Kranteerl y io dyin   作:witoitaa

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シェルケン・スカーナ

「メシェーラでできる技か・・・」

そう虚空につぶやいていると、後ろからイケメンの声が聞こえた。

「えっと、アルシー君だったっけな?君の事情は大体聞いているぞ。留学生なんだって?」

「・・・そうですけど」

「君は本当にウェールフープ学を学んで連邦で働きたいのかい?」

後ろから話しかけられたので顔は見ていなかったが、何か真剣さを求めるような聴き方であった。アルシーは眉をひそめる。

「・・・私から言えば、あまりお勧めはしない」

肩をポンとたたいて、スカーナは話した。ウェールフープ科学者をお勧めしない?元科学者で教師をもしている方が何を言うんだろう。振り向いて顔をちゃんと見て、話した。

「どうしてですか?」

「まあ、これは君に限ったことじゃない。ウェールフープというものは古代より深い溝と論争があったんだ」

始まったのは歴史の授業である。ウェールフープ学ではない。耳を傾けて、彼の語録を聴くことにした。

「もしかしたら、王国のトイター教でもそうかもしれないかな。」

スカーナ先生は空を見つめて、話し始めた。

「あんまり他人には言わないんだが、私はもともとxelkenだった。幹部をやりながらウェールフープ理論を研究していたんだ。だが、当時ウェールフープと言えば魔法であるっていう見方の方が強かった。私がウェールフープのことを論理だった科学であると論文に書いたときは、私も命を狙われた。」

突然、暗い話を持ちかけてきた。

一応、連邦でのウェールフープについての話は聞いてはいたが、まさか魔法であると思われていたとは知らなかった。1000年の時を経て後世に語ろうとする彼の姿は、まるで実際にウェールフープ研究をしていたようだ。

「私もここデュインへは亡命した身なんだが、職を求めてここに来た。教師という立場だが、決して君たちにウェールフープ化学者という道を絶対に歩んでほしいわけではないんだ。むしろ、さっき言ったように勧めたくはない」

「そうなんですか・・・」

スカーナ先生は表情を一気に変えて明るく話し始めた。

「まあ、まだ一年生の君にそんな話をしてもピンと来ないかもしれないね。それより、文化祭だっけか。」

「はい、俺は確かに王国のシャスティ出身なんですけれど小さいころからユエスレオネやリパライン語が好きで・・・だからメシェーラの技なんてできそうにないです」

すると、スカーナはスーツの内ポケットから細長い何かを取り出した。――メシェーラだ

「そ、それは」

「私がxelkenにいたころ、王国文化が好きだった部下からもらったメシェーラだ。デュイン戦争より前くらいのものかな。もうだいぶ弱ってきたな」

取り出された竹の棒は、もうだいぶ色が変わっているようだった。少なくとも、緑色ではない。塗装はほとんど剥がれ落ちていた。

「これももともとウェールフープ機能を搭載した光るメシェーラだったんだけれど、長年使っていなかったからもうウェールフーポを制御する機能はないかもしれない。触ってみるかい」

スカーナは、静かにそのメシェーラをアルシーに渡した。おそらく初めて持ったであろうメシェーラ。見た目通り軽く、先が薄くなっている。長さは30cmくらいだった。

「振ってごらん」

人差し指と立てて、軽くヒュッと振った。それを真似してメシェーラを振る。すると一瞬だけ光が見えた。

「はは、だいぶ弱っているだろう。」

とても小さいものだったが、たしかに、これはウェールフープ。自分はネートニアーだが、はじめてウェールフープを自分で操作した。その感覚は非常に感動的だった。これを使って自分の先祖たちが独裁派に立ち向かったのだ。しかも、デュイン戦争よりも前のものと思われる。年季に重みがあった。

「とりあえず、それを渡しておくから、ゆっくり考えてみてくれ。あと少しで予鈴が鳴るぞ」

時計を見ると、もうすぐ予鈴が鳴る時間だった。と、考えている間になった。昼休みの気分でいたが、もう6時間目が始まるのだ。

 

6時間目は世界史、というかファイクレオネ史だった。時代はADLPの衰退、ネルト大虐殺とフィア戦争のあたりである。

「ネルト大虐殺ではアロアイェーレーム達がウェールフープでネートニアーをほぼ全滅させました。ネートニアーのほとんどは周辺諸国の者たちです。アレス一族はアロアイェールにいたため除外されました」

スカーナの言っていた通りだ。ウェールフープという学問は確かに奥が深い。応用が実に聞きやすい技術と言える。が、それだけではない。その裏にはあの先生の言っていたような学派の対立と戦争、ネートニアー差別、王国でもケートニアーは迫害されやすい。この圧倒的な力の差を埋めたものと言ったら、ハタ王国のゼースニャル・ウドゥミトくらいかもしれない。

 

――

 

留学二日目の授業が終わり、放課後。昨日と同じようにエレーナの後をつけてチェッカー部に行こうと思ったが、廊下であの先生に呼び出された。

「あ、ラツ先生」

「二日目だ。フェグラダの生活はどうだ?まあ、二日目じゃあまだ楽しい楽しくないは分からんわな。一週間は過さんと分からないだろう」

まあ、そうだ。今のところ何も嫌なことは起きていない。むしろ新たな発見ばかりだ。

「部屋の話しだったが、どうだ」

ん?どう?

「昨晩女子寮に送り込んでエレーナとともに寝させたが、あれで大丈夫か?ぶっちゃけていえば、部屋を新しく確保する暇がないんだ」

じゃあなぜ留学サービスなんて受け入れているんだ。とは、入学させてもらったのに言い難い。

「とりあえず、あれで特に問題は起こっていないみたいだな。では放課後の活動に行ってきたまえ。といってもチェッカー部に入るのなら私と共に行こう。顧問だからな」

ラツは椅子から立ち上がって教室を出た。アルシーも後をつけて部室へ行った。

「美術室の鍵がない。おそらくやっているな」

階段を上って横の多目的室と思わしきところへ入った。昨日も見たところである。ラツはドアに手を掛けて、横にスライドした。

「やあ、部員諸君」

中にいたのは、副部長のファルザー、二年の女子三人組とエレーナとキーアといういつものメンバーだった。昨日と同じである。

「あー、アルシー君。また来たんだね。もううちに入部で決定かな?」

「いつでもおいでよー」

そう言ったのはフィシャ・エレンとアレス・ノアファ。もちろん先に言ったのはエレンの方だ。ズュラファはエレーナと対局中でそれどころではなかった。

「やるわね、エレーナちゃん」

ボードを見つめながら、眼鏡をかけなおす。エレーナも顎に手を開けて次の手を考えている様子だった。まるで将棋である。

「じゃあ、これでどうでしょう」

エレーナが指した。

「んな・・・強くなったわね。エレーナちゃん」

まだいまいち何が起こったのかはわからないが、ズュラファの赤い駒がすべてなくなっている。エレーナも残り二つで、ほぼ実力伯仲だったようだ。ファルザーが話し始めた。

「さて、新入生も来たし。今度はアルシー君も誰かと一局してみようか」

準備室では、フェリーサが何かをいじっていたが、副部長と顧問以外は知る余地もなかった。


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