ヒナタ:火、雷
シノ:火、(土は修行によって会得とする)
キバ:土
それに伴い前話を書き換えております。
多くの忍にとって技の修行は体力や筋力と違い、その努力が報われるとは限らない。俺だってそうだ。しかし八班のメンバーはゆっくりではあるが、着実に成長していた。
ヒナタは水面歩行の修行でコツを掴んだのか、1m程度ならチャクラを放出する事が出来るようになっていた。点穴を突いてからの活動時間もおおよそ把握出来たし、下忍相手なら間違いなく活躍出来るだろう。そろそろ雷遁の修行に入る頃かもしれない。
シノは鈴の音を使った初歩的な幻術を既に習得した。これを蟲の羽音に変え、尚且つ戦闘中に使えるようになるかは本人の努力次第だ。そしてシビさんに頼んで見せてもらった蟲の一覧には火遁にお誂え向きの蟲がいた。今はその蟲の繁殖も合わせてさせている。
最後にキバだが土の性質変化の修行で葉をボロボロにしようと頑張っている。当初は手こずっていたが、トンボからチャクラを砂の粒子のようにするイメージするというアドバイスを聞くと一気に進歩していた。その様子を見ているとナルトの多重影分身がいかにチートなのか改めて思い知らされる。
そうやって修行に打ち込ませている毎日だが、里もそう簡単には任務を休ませてはくれない。前回はハイペースで任務をする代わりに無理を言って休んだのだ。合間を縫って任務をしなければならない。そのため俺は一人で任務を受けに来た。
「こんなふざけたチビがおるとは超不安じゃ」
「……コロス!」
「こらこら、今から護衛する人を殺してどうする」
「なら、ならせめて一発だけでも殴ってやらなきゃ気がすまないってばよ!」
部屋に入ろうとすると何やら中が騒がしい。聞こえてきた内容だけで今からどんな事が起こるのか理解してしまった。溜息を吐きながら俺は扉を開けた。
「ナルト何騒いでやがる。また俺が扱いてやろうか?あ?」
「げっヨフネの兄ちゃん!?……ごめんってばよ!」
予想通り中には七班と橋造りの名人タズナがいた。俺が騒いでいたナルトに声をかけると途端に大人しくなる。
「いやあヨフネ助かったよ」
そう言ってカカシが頭を掻きながら礼を言ってくる。もう少しぐらい躾けても良いと思うぞ。
「なら今度俺の班の下忍達に術でも教えてやってくれ」
「まあそれぐらいなら」
これでシノとキバの術の講師を確保できた。騒がしいまま七班は部屋から出て行ったが、これから任務に行くってのに班の雰囲気があんなんで大丈夫なのか?分かってても不安にさせてくれる。
三代目やイルカも苦笑いしながら見送っていた。しかしこうなると俺も行きたい任務があった。
「あの俺達の次の任務なんですけど少しお願いが……」
三代目は特に怪しむ事なくそのお願いを聞き入れてくれた。無事希望する条件の任務を受け俺は部屋を出た。
「先生……俺達は国外の任務とかやらないんすか?」
任務を持って班の元に行くと予想通りキバが駄々を捏ね始めた。おそらく先ほどナルトからでも波の国へ行くと聞いたのだろう。
「実はな俺達も波の国への物資運搬任務を受けて来たぞ。七班と会う事もあるかもしれないな」
ヒナタが真っ先に小さくガッツポーズをする。ナルト愛が凄い。ただナルトとすごせる時間は少ないぞ。
「任務の内容は火の国から波の国まで建材の積み下ろしと運搬だ」
俺達の依頼主は建材の注文を受けた業者だ。簡単なお手伝い系の任務に設定してあるのは波の国の者がガトーが暗躍しているという情報を隠しているからだろう。護衛については依頼内容に含まれていなかった。
とは言っても再不斬はカカシが引き受けてくれるはずだから、あったとしてもこちらはガトー率いるチンピラ軍団を駆除するだけだろう。再不斬や白は好きなキャラだったし仲間に加えたいが、霧隠れの事を考えるとそれは難しいのが実情だ。
既に霧隠れでのクーデターが成功しているのかは分からないが、他里の抜け忍を殺すのではなく仲間に引き入れるというのはマズい。現在里でどんな扱いなのかは関係なく、里抜けの原因に木の葉が絡んでいると思われては碌な事にならない。
「まずは火の国で資材を調達している人達と会ってから陸路と海路を使って運ぶことになる。物資がある分、到着は七班から一週間ぐらい遅れるだろうな。一時間後に荷物を揃えて正門に集合だ」
今回の任務は八班の担当になったからこそ受ける事が出来た。猟犬にいてはこの程度の任務に就く事など到底叶わない。そして俺の目的は再不斬と白の遺体処理、そして断刀“首切り包丁”の入手だ。
再不斬と白は忍界大戦において、もし穢土転生されれば脅威となりうる。打てる手は全て打っておきたい。それに俺の身体強化に耐える事の出来る刀を手に入れるの事が出来る最大のチャンスをみすみす見逃すような事はしたくなかった。
俺達の任務は特に妨害に会う事なく進んでいる。全員のんびりとしているが、訓練の一環と称して三人には警護もやらせていた。一週間ずっと警戒し続けるというのは神経を擦り減らすのでそれなりに大変だ。そういう意味では良い経験になったかもしれない。
ただ普段の体力づくりの修行を中断するのは勿体無いので、海路では基本的に海の上を走らせる事にした。
「……あんたは鬼か?」
「いえいえ、忍ならこのくらい何ともないですよ。なあみんな?」
「「「……はい」」」
「ほらね?」
「まあ肝心な時に働いてくれるなら俺らはかまわんよ」
そうこうしていると出発から予定通り一週間で波の国へと入ったのだが、建設予定の橋に近づいた頃、不自然に濃霧が発生し始めた。先程までは風もあったというのに止んでしまっている。
「お前ら全員船に上がれ」
「どうしたってんだよ。ヨフネさん?」
「皆さんは船室に篭っていて下さい。この霧はおそらく忍術です。目的地で戦闘が行われている可能性が高いです」
「何だって?!」
ここまで一緒にやって来た依頼人達はどうしたら良いか分からず顔を青くしている。一般人にとって忍の戦闘とは災害のようなものだ。俺達はともかく依頼人達はたまったものではない。
「ヒナタ、霧の中はどうなっている?」
「え?!サ、サスケ君が倒れてます。不自然にチャクラが止まっているので、たぶん仮死状態です。他の人達は無事です。それと……ナルト君凄いチャクラ」
ヒナタに言われなくてもこの空気が震えるようなチャクラは既に感じていた。漏れ出すチャクラでこれだけの威圧感を放っているのだ。九尾モードになったナルトの凄まじさはどれだけなのだろう。
「まずはこの霧を晴らすか」
そう言って俺は水面に五角形を描くようにコン平を配置し結界を張り、雷刀を両手に取った。
「三人とも水から離れていろよ……」
三人が水から離れたのを確認して、俺は雷刀を結界の中心の水面につけて放電させた。電気分解された水は気体となるが、それを結界術で空中に分離しないよう留める。
「シノは出せる範囲で火葬蟲を出して、橋の上に粘液を出させてくれ」
「承知した」
火葬蟲とは今シノが繁殖させている最中の蟲である。この蟲は非常に高温で尚且つ長時間燃える粘液を尻から出す特性を持っている。シノが火遁を覚えれば術の威力を高めてくれる事だろう。俺は風遁を使い電気分解した気体を球状にし、中央に起爆札を浮かべれば準備完了である。
「カカシーー!!土遁でも何でも良いから全員を守れっ!!良いな!?分かったら右手挙げろ!」
俺らしくないが叫んで霧の中にいるカカシに知らせる。猟犬なら笛の音でも使って敵に知られる事なく伝える事が出来るのに……
「ヒナタどうだ?」
「カカシ先生が手を挙げました!」
「よし、なら今から“これ”を飛ばすから敵との間まで誘導してくれ」
「はい」
俺は浮かべた風の球を指差してヒナタにそう伝える。そして一気に霧の中へ球を飛び込ませた。
「先生、そこです!」
ーー風遁・
ヒナタの合図で起爆札を起爆させた途端、突風と爆音が鳴り響く。
爆鳴気とは可燃性の気体を酸素と適正な割合で混合したものに点火すると起こる、爆発的な燃焼反応の事だ。水素の場合は酸素と2:1で混合するのが適正な配合となる。さっき俺が水を電気分解したのはこの為だ。この気体に点火すると轟音を発して爆発し、化合して水蒸気を生成し、多量の熱を発生させる。
そして爆発により霧は晴れた。カカシは土流壁で爆発からタズナさんとサクラの身を守っていた。ナルトは何とか無事だが、サスケは倒れたままだ。
「カカシやれ!」
「俺も舐められたもんだぜ。確かに霧は晴れたが、あれだけ大声で叫ばれちゃ対処の取り用なんていくらでもある」
爆発を凌いだ再不斬が橋の上から俺を見下してやがる。そもそもこの術で仕留めようなんざ思ってないんだよ。
「霧が晴れたなら、また霧を作れば良いだけだ。水遁・霧隠れの術」
そう言って再不斬はカカシが飛び出すより先に術を発動させるがすぐに霧は消えてしまった。
「なに?!」
今は風が強く吹いている。それに橋の上の温度はシノの火葬蟲の粘液が未だ高温で燃えており温度も高くなっている。そんな状態で霧が発生出来るわけがない。
水遁は結界忍術と合わさった術が多く、霧隠れの術も範囲内の風を止めてその上で霧を継続して発生させる技だ。内部で少々風を起こしたところで霧を晴らす事なんて出来ないが、先程のように一気に拡散させてしまえばその限りではない。
「お前の未来は死だ……雷切り!」
カカシも敵の動揺を見逃さず、雷切りを再不斬に突き立てようとした。しかし……
「……俺は本当に良い拾い物をした。最後にこんなチャンスをくれるなんてな!」
白がカカシの前に飛び出し雷切りを身をもって受け止めたのだ。再不斬は白ごと切ろうと断刀を振るうがカカシは白を抱えたまま避けた。
「先生、橋の下に船があるみたいだぜ!かなりの人が橋に登ってやがる」
橋の戦いが進行する中、キバがガトー達の乗った船を見つけた。霧が晴れた今、この船が襲われる可能性もある。
「三人は船に残れ」
「でもよ!ナルト達がピンチなんだぜ!?」
「忘れるな!忍にとって任務は絶対だ。それにカカシ達を見捨てるつもりはない。俺が行って来る。だから三人は残れ」
三人は不承不承といった具合に頷いた。それにあの場に三人が行った所で何も変わりはしない。俺は船を飛び降り、橋の支柱を伝って登った。
「今のお前じゃ俺には勝てない」
俺が橋の上に着いた頃にはカカシが再不斬を圧倒し宣言していた。この戦いはどうやら決着がつきそうだ。俺はサスケに覆いかぶさって泣いているサクラの元へと駆け寄って声をかけてやる。
「サスケは死んじゃいないぞ」
「え?なんで?ヨフネ先生?……でもサスケ君は」
「大丈夫、仮死状態になっているだけだ。治療するからどいてろ」
サスケを診ると確かに一見死んでいるように見える。しかし身体中に刺さっている千本は的確にツボをついている。あの歳にしてはかなりの腕だ。まずは首に刺さった千本を抜いて掌仙術で手当てをする。その後次々と千本を抜いたところでサスケが目を覚ました。
「……サクラ?」
「サスケ君!良かった……」
とりあえずこれで全員の無事が確定した。背後を振り返れば再不斬は背中から刀や槍を生やして倒れ込んでいた。目当ての断刀“首切り包丁”はカカシの近くに転がっているから、やはりクナイを咥えて単身突っ込んで行ったのだろう。
「ナルトー!サスケ君は無事よ!ちゃんと生きてるわ!!」
サクラがナルトに向かって無事を知らせる。カカシも安堵の表情を浮かべている。とりあえずタズナさんとサクラ、それに二人に支えられたサスケを橋の反対側に下げさせ、俺はカカシの側へ行く。
「サスケは治療しといたからな」
「助かったよ。礼を言う」
やっぱりカカシは変わったようだ。暗部の時はあれだけ殺伐としていたというのに、先生の心構えを持った忍になっている。カカシはふと気付いたように俺に問いかける。
「それより、なんでお前がここにいるのさ?」
「そりゃ任務に」
「おいおいおいおい、テメェら安心し過ぎ」
「糞忍者どもが、なに人の金蔓殺してくれてんだよ?」
「こうなりゃ町でも襲って金目の物、全部いただいて行くしかねぇな!」
カカシとの話を遮るようにガトーを殺されたチンピラ達が集団で俺達を嘲る。どうやら度し難い馬鹿らしい。忍相手にたかだか五十人が勝てるわけないだろう。
「はあ……カカシ、お前は休んでろ。どうせ写輪眼の使い過ぎで動けねえだろ?」
「そういうヨフネはどうなんだ?あんな派手なお前らしくない術使ったってのに大丈夫なのか?」
「うっせーよ!大きなお世話だ。俺らしく低燃費な術だから心配すんな」
風玉爆鳴気はその見た目に反してかなり低燃費だ。一番チャクラを使うのは電気分解する時だが、雷刀があればかなり抑える事が出来る。
「ただあそこにある断刀は貰うぞ」
「……まあ確かにお前の為にあるような刀だよな」
今にもこっちに向かって来ようとするチンピラに対し、俺は断刀“首切り包丁”を拾い上げ一人で突っ込んで行く。
断刀“首切り包丁”は人の血を吸う事で刃こぼれ所か刀自体を直すこの妖刀だ。風のチャクラを流せば、滑らかに浸透して行くのを感じる。こいつなら何だって斬れそうだ。
ゴォッ
凄まじい音を立てつつ、四方から飛び掛かって来る敵を思いっきり横に薙ぎ払った。
その射程を活かし瞬時に十人近い敵の上半身が裂ける。悪党に遠慮してやる事は無い。俺は返す刀で更に踏み込んでもう一閃する。素晴らしい。これだけ本気で振るっても壊れないとは。それに血を吸う度にチャクラの通りが良くなっていく気がする。そのまま俺は踏み込み続けた。
「死神……」
いつの間にか駆け付けていた住民の声が聞こえ、ふと自分の周りを見渡せば敵は全て斬殺体となってしまっている。これでは客観的にどっちが悪役か分からない。
本来なら歓声で終わるはずの場面が何とも微妙な空気で終わってしまった。
カカシがまた一週間動けないというので、俺が下忍六人の面倒を見つつ見回りをする事になった。ガトーが死んで残った奴らが暴れるのが目に見えていたからだ。しかし俺がいる事を聞きつけたのか正式に波の国から残党狩りを命じられた。既に忍はいないのでただのCランク任務だ。どうにも上手く使われているような気がしてならないが、断刀が手に入ったので大目に見る事にした。
ナルト達と一緒に行動してみると連携は思ったほど悪くない。なんだかんだでサスケは二人をフォローしているし、ナルトが空回りしても憎まれ口を叩いてはいるが本気で怒る事はない。ナルトは良い所が無いように見えて人がやりたがらない事も率先してやっている。目立つ事はそれ以上に率先してやろうとするが。サクラは暴走気味の二人の抑え役にもなっているし、知識は非常に豊富だ。
ただ贔屓と言われるかもしれないが、チームとしての戦力は八班が勝つと思う。成長のスピードが異常なだけで現時点では負けていない。これからもっと鍛えてやらないとな。
カカシからは知っている土遁を話させた。その中には俺が考えていた忍術のヒントとなる
「キバ術の見当がついたぞ」
「それって先生が前に言ってたやつっすね!」
キバは自分だけ成長を感じられていなかったからか、すごい勢いで食いついてきた。
「そうだいいか、まず拳岩の術というのがある。これは拳を岩で覆う技で攻撃範囲の拡大やダメージの増加を見込める。しかしお前は四脚の術で強化した爪を活かす格闘技だ。となれば何も拳にこだわる必要はない。巨大な鉤爪付きの手を再現すれば良いじゃないか」
ちなみに片手だけ鉤爪にしようかと考えたのだが、流石にバランスが悪すぎるので止めておいた。
「ただそれだと威力に欠けるだろ?そこで使うのが岩柱槍という術だ。これは名前の通り岩の槍で敵を串刺しにする技なんだが、さっき言った掌からこの槍が出てきたらどうなる?基本は巨大な爪で敵を切り裂き、掴んだ相手に対しては岩柱槍で貫く」
色々説明したが所謂パイルバンカーである。決定打が少ないからピッタリだと力説したつもりだが、ただ単に俺のロマンという本音は伏せておこう。
「……先生、それマジで言ってんのかよ?」
いかんどうやら巫山戯すぎたらしい。いつにも増して真剣なトーンだ。
「先生、俺がそんな凄え技を覚えても良いのかよ!」
安心した。やはりロマンの分かる同志だったようだ。他にも地中を匂い頼りに移動して攻撃をする“追牙の術”や身体を硬くする“硬化の術”、土遁の定番の防御方法である“土流壁”など汎用性の高そうな術に絞ってカカシに指導させようと思う。一時はどうなる事かと思ったキバだが、解決の糸口が見えてきた。
シノにはカカシに火の性質変化のアドバイスをさせてから性質変化に取り組ませる事にした。ヒナタは俺が雷の性質変化を教えたのだが、どうにも苦戦しそうである。
カカシは下忍の頃から自分の力で修行してきたからか、ナルト達にはあまり修行をつけていないようだ。俺達が修行している間、個人個人で自主トレをしていた。俺が口を出す事では無いが、それで良いのかとも思ってしまう。
カカシが回復してからも俺達は少しの間、波の国へ留まった。カカシにキバの術やシノの火遁についてしっかり教えさせるチャンスだったからだ。
カカシ達はタズナさんの護衛任務の為、橋の完成までは留まらなければならないが、あと一カ月はかかるだろうから俺達は付き合って入られない。それに島民達の俺を怖がる視線にウンザリしていた。
帰りはほぼ陸路の為、三人は先にインターバルさせながら帰らせた。俺はその間に遺体を焼き尽くし、遺灰を海に撒かなければならなかった。
「忍は道具としてあるべき……か」
死ぬ気など無いが遺灰を撒いていると、ふと自分の人生を考えさせられた。そろそろ中忍試験が始まる。俺は俺が俺である為に目的を果たさなければならない。
「三代目は必ず守ってみせる」