Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
砂の中にポツンとある町。それがツィムケイだ。たとえ「隣町」だとしても、ある線を境として隔てられたわけでもなく、何もない砂漠地帯が境となる。その砂漠の間はまさに無法地帯。ただでさえ役に立たない警察の目も行き届かず、水も食料も乏しい。こんなクズみたいな国家を、ハタ王国が見捨てるのも無理はなかった。アルシーは、こんなところで同じユーゲ人が差別を受けつつ暮らしているのは非常に酷だと感じていた。
「さあ、ツィムケイに着いたぞ。後部座席はもう少し落ち着いたらどうだ。今はそんなことを考えている時間ではないのだ」
助手席に座っていたフィスルクーフェーはドライバーから到着の知らせを受けた。後部座席には左からティーア、アルシー、フェリーサ、フィッサ、フィーウが座っていた。この車はそもそも4人用なのに。
「だって、こんな車でこれだけの人数が座るのは無理がありますよ中将~」
「Xelkenの男、貴様はこんな小さい車で地道な作業を繰り返しながら我が同胞を助けるつもりだったのか?俺の他に20は同胞がいると聞いているが」
「うるさいな・・・さっさとアクリニーを見つけるんだ」
「それに聞いてくださいよ。アルシー君とフィーウなんてほとんど座席に座れていないですよ。ティーアや私の膝の上に座っているようなものですよ」
「なら男どもが女性の下に座れ。アルシーとティーアは早く入れ替わるんだ」
そういうとティーアはフィスルクーフェーに反論した。
「な、私だって男の人一人くらい乗っかられても全然平気です!帰りは私がアルシー君の上に乗せてもらえばいいだけの話ですし!」
そこへフィーウが言った。
「そうだ、下心を丸出しにして女性を助けて媚を売るなど男のすべきことではないぞ!」
なるほど、昔から女性中心主義だとは聞いていたが、そういうことなのか、と半分納得しかけた。だからといって堂々と人の上に座るのは申し訳ないと思わないのだろうか。
町の大通りについに差し掛かった。道が途切れている光景と言うのは、アルシーはおそらく初めて見ただろう。
「フィーウ、アクリニーはどこに住んでいるんだ?」
「分からん、緊急連絡先しか持っていないからな。それに、彼女は一番大事なリーダーなのだ。簡単にアクセスされたらそれこそ俺とティーアみたいに袋叩きにされてしまうかもしれないだろう」
居場所はその同志にさえも言えないのか。それはつまりシャスティ達の中に裏切り者がいることを疑っているということになる。
「その緊急連絡先を教えてくれ」
「それは言えない。俺が直接電話をかけて呼び出すことにする」
「フン、油断ならん奴め」
フィーウは非常に原始的な通信機器を取り出した。この世界でも連絡は取れるらしい。
「こちらフィーウ=テリーン。アクリニーさん、すぐに今から言う場所に来てほしい」
「ツィムケイの東端、ツァエザル大通りの端だ」
「あなたに会いたいという人がいる」
フィーウは電話を切った。たった数文で済むような最低限の連絡だ。
「さて、もう車を降りてもいいころだ」
「何故だ?」
「だって、もうそこにいるじゃないか」
フィーウは車のフロントガラスの方向を指さして、建物にもたれかかっている女性を示した。ちょうどよく女性が前を向いた。
「な、今さっき連絡をしたばかりのはずなのにもういるというのか・・・しかしここが拠点なんじゃないのか?」
「さあね、それは俺もわからないが、貴様の求めている人と言うのは彼女で問題ない」
フィスルクーフェーとティーアは車を降りた。交渉に行ったのだ。
しばらくすると、アクリニーは動揺を隠せない目で車の方を見た。
すると二人に連れられながら、アクリニーは車に近寄ってきた。
なぜかアルシーが彼女を見て声を漏らした。
「母さん…」
「アルシー…あなた、生きていたのね」
二人が驚いたのは言うまでもないが、それ以上に周りがその事実に驚いた。