声で叫ぶ。

 

「旗は確認できるの!?」

 

「間もなく!……見えました!

 旗は『張』!!紺碧の張旗です!!

 

 張遼将軍が、援軍に来られたぞーー!!!!!」

 

 おおーーーー!!!!!

 

 全軍から歓声が上がる。

 それを聞きながら、溢れ出る涙を拭っていた。

 自分は、助けられてばかりだ。

 首を振る。霞と約束したのだ。華雄さんが命を懸けるだけの価値があったと言われる自分になると。

 

「霞さん!凄く格好いいですよ!」

 

 精一杯の笑顔で、彼女に会うために馬速を上げた。

 

 

 

 

「陳宮殿!」

 

 放った斥候が戻ってきた。武具も甲冑も身に着けず、ただ速度を旨とした兵を三人。敵を発見した時点で兵数を確認し帰還せよと命令していた。

 そのまま馬上で音々音に何事かを報告している。敵が見つかったということか。

 三人はそのまま霞の後方に向かって駆け出す。どうやら本隊に合流するようだ。

 

「見つけたんか?」

 

 音々音がこちらと視線を合わせてうなずく。

 

「数はおよそ一万。陛下と月殿は、袁術軍より三里ほど先行しておるようです。

 恋殿が時たま単身で奇襲を繰り返しておること、一般兵の中には陛下に向けて刃を向けることを躊躇っておる者が多いことが原因のようですな。

 このまま行軍を続けられれば、皆を本隊に合流させることはそう難しくはないのです」

 

「そら良かった。とりあえず、最低限の目的は果たせそうやな」

 

 ほっと息を吐く。月や詠、皇帝陛下が捕らわれる心配はなくなりそうだ。

 

「問題はその後なのですぞ。

 こちらの軍を発見すれば、焦って勢いのまま攻撃を仕掛けてくるやもしれないのです。その場合、身の安全を確実に保証できない。かといって、これまでの行軍で疲弊している月殿の部隊を護衛なしで更に進ませるわけにもいかないのです」

 

 その通りだ。とすると、選択肢は――。

 

「霞、決断するのです」

 

 音々音がこちらの目を真っ直ぐ見つめてくる。

 口調は静かだ。態度もいつも通り。しかし、全身から闘気が立ち昇っている。

 

「ここは月殿の部隊を吸収し、本隊と合流して陣を敷き戦うか、あるいは――」

 

「このままこの二千の兵で約五倍の敵に襲撃をかけるか、か?」

 

 互いににやりと笑いあう。

 悪くない。音々音と知り合ってから、一番通じ合っている気がした。

 

「涼しい顔してぎりぎりの軍略をつきつけるんやな。思わず大将と間違えそうになったで」

 

「こんなものをぎりぎりと感じておるのですか?

 やはり軍略の何たるかをわかっておらぬようですな!」

 

 相変わらずの毒舌を合図に手綱を引き絞る。

 

「言うたな?それなら、うちの武の全てを預けたる。

 その軍略の何たるかっちゅーのを教えてみい!」

 

「無論なのです!

 どこまでも苛烈な策を出し続け霞の武とやらを搾り尽くしてやるのですぞ!」

 

 同時に駆けだす。

 こんなに気分が良いのは久しぶりだ。

 誰にも負ける気がしなかった。

 

 

 

 

 

「霞さん!凄く格好いいですよ!」

 

 笑顔の月が近づいてくる。

 全てを一人で抱え込む癖は、少しはましになったようだ。

 

「月っち!久しぶりやな!」

 

 馬速は緩めない。このまま敵陣に突撃するのだ。

 

「霞!」

 

 皇帝陛下が乗っているのであろう馬車を先導していた詠が叫んだ。馬車の後方には恋が付いている。

 

「頼んだわよ!」

 

「任しとき!」

 

 最高速ですれ違う。短い再開だが、これだけで十分だ。

 悪くない。本当に悪くない。

 沸々と涼州騎馬隊の血が滾ってきた。自然と口角が吊り上がる。

 

 そして暫く後――。

 

「見えたで!音々音の言う通りや!

 追いかけるだけ、しかも恋のおまけ付きやからな。まともな陣敷けてへん!」

 

「まずは敵の陣を真っ二つに突っ切るのです。

 しかる後に兵を二つに分け、左右両翼より敵を四分するのですぞ!」

 

 音々音が馬躰にしがみつきながら叫ぶ。

 馬に乗るというよりは乗せられているが、しっかりと並走していた。

 

「攻撃は馬上の兵ではなく馬に集中!傷を負わせるだけでも良いのです!

 この先制攻撃で統率のとれた機動力を奪えるだけ奪っておくのですぞ!」

 

「ちゅーことや!ええか!!」

 

「「「「「「「「「「応!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 全員が応える。

 この小さな軍師への確かな信頼を、皆が共有していた。

 

「行くでー!!!」

 

 突っ込む。敵兵は慌てふためくばかりだ。

 左側より二人。得物を一振り。切り捨てる。見る限り、弓で狙われることはなさそうだ。

 刃、石突、持ち手。全てを活用し、一人でも多くの騎兵を落とすことを第一にする。

 馬は繊細な生き物だ。僅かの傷でもその走りに影響がでる。

 続いて左右同時。右の兵をいなして身体ごと左にぶつける。

 背後。いなしたまま石突で突く。再び左。切り捨てる。

 

「考えが甘いわ!」

 

 馬の脚を狙ってきた兵を擦れ擦れまで身体を倒して迎撃する。

 

「涼州騎馬隊舐めるんやないでー!!」

 

 馬速を上げる。今の自分を止められる者は恋くらいだ。

 敵兵は皆浮足立っている。既に逃げ出した兵もいるようだ。

 敵の機動力は大方失われた。組織だった騎馬隊での反撃はもうできないだろう。完全な乱戦状態だ。騎馬力を活かせないようでは、自分に敵はいない。

 しかし、数に任せて力押しをされれば不利になるのはこちら側だ。

 音々音の目に勝機は見えているのか?策は放てるのか?

 その時だ。

 

「皇帝の自称!まずは笑殺してやるのです!

 三族共々反逆者の汚名を着て皆殺しにされる覚悟はあるのですか!」

 

 音々音の叫ぶ声が聞こえた。

 完璧に不意を突き、戦術面で圧倒的優位に立ちながらもなお謀略の手を緩めない。なんて軍師だ、あのちびっ子は。

 ならばこの戦局で自分が為すべきことは――いや。

 一度全てを預けると誓ったのだ。最後まで音々音に乗っるのだ。武を、軍を、全てを与えろ。水のごとく自在に戦を動かせるように!

 やがて――来た。四散した軍が、中央で集結する。

 

「音々音!」

 

 徐々に近づく。声がようやく届く距離だ。

 

「大勢は決したのです!後は指揮官を討ち取れば敵軍は瓦解しますぞ!」

 

「せやけど数だけはまだまだ多い!もたもたしとると囲まれるで!」

 

 そこで気づいた。音々音は、目を閉じている。

 

「全軍八方に散るのです!」

 

 音々音の言葉に、自分が指示するまでもなく軍が再び分かれていく。この戦の主は、紛れもなく音々音だ。

 そして、一瞬の交錯。

 

「ねねの目が開いた瞬間です!」

 

 どういう事か。わからないが今はいい。最後まで音々音を信じるだけだ。

 再びの乱戦。付き従う兵の数はまた少なくなった。

 兎に角斬る。斬って、斬って、斬りまくる。

 音々音はどこだ。何処にいる。無事なのか。

 そして――見つけた。乱戦の場所から離れている。

 

 『ねねの目が開いた瞬間です!』

 

 敢えて目立つように外へ?全体を俯瞰し、何を見せようというのか。

 

 見つめる。見定める。

 

 ――背後に二人。回避して旋回。

 

 未だ目は閉じたままだ。

 

 ――正面。邪魔なだけだ。続いて右。斬り捨てる。

 

 ……まだか。まだなのか。

 

 ――再び正面。馬狙い。馬が自分で躱す。

 

 …………――――!!

 

 ……目が開いた!!

 

 

 その目玉で何をとらえている?敵の指揮官か?

 違う。見当たらない。よく見ろ。何がいる。

 

 その視線の先にいるのは――自分?

 

「後ろ!!」

 

 声と同時に身体ごと振り返る。

 そこには、信じられないという顔をした男がいた。

 

「殺!!!」

 

 男が武器を振り上げる。破れかぶれか。

 

「ぬるいわ!!!」

 

 交錯。

 

 男が、倒れた。

 

「敵将、神速の張文遠が討ち取った!!」

 

 

 

 

 

 戦はほどなくして終わった。

 指揮官を失った袁術軍は戦意喪失し、兵は散り散りになってその大半が逃げ出した。投降を申し出た兵も少なからずいる。音々音はその全てを受け入れた。逃げ出した兵の追撃はしていない。

 

 『ほとんどが袁術の愚政、重税に耐えかねて兵になった食い詰め者なのです。

  放っておけば、天子に軍を差し向けた袁術の非道、そしてその結果敗北したことを各地で語ってくれるはずですぞ。自分の本意ではない、袁術の責任だ、と』

 

 まだ他にも考えはあるようだが、お互い戦後処理に忙しくてそこまでは語れていない。

 残存兵、投稿兵のまとめが終わったのは、中天を過ぎてからだった。

 馬を降り、やれやれと目頭を揉んでいる音々音の隣に並ぶ。

 

「……あれ、うちをおとりに使ったっちゅーことかいな」

 

「……どんなに冷静で辛抱強い指揮官でも、どんなに大局を見渡せる者でも、ただ一点しか見えなくなる局面があるのです」

 

 こちらを見ないまま答えた。今度は肩を揉みほぐしている。

 

「……それは?」

 

「獲物を仕留めようとするまさにその時、なのです。

 まあ、仕留めようとしたのは実は猛獣で、返り討ちにされてしまったわけなのですが」

 

 ちょっと待て。

 

「よしわかった。うちに喧嘩うっとんのやな?高く買うたるで?」

 

「武の全てを預けるのではなかったのですか?それとももう忘れたのです?

 やはり猛獣とそう変わらないのです」

 

 両手を空に向け、やれやれなんて言っている。

 少しは成長したのか、なんて感心していたのが馬鹿らしくなった。

 

「一刀……ごめん。うち、やっぱこいつのこと好きになれへん」

 

「奇遇ですな。ねねもなのです」

 

「「ふん!!」」

 

 同時に顔を背ける。

 機嫌は最悪のはずなのだが、何故だか勝手に顔が笑ってしまう。

 

 妖術使いではない自分には頭の後ろは見通せないが、きっと音々音も笑っている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
張三姉妹の描写を早めに入れたかったので。
こんなに簡単に許されてはいけないという意見もあるかもしれません。
しかし作者的には、三姉妹が酷い目にあう未来が想像できなかったというか……これもキャラの人徳ですかね。
好き嫌いがわかれるかもしれませんが、感想お待ちしております。

戦闘シーンと結合しました。
こっちの方が以前の幕間の前ふりがあるぶん格好いい、と自分では思いなおしたのですが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。