※この作品はarcadia様にも掲載しています。
とある晴天に恵まれた日の昼過ぎ、夏侯淵――秋蘭は陽気に誘われるように中庭に出た。
荀彧――桂花が主に軍師として認められ、姉に愛らしい副官がついた賊の討伐の後、戦と呼べるようなものは起こっていない。
しばらくは今日のような穏やかな日々を過ごしても罰は当たらないだろう。
気の向くまま、脚の向くままに庭を散歩していると、東屋に件の軍師の姿が見つかった。
珍しいこともあるものだ、と秋蘭は首をかしげる。
華琳様大好き人間であり、また大の男嫌いであるはずのあの桂花が、どうやら男の字で書かれた書簡を読みながら笑っている。
それは彼女が普段男相手に見せる冷笑とは別物で、心の底から正の感情で笑っている。というかにやけている。正直に言って少し気持ち悪いくらいに。
今は桂花、秋蘭ともに昼休みである。
弓兵ならではの視力で、どうやら男の字であるらしい、ということは分かるものの、書簡の内容までは判別できない。
さすがにこれ以上近づけば桂花に気づかれるな、と考えて、気づかれてもいいかと思い直した。
自分も桂花もやましいことをしているわけではないのだ。
ゆっくりと正面から近づいていく。
「随分とご機嫌だな、桂花。察するにその手紙が原因のようだが」
5歩の距離で声をかけると、弾かれた様に顔を上げてようやくこちらに気が付いた。
自分が暗殺者なら桂花は確実に死んでいる。
普段ならそんなことはありえないだけに、桂花の気の緩みようがいかにひどいものかがよくわかった。
「おどかさないでよ秋蘭……。まあ、その通りよ。
長い間音信不通だった家族から便りがきてね。
元気そうでよかったって思ってたところなの」
なるほど家族からか、と秋蘭は納得した。
桂花の男嫌いも、さすがに家族には適用されないらしい。
「そういえば、桂花の家族の話は聞いたことがなかったな。どんな男なのだ?」
どうして男だってわかるのよ、との問いに、字を見ればわかる、と返してやるとふくれっ面で黙り込んだ。どうやら少し照れているらしい。
「実は血の繋がりはないのよ。祖父が孤児を拾ったの。
ちょうど祖父の子ども、私にとっては年下の叔父になるんだけど。
流行り病で亡くなったところに荒野にぽつんと倒れてるのを祖父が見つけて、叔父と同じ名前を与えて自分の子として育てたのよ。それがこの手紙の主ってわけ」
「なるほどな。名はなんというのだ?」
「荀攸。字は北郷。今は洛陽にいるらしいわ」
これが秋蘭が初めて荀北郷の名を聞いた瞬間であり、魏に仕える希代の軍師荀北郷の名が歴史の表舞台に出るしばらく前のことだった。
というわけで一刀君が荀攸になりました。細かい事情は次回になります。
よかったら感想よろしくお願いします。
追記 あらすじちょっと間違えてたw
年上の甥じゃないの?と思った方正解です。
一刀君を年下にしたかったので年上の甥から年下の叔父にしました。
転生にしたのもそれが理由。
まあ、性別逆転に比べたら些細なことのはずw