夢のないレギオス   作:歯並び悪い

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皆様、お久しぶりです。
結構長い間更新をサボっていて申し訳ないです。

こんな作者ですが、見限らずにこれからも読んでくれると嬉しいです。
マジで読んでやって下さいお願いします。





第十八話

 人気のない静まったツェルニの商店街。所狭しと並ぶ店は全て閉じられており、広めにとられた道路には所々紙くずが落ちているのみ。常日頃の学生たちで賑わう姿を知らない者が見ても、一抹の寂しさを覚えずにはいられないだろう。

 

 その通りの端をコソコソと移動する2人の学生がいた。

 

「くそ~、レイフォンはまた連絡つかないし、エドロンったらシェルターから出て来れないなんて、この裏切り者め!こうなったら私たちだけで真実を突き止めて、悔しがらせてやるわ!いくわよ、メィッち」

 

「ミィちゃん、……もうやめようよ。エドくんも来ないし、私もなんだか怖いよ……。シェルターに行こ?」

 

「なに言ってるのよ。特大スクープ撮って、あの頼りない男どもに目に物見せてやるんだから!それに、大丈夫よ。どうせ訓練なんだから何も起きないわよ」

 

 ミィフィとメイシェンだ。目立たないように道の端を移動しているが、ミィフィの声が大きいため、あまり意味がない。

 だがそれでも2人が誰かに見つかることは無かった。今回の事件の顛末をしる生徒会には都市内をくまなく捜索をするほどの余裕が肉体的にも、精神的にも無かったからだろう。

 

 だから、幸か不幸か2人はそれを見つけてしまった。

 

 

「ミ、ミィちゃん……あ、あれ何?」

 

 最初に見つけたのはメィシェンだった。

 それを見つけたのは唯の偶然か、それとも遠くからでもそれが発するプレッシャーを感じ取ったゆえの必然か。ともかく、周囲に並び立つ建物の隙間からたまたまそれが見えてしまったのである。

 

 それが何なのか。

 そんなことはこの世界に住むものならば誰でも分かる。

 それでもメィシェンが聞いたのは現実を受け入れたくなかったからなのだろう。何も見えないよ、目の錯覚だよとミィフィに否定して欲しくて、そんな一縷の望みに縋りながらも、尋ねるメィシェンの声は震えていた。

 

「ん?どれどれ……。ちょっと、な、何よ……あれ……。」

 

 そしてメィシェンの言葉を受けて、彼女の見てる方へと振り向いたミィフィも見つけてしまった。

 

 其れはさながら御伽話ドラゴンのようだった。

 長い胴体をくねらせ、背中に生える3対6枚の虫のような翅で一直線に此方へと飛んでくる。

 距離が遠いため、大きさが今一分からないが、それでもハッキリと姿形を認識できるまでには近づいて来ている。

 

──汚染獣

 

 その単語に脳が至る。瞬間、ミィフィの体が震えた。

 人類の敵、汚染獣。

 謎に包まれた生命体だ。

 それがどうして生まれたのか、なぜ人を襲うのかは未だ解明されていない。

 

 分かっていることは、汚染獣は人間が触れただけで死に至る汚染物質を糧に生きていること、恐ろしいく繁殖能力が高いこと、……そして、都市を滅ぼせることだ。

 

 唇が震えて声がでない。

 足が震えて満足に動けない。

 

 恐怖に支配される中、それでもミィフィは懸命に首にヒモで掛けられたカメラを震える手で取り、ピントを合わせ、震える指でシャッターボタンを──押した。

 

 

 ドン!ドン!!ドン!!!ドン!!!!

 

 突然耳をつんさぐ爆音が断続的に響く。

 ミィフィたちはたまらず耳を押さえ、瞬間、閃光が走り、視界が真っ白に染め上げられた。

 事態は尚も止まらず、都市が小刻みに揺れ動き、突風が吹きぬける。

 

 ミィフィたち等知ったことかと次から次へと動く事態。それを何とか確認しようと、ミィフィは懸命に目を開けようとするが、

 

 

 

 轟!!!!

 

 

 先ほどよりも更に大きな轟音が響き、そして叩きつけるような衝撃に襲われてミィフィとメィシェンは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汚染物質に満たされた外の世界。荒廃した大地に吹き荒れる砂塵も届かぬ遥か上空にて、レイフォンは眼下のツェルニへと真っ直ぐに迫り来る老生体を見ていた。

 その身には黒い都市外戦用装備を纏い、左手には更に復元された手袋型錬金鋼、顔はヘルメットで隠されている。故に外からでは彼の表情は見て取れないだろう。しかし、それでも近くに誰かが居たなら、その身から発する喜色を何ら間違いなく感じ取ることが出来ただろう。

 

 レイフォンは歓喜していた。いや、むしろ狂喜と言うべきだろう。頭部が隠されているため、その表情をしかと見て取れるものはフェリしかいないが、その無感情を体現したようなフェリを以ってしてもはっきりと難色を示すほどの笑みを浮かべていた。

 それは獰猛な笑みだった。瞳は鋭利な眼光を宿しながらも爛々と輝き、口は半開きで気持ち悪いほどに釣り上がっている。まるで獲物を仕留めうる核心を得た猛禽類のような、そんな狂気を感じさせる。グレンダンに居た者がこれを見れば、即座にサヴァリスを思い浮かばせるだろう、戦闘狂の笑みだった。

 

「ククッ、とうとう来たか……」

 

 興奮ゆえか、レイフォンから独り言が漏れる。

 数年ぶりに見る老生体。

 全長数百メイルは優に有るだろう巨体と鋭利なフォルムの頭部はかつて前世にて語り継がれてきた空想上の生き物、東洋龍を思わせる。

 ただ眺めているだけでもビリビリとしたプレッシャーが感じられ、またそれが心地いい。

 

 こんなにも心躍る戦場は久しぶりだ、と心中で独りごち、少しだけグレンダンに居た頃に思いを馳せる。かつての故郷で渡り歩いた幾多の戦場は、今でも全て鮮明に思い出すことができる。最後まで好きにはなれなかった都市ではあったが、それでもこの身に宿る闘争本能だけは満たしてくれた。幼少時の初陣も、初めて雄性体を殺したときも、初めて武芸者の死を眼にした時も……。グレンダンの戦場では常に死が身近に感じられた。其れは天剣になってからも変わらない。だから、何時までも変わらないのだと思っていた。グレンダンを出てからも変わらないのだと、そう思っていた。

 何時からだろうか、戦闘に感じる興奮が減っていくと気付いたのは……

 何時からだろうか、戦うことに飢え始めたのは……

 何時からだろうか、満足に力が振るえない現状に渇きを覚えたのは……

 傭兵になり、戦場を荒らして周り、それでも飢えと渇き癒えてくれはしない。返上した天剣はもう手元に戻ることはなく、残るはもどかしさと後悔。

 

 だからこそ、ツェルニに来たのだ。

 別に物語にそこまで興味が有った訳ではない。世界に命運にしても自分が居なくても何とかなるだろうと思っている。英雄願望もさらさらない。

 求めているのは、ただ満足できる戦場だけだ。

 この飢えを、渇きを癒してくれる戦場のみを求めて物語の表舞台まで出張ってきたのだ。

 

 そして、その戦場が今目の前にある。

 

 

 

 老生体はまさにレイフォンの真下を通過しようとする瞬間───轟音が響いた。

 

 ツェルニから剄羅砲が発射された音だ。

 本来ならば、ツェルニの武芸者が100人で剄を籠めなくては使えないような使い勝手の悪い兵器。ツェルニで直ぐに使える状態だった2台と、レイフォンの放浪バスに備え付けてあった2台、その4台に限界ギリギリまでレイフォンが剄をこめただ。それら全てが発射されたのである。

 

 念威操者であるフェリの緻密な計算により、発射された剄弾は狙いあまたず、汚染獣に着弾する。閃光が弾け視界が一瞬だけ染まり、衝撃が四方に拡散し眼下の砂塵が汚染獣を中心に花を描く。

 

 URrAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

 老生体は苦悶の叫びを上げた。

 がしかし、深刻なダメージには至らなかったようで眼に怒りを灯して一層速度を上げてツェルニへと迫る。

 

 やはり、そうこなくては。

 

 剄羅砲による砲撃。幼生体ならば塵も残さず消し飛ぶ。雄性体でも致命傷だっただろう。

 さすがは老生体である。所々鱗が剥げ、血を垂れ流しているが、それだけだ。致命傷どころか飛行能力にすら異常が見られない。寧ろ速度が上がっているぐらいである。

 

 予想していたことでは有ったが、現実として改めて確認すれば感動すらもこみ上げてくる。

 不意に懐かしさが込み上げて来て、口から零れた。

 

「……ただいま」

 

 そんな、この場には全くそぐわない言葉。聞くものからすれば狂人のそれとしか取れないだろう。でも、だからこそ自分には相応しい。

───俺は、バケモノだったんだな

 この世界に生を受けて15年、自分の言葉をうけて、心からレイフォンはそう思った。

 

 そして、レイフォンは動く。

 

「レストレーション」

 

 起動言語を唱え、右手に持った錬金鋼を復元。手には自動的に白金に輝く手袋が装着される。

 千にも及ぶ鋼糸を全方位へと伸ばし、化錬剄の伏剄の要領で剄を鋼糸の外側へと纏わせていく。

 先ほど散った剄羅砲の残滓をかき集め、纏め上げる。

 やがて、鋼糸が限界に達し、普段はほぼ眼に映らない糸が赤色を帯び空中に浮かび上がる。その鋼糸に更に剄を籠め、纏め上げた剄羅砲の残滓と混ぜ合わせ、一つの技と為し、老生体に叩きつける。

 

 

 

「ククッ、外力系衝剄の連弾変化 龍落とし。なんてな」

 

 風化する右手の錬金鋼を気にも留めず、レイフォンは眼下に広がる惨状を眺め、皮肉気に呟く。

 

 眼下にはさながら爆心地の如き巨大なクレーターが誕生していた。

 その中心に横たわる、老生体。剄羅砲を4発その身に受けても平然としていた先ほどの姿からは考えられないほどに満身創痍の様を呈していた。

 レイフォンの剄技が直撃したであろう部位は鱗が剥がれ落ち、半ばほどまで肉がつぶれ、赤黒い色合いをした血液がクレーターに流れ落ち池を形作ろうとしている。3対6枚あった翅も大半が根元から捥がれてしまい、辛うじて残る2枚もあらぬ方向へとグチャグチャに折れ曲がっており、とても飛べそうには思えない。つい先ほどまでは神の如き存在感を放っていたにも関わらず、現在では吹けば消える灯火程度に弱々しく見える。

 

 初撃で機動力を奪う。

 

 汚染獣戦のセオリーであり、至上の命題だ。

 そも、汚染獣戦とは、基本的に都市に迫る汚染獣を迎え撃つことである。

 都市というご馳走が五万と用意されている餌場が目の前に存在するというのに、路傍の小石に彼らが目を向けることはない。故に、汚染獣に意識を向けられることがない初撃にて、どれ程効果的なダメージを与えられるかが汚染獣戦における武芸者の生存率、はては都市の存続が懸かっているといっても過言ではない。

 つまり、もっとも厄介な飛行能力を如何にして初撃で奪うか、が戦闘の勝敗を分けるのだ。

 

 その点、ツェルニはこれ以上ないほどに上手くこの命題を達成することができた。

 都市からの砲撃で注意をひきつけ、死角からレイフォンが全力の一撃を叩き込む。

 圧倒的火力を持つレイフォンを擁するから出来ることとは言え、完璧な作戦である。

 そして、その結果が眼下の惨状であり、虫の息とも見て取れる汚染獣だ。普通に考えれば、体の中ほどを物理的に潰されて、生物が生命活動を維持できるとは常識的には考えづらい。その身から流れ出た血によって出来た池もどんどん広がり、その命が刻一刻と失われていくように感じられる。

 しかし老生体の目だけは変わることなく爛々と怒りの焔を灯しており、その輝きは次第に激しさを増して行く。

 やがて上半身を動かし、怒りの咆哮を轟かせた。

 

URAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

 

 驚異的な生命力であった。

 その身に受けたのはかつて天剣にも上り詰めたレイフォンの全力の一撃である。

 天険を所持していた時期ほどの威力はなくとも、そこらの都市にでも放てば確実に凄惨たる結果をもたらす程の代物だ。

 それでも老生体は立ち上がった。脚も無いため立ち上がると言うには語弊が有るかもしれないが、ともかく老生体は上半身を持ち上げ、世界の王者たる自らへと不遜にも攻撃を加えた者を注視する。

 勢い良く流れ出ていた血液も次第に止まり、鱗が剥がれ落ちた部分が黒く硬質的に見える何かが覆っていく。

 

 次第に快調へと向かう老生体を見て、レイフォンはほくそ笑んだ。

 全力の一撃だった。手加減はしていない。戦いを楽しみたいという欲求はあるが、それで自らを制限していては本末転倒だ。だから、先の一撃は現状出せる全力の一撃で、それをまともに受けても尚も向かい来る老生体に心が躍る。

 視界の端に高速でこの場を離れようとするツェルニが映り、彼は笑みを一層深くした。

 これで細かいことを気にせず、思いっきり戦える。

 

 左手から伸びる鋼糸20のうち1本を手繰り寄せ、括り付けた物を右手で持ち、唱える。

 

「レストレーション」

 

 復元言語を聞き届け、それは白金に輝く刀へと姿を変えた。

 あらん限りの剄を籠め刀が眩い光を放ち、それと同時に汚染獣へと向って自由落下を遥かに超える速度で突き進む。

 

 接敵と同時に叩きつけた。

 力任せでいて、技とはとても言えない何か。

 それでも、籠められた剄に比例した威力を発揮し、鱗に覆われていない部分の黒い硬質的な何かを突き破り、刀身半ばまでめり込む。白く眩い光を放っていた刀身は何時しか赤色を帯びていて、レイフォンは錬金鋼を老生体に突き刺したまま離脱する。

 暴れまわる老生体の攻撃範囲から離脱、左手から伸びる一本の鋼糸に剄を通した。

 

───繰弦曲・魔弾

 

 本来は、突き刺した鋼糸を通して相手の体の内側へと衝剄を送り込む技。今、剄を送り込む先は赤く灼熱した錬金鋼であり、元々限界近く系を注ぎ込まれていた其れは容易く臨界点を突破し、衝剄を老生体の体内に撒き散らしながら爆発した。

 

UURRREAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAaaa

 

 再び響く苦悶の叫び。

 爆風が晴れた後、錬金鋼が刺さっていた所には大きく抉られて出来た様な穴が出来ていた。

 

 が、それでも老生体はレイフォンをにらみつけることをやめない。

 戦いを放棄しようとはしない。

 戦力差は圧倒的で、上空から一方的に嬲られる状況であることを理解しているにも関わらず、その目に映る殺意に一部の揺らぎもなかった。

 

 故にレイフォンは笑う。

 一度失い、追い求め、もう手に入ることは無いと思っていたものが此処にあると。

 

「ククク……、ハーハッハハハッハ!!いいぞ!その生命力、その殺意!それでこそ老生体だ!!さあ、お前の命と俺の錬金鋼どっちが早く尽きるのか比べあおうじゃねぇか!!」

 

 左手から伸びる19本の鋼糸の内一本を手繰り寄せる。

 

「レストレーション!!」

 

 

 

 刀を片手に眼前の巨大な生物へと突進した。




補足

・剄羅砲
 空間を完璧に把握できる念威操者様がいらっしゃいますからね。外れるわけが有りません。多分。
 ちなみに砲手はヴァンゼくんか誰かががんばってくれているんだと思います。作者がうろ覚えのアニメを元にイメージしているのでおかしな所が有るかもしれませんが、細かいところはお見逃しいただけると嬉しいです。


・龍落とし
 要するに蛇落としが強力になって帰ってきた感じです。でもって老生体がドラゴンっぽいからそれを地に叩き落すのと掛けてみた感じです。


以上レイフォン無双でした。
ミィフィとメィシェンに別状は有りません。汚染獣を生で見てしまった精神的ショックが大きいですから、身体的にケガなども有りません。
次話ぐらいにまた出てきますので楽しみにしていてくれると嬉しいです。


さて、やっと原作2巻部分の終わりが見えてきました。
長かった……
そして今までお付き合いいただいた皆様には本当に感謝で色々が一杯です。
そして今までは原作沿いでしたが、そろそろ原作がおかしくなり始めます。
これからも末永くお付き合いしていただけると嬉しいです。


所で最近1評価が増えてきた。
まだアンチ始まっていないのにこの状況だと、アンチが始まったらどうなるのだろうか……
恐ろしい。

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