「どうやら私は聞く人を間違えたようです。」
固まった状態から再起動したのだろう、念威端子から聞こえる声にはもう先ほどのような感情が感じられず、ただただ冷たかった。
レイフォンの言葉に怒ったのか呆れたのか、どちらにしろ、端子の向こうの彼女はこれ以上の会話を無駄と断じたようで念威端子が飛び去ろうとしている。
「おい、ちょっと待て。自分から聞いてきたんだろ、なら最後まで聞いてけよ」
その言葉に一理を感じたようで念威端子の動きが止まり、しかしそこから声が伝わってくることはない。
聞くだけ聞いて、早く終わらせたいという事なのだろうか、冷たい印象とは裏腹に、意外と義理堅い少女のようだ。
それに気づいたレイフォンは唇の端をほんの少しだけ持ち上げ、言葉を続ける。
「人はそもそも何のために働くんだ?
大多数は生きるため、つまりお金のためだろ。
逆に言えばお金さえあれば無理に何かする必要はない、そう思わないか?
俺は、そう思う。そのためにこの力を使ってる。
仕事そのものに目的を求めるならともかく、俺にとって武芸は手段だからな。
お前も念威操者に目的を見出せないんだろ?
他に何かしたいことでもあんのか?」
「…ありません」
「そうか、ならお前は多分俺と同じタイプの人間だ。
きっと念威操者を手段として割り切ることが一番だと思うぞ。
いつかやりたい事が見つかった時、そっちに進めばいい。
だから、それまでは楽しく楽して生きていこうぜ?せっかく力があるんだ、勿体無いだろ」
レイフォンの話は彼女にとって随分新鮮なものだった。
楽して生きようと思っている人を見たことがないわけじゃない、ただその時は愚かな人だと見向きもしなかっただけだ。
幼い頃から念威操者になり、都市のために働くことこそ素晴らしいと教え込まれてきた当時の自分には彼らを理解できなかったのだから。
念威操者を手段として生きる。
口に出してみれば、とても単純なことで、その割には今まで程の抵抗を感じない。
「目的と手段、ですか...
言いたい事はなんとなく分かりました。参考には、させて頂きます。」
「そりゃ良かった。手段として割り切っちまえば、もう荒稼ぎするだけだからな。そしてら後はウハウハのニート生活だぜ。悪くないだろ?」
急に安っぽくなったレイフォンの言葉に苦笑する。幸い相手は念威端子の向こう側で、こちらのことが見えない。
心が少しだけ軽くなったのを感じながら彼女は言葉を紡ぐ。
「少なくともニートという言葉は、とてつもなくかっこ悪いです。」
皮肉が出たのはそれだけ彼女に余裕が生まれたからだろうか。
「意外とそうでもないぞ。知ってるか、お金持ちのニートってセレブって言うんだぜ?」
大真面目な表情でくだらないことを言う。
でも、それは悪い気はしない。
「セレブ、ですか…
響きは悪くはありませんね。」
「役に立ったのならなによりだ。悩み多き少年少女を導くのも大人の役目だからな~」
もう真面目な話は終わったからだろう、口調が随分と砕け、体を弛緩させながら呟く。
その姿は先ほど彼女の悩み聞いていた姿からは考えられないほどだらけ切っていて、そのことにまた苦笑がもれる。
「年齢は私の方が1つ上のはずですが。」
「でも、お前はどう頑張っても16には見えないけどな。」
「フェリ・ロスです、お前ではありません。」
「そういえば名前聞いてなかったな。俺はレイフォンだ、これからよろしく、とでも言えばいいのかね?」
「そうですね。兄次第、ですが…きっとまた何かするでしょう」
「そうか、じゃあそん時はよろしくな、俺はもう腹減ったからかえるぞ~」
「はい。今日はありがとうございました」
別れの挨拶をして、念威端子はどこかへと飛んでいく。
それを見送りながら、レイフォンもまた家路を急いだ。
今回はかなり難産でした。
それっぽい雰囲気出そうと思って頭をひねってみたのですがどうでしょうか?
そして、短くて申し訳ありません。
次からはもうちょっと長文で投稿したいと思います。できたら5000ぐらいで・・・