Kranteerl y io dyin   作:witoitaa

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到着

「攻撃?デイシェスを?無茶な事を言うな。総統はご乱心かね。」

参謀担当の眼鏡が上げられる。その目の下には深い隈があった。相当な日数寝ないで指示を行っていたのだろう。その声には呆れという感情が深く刻まれているように感じた。

「ご乱心ではない、デイシェスを攻撃しろとの事だ。」

「はぁ?やっぱり狂っているんじゃないか。」

参謀担当の声には総統への尊敬や畏怖の一つすら感じさせなかった。呆れ返ってそれでも倦怠そうに説明をした。

「デイシェスは、連邦陸軍の目的地だ。しかも、連邦側に先行攻撃したら交渉の意味が無いじゃないか。やるならここだ。」

そういって参謀担当は目の前の机にあった地図を指した。クランタルとデイシェスの間、北デイシェス海であった。

 

「ここを叩くということか。」

「クランタルの北側は制圧済み、すると北側を通ってデイシェス側に避難するはず。そこを叩けばある程度戦果は得られるはずだ。」

もう一人の兵士が近くで駄弁っていた一人の肩を掴み、顔を覗く。

「すぐに電報を出せ、北デイシェスに布陣し、クランタルから脱出する連邦軍を足止めせよと。」

 

---

 

「港に着きました。これより船で避難を開始します、至急荷物をまとめて装甲車から降りてください。」

そういう連邦兵の声が聞こえる。アルシーやキーアは並べられた避難民の列に従って船に乗ろうとしていた。船とはいえ、その形状はどうにも客船とは全然違うものであった。グレーや深緑一色に塗装された外観に砲や機関銃らしきものが配置されている。連邦海軍の軍艦であろう。

アルシーとキーアは船とを繋ぐ橋を少しずつ渡っていた。船内には二人で一つの個室が存在した。小さな冷蔵庫の中にはカフェイン注射剤があった。これでキーアの持病の発作も起こるまい、設備としてはほぼ言うことなしであった。

「脱出できて良かったな、さすが連邦軍だ。クランタルもすぐに奪還できるだろうな。」

キーアが言う。どうやら連邦軍へ大きな信頼を置いているようであった。アルシーは、連邦の住民ではないので連邦軍を信頼することはなかった。かといって王国軍を信頼しているわけでもなかった。ケートニアーが王国に出現して以来、市民のことを守ることが出来なかった。それが王国軍の正体だ。スカルムレイを守れればいい、どうせそんな奴等の集まりなんだ。

「アルシー?どうかしたのか?」

キーアが心配そうにアルシーを見る。いや、なんでもないとだけ言って部屋を出ようとした。

「おい、何処に行くんだ?デッキは出でるなと言われてるだろ?」

そう、デッキには機関銃や砲などが配置されており安全上の理由で出ることを禁じられていた。そうではなく、アルシーには気になっていることが一つあった。

「エレーナを探すんだよ。」

乗船からエレーナにはまともに合えて無かった。確か自分たちと同じ艦に乗り込んでいるということは知っていた。

「探すにしても、どこにいるか分からないぞ。」

「だから、探すんだよ。」

そういって、アルシーは部屋を出た。

 

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「…………。」

状態は芳しくなかった。ファリシーヤもイェトスタファもデバイスの発信信号が消滅した。偵察を入れることにはしたが、報告を待っている状態であった。

 

卓上にある電話がフィッサの意識を傾けた。

「F2CER、フィッサどうぞ。」

『こちら本部、デイシェスに合流せよ。繰り返すデイシェスに合流せよ。』

「りょ、了解。」

デイシェスへの合流、それはあらかじめから決めてあった符号で「アルシー=ケンソディスナルのクランタルでの保護に失敗、フェグラダの同志解放の保留、即時撤退とデイシェスへの移動」を意味していた。無線を掴んで、叫ぶ

「全同志は本部へ集合せよ。デイシェスへの合流の指示が出た。また、イェトスタファ隊長とファリシーヤの近くにいる兵士は彼女等を確認してつれてこれるなら連れてきてくれ。以上。」

フィッサは窓から空を見上げた。大変なことが起ころうとしている。そう感じていた。

 


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