Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
突然、よくわからない話を持ち出してきたキーア。アルシーは少し彼の話についていけていない様子である。彼女の正体って、なんのことだろう。エレーナがいったいなんなんだろう。
「エレーナは、俺の妹のようなものだ。あの子は命の危険を狙われていると考えてもいいだろうな。」
「・・・?」
「あの子はいつ死んでもおかしくない。だから、俺が守ってやらないといけないんだ。なぜなら彼女は・・・」
そう言いかけたところで後ろに気配を感じた。明らかにエレーナではない。それはこちらに受ける日の影が大きかったからだ。キーアとアルシーは後ろを振り向いた。
「お前たち。そこは女子寮へ続く道だぞ。エレーナと一緒に歩いていたから気付かなかったのか?」
いたのは顧問のヴィオク・ラツだった。特に表情もなく仁王立ちしていた。キーアはその場で「あっ」という声を出した。周りを見たが女子は一応いないようだ。いても困るだろう。だが、アルシーは平気な顔をしていた。
「いやいや先生、俺は女子寮のエレーナたちの部屋で泊るんですよ」
するとラツは「しまった」というような顔をしてうつむき、頭をポリポリ掻きながら話し始めた。
「あー、言い忘れていたか。実は・・・」
――
チェッカー部部長ユミーレは準備室で悩んでいた。
「ピースが足りない・・・あの子の・・・なぜ?」
弟のファルザーは困っている姉に近づいた。もう夕方だ。部員たちは皆寮へ帰り、人の気配なんてしなかった。どこかで先生の声が少し聞こえるだけである。
「アルシー=ケンソディスナルの実家はイルキスではないらしいな。似たような名前のやつが前にいた気がするんだが。」
「・・・いたかしら?ケンソディスナル・・・」
「ユーゴック語に直訳すると『見ている人』だが、kensoという単語はトイター教で重要なものらしい。単なる見ている人ではないようだ。」
「そんなうんちく。誰から聞いたのよ」
「あの頃は俺らも若かったよな。今でもまた高校生だけれど。もっと若かった」
ファルザーが話そうとしている意図がいまいち理解できていないユミーレ。長い髪を指にくるくる巻いて遊んでいた。
「本当に思い出せないというのか?姉さん。シェルケン・ターフおじさんだよ」
シェルケン・ターフ。そんな名前がユミーレの中で反響した。ピンと来るのはそんなに遅くはなかった。
「あのハタ王国が好きなおじさんか・・・あの人がどうかしたの?」
「あの人の話に、なんか似たような名前があったじゃないか。ケンソディスナルしか覚えていないけれど。あの人の話にシェルケンとハフリスンターリブの話の中に、すごいきれいな王国人がいるって」
ユミーレははぁ~というため息をついた。あの人の話はそういうのが多い。
「でもファルザー、おじさんは元シェルケンであって今は連邦の狗よ。あの人も落ちたものね」
「とはいえ、あの頃の革命精神を忘れたわけじゃない。おじさんはきっと特別警察を騙っているに違いない」
「そう、かしら?」
「ところで、アルシーの両親は、父親はすでに殺されていて、母親はまだデュインに亡命しているようだ。」
「それくらい、チェッカー部の諜報が調べたわよ。それがどうかしたの?」
「あからさまに王国に関係ない外国人的な発想なんだが、この二枚の写真を見てくれ」
ファルザーからユミーレに渡された二枚の写真。どちらも女性が写っていたが、顔は似ている。だが、片方は明らかに服装が違った。
「これは・・・スカルタン?この黒髪の女性は・・・?」
「おじさんに前に渡されたものなんだ。それは王国のシャスティ、ツァピウル=ケンソディスナル」
「ツァピウル・・・?」
「もう一人の方は、今日廊下で見かけた女性だ。スカースナ・ハルトシェアフィス・アクリニーという名前で、アルシー達のクラスの学級代表のレヴィアって子の母親らしい」
「ちょっと待って、アルシーの母親の名前は?前調べてなかったっけ?」
ファルザーは資料をあさり始めた。戸棚から出てきたのは一枚の紙である。とても大量の文章が所狭しと並べられていた。
「アルシーが提出してくれた留学サービスの書類を奴らから入手したやつがあって、それを基に分析してみれば分かるかもしれないな。」
「まだ調べてないのね。」
「それにしても、なんでアルシーの名前を?」
「そのレヴィアの母親という女性とアルシーがどこか似ているような気がしただけよ。そっちこそ、なぜその二人を出したの?」
「・・・姉さんとあんまり変わらない理由なんだけれど、シェルケン・ターフおじさんに渡されたなんかの宴会での写真とレヴィアちゃんのお母さんの顔が似ているなと思って。」
――
「え、そうなんですか?」
アルシーは少し驚愕していた。あれ?何故驚いているんだろう。ようやくフェグラダの寮に自分の部屋が確保されて男子寮に行けるんじゃないか。なんでどこか惜しい気分に使っているんだ。ラツはアルシーの肩に手を置いた。
「おめでとう。アルシー君。留学から一か月がたとうとしているが、ようやく君もフェグラダの生徒として受け入れられ、場所も確保されたわけだ。部屋はキーアと同じだから、二人とも女子寮なんか行こうとせずに男子寮で過ごしてきてくれたまえ」
ラツは二人が歓喜におぼれていると思っていた。