Kranteerl y io dyin   作:witoitaa

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第四章「ADK復員事業編」
ADK復員事業開始


ヘリコプターは数時間の飛行を終えて、飛行場のようなところに着いた。凄い乾燥しているようで着陸しようとするヘリの周りの砂が巻き上げられた。

 

「とりあえず、入国審査を受けるよ♪」

「変わらないんだな。何時までもその調子で話すのか?」

ヘリコプターから降りたフェリーサが言う。アルシーが降りるとその目の前にはケープを着て、口と鼻を隠したフィスルクーフェーが居た。

「早く来い、入国審査を受けるぞ。」

そう言われて、ターミナルに案内される。ライフルを装備した重装備の兵士が並ぶ入国審査であった。兵士たちは検査される入国者たちに睨みを効かせている。ウィトイターの巣窟、昔ハタ王国からスカルムレイを剥ぎ取ろうとした子孫たちが国を作っていた。

「やっぱり~アルシー君のハタ王国ではADKは、批判的に教えられているの?」

フェリーサが言う。

「いや、別に。在って無いものみたいな感じ、存在は教えられるけどウィトイター批判が弱まってからは別にどうでも良いみたいな。」

アルシーは少し詳しめに言ってしまったことに違和感を感じた。そんなに仲良くするべき人間ではなかったからだ。

「おい、あまり私語を話すんじゃない。あそこの兵士が睨んでるぞ、バカフェリーサ。」

フィスルクーフェーは言った。確かに重装備の兵士がこちらを睨んでいる。

「バカフェリーサとはなんですか!バカフェリーサとは!このかわいいフェリーサちゃんになんてことを」

「だっ、バカ!大声出すんじゃねえ!」

「あっ……やばいですよ、兵士がこっちに来てるんですが。」

アルシーが二人に教える。我に返った二人は周りを見て赤面しながら、兵士の方を見る。やばい、一歩づつこちらに近づいてくる。

「やべえ、これ連れて行かれるパターンじゃねえか。」

「どきどきしますね~♪」

「ふざけてる場合か!?!?」

兵士が遂にアルシーたちの目の前に来る。ビクビクするアルシー達に兵士はユエスレオネ式敬礼をする。手を斜め前に伸ばして行なう敬礼である。

『四星三蒼のためにターフューゲに栄光在れ!』

酷く長い文句である。フィスルクーフェーが同じくゆっくりと反応を見ながら敬礼をする。

『えーっと、四星三蒼のためにターフューゲに栄光在れ……。』

『同志はxelken.valtoalの人間か!』

勢い良く兵士は言う。少し訛っているがユーゴック語らしい。フィスルクーフェーも一応有語が喋れるようであった。

『え、あーっと、そうですけど。』

『では、こちらへどうぞ。ハタ=ハフリスンターリブ様がお待ちです。』

『は!?』

ハタ=ハフリスンターリブ、アルシー自身の祖父ガルタ=ケンソディスナルが倒したはずのハタ=ハフリスンターリブがここに居る?訳が分からない。

『あ、失礼。そちらのユーゲ人は。』

『ああ、うちの連れだ。気にしないでくれ。』

フィスルクーフェーはさっと言うが、兵士は舌打ちをしたかのように聞こえた。これはケンソディスナルなんて苗字を言うと殴り殺される様相だ。それよりもハタ=ハフリスンターリブが生きているとは知らなかった。

兵士がその戸を開ける。室内には豪華な装飾がなされ、その中心にある椅子に独りの人間が座っていた。

『お前が……ハタ=ハフリスンターリブ……。』

アルシーは小声で言った。

『ようこそ、我等が友xelken.valtoalよ。』

『ADK首相アスキス=ランテイン、通称第二のハタ=ハフリスンターリブか。どういう風の吹き回しだ。』

フィスルクーフェーが言う。なんだ、ハタ=ハフリスンターリブとは通り名だったのか。

『特に変な事は無い。だが、最近は「コンガー」の下民どもがむさ苦しくてな。気をつけてくれ、コンガーナー解放戦線とかいうテロ組織がこの国に最近出来た。どうか、巻き込まれないように。』

『それくらいなら、私たちでも対応できる。どうせ、ネートニアーだろ。』

首相相手に良く喋る男だとは思った。旧友なのかもしれないし、昔からの腐れ縁があるのかもしれないが、そんなことはアルシーは聞きたくないと思った。どうせここに居る皆はユーゲの敵だ。ただ、そんなこともどうでもいいとおもっていた。

『本土の状況は劣勢のようだな、x.a.に対しての圧力はかけ切れなかったと言うことだね。』

アスキスが言う。

『お前が口出しして良いことではない。』

そう言って、フィスルクーフェーが部屋を出てゆく。フェリーサもアルシーもとりあえずはそれについて行った。部屋を出る間際、アスキスはこういった。

 

『トイターのご加護在れ、イェティアス・ユーゲよ。』

ウィトイターだと思っていた人物に言われて、後ろ髪を引かれた思いであった。

 

----

 

軍用車両に揺られて、粗悪な道を通ってゆく。ここから三時間ほどの所にADKのx.a.事務所があるらしい。建国から連邦介入まで、xelken.valtoalを支援してきた国家はこのADKしか居ない。だから、xelken.valtoalに対しては国民は寛容らしく、その勝利や敗退を我が事かのように聞いているそうだ。

「ところで、フィスルクーフェーさん、お姉さんはどうなったんですか~?「

フェリーサが聞く、上官のフィスルクーフェーには上下関係も気に止めてないようだ。

「分からない」

「え?」

アルシーが聞き返すとフィスルクーフェーは外の情景を見ながら黙ってしまった。

 

幾つもの町を通り抜けてきたが、町の様子は何処も同じであった。中心部だけがビルや立派な建物が建てられているようで外部はファイクレオネ史で習った独立国家戦争時代の慈善団体によるテントのようなものが延々と続いていた。テントには「蜻蛉のためのレナ」と書いてある。レナといえばリパラオネ教の神族と呼ばれる神の窓口の一つを指す。レナは学問や知識の神族だから、蜻蛉を貧困者や被災者などに見立てた事前組織名なのだろうと暇すぎて考えていた。すると、いきなり車が止まった。

『おい、もう着いたのか?』

『いえ、検問ですなあ、だんな。』

フィスルクーフェーは舌打ちをした。検問で検査をしている兵士に問いかける。

『検問つったってこれだけ走ってて一つも無かったぞ。何か在ったのか。』

『いえ同志、コンガーのせいです。』

『コンガー?どういうことだ。』

兵士は少し髪を弄りながら答える。

『コンガーナー解放戦線ですよ。テロが起きるとか予告されてて、それの検問ですよ。』

『そうか、お疲れ様。』

検問での検査はすぐに終わり。また、車は走り始めた。夕方になっていた近くの町に差し掛かったところでいきなりフィスルクーフェーが車を止めた。アルシーとフェリーサはその様子を見て一緒に降りて行った。

数人の人間が少女に殴る蹴るの暴行をしていた。フィルスルーフェーはすぐにかけて行く。

『おい、お前等女相手に何をしている。恥ずかしいと思わないのか!』

『お前は誰だ。いきなり割り込みあがって!」

暴行していたうちの一人が言うと、フェリーサは胸ポケットから手帳のようなものを出す。

『Xelken.valtoalデュイン部隊所属員です。』

暴行していた者達がざわざわと騒ぎ始める。

『ご、ご無礼をお許しください同志よ。しかし、この女はコンガーであのテロ予告をしていた奴らの仲間ですぞ!生かしては置けませぬ!』

「そうだそうだ」と周りの者たちが叫びだす。

『黙れ!お前等はウィトイター差別と同じようなことをする気か、この女が何か罪を犯しているなら罪を裁くことは出来ようが罪を犯していない人間に暴行するとは不徳な事だ!下がれ!この女は俺が連れてゆく』

『しかし、xelken.valtoalの高貴なる戦士よ、彼の女は不浄なコンガーナルです。触れてはなりません!』

暴行を見ていた町の女たちが言う。その発言のしようからはフィスルクーフェーを心配しているようであった。

『心配は無用だ、ついて来いフェリーサ、アルシー』

そう叫んで、フィスルクーフェーはコンガーと呼ばれた少女の腕をがっと掴んで引っ張ってゆく。アルシーはフィスルクーフェーが一瞬でも格好良いと思ったのであった。

 

車で揺られてゆく。コンガーの少女は服装も汚い布切れのようになっていた。しばらくは、一口も口を利かなかったが、少しばかりするとフィスルクーフェーに向ってこういった。

『ありがとうございます、えっと……同志よ。ですか?』

『いや……勘違いするな、俺はただアレフィス様と聖フィシャの教義に従ったまでだ。お前が好きで救ったわけじゃない。』

フィスルクーフェーはそういっていたが顔は赤面していた。なかなか、分かりやすい人物であった。

『皆さんもありがとうございます。xelken.valtoalって聞いたところ恐ろしい組織だと思っていましたが、少し安心しました。私の名前はティーア=クントイタクテイです。』

『俺はシェルケン・ヴァルトル・フィスルクーフェー、こいつはアルシ=ケンソディスナル、そこに居るのはフェリーサ・何とか』

『何とかとは何か~~~~!!!』

フェリーサは怒っているのか、怒っていないのかよく分からない反応をしていたが、ティーア自身はアルシーの姓を聞いた途端目を見開いて驚いていた。

アルシーはその姓を聞いて生み出していた疑問を口にした。

『コンガーナルとか言われてたけどユーゲ人の名前なんだね。』

『……。』

下を向いて黙ってしまった。フェリーサが半目でこちらを見てくる。

フィスルクーフェーはティーアの肩を持って言う。

『こちらも情報が欲しいんだ。一体どういうことか教えてくれないか。』

『……はい、同志。』

ティーアはやっとだが話し出した。

『コンガーは元々このスキ・カラムディア地域に住んでいた先住民を指します。この国の建国当初からコンガーは虐げられ、差別され、排除され、不当な殺害をされてきました。近代になって連邦の介入によってゴンガーに対する政府的な排除はなくなりましたが、最近のコンガーナル解放戦線がテロを予告した途端スキ・カラムディア共産党はなんと言ったと思いますか?』

皆が首を傾ける。

『「本国におけるターフューゲ以外の姓の人間はコンガーナルによる姓名詐称であると信ずる。」と大々的に発表したのです。目的は分かっています。この国からスカルムレイの力をなくしたいと思っているのです。スカルムレイを愛するトイター教徒のユーゲ人は好きでこんなところに来るわけがありません、大体が嫌々でもビジネスや外交のためでした。この発表があった途端この国のウィトイターのターフューゲ姓以外に対する迫害が始まったのです。国家のお墨付きで。』

ティーアは、手を強く握り締めていた。

『君は、なんでこの国に来たんだ。』

アルシーがティーアに問う。

『汝らを信じて言いますが、私は、実はトイター教のシャスティーで南スケニウの中の下ほどの大きさのイルキスからトイター教徒の信仰をサポートするように言われて派遣されたのです。』

『それがどうしてこんなボロ布一枚みたいな状態になったのかなー?』

フェリーサがいつもの調子で問いかける。ティーアは少し怪訝な顔をしたが答える。

『あの共産党の発表があるまでは別に自出を出来る限り隠しても生きていられました。でも、あの発表以降はそうは行きませんでした。住んでいたマンションから追い出され、住むところもなく、働き先もクントイタクテイ姓というだけで断わられ、お金も底を付き、食べるものもなく彷徨っていたところ後ろから殴られ、身ぐるみを全て剥がされて強制労働を課せられました。どんなことをしたかは……思い出したくないですけれど。やっとのことでそこから逃げ出しました。これで解放される。そう思ったら、町の人々が総出で私を見つけ出して、殴り、蹴り殺そうとしたんです。別に私はウィトイターを差別したりしてないのに……あの人たちは……ここの国民はみんな……私たちを差別主義者、保守反動分子とか呼ぶんです……うっ、ひっく……皆同じユーゲ人なのに……。」

ティーアが泣き出してしまった。フェリーサが隣に座って「大丈夫、私たちはあなたの味方だよ。」とか言っている。アルシーが一番驚いていたのはこのクントイタクテイの娘がウィトイターをひっくるめて「皆同じユーゲ人」と言っていることであった。ケンソディスナルではウィトイターはもはやユーゲ人と認識すること自体が馬鹿馬鹿しいという風潮があった。何もそこまで言う必要は無いとは思ったが、そのような風潮はハタ王国全体に蔓延っていた。この国の国民も同じようなことだったんだろう、ただ治安が悪いためにこんなことが起きてしまった。

「フェリーサ。」

フィスルクーフェーが呼ぶ。

「どうしましたか、リーダー?」

フェリーサがまたいつもの調子で答える。

「あのデュインの戦争の推移はxelken.valtoalが参加するまであまり関係がなくなるだろう」

「でしょうね、デュインx.v.組織員のADK引き揚げに関する業務が強化されそうですけど、よっぽどのことが無ければ任務は一旦停止って感じになるでしょう」

淡々と分析と共に予想を言うフェリーサ、こう言うときは格好良いのだが。

「では、我々でこの娘のようなユーゲ人をハタ王国へ戻らせよう。」

「「は!?」」

アルシーとフェリーサの声が重なる。

『どうせ各地で似たような状況になっているはずだ。政府が対策に動いてないとすれば、我々でやるしかない。』

「しかし、王国は我々の仇敵……。ばれたら不味いですですよ……。」

フェリーサは苦い顔をする。しかし、気にせずフィスルクーフェーは続ける。

「30条教典フィアンシャンにはこう書いてある<<爭ひ、全ての志を果たすべし。>>とな。」

 

----

 

ADKxelken.valtoal事務所に付くころには辺りは真っ暗になっていた。フィスルクーフェーの指示で怪しまれないようにアルシーとティーアは同室にされた。女の子と同じ部屋で嬉しくないわけはないが、辿ってきた境遇が凄まじ過ぎてそんな欲情はしなかった。眠かったので二人はすぐに二段ベッドの上下に分かれて寝ていたが、ティーアが話しかけてきた。

 

『アルシー、アルシー=ケンソディスナルさん……。』

『ん?』

 

『私はあなたに会えたのは運命だと思っています。xelken.valtoalの方々に助けてもらえたし、あなたのような人間にも出会えた。』

『自分は……』

自分は、xelkenではない。

そんなことを、それだけのことを彼女に明白に表そうとして躊躇していた。

『返してくれるってさ、ハタ王国に。』

『ええ、久しぶりに祖国の土を踏めるのが楽しみです。』

本当に楽しみそうな声が聞こえてアルシーはほっとした。自分が嘘を付いていると思ったから、その罪滅ぼしはしたかった。

『この国で迫害を受けている皆が帰れれば、最高でしょうね……。』

『フィスルクーフェーさんはそうしてくれるらしいけどね。さあ、今日はもう遅い、疲れただろうし眠なよ。』

『ええ、おやすみなさい。ケンソディスナルさん。』

本当に綺麗な声だと思った。

その「おやすみなさい」の一言に吸い込まれるように睡魔に引きずり込まれていった。

 

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「なんで、あの子を助けたんですか。」

施設の外でフェリーサとフィスルクーフェーが話しているところであった。フィスルクーフェーは小型のフォルダからコーニュスティエを取り出しマッチで火を付けて、加える。

「教義に沿ったまでだ、それ以上でもそれ以下でもない。」

「本当ですか~?本当は彼女に一目ぼれしたんでしょ?」

フィスルクーフェーは不意の図星に咳き込み、コーニュスティエを口から落としてしまう。

「バカ野郎、そんな訳が無いだろ。」

「分かりやすい人ですねえ。くれぐれも姉貴には怒られないように。」

フェリーサは施設のドアに手をかけて言う。

「姉貴は死んだよ。」

「はい?」

アルシーの前では「分からない」と言ったのに死んだと断言するフィスルクーフェーが謎だった。

「俺の姉は、お前等と俺を逃がすために屍に飲まれて死んだ。いや、封印されたと言う方が正しいか。あの基地で今も眠っている、屍の海にな。」

新たにコーニュスティエを咥えて火をつける。

「掘り出せば復活しますかね。」

「冗談は冗談らしく言えよ。いつものようにな、じゃないと悲しくなってくるだろ。」

フェリーサはデッキによっかかりながら少し笑って頭を振る。

片手で指を擦ると、フィスルクーフェーはコーニュスティエに火を付けてフェリーサに渡した。

「本当に素直じゃない人ですね、好きって言いたいなら好きって言えば良いし、悲しいって言いたいなら悲しいって言えば良いのに。」

フィスルクーフェーは先程落ちたコーニュスティエの火を消すために足で揉み消す。

「お前とは人間が違うんだよ。」

フェリーサは今度こそドアを開いて、しかし髪を引かれる気分であったのか一言言い残して行った。

「先輩はしょうがないですからこれからは私が面倒を見ます。」

戸が閉まる音にフェリーサの恥じらいを感じ、フィスルクーフェーは少しばかり笑った。

「素直じゃないのはどっちなのやら……。」

星が一層綺麗に見えたのは、こんな素晴らしい仲間に出会えたからかもしれない。これからのADK復員事業に思いを馳せて、フィスルクーフェーはコーニュスティエの味を愉しんでいた。


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