Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
「あ~あ、これじゃあ静止目標より撃ち易いよ。」
誰かが言った。我等避難ボートはXelken.valtoalの巡洋艦に接近して降りてくるXelken.valtoal兵を銃殺していく。
「まだですか。」
「ええ、もうちょっとです。」
クラディアが艦の外壁に粘土のような物体を貼り付けていっている。
「おいおいおい、まだかあ?死体がこっちに落ちてきそうだ!」
「できました、ボートのエンジン全速で巡洋艦から離れましょう。」
「りょ、了解。」
ボートのエンジンが再起動し急加速を行う。
巡洋艦からは逃げられるはずも無い。一体何故。
「何で逃げようとするんですか!無理ですよ!相手は軍用艦ですよ!」
アルシーがクラディアに反駁する。
「さっきのは威嚇射撃だったのでしょう。このボートに直接打ち込むはずはありません。それに――」
クラディアが手元にあるスイッチを押す。
「――記述式WPを仕掛けたので。」
船の外壁に一瞬で紫色の光の糸が広がる。耳を劈く大音量がボートを揺らした。数秒送れて爆風。敵の巡洋艦の側部外壁が大きく燃え、煙を出している。それだけでも大規模な爆破は、次の瞬間連続の爆発音に塗りつぶされた。爆音と爆風は先程よりも大きくボートを揺らし、ボートに乗っていた子供数名は今にも泣き出しそうであった。
「な、何をしたんですか。」
アルシーの素朴な疑問にはスカーナが答えた。
「記述式WP、最近開発されたスクリプトと呼ばれる形式のウェールフープに見えたね。彼女もよくやるな。」
記述式WP?そんなの聞いたことも無いぞ。
「き、記述式WPってなんなんですか?」
「んー高度に組織化されたWPインタプリタにケートニアー本人のウェールフープで打ち込みを行って、それをインタプリタが読み込んで実行するらしい。ウェールフープ代理実行装置みたいな感じだよね。」
「へ、へえ」
アルシー自身は全くそんな技術を知らなかった。ウェールフープ技術も進んでいるのだなと実感していた。そんなことを思っていると救助ボートは急速で巡視船から離れていった。
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「せ、船長!艦の外壁が損傷!第三、第四区画に浸水を確認しました。」
「ダメコン急げ、こんなんで沈む艦ではない。」
ハルトシェアフィス部隊隊長兼船長に任命されているフェリーシャは冷静に命令を出す。
そんな冷静さに反して、一人の兵士がCICに突っ込んでくる。
「せ、船長!破壊された区画にガス状WPが充満している模様です。」
「何だと、状況は?」
「三名の兵士が動かない状態です。」
ガス状ウェールフープ、空気の流れに乗って移動し、ケートニアーに致命的なダメージを与えるウェールフープ兵器である。
「直ぐに脱出の準備を行え、この艦は放棄する。」
「し、しかし、アルシー=ケンソディスナルの確保はどうされるのですか!」
フェリーシャはその兵士をにらみつける。
「デイシェスに上陸する。武器を持って甲板に集合させろ、上陸艇を利用する。」
「……了解しました。」
Xelken.valtoalたちは動き始めた。
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「ふう。」
アルシーはアチェアが入っていたコップをテーブルに置く。
デイシェス・デュイン海軍総合庁舎は避難民で埋め尽くされていた。非常用倉庫から兵士たち(と言っても技官であろう制服さんが)食料を取り出して、避難民に配っていた。
先の海戦で傷を負った人、孤児、無銭となり行き場を失った人々。自分たちも例に漏れず、フェグラダに全てを置いてきた。
連邦軍の説明によると、一旦騒動が当面治まるまでここで『難民』として支援を受けられるらしい。アルシーは連邦に税金を全然払っていないので無銭衣食住を受けるわけだ。罪悪感が無いかといえば嘘だった。
「アルシー君……。」
「ん?」
「私、何にも出来なかった。」
エレーナがいきなり何を言って言い出すのかアルシーには良く分からなかった。エレーナの目線はずっと先、倒れて看護されている人たちに向けられていた。