Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
呆然と建物の中、一人で立ち尽くしていた。ユーゲ人が何処に居るのか、リストはいくつか手に入れてある。これを一つ一つ地道に虱潰しに探していく他ないと思うとフィスルクーフェーは非常に面倒なことだと思った。
もっとも、そうしなければ誓いを立てたユーゲ人を母国に戻してやることについて達成できず、彼らを裏切ることになってしまうのであった。
「さすがに痛手を負ったか。」
フィスルクーフェーは病室の天井を見上げて云った。薄く灰色に汚れた――もとは白かったであろう――天井、自分もこの天井と同じような気持ちになっていた。
アルシーとフェリーサには安全な近くのユーゲ人の回収をやらせていた。ケートニアーが戦闘で油断して、結局『利用』できるのがネートニアーだけだと思うと自分が今まで何をやってきたのかよく分からなくなってきた。
病室の窓には木漏れ日で丁度良いほどの暖かい日が入り込んでいた。猫がこのベッドに居たなら、すぐに気持ち良さそうに寝てしまうだろうくらいに丁度良い暖かい木漏れ日だった。
ティーアは、嘘つきだったのだろうか。
彼女は『あの程度の自害で死にきれなかった不憫な私への報復』と言っていた。彼女が実際にユーゲ人であったならば、何かを人質に取られて自爆行為を行なっていてもおかしくはない。自分に最後まで助けて欲しいという投げかけを行なっていたのならば――
これ以上はよそう。考えるだけならいくらでも理由のこじつけは出来る。彼女は、結果上においては俺達を分断し、アルシーを狙っていた。それでしかない。感情をここに挟むから面倒なことになるんだ。
フィスルクーフェーは瞑目して、頭を振った。意識からティーアの事を消して、手を組んで神に祈る。
「ウェンレンペシェール。唯一の我が主アレフィスよ。守護神族のフィレナよ。もう誰も私の良心を裏切らないようにしてください。」
その時、ぐるりとドアノブが開いたのがベットに寝ているフィスルクーフェーには分った。ノックもせずに入ってくるのは無礼だと、顔をしかめかけたが、その人物と目的を見たときそんな顔をすることは出来なかった。
「おかゆですよ。寝てないとダメなのになんで起きてるんですか?」
レヴィアだった。トレーを持ち、エプロンを付けたままで湯気の立ったおかゆを持ってきていた。
「色々と考えてしまって、寝ようにも寝れないんだ。」
無表情で言ってしまったためか、レヴィアは深刻そうな顔をして、トレーのおかゆを病床の横の棚において、丸椅子に座った。
「あなたもxelken.valtoalなんですよね。なのに、私たちを助けようとして、裏切られて。」
フィスルクーフェーは他人にまでそんなことを再確認させられるといよいよ目から涙がこぼれだしそうになった。他人に泣いている姿を見せまいと顔をそらした。
「馬鹿だって、云いたいのか?」
レヴィアは驚いたような顔をして、反駁しようとしたが勢いも出せず引っ込んでしまった。フィスルクーフェーはそんなことも確認できず、ただ泣き顔を引き摺っていた。
「俺は信仰に沿って生きている、俺の親、祖先のxelkenたちもそうやって生きてきた。それでしか、ないのに。」
涙は滂沱のように出てきて、フィスルクーフェーは途中で喋れなくなってしまった。涙を抑えるために、思いを抑えるために顔を手で鷲掴みにしても、喉の奥から感情を越えて突き通す悲しみには勝てなかった。
「悲しいときは悲しいって言わないとダメなんですよ。旧暦を覚えれば、悲しみが晴れるわけじゃないんですから。」
「泣けば、解決するのか……?誰も肩代わりなんか出来ない癖して……。」
レヴィアは、フィスルクーフェーの肩を持って顔を近づけた。何かとフィスルクーフェーが顔を上げたところに、唇を重ねた。