地球の皆、オラに感想を分けてくれぇぇええええ!
私は神様を信じていた。
武芸の力は神から私たちへの贈り物だと。
武芸者は神の祝福を受けた者だと。
だから望めば神様はきっと力を与えてくれる、努力すれば何れ頂に届くのだ。
そう、思っていた。
特に理由はない。神様に会ったわけでもないし、見たことも、実在した話を聞いたことも、ない。この身を巡る剄の原理も、剄脈の仕組みも知らない。
ただ、物心付いたときから当たり前のように其れは有って、当たり前のように私には使えて、当たり前のようにそういうものだと教えられた。
だから私は当たり前のように信じて、そしてそれが私にとっての当たり前になったのだ。
私は特別だった。
なにしろ神様に祝福された、選ばれた一握りの人間なのだから。
都市の平和を守ると言う使命を帯びているのだから。
だから私は生まれた時から特別な存在なのだ。
特別な私を、神様が特別に祝福してくれて、特別な力を手に入れた。
それが私にとっての当たり前で……
だから、特別な私は当たり前のように信じていた。
努力すれば実ると、武芸者の義務を果たせると、願えば叶うのだ、と。
「何故ですか!?」
感情を抑えきれず、上司相手にも関わらず、声を荒げてしまう。
「何故も何も、必要だからだ。せっかく居るんだから使わなきゃ勿体無いだろ」
理解は出来る。だが、やはり容認はできない。今まで培ってきた常識が、自分の中の当たり前が頭の中で否、否と唱え続けている。だからこれは一武芸者として当然の事で、当たり前な感情なはずなのだ。
「だからと言って、何故武芸の力をお金を稼ぐ道具にしか思っていない者を雇う必要があるのですか?私たちでも充分に武芸者としての使命を果たして見せられますし、どうしてもと言うのならばツェルニの者でいいでしょう?」
都市を守るための警察が、神聖な武芸を貶める傭兵を雇うなど、一武芸者として看過できることではないのだ。
「はぁ、ったくゲルニ、お前は才能もある、実力もそれなりだが、その頭の固さだけはどうにかならないもんかね。めんどくさい案件が楽に片付くんだからいいだろうが」
そういって、本当にめんどくさげにため息を付く上司、課長のフォーメット・ガレン。歯に衣を着せぬ物言いは相変わらずだ。そこは別に嫌いではないし、寧ろ美点とさえ思える。が、それは今回の話とは関係はない。
「だからと言ってやつらの金儲けに加担してやることはないでしょう?」
「は?全く、考えることがガキだなお前は。そんなのはお前の気にすることじゃねえ。そもそも今回は犯人どものおかげで放浪バスが止まってるからって傭兵どもが名乗り出てきたんだ。剛毅なことに報酬も気持ち程度で良いんだとよ」
そう言って、呆れた目で見つめてくる課長。だが、それでもまだ納得はできず、
「しかし、それでも……」
「しかしも案山子もねぇよ。それ以上グダグダ言うとメンバーから外すぞ」
「……っく」
食い下がろうとするも完封されてしまう。ふと横を見れば苦笑している同僚の先輩の姿が目に入る。現状を、受け入れているのだ。
傭兵を雇うということはつまり、私たちでは役者不足と思っていると言う事だ。私たちでは勝てないと、私たちでは使命を果たせないと思っている。
つまりは、なめられているのだ。
信用されていないのだ。
──このままでいいのか?
──そんなわけが無かろう!
都市を守るべき私たちが武芸者の使命を放棄したものに都市を守って貰う訳には行かないのだ。他の皆がそれを良しとしても、私は嫌だ。そんな他人任せな事など、出来るはずがない!
都市を守るのは私たち都市警の役目であり、存在意義だ。
私が、武芸者の使命を、都市を守るんだ!
「はぁ、そんなに力むなよ。こっちの手に負える内は向こうさんも出張らないし、まあやれるだけやってみろ」
私の決意を感じ取ったのか課長がそんな事を言ってくる。
ああ、やってやるさ。
誇りを、使命を忘れた武芸者に頼る必要などないと、我々ツェルニの武芸者が見事使命を果たし、都市を守れるということを必ず証明してみせる。
「そんじゃ、ミーティングだ。会議室に皆集まれ」
課長の暢気な声に若干のイラつきを感じながらも私はそれに従い、会議室へと足を向ける。
どちらにしろ私たちだけで片付ければいい話なのだ。やることは変わらない。信念を持たない傭兵も、そして課長も、ただ見ていればいいさ。
私は再び固く決心し、独り拳を固く握り締めた。
▼
夜。
時刻は既に0時を大きく回り、昼間活気に溢れていた都市は昇り来る次の朝日に備え静かに、安らかに刹那の休息を堪能する。家々の窓に灯る光の数も次第に減っていき、今では僅かに残るそれと街頭がひっそりと都市を照らしているのみ。
静寂に包まれた都市の外来者宿泊区の一角が剣呑な緊張感に包まれていた。
授業が始まったこの時期、何時もは人気の少ないこの通りで、一つの宿泊施設を完全装備した都市警察が取り囲んでいる。
最前列に立つのは武芸者だ。
錬金鋼を何時でも抜けるようにと手は常にに剣帯に置かれていて、一触即発の空気が当たりに蔓延している。
私もその武芸者の中の一人だ。
初めての対人実戦。
数はこちらが少し有利。だが、手に持つ錬金鋼は安全装置が付いたもので、相手は真剣。その上相手はある程度場慣れしていると思われる。その盗賊が如き所業から考えて少なくとも此れが初めてではないだろう。
しかし、何を恐れることがあろうか。
所詮相手は人間だ。一撃を食らわせばそれで倒れる、それで終わる。数も5人のみ。強靭な生命力もなく、恐るべき物量もない。私たちと変わらない人間。ならば私たちが恐れる理由はない。先日の汚染獣襲撃をも乗り切った私たちにとって、今更盗賊5人では恐るるに足らない。
多少経験があろうと、錬金鋼が殺傷設定であろうと、私たちだけで充分制圧できる戦力のはずだ。
ならば、後は力を示すのみ!
ドォォォオオーーン!!
宿泊施設の出入り口が爆破によって吹き飛ばされるとともに轟音が当たりに響き渡る。
緊張が、高まる。
爆煙から2人の人影が転がり出てきた。
とっさに錬金鋼を剣帯から抜き、眉を顰める。
交渉役のツェルニの学生だ。
哀れ無意味な降伏勧告の役目を言い渡され(押し付けられ)た先輩武芸者である。
相手が降伏するなど誰一人として微塵も思っていないのにも関わらず、形式的に必要と言う理由で貧乏くじを引かされた先輩らには心から同情する。
が、ここは既に戦場だ。一瞬の気の緩みが命取りになる。
集中しろ。気を配れ。私なら、できるはずだ。
先ほどの爆発はおそらく衝剄。先輩らに向かって放たれたものと思われる。出てきたタイミングからしてギリギリでかわしたのだろうが、その割にはなぜか先輩らはボロボロでとても満足に戦える状態ではない。
宿泊施設の入り口はまだ爆煙がもうもうと立ち込めており中の様子が……
──っ!
理由はない。ただ突如背中を走る悪寒に反射的に身をよじり……襲い来る激痛に呼吸が止まる。
切られた、そう自覚する間もなく、衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。
体が、寒い。
まるで熱が体から流れ出ていくかのように、休息に冷えていく。
頭が揺れる。思考が定まらない。
それでも懸命に目を開け、立ち上がり錬金鋼を構えようとして気付いた。
視界が、赤い。
血だ。
私の血が肩口からドクドクと流れ出ていく。それに伴い体も急速に冷めていき、呼吸も満足にできない。活剄で止血を試みるも、剄すら上手く練れない状態だ。
死。
手足が動かない。切られた右腕だけではなく、四肢が凍りついたかのように言うことを聞かない。
情けない!死がすこし脳裏を過ぎっただけで、この様だ!
眼前には迫り来る凶刃がはっきりと映し出され、それがスローモーションのようにゆっくりと近づいてくる。今から動き出しても充分間に合う速度だ。なのに、腕はおろか足すらも動かない。
死。
僅かばかりそれに触れただけで、私はこんなにも弱くなるのか。
いや、弱いのは元から、なのか。
ははっ、無様だなぁ。
本当に、無様だ。
あれだけ豪語したのに、自分の力で都市を守るなどとのたまったくせに、
こんなにもあっさり、呆気なく、錬金鋼を合わせるどころか向けることすら許されずに殺される。
眼前の刃は尚もゆっくりとだが着実に私の首を刈る軌道を描き、私にはもはや抗う術すらない。
全く持って、滑稽なものだ。
何が都市を守るだ。何が使命を果たすだ。私には何も出来ないじゃないか。
なんと、愚かなのだろうか。
誇りもあり、信念もあれば必ず勝てるなどと思っていた私はなんと滑稽なのだろう。
大儀を掲げ、使命を心に刻めば神が導いてくれると信じていた私はなんと幼稚なのだろう。
誇りも、信念も、使命もなんの役にも立たないかったと言うのに、それを盲信していた私はなんと愚かなのだろう。
そんな事を思うと、何だか思考がすっきりした気がする。
まるで閉じ込められていた何かが解き放たれたかのように、頭の中に掛かっていたモザイクがはがれたかのように。
ああ、今ならば何となくだが、理解る。
何故誇りを持たぬ者が居るのか、
何故課長傭兵を雇うのか、
何故レイフォンがあんなにもやる気がないのか、
最後のは理由はないが、何となく通じる物があるような気がする。
そうだ、ということにしよう。
どの道もう、確かめる術はないのだから。
凶刃はもう私に到達する寸前だ。
このまま些かの抵抗も無く私の首が切り裂かれるのだろう。
到達するまでは随分とゆっくりだったが、切る最中もそのままだろうか。
それは、嫌だなぁ……
結局女の子らしいことは何一つ出来なかったなぁ。
今じゃ、もうそれだけが心残りだ。
視界が、霞む。
どうやらもう、限界みたいだ。
正直自分が切られる様を見なくてもすむのは正直嬉しい。
ミィ、メイ、レイフォン、エド、……さよならだ。
やがて視界が白く染まっていき、薄れいく意識の中最後に見たのは迫る刃に割り込む何かで……
この日から、私は神様を信じるのをやめた。
▼
「たくっ、こんなあっさりやられるなんて近頃の若いのは情けねえなぁ」
そう独り言を漏らしつつ男は今正に少女の首を刈り取ろうとした剣を自らの剣で持って弾く。本来彼は自分たちをただの保険ぐらいにしか思っていなかった。
盗賊5人に対する都市警察の戦力11人。盗賊にも然程手ごわそうな者はおらず、問題なく制圧され、自分たちの出る幕は無いと思っていた。が、その予想は見事に裏切られたのだ。
「そう言うこと言わないの。学園都市なんて何処もこんなものでしょ?レイフォンみたいなのがうじゃうじゃ居るよりは全然良いじゃない」
男の独り言に返事が返る。対峙している盗賊ではない。
声がする方を向いてみれば、少し離れた所で輝くような金髪を腰の少し上まで伸ばした美女が此方を向いていた。仲間の1人であり、剄によって強化された五感で姿はくっきり見えるし声もはっきり聞こえる。彼女の足元には気絶した盗賊が転がっており、どうやら自分の持ち受けを終らせて暇しているらしい。
すぐに終らせるからだ、と思うが、確かに眼前の盗賊程度では彼は到底楽しめない。故にしょうがないか、と思い直し相手をすることにした。眼前の盗賊も相手にしつつ、だ。
「あんな化けもんが早々いてたまるかよっ!」
旋剄によって速度を上乗せされた盗賊の剣を半身をずらす事でかわし、すれ違いざまに鳩尾に拳をめり込ませる。
「ふふっ、確か似そうね。あれは特別を通り越して異常の領域だものね」
バランスを崩し地面に突っ込んだ盗賊が立ち上がるの棒立ちで待つ。が、盗賊はなた状態で衝剄を放ってきた。不意打ちのためか、剄の練りが甘く、剄を纏った剣を無造作に振り、剣圧で衝剄を散らす。
「そうだな。にしても此処のガキどもは温過ぎねぇか?奇襲とは言えこんな雑魚にぼろくそなんてよぉ」
衝剄に隠れ接近してきていた盗賊の剣を返す剣で弾き、壁に蹴り飛ばす。
「そうかしら?出入り口を派手に壊して学生を放り出して注意を引き付け、殺剄で上から奇襲なんと悪くない作戦だとは思うわよ。全員が全員気付けないのはどうかと思ったけどね」
盗賊はダメージが深刻なのか、尻餅をついたまま起き上がることが出来ない。男は一歩一歩盗賊へと歩いていき、剣を振りかぶった。瞬間、盗賊が男へと剣を突き出し、
──外力系衝剄の変化 轟剣
剄で形成された刃が男へと迫る。
が、男はそれを一瞥もせず、剣を振り切った。
キンッと金属同士がぶつかる音がして、盗賊の剣がその手から叩き落とされた。
「だから温いって言ってんだよ。この程度の奇襲、力づくで破れなくてどうすんだ」
そう呟きながら剣を待機状態の錬金鋼に戻し剣帯にしまう。
その呟きに顔をしかめているツェルニの学生たちを気にも留めずに……
補足
・ミーティングから作戦開始まで2日ぐらい時間またいています。
・盗賊さんの強さですが、原作レイフォンが手だれとか言っていた割には、ツェルニの学生が緊張してなければ勝てる的な描写があって良く分からなかったので勝手に作者の想像で決めました。
・傭兵さんは恐らくもう出番が無いので名前がありません。
今回はまあ言わば閑話ですね。
大してストーリーの大筋に影響の無い話です。
ただナルキがダークサイドに堕ちるだけですから!
次は誰を堕とそうかな(オイ