Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
デイシェスへ向かって避難ボートは往く。ターフ・リーダという人間は過ぎ去った。アルシーの中では未だに整理がつかない。彼女は、確かにあの時の彼女であったはず。
「ターフ・リーダといえば・・・フェグラダの戦闘開発科女子ではトップの成績の生徒だったはずだ」
キーアが話し始めた。
「そして作戦の立案もなかなかの者、男子からの評価もよく、まさに才色兼備といえるほどの生徒だったはずだ」
なんか絶賛しているぞ。
「エレーナ、彼女は何なんだ?」
特別警察のファリーア・カーナ・エレーナ、極秘で私達にも一切話さずに任務を今まで進めてきた彼女が話してくれるのだろうか。
すると、先ほど現れ共に乗船したクラディアが口を開いた。長い髪を軽く上げながら、私たち三人を向いた。
「この船のメンバーには言っておきますが、ファリーア・カーナ・エレーナのここ数か月の調査によれば、ターフ・リーダは学園内に潜伏しているXelkenの幹部であることが分かっています。そして」
そこへ、スカーナが割り込んできた。
「あんたがそんなに喋っていいはずがない。私が知っている範囲で私から話す。あんたは任務の方をよろしく頼む」
クラディアは表情を一つも変えずに、スカーナの方を向いた後、お辞儀をしてこちらから目を逸らした。
「アルシー君、Xelken.valtoalとXelken.alesは知っているか?」
「名前だけは・・・どう違うのかどうかはいまいち理解できていません」
何が始まるのかと思えば、そこの解説からか。言われてみれば、さっきからXelkenが来た時、Xelken.valtoalとも言われるしXelken.alesとも言われる。両者の違いは何か。アルシーにはまだ分かっていない。
「古理語を信奉しているのは共通だ。だが、Xelken.valtoalがテロをこのまま続けようとするが、Xelken.alesはそれを不可能なものとして自分たちで独自に古理語を基本とした国家を作ることが目標。私が察するに、今彼らはデュインを連邦から独立させて古理語国家を作ろうとしているのだと思うんだ」
さすがは偉大なウェールフープ学者。ずいぶんと深いところまで推測していたらしい。
今は夕方といったところだろうか、だんだん気温が下がってきて、日が沈んでいくのが見える。
「先生・・・俺の見間違いなのかもしれないけれど、ターフ・リーダさん、俺のこと狙ってた気がするんですが・・・」
スカーナは今度はすぐに答えてはくれなかった。しばらくの沈黙を背中で感じていたクラディアが再びこちらを向いた。
「これについては私から。これもファリーア・カーナ・エレーナの調査報告ですが、Xelken両派ではアルシー=ケンソディスナルが現在のターゲットで、現在両派とも必死にアルシー=ケンソディスナルの捕獲を目指しています。理由はまだちゃんと解明できていませんが」
突然名前を呼ばれて、アルシーは戸惑った。どういうことだ。自分が狙われている。あんなに危険な武装集団に。自分のどこに狙うような価値があるんだろう。
「す、スカーナ先生、なんで俺は狙われているんですか?」
「私も知らない。本人から聞くか、あるいは・・・」
そう言いかけたところで、突然クラディアが乗客声に気が付いた。「あそこに大きな何かがみえる」と。
すぐさまクラディアはその方向に急いだ。
「・・・敵艦だとしたら多分Xelkenのどちらかだけれど・・・双眼鏡もないので分かりません」
アルシーら三人も共にその方向を見た。こちらへ向かっていくその速さ。狙っているとしか思えなかった。
「無理だ・・・こんなちんけなボートであんな大きい巡洋艦を振り切れるわけがない!」
誰かが言った。その通りだ。確かに櫂が何本も装備してあったが向こうは人力じゃないに決まってる。振り切ることは考えない方がいい。となると、ケートニアー達の戦力を頼りにするしかないか。
「ケートニアーは前に出ろ!Xelkenに狙われる!なんとか食い止めるんだ」
クラディアは表情を変えない。エレーナもおそらく先輩であろうその背中を見ていた。クラディアは、どれくらい強いんだろう。
数分も立たないうちに、その影ははっきり見える者になった。確かに、それはXelkenだったが、「x.v」と書いてあったのでvaltoalの方だ。こいつらも自分を狙っているのだろうか。アルシーはそう思った。
もう、どうしてこうなるんだ。アルシーの中には、現実を捨て去りたいという想いが生まれ始めた。
その場でしゃがみこんでしまったアルシーに向かって、エレーナが言葉をかけた。
「生きてね。アルシー君。私も特別警察の一員として戦うから」
「待って」
走り去ろうとしたエレーナを、アルシーは無理矢理引き留めた。
「メシェーラなら持ってる・・・文化祭の直前にスカーナ先生にこめてもらったんだ・・・」
アルシーの中には悔いがあった。学園内で何度も、彼らには助けてもらった。このまま守られ続けることはできないと悟った。ハタ王国はトイター教の教えに従い、先祖を慕い、シャスティの言葉を信じ、スカルムレイへの忠誠を貫いた。だがここでは、その生き方ではなんとかならない事案に立ち向かうことになる。
自分たちの祖先を思い出せ。ゼースニャル・ウドゥミトを考案して、新しい王国の脅威に対抗しようとしたシャスティたちのことを。ウィトイターの独裁派を排除した革命家を。連邦への外交を決意したスカルムレイを。連邦に憧れた自分は、このままでは本当に単なる憧れで終わってしまう。
「俺も戦うから・・・」
アルシーは立ち上がった。「王国の牙」であるメシェーラを片手に。
――
「今度こそ、見つけたわ。あれがアルケンでまちがいないんでしょうね?」
「確かです」
特徴のある人間の呼び方。高い身長。隊長もといフェリーシャはその船の船長を務めていた。
「あれを保護すれば、古理語の発展に拍車がかかり、私だけでなくお前たちの将来も安泰だ」
「しかし隊長!あそこには特別警察がもう一人いるという観測も出ています!」
巡洋艦が海水を撥ね退け進む。三人組もそこに居た。同志の奪還を狙っていたが、途中でやめ、アルシーの保護の任務に移ったのだ。
「特別警察なんぞ、その辺に捨てておけ。必ず、アルケンを奪取しろ。どんな手を使ってもだ」
射程範囲に入ると、一気にウェールフープ砲が発砲を始めた。