Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
レシェール・クラディアなんて名前しか知らなかったが想像以上に強いようだ。すっかり真正面から立ち向かいXelkenを蹴散らすつもりでいたが、さすがはその道のプロ。最新技術を利用して難民全員を生還させた。こちらの被害なんて一切ない。その知識の広さと臨機応変さ、あらゆることを任務に行かせる彼女の行動はまさにアルシー自身が想像していた「強いケートニアー」であった。
もしもの時があれば、と思って持っておいたメシェーラ。だが実践では使わなかった。その気持ちは、彼女も同じだろうか。口に出そうと思ったが、それはエレーナに既知の事実、しかも相手を攻めるような気がしてやめておいた。
「君は、すごいよ」
どこからか声が聞こえた。スカーナ先生が近寄ってきたのだ。共にデイシェスに上がってきたので、当然一緒である。逆に言えば、それ以外の教員たちは皆行方が分からない。
「せ、先生?」
「君の祖国をけなすように聞こえるかもしれないが、私はあの国にいると同調圧力を受けているような気がしてならない。皆がトイタートイターと騒ぐ。スカルタンを着用し、神に従う者の服装と言ってそれを喜ぶ。信仰心なんて誰もがもちうる本能と言えるかもしれないが、そこではなく、あそこにいたら郷に入っては郷に従えなんて言葉が来訪者への暴言に見える」
先生の言いたいことが見えてこない。
「彼らにとっては、王国の土を踏むこととは、ハタ王国のすべてを受け入れるということと同等なのだ。そこがどうしても気に食わないところだ」
アルシーは昔聞いた話を思い出した。それは母親から聞いた話である。彼女も弱小ながら一イルキスを所有し礼拝を管理し神へつなげるシャスティであった。
「それは、少し違いますよ。先生」
スカーナは話すことをやめた。表情は変えない。
「それが、彼らの団結力なんです。彼らの共通の認識であって、千年以上守ってきたこれだけは越えてはいけないというボーダーラインです。彼らなりの、生きる知恵です。ただ、」
キーアが後ろから、エレーナとキーアとスカーナが並んで海を眺めながら座っている様子を見ていた。
「俺は、この国の生きる知恵に興味があるだけで、今ここにいるんです」
スカーナは微笑んで、アルシーの背中を叩いた。
「つまり、今置かれているこの状況を打開するという決心だな?」
スカーナは立ち上がる。そして後ろへ向かって歩き出そうとしていた。エレーナとアルシーはその様子を見ていた。
「いい心がけだ。その変化を畏れない精神、Xelkenも狙っているよ」
エレーナはハッとした。アルシーはまだいまいちピンと来ていない。だが、すぐにエレーナの顔は曇った。
「エレーナ、アルシー、配給だぞ!」
食材が来た。それは自分たちがまだ生きることができるという証拠でもある。難民生活一日目、この状況を打開するという決心は確かに残っている。
――
万歳、と派手に大声を上げたいところ。しかし、彼らの計画に大いに喜ぶという行為はまだ先にある。
「・・・そう、了解しました」
何者からかの通信。ターフ・リーダはまたしても得体のしれない生物と、多数の死体を引き連れて海を闊歩していた。正確には歩いていないが。死体の処理はしない。彼女はそれさえも操って兵器としてしまうからだ。
通信からの声が聞こえる。
「まあ、君の初仕事だ。無理はするな。もうXelken.ales内部では次なる攻撃目標を定めているところだ。それまでx.v.の邪魔をしてアルシーの奪還をしろ。それがお前の一番優先すべき仕事だ」
別に、先ほどでも後を追っていた。上層部に報告していないだけであって。ただ、それでも避難民一人一人にも可能なことはある。それを阻止しようとしたのだ。
通信を切り、再び座った。傷も完治して、もはや戦闘態勢は万端だった。
「勝ちか?」
得体のしれない生物、ホワ玉は再び話した。
「気が早いぞ隊長」
「今言った"勝ち"はその意味ではない。私が、私としてこの体に勝つことができるのはいつの話だ」
「その力はまだとっておけ。アルシー=ケンソディスナルが強くなったその時に試せばよいことだ」
夜は更けていった。