Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
「・・・で、私のところに来たと」
目の前に立つ、視線の先にある美男はすこし悩んだ表情でうつむいた。最近フェグラダの化学科の講師としてやってきた、シェルケン・スカーナ先生だ。彼は、そのへんの先生と大きく違う点がある。今存在するモーニとかその辺の理論を考案した人なのだ。そんな彼だから、他の先生方には失礼だが他の化学科の先生に相談するよりはるかにいいのではないか、というのがいまいち考えの浅いキーアの提案である。
「・・・と、言われても、君たちのウェールフープに対する疑問とかには答えられるけれども、それを使った芸術と言われてもな・・・私は学者だし・・・」
「本当に、なんでもいいんです」
「そのなんでもいいなにかを考えるのが君たちの仕事じゃないのかい?色々と考えてみるといいよ。私も君たちのその提案が実現するように全力を尽くそう」
さすが1000年の年月を生きる大先生。さっきのラツ先生とは言葉の重みが違った。
「アルシー、なにか思いつくか?実際に演技するのはお前だろう?シャスティの出身じゃないのかよ?」
「お前には言ってなかったか。俺は王国の古い慣習から抜け出してここに来たのに、まさかここにきてまでメシェーラを使うことになるとは思わなかった。」
文化祭まで十分な日数がある、といえる状況ではない。そう思いつつチェッカー部に向かってみることにした。
「おーい!」
「・・・!!」
後方から声がした。聞き慣れた男性の声である。いったい後ろに誰が・・・。
「あ、スカーナ先生」
「アルシー君、キーア君。これを君たちに渡しておこう。この前見せた。光るメシェーラだ。」
え、でも、もうウェールフーポも失われて大したことはできないんじゃあ・・・。
「なにやら疑った顔をしているな。大丈夫だ。私はケートニアー。パワーならあるさ」
感づいたキーアが言った。
「じゃあ、先生がついさっきウェールフーポを積んだんですか?なにか周りに被害は?」
「そんなもんないよ。ほら、アルシー君。持っていきな。ただし扱いには気を付けろ。ちょっと前に見せたのとは違って、降れば何かが起こるからな。ケートニアーのキーアにも見てもらっておけ」
アルシーは「メシェーラ」ではなく光るメシェーラとなったものを握りしめて、固唾を飲んだ。それと同時に、キーアを見てある案が浮かんだ。
「ありがとうございます。先生。案が思いついたんで、明日相談に向かいますね」
「ん、早いな。待っているぞ」
アルシーは、「これだ」といえるようなことを思いついた様子だった。そのことはキーアにも予想がついていない。
まもなく昼休みが終わる。チャイムと同時に二人は教室へ走り去っていった。
――
午後の授業が終わり、放課後。文化祭の準備が忙しいので最近はチェッカー部に来れることがなく、いつもエレーナやクラスメイトと一緒に作業をしていた。今日もその例外ではない。だがしかし、今日の場合は三人で残ることになった。
「メシェーラの演技なんだが、俺からの提案が一つある。この光るメシェーラを使って、戦闘をするんだ。俺と誰かが」
突然放たれたアルシーの案。二人はしばらく言葉を返さなかった。
沈黙を破ったのは真面目に疑問に思うことを訊こうとするエレーナであった。
「その相手って、もちろんケートニアー・・・よね?アルシー君大丈夫なの?」
キーアもそれを聞いて発言した。
「さっき言ってたな。王国の慣習から抜け出したかったって。それだったら、アルシーがあの王国の国技を完全に会得しているとも思えないしな」
王国の国技――ゼースニャル・ウドゥミトか。だが、今回については自信があった。
「心配しないでくれ。これでも、小さいころから親戚の人にゼースニャル・ウドゥミトを鍛えられているんだ。運動神経ならある。」
それは、二人にとって意外だった。数ある王国文化から抜け出してデュインに来て連邦での生活を送りたがっていたものだと思っていたが、戦闘能力があったらしい。どれほどなのかは知らないが。
そこで、ものごとを単純に考えたキーアはその場で立ち上がった。
「・・・じゃあ、ここで試してみるか?」
そういいながら、軽く構えを取った。
「・・・何をだ?」
それに負けじと応じるアルシー。
「ちょっと、教室で暴れる気なの・・・?」
これから起きることを察して止めようとするエレーナ。
「実力が分からないから、とりあえず軽く戦ってみて、あとから考えよう」
「ちょっと待て!話を伝え終ったら明日スカーナ先生に相談するってこと、忘れたのか?」
落ち着いて対処しようとするアルシー。さすがのキーアも無駄な争いを始めようとしていることに気がついた。
「・・・そうだな。何も今ここで確かめる必要はない。先生が承認してくださらなければ、何も始まらない。悪かった。話の続きは明日だな」
まだ6時にもなっていないが、エレーナはすでに眠そうな顔をしていた。
「もうそろそろ夕飯だ。寮に帰ったところで今日も準備で疲れたし。もう寝るぞ」
今日もチェッカー部に行くことはなかった。その分、内部では"ターゲット"が来ていないのをいいことに「裏社会の話し合い」が進んでいるとも知らずに。