Kranteerl y io dyin   作:witoitaa

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屋上のそよ風

「あ、アルシー・・・君?」

屋上の手すりにもたれながらこちらに振り向いていた。エレーナの髪が風でたなびく。

「いや、ラジオがうるさかったからさ。避難しようかなと」

「ああ・・・あのラジオは聞かない方がいいよ。ほとんどの校舎の屋上はあの放送が聞こえないから、私や君みたいなのはいつもここに来るの。日によってはたまり場になることもあるよ」

とはいうが、今日はあんまり屋上に人けを感じない。

「あ、あの・・・」

エレーナが何か言いたげでこちらに体を向けてきた。やはり身長は俺よりも小さかった。少し大きい瞳をこっちに向けたと思ったら少しそらして、こういった。

「アルシー君は、どこからきたの?」

特に黙る必要もないので喋ることにした。

「俺はハタ王国から来たよ。知ってる?ハタ王国。」

「王国の、どこ?」

「ネステル、あの陛下が住んでおられる王都だよ」

「スカルムレイ一族ね。聞いたことはあるわ」

初めての王国講座のようになってしまった。ハタ王国のスカルムレイはデュインと言ってもさすがに知られているだろうとは思っていたがやはりそうだった。つい、話してしまったと思って、俺は弁当を広げた。出発前に適当に作ったやつである。

「アルシー君、弁当を持ってきたんだ。この学校には学食があるからそこに行ってもいいと思うよ。」

学食、そんなものもあるのか。とはいえ生徒たちは基本ここで寝泊まりする。毎日実家から弁当の仕送りなんて来ても困るか。

「でも、食堂ではあの人の放送がバンバン流れているから、休み時間のうちに先にとっておくほうがいいよ。」

「昼食が始まる前からとることができるのか」

敷地内を見てみる。やはり広い。さすがにこの高さじゃあそんなに遠くは見えない。まだあの頭のおかしい放送をやっているのだろうか。

 

のんびりとこれからどうしようかと考えていると、エレーナが突然話しかけた。

「ねえ、アルシー君は留学生だよね?」

俺はうなづき返した。口に卵焼きを含みながら。

「なんで留学できたの?」

「・・・ハタ王国で無料留学サービスがあって、親に黙ってここに来た。その中にこの学園があって。」

「何所でリパライン語を勉強したの?」

少し俺の動きが止まった。どこで勉強したのかと言われれば、学校でやったり、独学で勉強したり、あとはネステルにあるリパライン語講座に参加したりである。

「まあ、ハタ王国ではリパライン語は必修だからね。連邦本土でユーゴック語教育がされているのと同じように」

 

エレーナが時計を見た。ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。

「あと5分で予鈴がなるよ。そろそろ教室に戻ろう」

エレーナのかわいらしい警告。俺はうなづいて、ついていった。

微妙に俺は道を忘れかけていた。自分のいた教室さえも忘れてひたすら静かなところを求めて歩いていたようだ。廊下を歩いていることにはすでにあの趣味の悪いラジオ放送は終わっている様子で、廊下で座り込んでいる人もいた。なんて影響力の高いラジオだ。

あっという間にもといた教室に着いた。

「今日は午後の授業は6時限目までしっかりあるね。がんばろうか」

俺は教室の中に貼ってある予定を見ながらエレーナに激励の言葉を送ってみた。すると、後ろから初めて聞いた――いや、さっき自己紹介した時にも聞いたかもしれない――声がした。男の声である。

 

「よ、新入り。アルシー=ケンソディスナルっていうんだな。」

エレーナは何食わぬ顔で後ろを向いて男を見ている。俺も振り向いた。

立っていたのはなかなか背の高い男で、俺よりも数センチ高い。金髪であった。

「・・・あんたも化学科か?」

「そうだ、お前と同じ化学科。レシェール・キーア(lexerl.kira)。よろしくな。あと忠告しておくが、エレーナは俺のものだ。」

何を言っているんだこいつは。エレーナは顔を赤くして俺の横に立っていた。

「エレーナ、あいつ・・・」

「キーア君は・・・いつもああいう人よ。男性と女性が一対一で話しているところを見かけたらいつもああやって入ってきて自分のものだって主張するの。冗談で言っているんだと思うしそれでよくネタになっているから・・・」

言うだけなのか。うっとおしいやら面白いやら。

「じゃあなんで赤面しているんだ?」

「!?・・・最近、暑いわよね」

「暖房もついていないし今は春だけれど」

その時、予鈴がなった。エレーナと俺は一緒に席に戻り、他のクラスメイト達も着席し、先生が入ってきた。


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