Kranteerl y io dyin 作:witoitaa
中は意外と広かった。通路を抜けると開けており、奥にも部屋がある。全部で3つほどといったところか。1LDKだ。
奥の寝室と思われるところを見てみると布団が並んでおり、一つだけ中に誰かが入っていると思われる布団があった。エレーナだ。
「えっと、アルシー君だったっけ?エレーナちゃんの横で寝てもらうってことでいいかな?」
そう提案したのは眼鏡っ子のズュラファ。寝床が確保されれば俺はいいのであっさり承諾した。とりあえず布団まで行く。エレーナの寝顔は掛布団に隠されて見えなかった。チッ。とりあえずエレーナの近くに腰を下ろし、他の女子三人も無を囲むように輪になって座った。
「えっと、この中で知らない子はいる?」
とりあえず、そこにいるのはついさっき会ったフェリーサ。そして寝ているエレーナ。チェッカー部で出会ったズュラファ。となると後知らないのはもう一人の背の高い女子であった。
「君が分からない。なんていう名前なの?」
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私は4年のヴァレス・ユミーレ。」
「ヴァレス・・・ユミーレ?」
ヴァレスという姓には聞き覚えがあった。Kranteerl y io kladi'eにも確かにいたがもっと身近にいたような気がする。
「チェッカー部の副部長と姓が同じってことに気がついたかしら。私はヴァレス・ファルザーの姉なの。ファルザーは私の弟よ。」
「あ、そうなんだ」
どうやらそうらしい。でもチェッカー部に彼女の姿はなかったし、今初めて会った。チェッカー部なのだろうか。
「あの、弟さんはチェッカー部ですが、ユミーレさんは?」
「私もチェッカー部よ。部長をやっているの」
なるほど、あの時部長がおらず、副部長だけだったが部長はあの人の実の姉だったのか。
「じゃあ、なんで今日はいなかったんですか?」
「ああ、今日いなかったのは家の用事よ」
「なにか家業のお手伝いでもされているんですか?」
「ええ、ちょっとね」
その時彼女は家の事情について話そうとはしなかった。それは彼女の顔色からわかる。家の事情というものは話したがる人は良く話すが話したくないという人は本当に話さない。
「俺は、アルシー=ケンソディスナルっていいます。留学生で、デュインは初めてです」
「あらまあ、遠くから来たね。ハタ王国だっけ、どんなところなの?」
「ハタ王国の様子・・・」
思えば、俺は王国でこれと言って大きなものを見てきたわけでもない。毎年実家のイルキスで行われるトイタネイン祭――新年祭――だって俺だけ参加せずに部屋で夜空を眺めていた記憶がある。自分にはこの国の風習というものが合わないとさえ感じることがある。デュイン戦争でケンソディスナルという一族はもはやあのズィルクントイタクテイよりも有名になったと言える。そんな家庭にどうして俺は生まれたのだろう。スカルタンを着て修業をさせられた毎日。そんな日々が嫌になって呆れた両親は今ごろこの俺をどう思っているのだろう。
「あの、もしもし?生きてる?何か思い出させちゃった?」
「いや。王国はユエスレオネ本土と真反対の国だなとは思います」
ふと考え付いたこの一言。彼女たちは重く受け止めて布団に入った。
「もう11時だわ。アルシー君。おやすみ」
みんなが寝付く中、俺は明日以降の予定を考えながら闇に落ちて行った。