Kranteerl y io dyin   作:witoitaa

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悪夢の序章

「・・・ん?」

感じていた車体の揺れが治まった。断続的に感じていた感覚が急に治まって若干解放されたような感覚を覚える。どうやら装甲車が止まったようだ。窓を見ようとするが窓というような窓がない。外の状況が分からない。彼らの行っていた「デイシェス港」とやらに着いたのだろうか。

 

「アルシー、着いたんじゃないか?」

「・・・さあ、運転室で何やら騒いでいるけれど」

スカーナも起きていたが何かを話し始めることはなく、ただ黙ってどこかを見つめていた。

「スカーナ先生、どうかしましたか?」

「ん?ああいや、なんでもない。車が止まったな」

スカーナがそう言いかけた瞬間に、装甲車の扉が開いた。僅かながら陽の光が入ってきた。早朝の気配。雨は止んでおり、水溜まりと湿り気が確認できた。その瞬間、背の低い少女が入ってきた。

「え、エレーナ!」

エレーナはよほど忙しいのか、こちらを向いても笑顔を見せるだけであった。

「港に着きました。これより船で避難を開始します、至急荷物をまとめて装甲車から降りてください。」

周りに歓喜の声が飛び交った。内心、アルシーとキーアも喜んでいた。助かったと。

問題はそのあとだ――

 

――

 

黒服に身を包み、部下たちの前に鎮座する総統、アレス・ヴィール・レフタを含めて、Xelken.alesの人間達はしびれを切らしていた。連邦がなめきった対応をしていたからだ。

「総合府の連中どもはちゃんと声明を出しているんだろうな?」

「そのはずだ。奴らがリパライン語を理解できるほどの脳ミソを持っているのならな」

間もなくあれから24時間が経とうとしている。あれとは、Xelken.alesやデュイン総合府独立系が連邦に反対し、独立した国家を気づこうとするというものである。デュイン総合府がいまだに味方であると信じ込んでいた連邦は、そんな突然の裏切りには気付かなかったのであろう。

中心にいる男、総統アレス・ヴィールはペン回しをしては落としてを繰り返していた。その落とした時の音が部屋に何度も響き渡る。部下たちはそんな音を聞いている暇もなく、もちろん総統自身もそんな暇はない。ここまで続くと、もはや連邦の国家としての威厳を疑いたくなっていた。

 

そんな中、突然総統が切りだした。

「奇襲だ。デイシェスをとりあえず攻撃するんだ。デュイン駐在の連邦兵がいっぱいいるだろう。そこを攻撃してみろ。総合府についても、連邦から連絡があれば常に攻撃的な立場であるということを表明し続けろ」

 

部下たちは未だ動こうとはしない。

再びペンを落とした。もう一度拾い直し、また言い直す。

 

「俺は『攻撃』という言葉を二回も使った。もう三度とは言わせないぞ」

 

――

 

かつての生活の場、フェグラダでは激戦が繰り広げられていた。

 

「さっさと死ねえ!」

リーダは実力差を知り荒れ狂うイェトスタファに若干呆れつつあった。

生物操作は何も、虫などにのみ効果のある能力ではない。彼女のその生物の操作は、人間にも及ぶのである。

人質の人間達は皆、意識を失っていた。

「申し訳ないけれど、今ここで激戦を繰り広げて傷を負うわけにもいかない・・・私たちの部隊にはこれからまだいっぱい倒すべき相手がいる。貴方の相手をしている場合じゃないのよ」

リーダが手を振り、何かを操作しようとする。すでに先ほどのムカデは姿を消していた。

「な・・・に?」

若干震えるイェトスタファ。なんとか応戦しようとするファリシーヤ。持ち前の勝気な性格がエスカレートして、ファリシーヤでさえも先ほどから異常なほどまでにウェールフーポを消費するような攻撃を繰り返していた。

が、そんな彼女の動きがようやく止められた。止めたのは、リーダではない。

「なん・・・なの?血まみれの人間が動いている」

「これも能力よ。生物操作は動植物に限ったことではない。人間も例外ではないわ。悪いけれど、貴方達の相手をしている場合じゃないの」

リーダが手を挙げると、一気に倒れていた生徒や職員が動きだし、うめき声を上げながら二人の元へ近づく。ゆっくりと、ゆっくりと。それは死への導火線も同然であった。

「いやっ・・・来るな!」

イェトスタファはそれらを必死に避けようとする。四方八方にレーザーを放ち、味方であってもその場で焼却するような勢いであった。それによって何人かの生徒や職員が無差別に殺された。そのまま虐殺を続けることができれば、特に問題はなかったのかもしれない。

「戦闘初心者はお互い様。貴方は弱みに付け込まれたのよ」

血痕だらけになり、目も当てられないような体であったが、リーダの操作により顔が明らかになってしまった。その姿は、かつての戦闘開発科の最強生徒であった。リーダは何も動じていなかった。

「イレーン君・・・」

そんな感情を、もう一人の仲間が打ち砕く。ファリシーヤは躊躇するイェトスタファを爆破させイレーンごと吹っ飛ばした。イレーンは飛び散り、イェトスタファは少し吹っ飛んで倒れた。

「な・・・なにをするのよ」

「集中して、イェトスタファ。あなたは古理語のために戦う戦士。同時に、裏切り者を駆逐し、同志を助けようとする救世主でもある」

一喝されたイェトスタファは立ち上がった。

「そうね・・・」

余計な言葉は放たない。イェトスタファは再びほとんど死体のようにしか見えないフェグラダの犠牲者たちをなぎ倒していた。戦闘開発科の生徒がほとんどのため、ケートニアーが大半、ネートニアーであったとしてもほとんどがそこそこ筋肉質で少し力を籠めないと頭を爆破できない。

 

ある程度数が減ったので、リーダを確認しようとするが、そこにあったのはリーダではなく黒い球体であった。

 

「・・・小型爆弾?」

一発で一軒家一つくらいならば消し飛ばせるようなサイズのものである。間もなく爆発し、二人はその場に倒れ掛かった。


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