夢のないレギオス   作:歯並び悪い

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あけまして、おめでとうございます。
今年も頑張って書きますので読んでやってくださいね!


第十七話

「はぁ……」

 

 心中で叫びながら深いため息を一つ、つく。

 それで気持ちを切り替えたのか落ち着きを取り戻したレイフォンは何時ものやる気の無い声で言葉を紡いだ。

 

「そんで、報酬は出せるのか?」

 

 どうやら、未だ懲りていないらしい。

 ツェルニの財政など知った事かと言わんばかりの態度で悪魔の契約を取り付けようとする。

 

「こちらは予算が無いと言ってるのに、全く鬼だね君は」

 

「俺は働くのが大っ嫌いでな、ましてただ働きなんぞ死んでも御免だ」

 

「それでもこれから未来へ羽ばたく若き雛たちを守るために一肌脱ぐくらいはしても良いんじゃないかね?」

 

「ようは安くしろってことだろ、もっとストレートに言わねぇと伝わらんぞ?」

 

「ツェルニのために一回ぐらいはボランティア精神でサービスすべきだとは思わないかい?」

 

 レイフォンが今まで貰ってきた、──と言うよりは奪い取ってきたと言ったほうが妥当な報酬からすれば、一回位無料で働いても一般人的には充分に破格なのだが、彼はそれを良しとはしない。

 

「馬鹿言え、何処の誰が命懸けのボランティアなんぞするかよ」

 

「はは、君の場合命が懸かって無くてもしそうにないと思うがね。──っと、時間が無くなって来たようだ。そろそろ本題に入ろう。……レイフォン君、汚染獣討伐の長期契約を結んで欲しい」

 

 カリアンの態度の変化と言われた内容に、レイフォンは沈黙で返す。

 将来起こりうる展開と損得について考えているのだ。

 最早一生遊んで暮らせるだけの貯蓄があるというのに、何処までもがめついやつである。

 

「……年、10億だ。時間も無いようだからな、交渉は受け付けん。これが最安値だ」

 

「ハァ、分かっていたが、聞いただけでも頭痛がするよ。…………いいでしょう、お金は後で用意させます」

 

 10億と言う金額はツェルニからすればポンッと出せるような額ではない。だがしかし、映像越しとは言え迫り来る汚染獣の姿をカリアンは見てしまったのだ。

 先日襲ってきた汚染獣が何故幼性体と呼ばれているのか、それを否が応にも理解させられた。今特急で飛んできているアレに比べれば確かに先日の汚染獣は幼子としか言いようがない。だが、その幼稚な汚染獣にすらツェルニは滅ぼされかけたのだ。

 それを回避するために、4億。最善だったと思っているわけではない。このまま続けばいずれ限界が来るのも分かっている。だが、生徒の、都市の命が金で買えるのならば安い物ではないだろうか。

 

 何故かは分からないが、ツェルニは立て続けに汚染獣に遭遇している。これが偶然ならば問題ないが、もし何か理由があるとするなら……、もしこれからも襲われることがあるのなら……

 

「はぁ……………」

 

 深く、深くため息を吐き、背に腹は代えられないと仕方なしに納得するカリアン。何時もの余裕は無く、その声音を聞いただけでも彼が頭を抱える様がありありと脳裏に思い浮かぶ。

 

「お前も大変だな。それで、汚染獣の映像出せるか?」

 

 レイフォンが言い終わったときにはもう彼の目の前の空間に汚染獣からの生中継が投影されていた。

 都市から遠く離れた地点の映像をリアルタイムに、しかもこれほど鮮明に映し出す。こんな事が出来る念威操者は世界中を探し回ってもそうは見つからないだろう。ここツェルニでは唯1人しかいない。カリアンの妹、フェリだ。

 気を利かせているのかそれともめんどくさいのか会話にこそ参加しないが、仕事は完璧にこなしているあたり、さすがは天剣に並ぶ才能を持つだけはある。

 

 「今レイフォン君のところに此方の手元と同じ映像が映し出されたはずだ。武芸の事は良く分からないから単刀直入に聞くが、……勝ち目はあるかね?」

 

 尋ねる声には縋るような響きが混じっていた。

 

 空間に映し出されたのは空飛ぶ汚染獣の姿。映像ゆえに具体的な大きさまでは測りかねるが、下を高速で通り抜ける荒廃した風景に混じる小山等から、その体躯が尋常ではないほど巨大であることが伺える。映像越しでも伝る威圧感に空気が震える。先日の幼性体がゴミに思えるほどの迫力である。

 それがツェルニへ一直線に迫ってくるのだ。

 カリアンらからすれば悪夢にも等しい光景だろう。事実彼はレイフォンの返答を何ら音を発せず押し黙り、待っている。彼にとって見ればレイフォンの否は即ちツェルニ、ひいては自分への死刑宣告その物なのだから。

 

「くくく……、随分と心細そうじゃねえか。あのクール眼鏡がここまでなるとは思わなかった。まあ、心配すんな。報酬分はキチンと働いてやるからよ」

 

「そう言ってくれると心強いよ。他には何か必要かい?小隊員に召集を掛ける用意は出来ているが」

 

「召集なんて間違っても掛けんじゃねぇぞ。戦力どころか足手まといにしかならん。生きた囮に使って良いなら使うがな」

 

「はあ、本来ならば君に頼らず、彼らに経験を積んでもらわねば学園都市としての意義に反するんだが……。流石に今回は、ね」

 

 カリアンとしては悔しい限りなのだろう。言葉の端々に悔しさと遣り切れなさが滲んでいた。

 尤も周囲に居る者に言い聞かせる意味もあるのだろうが。

 

「まぁ、そう悲観するな。あれは老生体って言ってな単体で普通の都市を滅ぼせるような化け物だ。アレ相手に経験積んだ所で大して役には立たんよ。」

 

「ははっ、まさか悩みの種の君から慰めの言葉が聞けるとは思わなかったよ」

 

 レイフォンの言葉が余程予想外だったのかカリアンから笑みが零れる。そこには強がりも含まれるのだろうが、レイフォンの言葉を受けて余裕が生まれたことが一番の要因だろう。

 

 そんなツェルニの存亡の危機だというのに、まるで世間話をしている様な朗らかな空気が漂う中、感情のない寧ろ蔑む様な冷たい声が響いた。

 

「汚染獣の到達まで後2時間と18分です。男同士気持ち悪く微笑み合ってないでやることをやって下さい」

 

 言葉には多分に毒が含まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「避難訓練?なんで急に?ねぇねぇ、ナッキは何か聞いてないの?」

 

 レイフォンと細かい作戦の打ち合わせが終った後、カリアンはすぐさまツェルニ全域へと汚染獣の襲撃を想定した緊急の避難訓練を発令した。汚染獣襲撃を想定したものであるため、訓練への参加は強制であり、それ故に都市民からは困惑の声が上がる。

 

 

「私も何も分からないんだ。と言うか避難訓練のこと知ったのも今さっきだし、このまま配置に着けとのお達しだ」

 

 

 都市民からすれば、急すぎるのだ。

 それもそうだろう。何しろ計画された物ではなく、突発的に決定されたのだから。尤も汚染獣の襲撃にしても突発的に発生するものであるため、かろうじて言い訳は通るのだが。

 

 

「それホント!? 幾ら汚染獣想定してたって、流石にこのタイミングは急すぎるわ! これはきっと何か裏があるわよ! 私のジャーナリスト魂がそう言ってるわ!! 」

 

 それでも、不自然である事に変わりはない。

 本当ならば、今日は小隊戦が予定されていた日なのだ。荒廃した世界を単独で彷徨う都市において、小隊戦は数少ない娯楽の一つである。ツェルニに住む者の大半が楽しみにしているのだ。

 

 何故、わざわざそれを取りやめてまで避難訓練なんぞを行うのか。

 疑問に思うことは別段おかしな事ではなく、寧ろ自然なことである。

 

「ま、また危ないこと、起こるの?」

 

「大丈夫さ。ミィたちを守るのが私たちの、……仕事、だからな。だから心配ないよ」

 

 怯えるメィシェンを安心させようと励ますナルキだが、その目には迷いがあった。

 先日のデータチップ強盗事件を思い出したのである。

 

 何も、出来なかった。

 

 自分たちの力だけで都市を守ってみせるなどと大言壮語をはいたと言うのに、賊を相手に手も足も出なかった。動くことも出来ず、ただ迫る凶刃を眺めることしか出来なかった。

 危機が迫ってきたとき、そんな自分が果たして本当にメィを、都市を守れるのだろうか。

 そんな疑問がナルキに言葉を詰まらせる。が、それでも、言い切った。

 

 心細そうにしているメィシェンにこれ以上心配はかけまいと、自らを叱咤して言い切った。

 メィシェンはそんな彼女の迷いには気付けず、それがまた罪悪感とり彼女を締め付ける。

 

「……それじゃ、私はもう行くよ。メィたちも気をつけて行くんだぞ」

 

 まるで、嘘をついた様な、そんな居た堪れなさに苛まれ、逃げるようにとナルキは跳んだ。

 近くの建物の屋上に上がり、そのまま消えていく。

 

 

 

 

──生徒会の意図を誰も理解できず、だがそれでも権力には逆らえない。しぶしぶ、と言った形で学生たちはシェルターへと向かう。

 

 

「ぐ、ぐふふふふ……、これはビッグニュースよ!これを記事に出来たら週刊ルックンでもきっと大きく取り立てられる!今までは1ページしか貰えず目立たないような記事しか書かせてもらえなかったけど、これを掴めば表紙を飾るのも夢じゃないはずよ!これはきっと神様がくれたチャンスなんだわ!──そうと決まればこうしちゃ居られない!メィっち行くわよ!まずはエドロンとレイフォン捕まえて、みんなで今回の事件を暴くのよ!!」

 

 

 

 

 向かう……筈だ。




予算の話で感想にて良くご意見などを頂いたりしていますが、一応ここで釈明というか作者の脳内設定を

レイフォンの報酬はツェルニの防衛予算から出ています。そこで16話で登場した、というか登場できなかった探査機も制作費は防衛予算から出ていると言う設定です。つまり防衛予算は中々ピンチなわけです。
他の予算はきっとまだ大丈夫です。
今は大丈夫なはずです。
これからどうなるかは分かりませんが




どうでもいい話をしようと思います。


先日16話を投稿した後、この作品がなんと日間ランキングで1位に輝きました!!
おめでとう歯並び!
お前ならいつか取れると思っていたよ!

きっとほとんど誰も知らなかっただろうから言ってみた。

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