夢のないレギオス   作:歯並び悪い

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第三話

その瞬間、何が起きたのか理解できなかった。

なにせ、殴り掛かったニーナが何故か吹き飛んだのだ。

瞬時に理解が追いつけないのも仕様がないことなのだろう。

もちろん念威によって直後には起きたことを事実として把握していたのだが、その事実もやはり彼女、フェリ・ロスには驚きを禁じえないものだった。

 

 

レイフォンという口の悪い新入生が強いことは分かっていた。

 

彼女は兄であるカリアンとレイフォンのやり取りを念威で盗み聞きしていたのだ。

そのため、カリアンがあの手この手でレイフォンを懐柔しようとし、最終的には色んな特権を認めたうえで3億という大金を出してまで雇ったほどなのだから、その強さは押して知るべしという物だろう。

 

だが、それでも実感が伴わなっていなかったのだろう。

ニーナがレイフォンに殴り掛かった時、おろかにもレイフォンの身を案じてしまったのだから。

本当に案じるべきはニーナの方だったというのに。

 

だがそれも仕方のないことなのだ。

 

故郷でみた高位の武芸者ほどではないが、ニーナは十分に強い。

その十分に強いニーナの全力の、おまけに真後ろからの奇襲と言ってもいい一撃を、いくら強いとは言え、丸腰所か両手に荷物を持った状態で凌ぎ切れるとは思えないのが普通なのだ。

 

その普通じゃないことをあっさりやってのけたのがレイフォンであり、

ニーナを文字通り一蹴したのだ。

 

なるほどこれならばあの兄があそこまで必死になるのも頷ける。などとフェリは納得していた。

 

壁に激突し、気絶したニーナの心配は全くしていない。

念威で生きていることは分かっているし、自分が武芸に関わることになった原因の1つと言えない事もないニーナに対して親しみを抱くことは無かったからだ。

やつあたりに近いことは分かっていたが、やはりフェリにとってニーナは煩わしい存在であることは事実なのだ。

 

ふとレイフォンの方に意識を向ければ、

先ほどの自分と同じように思考が追いつかなかったのだろう、固まっている美形、シャーニッドの横をすり抜けてドアを出るところだった。

 

特に止めることもなく見送り、やがて再起動したシャーニッドとツナギのハーレイがニーナに駆け寄るのを

横目に眺めながらフェリは自分の荷物を片付け始めた。

 

─隊長を気絶させてくれたことにだけは感謝しないといけませんね。

 

フェリは少し腹黒かった。

 

 

 

 

 

 

 

薄暗くなってきた道を、ただただひたすら真っ直ぐ歩く。

 

元々人通りが少ない道なのだろう、すぐに人気が減っていき、やがて無人になった所で彼は声を上げた。

 

「なんか用か?まずはカリアンを呼んで来い、そしたら話を聞いてやる」

 

周囲に人独りいないのだが、彼、レイフォンは何かを確信しているかのように虚空へと話しかける。

 

そして当然のように返答が虚空から響いた。

虚空というよりは、虚空に漂う花びらのような念威端子から、と言った方がいいだろう。

 

念威操者にすぐに思い至るが、彼女からの用件となると心当たりがなかった。

だからてっきりニーナかシャーニッドあたりかと思っていたのだが、

 

「直々にご指名とは、光栄だよ。レイフォン君」

 

予想していなかった相手からの返答だった。

一瞬、驚き固まるがすぐに我に帰り声を紡ぐ。

 

「カリアンか、生徒会は随分と仕事が速いな、いつの間に俺が小隊に入ることになったんだ?」

 

レイフォンの責めるような態度を特に気にすることなく、カリアンは飄々と返事を返す。

 

「そう怒らないでくれたまえ、これは君のためを思っての措置だったんだよ。武芸大会で十全に活躍してもらうためには小隊に所属しいた方がいいと思ってね。もっとも、それも今じゃ意味の無い話だね。アントーク君を気絶させたのは少しやりすぎじゃないのかね?」

 

「余計なお世話だ、それに小隊のことなんて契約には入ってないぞ?」

 

一言で切り捨てるレイフォン。

おまけに言外に小隊に入れというなら報酬を上げろと言ってのける。

 

「指揮系統から独立した状態でも大丈夫かい?」

 

レイフォンの言の意味する所が分からないはずもないが、カリアンはそこを自然に流しつつ責任は取れるのかと言外に含ませて聞く。

 

「当たり前だ。俺独りでも十分勝てるんだから、んな細かいことはどっちでもいいんだよ。」

 

「ふむ。君がそう言うのならそうなのだろうね。まあ、よろしく頼むよ。レイフォン君」

 

レイフォンの答えに満足したのか、それだけ言い残してカリアンとの通信が途切れた。

後に残されたのはレイフォンと、もうカリアンとはつながっていない念威端子のみで

 

「君もこんな中継役させられるなんて大変だねぇ。まあお疲れさん」

 

レイフォンもそう言って踵を返そうとし、

 

「あなたは…」

 

端子からか細い、迷いを多分に含んだような声が聞こえ、動きを止めた。

 

「あん?なんだ?」

 

「いえ、何でもありません。」

 

言うかどうか迷っていたのだろう。

レイフォンの問いかけになんでもないと答えるその声からはやはり迷いが感じられた。

 

「言いたいことあるなら言えよ、そんな中途半端に焦らされたら逆に気になっちまう」

 

「……あなたは、自分の人生に疑問を持ったことはありませんか?」

 

唐突かつ哲学的な質問だった。

少々面食らうが、徐々に思い出す。『そういえばこいつ、原作じゃそんな悩みもってたな』

 

「悪いが哲学はちょっと」

 

聞きたいことが分かっているのに、あえてこんな返答を返すのはレイフォンの捻くれた性分ゆえだろうか。

しかし、相手はそんなレイフォンの戯言を気にもとめずに続ける。

 

「わたしはあります。わたしは生まれつき異常な念威の才能を持っていました。

それが原因で今まで念威操者として当然のように育てられてきました。

才能があるというだけで、です。でも私にはもっと他にも道があるんじゃないんでしょうか?親に決められた道ではなく、私自身で選べる念威操者以外の道が…。

私はこの力が嫌いです。

念威操者の道しか与えてくれないこんな力なんか欲しくなかったんです。

あなたはこのように思うことはなかったのですか?あなたも私と同じく特別な才能を持って生まれてきたはずです。周りに決められるままに武芸者という道を選んだはずです。あなたはそれを疑問に思うことは無かったのですか?」

 

それは切実な悩みなのだろう。

淡々としていて感情が感じられないような声ではなく、

その声音にははっきりと悲痛な叫びがこめられていた。

 

しかし、それはレイフォンにとっては取るに足らないものであった。

ゆえにレイフォンはいつもと変わらぬ、やる気の抜けきったような覇気の篭らない声で答える。

 

「なんだ、そんなことか。それなら簡単だ。」

 

「え?なにがですか?」

 

あっさりと答えが変えてきたことに驚き、

その声に困惑の色が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「ニートになればいいんだよ」

 

 

空気が固まった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと…
やっとここまでこれた。

やっと書きたかった場面が書けました。

ニート志望のレイフォンが原作キャラをニートの道に巻き込んでいく、
というのがこの話のコンセプトです


この場面は次話続きます。

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