Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
部活が終わり、日が沈む。いつの間にか当たり前となってしまったラツとの会談。職員室へ呼ばれて職員室へ行くとラツにすぐさま別の多目的室のようなところへ連れて行かれた。
「今日で留学二日目だが、調子はどうだ」
相変わらずの上から目線で質問をしてきた。今のところ楽しいが、色々と不安なところもある。
「俺は大丈夫ですけれど、先生さっきの大丈夫なんですか?」
「ん、俺はケートニアーだからな。一応。多少の傷は負うが数時間も立てばある程度回復する。」
「そうなんですね」
もうここはハタ王国ではない。ケートニアーが普通に存在するのだ。ここまで来るとたとえネートニアーでもケートニアーが近くにいるということを当たり前のように感じてしまうのかもしれない。
ハタ王国ではケートニアーと言えば崇拝の対象、あるいは社会的差別の対象だった。非常に力の強い一部のケートニアーならまだしも、常人よりちょっと強いだけのケートニアーだとゼースニャルウドゥミト使いにかかればおそらく逆に迫害される。ハタ王国、特にネステルの郊外はそんな事件が多発していた。
そんなことを考えつつ、次の質問が思い浮かんだ。
「あの、あの白い玉について何か知っていることは?」
するとラツはソファーに寝転がっていた姿勢を正して目を見開いた。若干の焦りがうかがえた。
「・・・あのホワ玉のことか?」
「そうです」
「エレーナの所有物だが・・・それがどうした?」
さっきまでの焦った様子は見えなくなった。少しの笑みを浮かべて、ソファーにもたれながら悠々な態度をとっていた。
「いや、ユミーレさんがあんなに必死になってあれを・・・」
「あれは管理者のリーダがよく放し飼いにするから。よくチェッカー部準備室へユミーレへいたずらしにくるんだ。だから、いつものことだ」
いつものこと、とはいっても。俺は見てしまった。ユミーレのあれほどの必死なウェールフープ拳銃。ラツのユミーレを真剣に睨む表情。ホワ玉の表情はよく見えなかったが何か意図があるような構えであったことは確かだ。だが、あれと何がつながっているんだろう。まだ、よくわからないしここにきて一週間もたっていない。
「まあ、気になることはこれくらいです。授業にもついていけてますし、エレーナやキーアとも何とかやれてますんで」
「うむ、君が平和に暮らせれば私としても、学園としても越したことはないな。ところで、もうすぐ文化祭だが、ジェットコースターを作るらしいな。」
そういえばそんな話もあった。学級代表には安全性を指摘されたがキーア自身が実験体となるということで一応代表へは話が通ったはず。
「そうですね。キーア君が代わりに数回ほど試に乗るという話だったはずです。」
「まあいい。こちらもある程度協力するぞ。材料などの話しは出ているのか?」
「そのあたりはまだ・・・ですね」
「早めに決めてくれ。学園として予算も限りがある。あんまり大きすぎる者は作れないと、君の学級の実行係に伝えておいてくれ」
ラツは席を外し、寮へ戻るよう促した。アルシーも立ち上がって多目的室を離れた。
夜はすっかり更けており、周りにはクランタル・ポルトジャールのビルが明かりを放っていた。夜の街という感じでロマンチックな雰囲気をかましだしていた。
「寮の部屋は昨日と同じ、フェリーサちゃんのところに行ってくれ。文化祭までに部屋は用意する。中退するかもしれない生徒がいるから、そこに埋まるという形になるかもしれない」
とりあえず、寮がいっぱいということは分かったところで、寮へ向かって部屋を探した。確かこのあたりだ。
ドアの前に立って叩こうとすると突然ドアが開いた。
「んえ?」
「あ・・・」
前に立っていたのはユミーレ。チェッカー部部長で副部長ファルザーの姉である。アルシーより頭半分ほど背の高いユミーレは、手にハンカチと思わしきものを持っていた。
「トイレですか?」
「そ、そう。トイレ。」
少しあわてた様子であった。
「今夜もここに泊らせていただくということになったので、またしばらくお願いします」
「あ、うん、どうぞ」
ユミーレは走り去りながら手を振って、廊下に消えた。気にせずアルシーはドアを進んで部屋を確認した。まだ7時半。エレーナはまだ起きて机に座っていた。ズュラファはそれを見るように机の近くに立っていた。
「あ、アルシー君じゃないの」
「おう、フェリーサは?」
「フェリーサは夕食係で今夜は後片付けに行っているよ。」
「夕食係?」
眼鏡をスチャっとかけなおして彼女は話し始めた。
「ああ、あのね。フェグラダでは一応給食制度があって、厨房が設置されているの。ボクは頼んでいないけれど、家の事情とかで売店などに行けなかったり、お弁当を用意できない子たちはアレを頼んでいるんだよ。フェリーサちゃんもその一人で今日は係りを任されているんだね」
そんなものがあったのか。でも、厨房なんて見たことがない。いったいどこにあるんだろう。
そう思いつつ、エレーナの近くまで来る。机ではウェールフープ式が大量に書かれたノートが広げられていた。
「今日のやつ?」
「エレーナちゃんはこんな風に毎日習ったことをノートにまとめてから寝ているんだよ」
意外と、真面目だった。どおりで成績も高めで、授業中先生にあてられても大体答えられるわけだ。
「エレーナ偉いな」
そういうと、彼女は持っているペンを止めてうずくまる。照れているのだろうか。
「アルシー君もうまいですねぇ♪」
「!?」
後ろを見ると、フェリーサが立っていた。
「んあ、フェリーサちゃん。もう終わったの」
「えへへ、抜け出してきたの!」
「抜け出した?」
サボったのだろうか。
「ああ、フェリーサちゃんの十八番だね。フェリーサちゃんはいつも全くばれずに委員とか係の仕事を途中で抜け出しているから」
忍者かよ・・・ゼースニャルウドゥミトのような体術でも持っているのだろうか。とにかく、あとはユミーレだけが帰ってきていない。
「そういえば、ユミーレはどこに行ったの?」
「ああ、ユミーレさんがここで寝ることは稀でさ、昨日は本当に偶然だったんだよ。普段は家に帰って寝ているらしいよ」
そういえば、彼女は謎が多い。チェッカー部部長とか言いながら普段は部室で姿を見かけない。そういえば、学科もどこなのか知らない。
――
エレーナがノートへのまとめを終わらせたのか、ペンを机に置いてあくびをする。ズュラファがエレーナの肩を持った。
「はい、お疲れ様。」
そういって、ズュラファはエレーナを連れて行って一つだけ用意された布団に静かに寝かせる。時計を見ると8時だった。
「はやいな。もう寝るのか」
「エレーナちゃんはほぼ毎晩こうだね。」
「あらぁ~?アルシー君、エレーナちゃんと仲いいんですかぁ~?」
うしろのやけにテンションの高い――フェリーサだっけ――生徒がアルシーをからかう。
「まあ、ここにきて初めて打ち解けた相手だし」
「またそんなこと言ってぇ♪」
「またって、フェリーサちゃん、アルシー君と合ってまだちょっとしかたってないよ?」
そういいながら、ズュラファは押入れから布団を三つ取り出した。
「ほら、フェリーサちゃんも手伝って。」
「えぇぇーだって、男の子が同じ部屋で寝るんだよー?ズュラファちゃんちょっとは何か考えないのぉ?」
「アルシー君多分あなたには興味ないわよ。ほら、早くこっちきて」
口をとがらせながらズュラファの持つ布団に同じように手を添えた。