Kranteerl y io dyin   作:witoitaa

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純粋12型

ドアが勢い良く閉鎖される。

フェリーサには、異常事態が瞬時に理解できていたがそれとは反して頭蓋骨を粉々に砕き割られて死んだようなユーゲ人が今目の前でアルシーに銃を向けていたという辻褄が合わない事態に疑問を感じていた。まさか、あの国土の大半が砂で覆われた貧乏国家でウェールフープ可能化医療が推進されているとは思わない。だがしかし、それに関してはxelken幹部の経験と体感から集中の外部へと投げ出されていた。ともかく、目の前の敵を倒すことが状況の改善に必要だと思われたからだ。

瞬間ドアが開き、二発の銃弾が頬を掠めた。開いたドアを蹴り、反動で一つ後ろの壁に隠れる。ネートニアーのユーゲ人とケートニアーになっているかもしれないユーゲ人が密室で立て篭もっている。何が起こっているのか、客室乗務員たちが慌てている様子も無かった。

 

「なんか……おかしいわね……。」

 

――

 

「くはっごはっ……。」

 

酷く咳き込んだために喉が痛くなる。咳を止めようと手を口に当てると、液体状のものが手に触れた。血であった。

アルシーはフェリーサへの銃弾の直撃を妨げる事は出来たものの、結果としては撃たれた傷口が酷く痛み、体力を奪っていくのみであった。ティーアはどうなっているかといえば、先ほどドアをあけて銃撃した直後、ドアが閉まった所に体が強打されて気絶して倒れていた。今なら、脱出できるとは思っていたが、まるで体全体が鉛のように重く動かない。ネートニアーとしての体は非常に脆いものだ。一発の銃弾は、いとも容易くこのような効果を生み出す。だが、ケートニアーならばそんなことはない。

ジャケットの裏側から薬剤の入ったプレフィルド・シリンジを取り出す。袋の表面には[zeesnyarpa itra - KOSNUSTA 12]と書いてあった。緊急時用、特にデュインに戻ってから必要だと思っていたウェールフープ可能化剤をここに搭乗する前に買っておいたのであった。闇市でもって、値も少々張ったが血は金には換えように無いものだったので、買うことに躊躇はしなかった。

プレフィルド・シリンジの袋を乱暴に破り、注射針を囲うプラスチックの保護剤を投げ捨てる。その針を腕に刺そうとした瞬間、腕を蹴られ可能化剤を落としてしまった。割れた可能化剤が虚しく流れ出していた。もはや、体力がないアルシーは流れ出した可能化剤の上にまた虚しく体をたたきつけた。

 

「そう簡単に行くわけないのよ……。」

ティーアが悲しそうな顔を浮かべていた。アルシーはそれをにらめつけた。

「……。」

「どうしても、あなたたちはここで死ぬしかない。私と一緒にね。犬死はごめんよ。」

ティーアはそういって携帯を操作した。積んだ爆弾を爆発させる気であろうとはアルシーにも分っていた。

「じゃあね。」

 

 

 

――

 

 

 

ティーアがボタンを押す。しかし、爆発音は聞こえない。二回目、三回目とティーアはそのボタンを押す手順を繰り返す。しかし、何も起こらなかった。携帯の画面を見るとその画面にひびが入っていた。

 

「ふっ、ふっはははははは!馬鹿め……。」

いきなり笑い出したアルシーをティーアは凝視した。アルシーはどうやら非常に楽しそうに状況に合わず笑っていた。その狂気に満ちたような笑いにティーアは顔の震えを覚え、自らのロジックの崩壊に強い衝撃を受け体が動かなかった。何とか自分が持っている銃を向けるも引き金を引いたとたんウェールフープ連結部が壊れて散った。

 

「う、嘘よ……銃弾を撃たれた状態の貴方に爆弾を止める事など出来ない!」

「そうだな、()()()()()()()()()()()ならな。」

アルシーはジャケットを開いて腹を見せる。血で染まったシャツ、その先にあるはずの銃撃による傷口は見つける事は出来なかった。

 

「なんで……ウェールフープ可能化剤ならさっき私が」

「さっきのウェールフープ可能化剤は純粋12型と呼ばれる血中からウェールフーポを精製する即効型だ。割ったウェールフープ可能化剤の液に体をつければ、それだけでも可能化剤が中途半端にでもウェールフーポを精製してケートニアー化する可能性があった。まあ、詳しくウェールフープ学を独学していて良かった気持ちだよ。ただ、俺は本当に体力をなくしていたから、吸収されるような分量の薬剤の場所に倒れこむのは賭けだったんだがな。」

「くッ……」

 

瞬間ドアがあけられる。ファリーアが突入してきてティーアの拳銃を弾き、一撃でティーアの意識を奪った。


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