Kranteerl y io dyin   作:witoitaa

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予感

すっかり辺りは暗くなり、雨の音は未だになり続けていた。あの部隊の襲撃以降、特に騒ぎは起きていない。その静けさと裏腹に、アルシーとキーアは気になって仕方がないことがあった。

「キーア、エレーナは突然車から降りてあいつらに襲いかかってきたけれど、何があったんだろう?エレーナは一体なんなんだ?」

「・・・彼女は、エレーナは特別警察職員なんだよ。」

キーアの発言はすぐには信じがたいことばかりで困るが、今回ばかりは少し様子が違った。

「え、特別警察?」

「知らないのか?」

「いや、知っているさ。ユエスレオネ連邦政府の諜報機関であることくらいは・・・」

「その連邦や自治体の持つあらゆる部隊の中でも相当大きな力と行使力を持っているのが特別警察だ。エレーナの過去については俺もよく知らないが、家の都合で特別警察に入った、まだ入ってから5年も立っていない新米職員だ」

驚きでいっぱいだった。アルシーの心の中で何かが凍りついた。では特別警察のエレーナが、なぜこのデュインで学園の生徒としてフェグラダにいたんだろう。

「キーア、お前もまさか・・・」

「いや、俺は特別警察じゃない。お前と同じ高校生で、将来はWPに関する職に就きたいんだ」

ともかく、キーアは特別警察ではないと断定した。いや、特別警察であることが分かったところでいったい自分の中で何が崩れ去るというのだろうか。エレーナがなぜこの学園に来たのか。いやよくよく考えれば、さっきから自分の中では色々なものが崩れてばかりだ。楽しかったチェッカー部の部長であるユミーレさんも、嘘だった。内容はよくわかっていないが、Xelkenがどうだとか言っていた。

「・・・キーア、Xelkenって・・・ユミーレさんはXelkenだったのか?」

「そんなこと俺に聞かれても。俺だって理解が追い付いていないし。でも、さっきの先輩の発言からしてXelken間違いないんじゃないか?」

「やっぱりそうなのかな・・・」

王国勢はみんなXelkenを嫌っている。なんせ、Xelken.valtoalというものは、過去に王国人を拉致し古理語を教え、強制労働をさせた。ある意味、「支配」という仕打ちを受けてしまっている。連邦との関係は修復されつつあるが、Xelkenに対してはどこの影響圏の国家よりも激しく拒絶する。

「アルシー、お前の家はXelkenに対してやっぱり悪いことばかり教えられているんだろう?」

「ああ、そうだったかもしれない」

話をしていると、隣りから男性の声がした。

「君たち・・・フェグラダ生か?」

話しかけてきた男性は地味な色の毛布をかぶっていた。が、よく見ると知った顔であるような気がしなくもない。

「す、スカーナ先生!?」

「せ、先生、なぜここに・・・」

何故さっきまで気づかなかったんだろう。歴史に名を残すようなウェールフープ学者がそこにいるというのに、誰も声を上げなかった。毛布と愛用しているマントを携帯しているようなのでさっきまでずっと顔を隠していたのかもしれない。周りも一部が騒ぎ始めた。同じ装甲車に近代ウェールフープ学の祖と呼ばれる大研究者がいるのだ。

「はっは、見たことあるような顔と服だなと思っていたが、まさか君たちだったとはね」

「せ、先生、なぜここにいるんですか?」

「あの時、実は私もフェグラダに居続けるのは危険だと感じてね。この学園内の講師や先生もみんな呼んで君たちと同じようにフェグラダへ行こうとしたんだ。」

「そうですか・・・先生方は助かったんですか?」

「・・・逃げ切れたのは私だけのようだ。戦闘開発科棟にいたものはほとんどが捕虜にされたか強制的に送還されたよ・・・」

スカーナの表情は、遺憾の念を物語っていた。そうだ、未だフェグラダは占拠されている。そんな中スカーナは運よく逃げられた――いや、彼は割と強いケートニアーのはずなので、そんな中一人だけ逃げられたとしても納得はいく。夜は更けていき、車の光のみがクランタルの道を照らしていた。

 

――

 

時は少し遡り、クランタル区庁占領直後と同じ時間。部屋には黒マントを着用した女性が三人、スーツの男性が一人、女性が一人、そのほか大勢の険しい面もちをした人間たちがいた。

「いいわね、チェッカー部三人組・・・いや、ハルトシェアフィス部隊。我々Xelken.valtoalフェグラダ潜入部隊の任務はアルケンの確保、ターリーからのフェグラダの奪還。ターリーのやつがリーダーとしてフェグラダで人質を持っているわ。なによりアルケンの確保が最優先。今回このフェグラダに私たちが派遣されたのはそれが目的・・・けれど、アルケンはレシェキーとかと一緒に保護された」

チェッカー部の女子三人組、もといハルトシェアフィス組は首をかしげていた。

「やっぱりファリーア・カーナ・エレーナは特別警察の職員だったらしいな。そうなんだろ?姉さん」

「そうよ。彼女が来ていたフェグラダ制服の下に・・・たしかに特別警察職員のシャツがあった。あれが意図的なのかは知らないけれど」

そのとき、フィシャが手を挙げた。

「ん、ハルトシェアフィス・クラン・イェトスタファ。どうした」

「あ、隊長。その、『アルケン』とか『レシェキー』とか『ターリー』とかって・・・誰のことです?」

「アルシー=ケンソディスナルと、レシェール・キーアと、ターフ・リーダのことよ。それがどうしたの?」

フィスルクーフェーはフェリーシャを抑え、話し始めた。

「話した通り、このままでは貴重な王国人でありながらXelkenに対して抵抗的ではないと思われるアルシー=ケンソディスナルを逃すことになる。俺自身、あの青年にいったいどれほどの価値があるのか理解できていないが、x.aと俺らの上層部があれだけ執着した標的なんだ。それなりの価値があるんだろう」

「そういうことよ。しばらくは奇襲をかける。貴方達が最後の切り札よ」

 


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