書くのって難しい。
ご指摘、ご感想お待ちしております。
生徒会会議室。ツェルニの中心に聳え立つ尖塔の上部に位置するこの部屋には、現在ツェルニ各部門のトップらが集まっていた。殆どが最上級生であり、任期も短くはあるが、それでも現状、彼らがツェルニの支配者であることには変わりない。
皆、各々の分野で頂点に立つものだ。それに相応しい能力を持ち、また相応しい風格を纏っている。
そんな彼らが集まる会議室では、ツェルニの行く末を占う議論が交わされるのが常だが、今日は異様な緊張感に満ちていた。誰もが口を開くことはなく、身を強ばらせ、瞬きも呼吸も忘れて室内の壁際に備え付けられた巨大なモニターに目を向けている。
静か過ぎる室内。時折、誰かが思い出したかのように息を吐き出す音さえも良く響き渡り、それも直ぐ静寂にかき消されていく。
モニターには暴れまわる巨大な汚染獣と、それに刀を持って挑む1人の姿が鮮明に映し出されていた。
其れはまるで御伽噺のようで、全く持って現実味が感じられない光景だった。
人間の何千倍も巨大な生き物に対して、人間が刀片手に単独で挑む。誰かに話しても、与太話とさえ受け取ってもらえないような、作り話にしてももっとマシな物があるだろうと思わせるような、そんな光景だった。
たかが人間の一撃。その巨大な体躯にとってみれば、針の一刺しとなんら変わらないような一撃に汚染獣はもがき苦しみ、地面をのたうつ。
嘘だ、まやかしだと否定できたら、どんなに気が楽になれるだろうか。しかし彼らにはそれを選択することが出来ない。既にその汚染獣を目撃してしまったのだから。
遠く離れているはずなのに、直視しただけで体から噴出す汗。今にも身を引き裂かれてしまいそうなプレッシャー。恐怖に全身が金縛りに会い、指一つ動かすごとすら儘ならない。
今でも鮮明に思い出せる。自らが被食者だと一瞬にして自覚させられ、思考が絶望一色にそまった感覚。その後汚染獣が叩き落されていなければ、確実に発狂してしまっていただろう。
だからこそ、眼前のモニターに映し出される光景が恐ろしいのだ。
その圧倒的な怪物に今まさに止めを刺さんとする更なるバケモノの姿が。
ましてや、そのバケモノが自分と同じ都市で生活している事が。
そしてそれは、室内の端で独り佇むフェリにしても変わらない。常時感情を映さない彼女の瞳には確かな恐怖の色が浮かんでいた。
▼
空中からレイフォンは汚染獣を見下ろす。
この荒廃した世界の王者たるはずの其れはもはや虫の息といっても相違ない様相を呈していた。体の至る所に斬撃の後があり、噴出す血は一向に止まる様子を見せない。
未だ眼光は鋭さを宿したままではあるが、最早体を再生させる力も残っていないほどに、汚染獣の生命力は限界に達していた。
その姿を見下ろしながら、レイフォンは満足げな笑みを浮かべる。
用意した予備の錬金鋼20本は残すところあと8本。天剣を持っていないとは言え、都市を崩壊させるほどの威力が籠められた攻撃を10回以上その身に受け、それでもまだ原型を保てている。弱点を集中的に狙っていないと言うのも原因の一つではあるが、それでも驚嘆に値することだ。
だから、敬意を籠めて丁寧に自らの内に剄を練り上げる。
両手に掲げた刀が太陽のごとく輝き、巨大化して行き
──外力系衝剄の連弾変化 轟剣
叩きつけた。
グレンダンを出て、幾つもの戦場を渡り歩いてきたが、全力を出すに値する戦場には終ぞ巡り合えなかった。儘ならない現実に蓄積されていったフラストレーションを晴らすため、色々と試しては見たものの、やはり満たされることはなかった。それ故に、戦いに意味を求め、金銭を求めた。それでもやはり満足することは無かったが、それも過去の話。
老生体との戦いに確かな充足感を得られたのだから。尤もそれでも金銭を求めることをやめることは無いのだが。
「ありがとう」
だからレイフォンは最早動かぬ老生体に感謝した。
もう、二度と手に入らないとも思えたものを再び手に入れられたのだから。
再び全力を振るう機会を得たのだから。
満足させてくれたのだから。
そんな風にレイフォンが独り、感慨に耽っていると耳元に声が響いた。
「……お疲れ様です。放浪バスのポイントまで案内しますので指示に従ってください」
そんな言葉とともにヘルメットにの端に付近一帯の物と思われる地図が投影され、ある一点が赤く点滅している。
「……あぁ」
都市から遠く離れた地点で、瞬時にこうも正確なサポートが可能な念威操者はそうそう居らず、一言褒めてしかるべき場面であるはずだが、レイフォンの返事は何とも気のないものだった。
「何をぼーっとしているのですか?都市は今でもかなりのスピードで貴方から遠ざかっています。早く移動をして下さい。」
「ああ、すまん。ちょっと余韻に浸っていてな」
そんな言葉とともに、のそのそと歩き出すレイフォン。
戦いへの渇望が、熱が体から徐々に抜けていく。それに伴い思考も冷えていき、高揚した気分が落ち着いてくる。
一般人よりも早い程度の速度で歩きながらもふと、一抹の寂しさを覚えた。
老生体。
一生に一度もであえないであろう怪物。
かつて都市を転々と渡りながらも終ぞ巡り合うことがなかった天災。
それ相手でしか渇きを癒すことが出来ず、これから何時巡り合えるかもわからない。
ツェルニにいる内はまだ、大丈夫だ。
物語の表舞台。
その幕が下りぬ内は少なくともグレンダンにも負けず劣らず汚染獣の襲撃に晒され続けるだろう。
だが、その幕が下りてしまった後はどうすればいい。
世界の敵が倒され、平和な時代が訪れてしまったら、この持て余した力を振るう場所が無くなってしまったら……
体が震えた。
考えているうちに恐ろしくなってしまったのだ。
最早自分は人間ではなく、武芸者という名の化物だ。今更人間らしく生きるなど、出来るはずもない。
そう思えばあの化物の巣窟が恋しく思えてくる。
尽きぬ強敵、終らぬ戦い、永遠に超えられないだろうと思わされた圧倒的上位者。
あそこには自分が求める物が全部が揃っていた。
そして全て自分で捨てたのだ。
それを今更戻りたい等と考えている自分がいる。女々しくて、情けない。
それでも、もし、もう一度戻ることが出来たなら……
そんなことをレイフォンがつらつらと考えていると、耳元から響く声に思考がかき消された。
「……聞いていますか?」
念いたんし越しに響く、あからさまに不機嫌な声。どうやら、何かを話していたらしい。思考に没頭しすぎて全く気が付かなかった。
「その様子だと聞いていなかったようですね。ぼーっと立ってないで早く目標地点に向かってください」
レイフォンはいつの間にか足は止まっていたことに、言われて気がつく。
それほど深く考え込んでいた。
「ああ、悪い。急ぐよ」
言いながら、歩く速度はそこまで変わらない。
疲れているのだ。
活剄で誤魔化せるとはいえ、無理は必ず後で跳ね返って寝込むはめになる。
だから無理せず、歩いているのだ。
しかし、思えば、フェリも疲弊しているはずだ。
日をまたぐほどではなかったが、それでも数時間に及ぶ戦闘。それもレイフォンが全力を出すほどのもの。普通の念威操者ならば捕らえることすら困難を通り越して不可能に近いほどのスピードのそれ。それを遠く離れた都市からサポートし続けていたのだ。精神的な疲労は相当な物のはずである。
それでも一言も文句を言わず、未だ放浪バスの地点をレイフォンの視界の端に表示してくれている。
「全く、何時まで余韻とやらに浸ってれば気が済むのですか?何時もはやる気のかけらさえ見当たらないくせに、ナルシズムにでも目覚めましたか?」
いや、文句は結構言っていたかもしれない。
「そういえば、先ほどまでは随分とやる気に満ち溢れていましたね。それに何か面白いことも言っていたような気がします。確か、何でしたでしょうか?」
ちくちくと針を突き刺すような、刺々しい口調でフェリはレイフォンを攻める。
レイフォンがやばい、と思ったときにはもう遅かった。
フェリは念威操者である。全ての情報を脳内でデータ化して保存、再生することが可能だ。勢いでやってしまった恥ずかしいあんなことや、こんなことまで皆永久保存されてしまう可能性がある。基本的に、油断してはいけないのだ。しかし、今回レイフォンは久々の戦いに気持ちが高ぶり、油断してしまったのだ。
「そうそう、『お前の命と俺の錬金鋼どっちが早く尽きるのか比べあおうじゃねぇか!!』でしたね。随分と暑苦しいことを言いますね。まるでうちの隊長みたいです。ふふっ」
そんな心を抉るような言葉と共に聞こえてくるのはかすかな笑い声。衝撃的な事実である。ミス・ツェルニに輝くほどの美貌をもつフェリだが、一方で氷の女王様とも言われており、笑うことが無いことで有名だ。
そのフェリが笑ったのだ。
それこそ笑顔の写真が1枚なん万で売れるほどに貴重な出来事。写真ではなく声だけでも、その手の者が聞けば気絶する代物。
悲しいことに今録音できないから意味が無いのだが、しかしレイフォンはそれを悔しがる余裕も無かった。
それは、レイフォンの視界の半分ほどを占拠している映像のせいである。
何の前触れも無く、突然自分の昔の言動を思い出し、独りで恥ずかしくなり悶絶する。一通りもがき苦しんだ後、自分以外の誰も覚えていないだろうことに思い当たり、また独りで安心して落ち着く。そんな経験は誰にでもあるものだろう。
『……ただいま』
『外力系衝剄の連弾変化 龍落とし。なんてな』
『ククク……、ハーハッハハハッハ!!いいぞ!その生命力、その殺意!それでこそ老生体だ!!さあ、お前の命と俺の錬金鋼どっちが早く尽きるのか比べあおうじゃねぇか!!』
『ありがとう』
だが、レイフォンの恥ずかしい言動は全て映像として記録されてしまっていた。おまけに、本来ならば都市外強化装備のヘルメットで一番重要な顔が隠されているところを、フェリはその類稀な処理能力でリアルタイムな表情を細部まで拘って再現してくれやがったのである。
「あ゛あ゛ああああぁぁぁああああああああ!! やめてくれぇぇええええええええええええええええ!!!」
「大丈夫ですよ、今のところは誰かに見せる予定はありません」
絶叫に対して、何時に無く楽しげな声で答えるフェリ。
レイフォンの悶絶は暫く続き、そして何時までたっても安心することはできなかったのだった。
▼
繁華街を独りで歩く。
特に目的は無いけれど、スクープになりそうなネタが転がってたら嬉しいかな。
独りで練り歩くのは楽しいけど、何か物足りない気がする。なんでだろう?
まあ分からないってことは大したことじゃないよね。
なんだろ?
いつもは砂塵しか見当たらない空に黒い点が見える。
それがだんだん大きくなって……いや、近づいてきてる?
少しずつだけど、ぼやけてた輪郭がはっきりしてきた。
って、ちょっと、なによ? あれ!?
なんなの、あの怪物は!?
怖い。
逃げたい。
でも、体が動かない。
だれか、助けて。
ナッキ、レイフォン、エドロン!
誰か助けてよ。
もう、目の前だ。
怪物は口を大きく開いて私に向かって突っ込んでくる。
でも、体が震えて動かない。
だめ。
今なら開いた口から覗いている牙の数も数えられる。
あの口に食べられるのかな。
あの牙に噛み砕かれるのかな。
痛いのは、嫌だな……
「ッハ!?」
ベットから飛び起きる。
心臓が痛いくらいに暴れまわっていて、肺が酸素を求めて小刻みに伸縮している。
荒い呼吸もそのままに、慌てて体の確認。
シーツの下には何故か一般教養の制服。なんで?
でも、手も足もちゃんとついてる。
何処も痛くない。
良かった、まだ生きてる。
さっきのは、夢か。
怖い夢だった。
あの怪物を今でも鮮明に思い出せる。けど、思い出したくない。脳裏に浮かべるだけで身震いがするから。
こんなに怖い夢を見たのは何時振りだろう。
夢から覚めたいまでも、未だに気分が悪い。気を抜くと吐き気がこみ上げてきそうだ。
自他共に認める元気娘の私が、こんなにテンションを上げられないなんて……
制服越しにもかかわらずシーツはかなり湿り気を帯びている。額を拭ってみれば、べちょっなんて音が聞こえてきそうなぐらい脂汗にまみれていた。着ている制服も当然汗まみれで不快感を伝えてくる。気持ち悪い。
隣を見ればメィっちが別のベットで仰向けに寝かされていた。
悪夢でも見ているのか、顔色が悪い。
しかし、メィシェンの顔からの目線がすぐさま他の物に吸い寄せられた。
制服越しであるにも関わらず、シーツを下から押し上げる2つの山。
けしからん山である。
むかつく。
直ぐにでも潰してしまいたい。
それにメィっちは魘されているのだ。早く助けてあげるのが親友の務めだと思う。
そのメィシェンを起こすためにも、やはりあのけしからん山を潰しておくべきではないだろうか?いや、そうに違いない。
そうと決まったら直ぐ行動に移さないと行けない。
思い立ったら即行動。それが私のアイデンティティー。
そろり、そろり。物音を立てないように自分のベッドから降り、メィシェンへと近づく。
メィシェン、いや山に気付かれないように少しずつ手を伸ばして行き……
ガチャッ
突然ノックもなしにドアが開けられた。
ふと、そちらを見るとエドロンが立っていた。
こっちに気付き、目がいやらしくなる。
「えっと、何してるの?」
「や、山遊び?」
テンパって良く分からないことが口から出てきた。
▼
「えぇぇええええ!? 都震?」
エドロンから私とメィっちの事を説明してもらったが、自分の事なのに全然ピンと来ない。
なんでも、都震に備えての避難訓練終了後、倒れている私たちが発見されたらしい。そして此処に運び込まれたと。
どうやら此処は医務室のようだ。そして私たちは外傷も無く、多分都震で軽くどこかを打ったかショックか何かで気絶したと診断されたのだとか。
どうも、おかしい。避難訓練があった事までは思い出せるけど、そこからの記憶があやふやだ。たしか……
「ミィちゃん覚えてないのか?すごい揺れだったんだぜ。シェルターに行ってなかったら今頃怪我人続出だったんだろうな。ミィちゃんたちもスクープなんか探してないで避難すれば良かったのに。普通の都震だったんだから、何も見つからなかったでしょ?」
思考の海に沈もうとして、エドロンの声で呼び戻された。
スクープ!
そうだ、カメラだ!
何をとったかは思い出せないが、確か写真を1枚撮ったはず。その感触は未だ手に残っている。
それを見ればこのもやもやとした感覚がきっと晴らせるだろう。
近くを見回し、枕元に見つけた。
飛びつくように、逃がさぬように手にとって、データを確認する。
何故か震えが出てきた。
冷え汗が背中から流れ出して止まらない。
何故だろう、見たらいけないきがする。
でも、見なければ、真実を知らなければいけない。そもそも此処まで来て我慢できるはずも無い。
震える指も、流れ出るあせも、こみ上げる吐き気も、ついでに私の行動について来れてないエドロンも無視して、気力でボタンを操作する。
「ミィちゃんどうし──」
「こ、これよ…… これだわ!」
見つけた。心配そうに尋ねようとしてくるエドロンの声をさえぎり、叫ぶ。叫びでもしなければ気が保たないかもしれない。それほどまでに、恐ろしいのだから。
夢に見た怪物、それが夢の住人ではなく、写真にはっきりと写っているのだから。
「エドロン、これ見て」
「え? ってなにこれ!? なんだよこの怪物は!! これは本物なの?」
写真に写っているこの怪物。恐らく汚染獣だろう。比較するものが無いため大きさは分からずとも異質さは充分に伝わってくる。
「私も信じたくないわよ、こんな物。でも、本物よ。見たのを、覚えてる、わ」
覚えてる、と言うより今思い出したと言ったほうが正しい。そのせいで余計恐怖が嵩む。声の震えが止まらない。気丈に振舞おうとしても、体が命令を聞いてくれない。目を閉じれば開かれた口が迫って来るのを、自分が殺されるのを幻視してしまいそうで、唇の裏を強くかむ。鉄の味が口いっぱいに広がった。
「でも、これでハッキリしたわ」
「え?何が?」
「都震は起きてなかったって事よ。生徒会長の言う避難訓練は汚染獣に備えるため、あとは事実の隠蔽かしらね」
「でも、実際にすごい揺れたぞ?もう立っていられないぐらいだった。流石に都市を揺らすせるような汚染獣なんていないでしょ」
「確かにそうかもね。そこまでは分からないわ。でも、これだけは分かるわ、これは本物のスクープよ!!生徒会の欺瞞、絶対に私が暴いて見せるんだから!!」
私に此処までしておいて、ただですますもんですか!
そんな八つ当たり気味な決意をミィフィは固めたのだった。
ミィフィの一人称難しい。
女の子らしさが出せない。
実力的にも精神的にも……
でも読んでいて違和感感じられましたら、おっしゃってくだされば、精神的なほうの壁を乗り越えられるかもしれませんので。感想のほうでお願いしますね。
所で皆さん、昔の自分を思い出すと悶絶することはありますか?
僕はしょっちゅう有ります。
フロに入ってるときは、時々思い出してうめき声を上げたりしています。
きっと何年かたってからこの話読み返したらうめき声上げたくなるんだろうなぁ。