Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
フェリーサがアルシーを見つけてまず一声を放った。
「大丈夫!?」
「……大丈夫、ティーアは今度こそ仕留めたはずだ」
苦しそうな表情も床に伏せたままティーアは倒れている。フェリーサは、彼女が落とした銃を拾った。
「戻ろっか、アルシー君」
気絶したティーアを起こして捕縛する。意識はないので、アルシーが彼女を背負った。フェリーサとアルシーは部屋を出て席に戻ろうとした。
「やあ……そ、そいつはどうした!?」
フェリーサとアルシーが帰ってきたのを見たフィスルクーフェー。まさかちょっとした惨事があったとは全く分からないので、さっきまで頭蓋骨を粉々にされて倒れていたはずのユーゲ人がフェリーサに背負われているのを見て驚かないはずだない。
「ティーアはまだ生きていたわ。アルシーを捕えて利用しようとしたのか、それともアルシーを巻き込んで自爆しようとしたのかもわからないけれど、何とか彼女を捕えた。もう悪さをしないようにしないといけないわ」
「うーむ……」
フィスルクーフェーの良心を粉々に砕いて見せた張本人。今の彼にはXelkenとしての役目が残っていて慈善事業に耽っている場合ではないことは理解していたが、そんな中でも彼女の姿を見るとフィスルクーフェーの顔は複雑になっていった。
「殺さずにそこに置いておけ……拘束は解かずにな」
「えー、ここに置くんですか~?どうして~?確かに寝顔はかわいいですけれども~」
「う、うるさいぞ!そいつを今ここで殺したところで処理に困る。仲間でもないやつの死体と一緒に旅をするのは御免だ」
はいはい、と言いながらフェリーサはアルシーの隣の席に彼女を置いた。するとティーアは目を覚ましたらしく、フェリーサの手首を握った。
「……!?あなた、もう目が覚め……」
「私をこれからどうするの?」
フィスルクーフェーが遠くから、ティーアを見ずに答えた。
「お前をデュインに連れて行く。そしてお前には提案がある。俺らと戦うことだ。お前の詳細な出自がどうなのかは知らないが、どうせ拠り所もなくてアルシーをねらうくらいしか役目を与えられていないんだろう」
ティーアは衝撃を受けた。なぜ、自分をXelkenに呼ぶのか。自分は決してXelken.valtolにも、もちろんalesにもその身を捧げないことを約束している。頭数が足りないわけでもないのに。
「Xelkenである俺らには味方できないって?」
「同然よ」
ティーアは即答した。彼女に武器はないが、信念を曲げるわけにはいかないという意思は常にある。フィスルクーフェーは話をつづけた。
「いいか……信仰あるものの行動は、降り掛かるものに対する受動的対応だけではない。自分から何を成し遂げるかという能動的運動も必要だ。だが、今のお前には能動的運動ができそうにもない。立場的にも、状況的にもな」
話を聞いているうちにティーアの表情が歪んでいく。だんだんと怒りを覚えていき、まるで自分が侮辱されている気がしてきたのだ。そう、異教徒の人間に。自分が一番嫌いなあのXelkenに。
「だから俺はお前に、俺たちと一緒に戦わないかと提案したのだ。Xelken.valtoalは今お前たちハタ王国と共闘している。アルシーもそういった経緯だ」
「だが私には残してきたイルキスと、殉教した母親がいるのだ……」
「だったらなおさら、俺らと協力するがいい。ここで俺らに反対しても、この飛行機に敵をのせるわけにはいかないからお前をここで殺さねばならない、残念ながらな。だが、俺らと一緒に戦ってくれるというのなら、少なくとも戦場までは生きていられるだろう」
ティーアは返答をしない。彼の発言は確かに全うかもしれない。フィスルクーフェーが返答を待っている。まだ殺す気はないらしい。
だが、そんな静寂をアルシーが破った。
「言っておくが、俺はハタ王国の味方で会って、Xelkenの味方ではない。だがハタ王国はXelkenの味方だ。あんたはそれで満足いかないのか?」
「なによ……あなたまで私をXelkenに……?わかったわよ。あなたたちと一緒に戦うから、ここで殺すのはやめて」
――
数時間後、あるいはそれ以上が経過した。一体どれくらい時間がたったのかは分からないが、時計を見るともう夕方だ。フィスルクーフェーはトイレに行って顔を洗っていた。まもなくあのデュインに到着する。いつどこから空爆を受けるか分からないから、彼はずっと起きていたのだ。新米の王国人二人はすでに仲良く昼寝していたみたいだが。
フィスルクーフェーがタオルで顔を拭くと、何者かが後ろに立つ音を聞いた。
「……俺は顔を洗っているだけだ」
「知っているよ~♪ それよりさ、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ」
タオルを顔から話して、鏡を見た。自分の背後にはフェリーサがたっていて、いつもみたいにニヤニヤしていた。
「あなたって、あの女の子を殺せるの?ティーアちゃんのことを」
「何故そんなことを聞く? 俺はXelkenだぞ」
「嘘ね……あなたに彼女は殺せないわ」
タオルを仕舞って後ろを向いた。鏡ではなく、自分の目を通して移して見たフェリーサが現れた。
「どういうことだ?」
「さっき、彼女を脅すために、あんなことを言ったんでしょう。本当は彼女を抱きしめてごめんねと一言――」
「飛行機から落とすぞこのバカ女が」
「ふっふふ、回答ありがとうございます」
「おい、待て!」
ドライヤーを右手で掴んでフェリーサに投げつける。それを彼女をひょいと避けて洗面室のドアに手をかけた。
「大丈夫、本人には言いませんから。気づいちゃったってことは」
「この……お前みたいな勘のいい部下は嫌いだよ」
フェリーサは部屋を出た。